EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
EY Japanの視点
生成AI活用を巡り、グローバルではCEOの98%が投資を進める一方、66%は最適な導入パスを描けていない現状があります。チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)は自社内で「コストと顧客体験(CX)の品質」「パーソナライズとプライバシー」「効率化とガバナンス」という複数のジレンマに直面しています。一方で、外部環境においても、生成AIの一般化により競合企業や顧客自身も活用を始めており、企業にはこれらへの対応が求められています。日本企業でも同様に、AI活用の進展による顧客ニーズの変化の加速、これまでの延長線上にあるDXによる成長の限界、組織のサイロ化、社内文化における摩擦といった課題が顕在化しています。こうした環境下で競争優位を高めるためには、生成AIそのものに加えて「人間的価値」をどのように生かすかが重要な要素になります。CMOとしてこの変革を推進するには、AIを効率化の道具にとどめず、顧客の文脈理解や従業員の創造性・判断力の拡張につなげるとともに、信頼と共感を軸にした体験変革を主導していくことが重要です。
生成AIの能力を活用することは、ビジネス上の必須課題である一方、CxO層はいまだ対応に苦慮しています。CEOの98%が自社の生成AI能力に投資している一方で、66%は自社にとって最適な導入パスを見極められていません。1
この状況は、顧客体験においてコストと成果のバランスという課題をすでに抱えているチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)にとって、特に切実なものです。CMOおよびマーケティング部門は、どのように生成AIを活用すれば、顧客ロイヤルティと競争優位の確立につながる、的確な顧客体験を創出できるのでしょうか。顧客にとっても、そして生成AIツールを利用するユーザーにとっても、人ならではの価値を高めていく形で、生成AIの可能性をどのように引き出せるのでしょうか。
これらの問いに答えるため、EYとAdobe社は、マーケティング、クリエイティブ、顧客体験(CX)、データ、法務、リスク、コンプライアンスといった分野のエグゼクティブを対象に、商業的な文脈において生成AIをどのように検討・導入しているのかについて調査を行い、実体験や実践的な示唆を収集しました。
これらの調査結果は、本ガイドで詳しく紹介しています。重要なポイントは、生成AIで競争上の優位性を引き出すには、人の主体性や人とのつながりが必要だということです。
生成AIは急速に一般化してきており、すでに生成AIを採用し、顧客向けのユースケースを開発している企業も見られます。また、顧客自身が自分に合った生成AIを導入し始めているケースもあります。この調査により、CMOは生成AIの導入において複数の課題や緊張関係に直面していることが明らかになりました。
差別化は、顧客と従業員それぞれの「人としての感情や行動」を理解し、それに向き合うことから生まれます。
この人的優位性と競争優位性を引き出すには、CMOが取るべき3つのステップがあります。
顧客にとって自然かつ自分に合った体験を提供するには、顧客自身が直接提供するデータ(ファーストパーティデータ)が不可欠ですが、その取得には課題があります。
デジタルマーケティングによる新規顧客獲得コストは高水準にあります。既存顧客を維持し、企業との関係性を深めていくことは、ロイヤルティによる経済効果を得るための実証済みのアプローチであり、CMOはどのファーストパーティデータを自社で保有すべきか、また適切な同意と権限の下でどのように取得・活用するかを検討する必要があります。
ファーストパーティデータにアクセスするには、顧客との信頼を築く必要があります。顧客はこの点に慎重であり、79%が「懸念している」または「非常に懸念している」と回答しています 1。
この課題に対応するため、調査に参加したある消費財企業の最高データ責任者(CDO)は、拡張現実(AR)体験を通じてエンゲージメントを図ろうとした際に、企業がデータをどのように保管し、どのように利用するのかを「その場で明確に示す」ことが、顧客の信頼と必要な同意を得る上で不可欠だったと述べています。
さらに一歩進めて、顧客からデータを「取得する」だけでなく、データを顧客に「還元」し、そこから何が分かるのかを明確に共有することで、顧客との関係性を「ブランドは私を理解している」というものから「ブランドは私が自分自身を理解するのを助けてくれる」ものへと転換することができ、信頼やロイヤルティの醸成につなげることができます。
この信頼の重要性は、生成AIのユースケースを選定する際に、人間的価値と利便性のバランスを取ることが不可欠であることを示しています。
Adobe社の調査によると、顧客の80%は、会話の相手が人かチャットボットかを知ることを重視しています。2そのため、人間的すぎるボットは受け入れられない可能性があります。
生成AIを活用した顧客体験が音声とビデオを含むようになり、より没入感が高まるにつれて、不気味の谷効果を生み出すリスクが高まります。人らしい表現ややりとりが十分でなかったり、完璧すぎたり、知識を裏切ったりすると、人々は不安を感じることがあります。
顧客体験の全てを機械に委ねるのではなく、人の感性と主体性があればこそ生まれる、特別な体験を作ることが鍵となります。マシンインテリジェンスがますます推進されている世界では、人の価値観、行動、感情が顧客体験を差別化します。
このことを念頭に置いて、CMOは顧客の利益を意思決定の中心に据えるべきです。例えば、生成AIは顧客体験をより共感的で、より利用しやすく、よりタイムリーにすることができるか?といった問いに答えることです。
一部の企業では、生成AI活用に当たり顧客満足度などのCX指標を組み込み、真に顧客価値がある領域から着手するとともに、その影響を継続的に測定しています。
例えば、ある多国籍小売企業は、生成AIチャットボットの効果について、オペレーターに引き継がれた件数ではなく、チャットボットの中で解決された問い合わせの件数で測定しています。同時に、チャットボットとのやりとりによる売上増加も追跡しています。
CMOが検討すべきテーマ:
経営層は、生成AIを効果的に活用できる人材を育成するための最優先事項として、「全従業員向けのAI基礎理解」と「中核人材向けの高度なAIスキルトレーニング」を挙げています。4
このような包括的なアプローチは、生成AIに対して一部の従業員が抱く不安を和らげる効果が期待されます。
EYが実施したグローバル調査「AI Anxiety in Business」では、従業員の3分の2以上が、AIの使い方を知らないことにより、仕事で後れを取り、昇進の機会を失うのではないかと不安を感じていることが明らかになりました。
生成AIがもたらす新たな機会を十分に捉えるためには、まずチームが前向きに探索する姿勢を持つことが不可欠です。
そのためには、生成AIが「自分にとってどんな価値があるのか」を明確にすることが重要です。
パイロットプロジェクトを任せ、現場から知見を自然に育てることは、人材のスキル向上を始めると同時に、不安を軽減する有効な第一歩です。
EYの社内調査では、パイロットへの参加後、生成AIに不安を感じる従業員の割合が98%から12%に低下したことが確認されました。5
マーケティングチームにおけるコンテンツ制作ワークフローの最適化は、生成AI導入の第一歩として有効な取り組みといえます。
生成AIは、クリエイティブの構想やアイデア創出、コピーや画像の下書き、反復・改善、テスト用のコンテンツバリエーション作成といったプロセスの効率化を支援します。
また、コンテンツの品質・量・再利用性の向上を通じて、チャネル横断でのパーソナライゼーションを後押しします。その際、人の主体性がブランドメッセージ、ビジュアル、表現や伝え方の一貫性を保つ役割を果たします。
生成AIは、人の創造性を高めるための非常に貴重なツールでもあります。例えば、あるグローバルファッションブランドのエグゼクティブは、生成AIによる顧客センチメント分析から抽出されたトレンドを用いて、プロダクトデザイナー向けのプロンプトやビジュアライゼーションを開発していると述べています。
この技術によって、より大きなインパクトを生む業務に時間を割けるようになることで、ポジティブな循環が生まれます。従業員満足度の向上は顧客満足度を高め、顧客満足は再び従業員満足度を押し上げます。従業員体験(EX)と顧客体験(CX)は密接に結び付いているためです。
この相関関係は、Dow社の顧客体験最適化プログラムにおける重要な発見でした。多くのケースで、顧客の課題は従業員の課題と一致していたのです。
例えば、顧客が問い合わせへの回答を待たされている場合、その原因の多くは、従業員が適切な情報を見つけられずにいることでした。
これは、AIを活用したツールによって従業員を支援し、顧客への対応をより迅速かつ高品質にすると同時に、自身の業務の価値ややりがいを高める、明確なユースケースといえます。
CMOが検討すべきテーマ:
生成AIの可能性を最大限に引き出すには、機会の探索とリスクの抑制を両立できるガバナンスを構築する必要があります。
まず前提として、CMOは「どの業務で、どんな成果を出したいのか」を明確にした上で、その用途に特化したソリューションを選ぶ必要があります。
その際、導入するソリューションには、商用利用を前提とした明確な基準や、適切な管理・統制があらかじめ組み込まれている必要があります。
例えば、基盤となる大規模言語モデル(LLM)には、データの出所に関する透明性が求められ、商用利用における安全性を前提に設計されていなければなりません。
また、ソリューションで使用されるデータは、安全かつプライベートに管理され、他社と共有されたり、公開モデルの学習に使われたりしてはなりません。
生成AIをパイロット段階から本格展開へ移行するに当たり、マーケティング、コンプライアンス、テクノロジーの責任者からなる「航空管制塔」のようなチームが、全社的な開発を統括・調整する必要があります。
「生成AIの業務活用を中央集権的にコントロールする場合に、マーケティング機能を中心に位置付けることは非常に重要です。消費者に焦点を当てた効率的なコンテンツ制作、AIパーソナライゼーション、高度な分析に重点を置いているため、マーケティング部門は法律、サイバーセキュリティ、プライバシー、テクノロジーの利害関係者と連携して、データインサイトを効果的に活用して行動することが重要です」と、EYのApplied & Generative AIリードのマネージングディレクターであるTom Edwardsは述べています。「このアプローチにより、リスクを抑制しながら、ビジネスのスピードに合わせた統一的な方向付けと意思決定が可能になります」
AIガバナンスは、顧客体験の創出と提供にまで及ぶ必要があります。顧客データを用いて創出・パーソナライズ・予測を行うなど、AIの自律性が高まる中にあっても、創造的および商業的な意思決定の中心には、常に「人」がいなければなりません。
人による十分な判断を介さずに体験を提供すれば、そのビジネスへの直接的な影響だけでなく、企業の評判に重大な影響を招く恐れがあります。
CMOが検討すべきテーマ:
生成AIは人の行動についてこれまでにないほど理解できますが、機械では完全には理解・予測できない顧客の側面が常にあります。生成AIは私たちが「何を求めているか」は把握できても、「なぜそれを求めているのか」までは理解できない場合がほとんどです。
生成AIは、実務者にとっても顧客にとっても、顧客体験を変革する力となり得ます。その変革の中核にあるのが、人の主体性です。
生成AIは、マーケティングチームからクリエイティブな仕事を奪うどころか、それを強化して指数関数的な価値を生み出し、チーム全体が新しい顧客体験機能をすぐに利用できるようにすることで、より大きな自信をもたらします。
現在、人々は機械よりも人に高い信頼を寄せています。
しかし、マーケティングにおいて機械の存在感が高まる中、生成AIで成功する組織とは、人ならではの強みを引き出すためにこの技術を活用する組織です。
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多くの組織にとって、生成AIをどのように導入すべきかを理解することは依然として大きな課題です。
一方で、CMOが主導してこの技術の導入を推進できる、現実的かつ大きな機会も存在します。
EYとAdobe社による最新の共同調査では、注目すべきユースケースと、導入に当たり押さえるべき重要な要素が示されています。
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