この大手ヘルスケア企業では、第三者リスクは主に2つの経路から顕在化する可能性がありました。1つは同社と関係のある医療提供者のネットワーク、もう1つはコールセンター、アウトソーサー、テクノロジーパートナーなどの従来型のサプライヤーです。経営層は、第三者リスク管理にエンド・ツー・エンドで対応できる、同社固有の課題に応じたソリューションを求めていました。
EY Americas Integrated Risk Management LeaderのDaniel Priorは、次のように述べています。「リスク管理上の課題に対応するため、テクノロジーとデータを活用した戦略を採用し、全社的にシステムとプロセスの連携を進めるクライアントが増えています。このアプローチは第三者リスク管理において特に広く採用されていますが、他の領域にも広がりつつあります」
オーケストレーションによるエンド・ツー・エンドの連携プロセスの構築
同社にとって、第三者リスク管理は新しい取り組みではありませんでした。しかし、サイロを解消し、第三者リスクを包括的に可視化するには、従来のアプローチを進化させる必要がありました。事業部門の業務プロセスを見直し、より迅速かつ的確な意思決定につなげることが求められていたのです。その解決策の一環として、同社はServiceNowを活用し、統合的なデジタル窓口とワークフローを構築しました。これにより、マトリックス型の組織構造のもと、部門や関係者を横断して、調達プロセスと第三者リスク管理プロセスをより適切に連携させることを目指しました。
ServiceNowは、業務全体を支えるデジタル基盤として機能し、エンド・ツー・エンドのプロセスの効率化、第三者リスク管理の強化、エンドユーザー体験の向上、そしてサイロ化されていた業務の連携によるさらなる効率化をもたらします。例えば、ユーザーは物品やサービスの購入に関するリクエストを1つの窓口から開始し、その後のプロセスに必要な情報をまとめて提供します。これにより、従来は目的が明確でないまま複数のシステムへのログインや入力が必要だった手続きを、よりスムーズに進められるようになりました。また、ユーザーはプラットフォーム上で、対象となる第三者を検索・確認し、その第三者や提供サービスに関連する潜在的なリスクを事前に把握できるようになりました。さらに、プロセス全体を通じて発生するさまざまな対応を、単一のダッシュボードから開始・実行することも可能です。
これは、従来は複雑になりがちだったプロセスの見直しや自動化に有効でした。これにより、適切なタイミングで適切なリスクに注力できるようになり、事業部門の業務体験が向上するとともに、より柔軟でデータ駆動型のリスク管理アプローチを取ることが可能になりました。また従業員は、複数のシステムから届く大量のメールに対応するのではなく、合理化された新しいプロセスに沿って業務を進めることで、業務がより円滑に進むことをすぐに実感しました。
内部・外部情報を活用したデータ駆動型アプローチの適用
企業は、機微なデータの管理状況を評価するため、第三者による自己申告型の調査に依存することが少なくありません。一方で、組織には、品質、パフォーマンス、レジリエンス、プライバシー、規制遵守、サイバーセキュリティなど、リスク評価や優先順位付けの高度化につながる幅広い価値あるデータを活用する余地もあります。課題は、こうしたデータが複数の分断されたシステムに散在していることです。こうした中、リスクをより効果的かつリアルタイムに評価するため、内部・外部のデータソースの双方を活用する組織が増えています。
同社は、Databricks上に「データプロダクト」を構築し、第三者リスク管理に関連するデータを一元化し、明確で信頼できる情報源を確立しました。このデータプロダクトは、同社の新たな第三者リスク管理アプローチを支えるもう1つの重要な基盤となり、データサイエンスと分析にも活用されています。リスクモデルは、多くのリアルタイムデータを含む内部・外部のデータを活用し、リスクの特定、評価、優先順位付けを可能にします。こうした基盤は、AIを活用したインサイトの創出を支え、同社とそのパートナーがデータを通じてリスクを管理する方法を変革しています。
リスク判断とエスカレーションプロセスの確立
第三者リスク管理では、どこにリスクがあるかを把握するだけでなく、それらのリスクについて効率的かつ効果的に意思決定できることが求められます。同社は、必要に応じてリスクを組織内の適切な階層へエスカレーションすることも含め、リスク判断を行うための明確なプロセスと基準の定義に取り組みました。
新たなツールにより、同社はデータに基づく基準に沿って、レビューや意思決定の対象となるリスクを適切な意思決定者にエスカレーションできるようになりました。さらに、意思決定者はAIを活用してリスクを分析し、検討すべき次のアクション候補を特定することもできます。その際も、人による判断を介在させる仕組みである「Human in the Loop(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」を維持しています。
可視化とAIは、複雑なデータを統合・整理し、リスク分析を加速させることで、より迅速で十分な情報に基づく判断を支援します。例えば、AIは提示された基準に基づいて第三者を分析し、検討すべき次のアクション候補を特定できます。これにより、大幅な時間削減につながり、より戦略的な活動に注力できるようになります。
AIを活用し、効率的なセルフサービス型のリスク分析を実現
リスクダッシュボードは有用ですが、生成AIを活用することで、より対話的なセルフサービス機能を提供できます。同社は、AIを活用したチャットボットを開発しました。このチャットボットを通じて、ユーザーは分析条件を入力し、必要な情報を生成して、リスク判断に活用できます。また、その基となる関連データについても、他の対話型生成AIサービスのインターフェースと同様に、自然言語で対話しながら確認・探索できます。