工場の上空写真1

サプライチェーン大再編を成功に導くには


新たな関税政策の導入が相次ぎ、不確実性が増す中、企業はアジリティ(俊敏性)、レジリエンス(回復力)、サステナビリティ(持続可能性)を高めるため、サプライチェーンのセグメント化を進めています。


要点

  • インフレや供給不確実性など地政学的・経済的な圧力が高まり、企業は従来型のグローバル・サプライチェーン・モデルの見直しを迫られている。
  • 直線的で、コスト最優先・効率重視のサプライチェーンは、リスク、サステナビリティ、スピード、アジリティのバランスを考慮した多次元的でセグメント化されたネットワークへと変わりつつある。
  • 企業は、関税や各種インセンティブを踏まえ、拠点の地理的配置や構成、原材料、サプライヤー、オペレーティングモデルを再考するための新たなロードマップを策定する必要がある。


EY Japanの視点

サプライチェーン大再編は経営課題の1つとして、全社で取り組む必要があります。

サプライチェーン大再編の対応は、グローバルに事業を展開する日本企業にとっても例外なく求められます。地政学リスクをはじめさまざまな外部環境変化・混乱が今後も想定される中、ビジネスモデルを実現するためのオペレーティングモデルの重要性がますます高まっています。サプライチェーンはそのオペレーティングモデルを構成する主要機能であり、経営課題の1つとなっています。これまでの一定の想定・状況下におけるオペレーションの最適化を追求する考え方から、変化に対する動的な対応力が求められます。またKPIも従来のQCDから、事業活動がさらにグローバルに広がることによる環境や人権問題はじめとしたESGスコアへの対応もサプライチェーンに求められ、その役割は大きく広がっています。サプライチェーンを全社観点で変革することにより、持続的な成長を実現できると考えます。

EY Japanの窓口

この20~30年の間に、多くのサプライチェーンが直線的でグローバルな構造へと姿を変えていきました。企業は低コスト国での効率的な大量生産を追求し続け、その結果、サプライチェーンは極限まで最適化され、ジャストインタイム方式を基盤とした、内在的レジリエンスに乏しい仕組みが形成されました。こうしたモデルは、比較的安定した世界情勢と、自由で開かれた低コストの国際貿易が拡大していく状況を前提に成り立っていました。

しかし、これまでサプライチェーン最適化の前提となってきた世界は大きく変化しています。近年、世界貿易では、1米ドルの取引価値当たりの平均輸送距離が4,000キロメートル(2,485マイル)を超え、貿易フローは混乱や関税のリスクにさらされやすくなっています。その上、サステナビリティの面でも成果が得られにくいというのが実情です。

EY-Parthenonが実施した「Geostrategy in Practice Survey 2025」によると、グローバル企業の経営幹部の74%が、過去24カ月間に自社のサプライチェーンが政治リスクの影響を受けたと回答しています。そして、その影響については、63%の企業が「不利に作用した」と答えています。

こうした背景もあってか、政治リスク対応における戦略転換の上位3施策のうち、サプライチェーンの再構築と事業資産の移転が2つを占めています。

もはやサプライチェーン大再編を避けて通れません。国際貿易政策の急激な変化、世界各国・地域の税制・関税改革、ウクライナ情勢、米中関係の変動、環境規制の強化といった要因により、さまざまなセクターの企業が「供給ネットワークのセグメント化」へと舵を切らざるを得なくなっています。

このセグメント化された新たなモデルでは、まず主要な貿易圏ごとにサプライチェーン資産を再配置する必要があります。 セグメントによっては、従来どおり低コスト重視で運営できる場合もあれば、より高い柔軟性が求められる場合もあるでしょう。また、レジリエンスを確保するには、高水準の安全在庫に頼るのではなく、機動的かつ戦略的な余剰生産能力の確保や、サプライヤー側での部材バッファ、最終組み立てを消費地で行う延期戦略、設備稼働効率の向上などの手法を活用していくことが有効です。なお、これらは、サプライチェーンの各セグメントに応じて、適切な段階で展開することが不可欠です。

サプライチェーン大再編は、単に部分的な手直しで済むものではありません。影響は、戦略、マーケティング、設計、調達、製造、包装、保管、輸送に至るまで、事業モデル全体に及びます。そのため多くの企業では、経営管理機能やサプライチェーン管理ハブ、関連する税務モデルを含む、バリューチェーン全体の再構築が必要となります。

セグメント化された供給ネットワークへの移行は、一朝一夕には進みません。その実現には、各セクターに特有の動向を踏まえつつ、サプライヤー全体のエコシステムを総合的に調整していく必要があります。サプライチェーンのセグメント化計画とそのロードマップは、この移行を支える基盤となります。これらを戦略的に策定することで、経営幹部は現在および将来にわたって成長資本を適切に配分し、長期的なセグメント化目標の達成を後押しすることができます。

サプライチェーン大再編は、一度きりで完了するものでもありません。業務部門とサプライチェーン部門は、新たな関税や貿易政策、規制環境の変化、人材の調達可能性などを踏まえ、追加施策の必要性を継続的に見極めていく必要があります。サプライチェーンを的確にセグメント化し、適切なデジタル可視化ツールとAIエージェントを活用することで、地政学的動向に即応できる、しなやかで強靭なサプライチェーンを構築することが可能になります。

サプライチェーン大再編には、考慮すべき5つの重要な要素があります。これらは、サプライチェーンのアジリティ、コスト効率、レジリエンス、サステナビリティの向上に大きく寄与します。各要素については、以下の各章で詳述します。

Various pipe metal in a warehouse
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第1章

成長のための簡素化

地理的最適化:製品・市場の最適な組み合わせと戦略的調達拠点の選定。

地政学リスクや関税・貿易改革の影響が強まる中、メーカーは製品ポートフォリオや部品表(BOM)の抜本的な見直しを迫られています。こうした再評価の結果、製造拠点に関係なく、特定の市場ではもちろん、場合によってはすべての市場で製造・販売しても採算が取れない製品が浮かび上がってきます。さらに、関税などによるコスト上昇分を販売価格に転嫁できない場合や、特定の製品を持続的に生産できなくなった場合には、その製品は市場での存続が難しくなる可能性があります。

 

企業によっては、関税が自社の方針を転換するきっかけとなっています。こうした関税を巡る動きは、すでに長期化しています。Global Trade Alert1によると、貿易介入措置の件数は過去5年間で200%超、過去10年間では400%近く増加しています。これらの措置の多くは、各国政府が自国の経済安全保障を強化するために導入したものです。現在の米国の関税政策を踏まえると、貿易を巡る各国の対応の緊急性と重要性はこれまで以上に高まっています。

 

こうした中、先進企業では、ティアダウン分析やコストモデリングをBOMのバリューエンジニアリングと組み合わせることで、製品ポートフォリオの見直しとBOM構造の簡素化を進めています。また、原産地規則や関税の影響を踏まえ、総コストを削減するためにBOM品目を見直し、代替サプライヤーへの切り替えや、別のサプライヤーから代替材料の調達を進める企業も増えています。

 

また、多くのセクターでは、製品コストの上昇や運転資金の逼迫に加え、物流負荷の増大や国境通過時に課される炭素課金、さらには頻発する供給混乱が重なり、サービス提供コストが上昇しています。その結果、粗利益率が低下し、バッファ在庫を持つこと自体がますます採算に合わなくなりつつあります。


このような流れを受け、企業はどの市場に参入し、どの市場から撤退すべきかについて、これまで以上に慎重な意思決定が求められています。例えば、関税の影響が大きい環境では、市場によっては利益性が低下する一方で、状況次第では大きな収益機会が生まれる場合もあります。また、地域ごとに関税負担が企業によって異なるため、特定の市場からの撤退や新たな市場への参入について、個別に判断する必要性が高まっています。さらに、一部の国では、サプライチェーンの現地化を促す政策が進められ、企業の対応に応じて課税や優遇措置が適用されるなど、企業行動を強く方向づける枠組みが整いつつあります。こうした複合的な要因は、地域ごとに最適化された供給ネットワークを構築する際の中核を成しています。

A lady looking at a handmade tote bag
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第2章

供給ネットワークのセグメント化と従来型管理ハブの見直し

供給ネットワークをセグメント化するに当たり、サプライチェーン拠点の設計段階から、外部環境の短期・中期・長期的な変化に対応可能な適切なレベルのアジリティを組み込んでおくことが不可欠である。

オフショアリングが盛んだった時代、メーカーは低賃金国に大規模な製造拠点を構え、規模の経済による大きなメリットを享受していました。しかし現在では、多くの製品が最終顧客により近い場所で製造されるなど、顧客のニーズに迅速に対応する体制づくりが進んでいます。こうした動きの背景には、関税や物流コストの削減、環境負荷の低減といった利点に加え、技術の進歩により自動化がより費用対効果の高い選択肢となり、低コストの労働力に依存する必要性が薄れてきたことがあります。

こうした動向の初期例として挙げられるのが、調達先の一極集中リスクを回避するための「チャイナプラスワン」です。しかし、物価上昇が続き、各国が自国のサプライチェーンのレジリエンス向上を目的とした貿易政策を次々と導入する状況では、この戦略だけではもはや十分とは言えません。

一例として、ある企業では、ベトナム・インド・メキシコへと生産拠点を多様化することで、中国への依存度をすでに大幅に低減していますが、現在は主要市場向けの一部生産について、国内回帰も視野に入れ始めています。別の企業では、一拠点(国)が担える供給量について、ネットワーク全体に占める比率に上限を設ける方針を導入しています。同社は世界中におよそ5つの調達先を持ち、それらを柔軟に組み合わせることでサプライチェーンのアジリティを高めています。企業の間では、こうした柔軟性や余剰能力の確保を、単なるコストではなく、戦略的投資と捉える考え方が広まっています。

こうした意思決定は、技術の進歩により以下の2つの点で容易になりつつあります。

  • サプライチェーンのデジタル可視化ツールをサプライチェーンのコントロールタワー機能に組み込むことで、供給ネットワーク全体を一元的に把握し、複数のトレードオフを踏まえた最適な意思決定を、より迅速かつ的確に行えるようになります。
  • 3Dプリンティングなどの製造技術を活用することで、高度にカスタマイズされた精巧な部品や最終製品を、消費地で、しかも多くの場合、受注生産で製造することが可能になります。また、ロボティクスを導入すれば、工場や倉庫を完全自動化、あるいはそれに近い状態で稼働させることができます。

電力・水道などの設備にプラグインできるモジュール式生産ライン技術を組み込んだ最新の工場設計を採用すれば、生産ライン全体を別の拠点に移動させることも可能になります。こうした中期的な機動性により、一部のセクターでは、生産ラインや拠点の移動・切り替えを、従来よりもはるかに迅速に進められるようになります。

しかし、調達先を複数の新しい市場へと広げて多様化を図ったとしても、自国と地政学的に対立する国の企業や製品への潜在的な依存が必ずしも低減されるとは限りません。そのため、経営幹部には、より多様化・セグメント化されたサプライチェーン全体を可視化し、常に把握しておくことが不可欠です。さらに、サプライチェーン責任者は、レジリエンス維持の観点から、どの拠点で柔軟性やバッファ、代替を確保すべきかを見極め、選択する必要があります。レジリエンスへの投資や、必要に応じた冗長性の確保は、特定の市場や製品において、事業を継続できるかどうかを左右する決定的な要因になり得ます。

地政学リスクとサプライチェーン大再編:戦略は万全ですか?

この動画では、EY-ParthenonのEY Global Geostrategy Insights Leaderである Courtney Rickert McCaffreyが、EY Global Consulting Supply Chain LeaderのBrad Newmanと共に、地政学的情勢がグローバルサプライチェーンに与える影響について解説しています。

グローバルサプライチェーンを設計する際に考慮すべきもう1つの重要な点として、サプライチェーン・マネジメント・ハブの活用が挙げられます。近年、グローバル多国籍企業では、複数の国・地域にまたがるサプライチェーンの最適化を担う専門チームを集約するハブ組織の設置が進んでいます。これらの多くは、営業、販売、マーケティング、プロダクトマネジメントなどの機能と同じ拠点に置かれています。さらに最近では、その役割がさらに広がり、特定市場への供給体制を維持するため、代替サプライヤーや別工場を活用するなど、レジリエンス確保に向けた措置を含む、戦略的な意思決定にも関与するようになっています。 

こうしたハブの多くは、これまで、税制上のメリットや優秀な人材を引きつけて定着させやすいという観点から有利な国・地域に設けられてきました。さらに、可視化ツールの進化や供給ネットワークの拡大により、サプライチェーン・マネジメント統括チームは、調達から製造・回収物流に至る各プロセスで大きな価値を引き出せるようになっただけでなく、魅力的な法人税制の恩恵も受けてきました。

一方現在は、管理体制、コスト、遠隔拠点間の仮想的な統合、意思決定インテリジェンス技術などの観点から、サプライチェーン・マネジメント・ハブの規模や立地を見直す動きが広がり始めています。この流れは今後10年間でさらに加速すると予想されます。見直しに当たっては、関連する税制上の影響を踏まえた慎重な判断が求められるでしょう。

Full length of people working on a building
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第3章

レジリエンスと循環性を備えたオペレーティングモデルの構築

製品の設計・調達・製造・輸送に、循環性とサステナビリティの視点を組み込む。

サプライチェーン大再編の基盤となるのは、循環型モデルとアズ・ア・サービス型モデルです。こうした変化の背景には、消費者の間で、より良い品質で、地元で生産された製品を求める傾向が強まっていることがあります。これを受け、企業はサステナビリティを重視した戦略へとシフトし始めています。特に、自動車や携帯電話、ノートパソコン、白物・黒物家電などのリファービッシュに取り組むメーカーや、繊維製品の回収、廃棄物削減を進める世界的なファッションブランドで、こうした動きが加速しています。
 

世界各国・地域でも、資源循環を含むサステナビリティ関連の規制を強化が進んでいます。例えば、欧州連合(EU)は炭素国境調整メカニズム(CBAM)を導入し、セメントや鉄鋼といった炭素集約型製品に対して関税を課す仕組みを設けています2。こうした措置により、これらの製品を輸入する魅力が低下し、企業によるリサイクル施設の整備や再生材料の調達・活用が一段と促進されると考えられます。

これらの規制の中には、素材、調達先、再製造の可否に関する詳細を記載したデジタル製品パスポートの提供を義務付けるものもあります。代表的なものとしては、バッテリーや電子機器、衣料品などでリサイクル素材の最低使用比率の記載が求められています。ファッション業界ではすでに、リサイクル可能な繊維の使用や廃棄衣類の回収・再利用、水の代わりにレーザーを用いたジーンズのウォッシュ加工、さらには「賢い消費」という考え方を広めるための消費者啓発など、さまざまな取り組みが進められています。

政策や規制の動向は国・地域によって異なりますが、世界的な方向性はおおむね明らかです。今後は循環型経済が一段と進み、製品は長期使用を前提に設計され、必要に応じて継続的に修理やアップグレードが可能となり、再生素材の活用も一段と進むでしょう。また、こうしたモジュラー設計により、部品の交換やメンテナンスサービスが容易になり、これを起点に新たな収益モデルが生まれる可能性もあります。さらに製造工程では、希少な鉱物資源や水への依存を最小限に抑えながら、エネルギー効率の向上やネットゼロの実現、廃棄物・汚染の最小化がこれまで以上に重視されるでしょう。

こうした状況は、政府がサステナビリティをあまり重視していない市場でも変わりません。企業にとっては依然として取り組むメリットがあります。例えば、電力や水の使用量を減らせばコスト削減につながり、リサイクル材料を使用すれば戦略的に重要なバージン原材料への依存を抑えられ、ひいては原材料の輸入量やそれに伴う関税負担を低減することができます。また多くの企業が、グローバルネットワーク全体を俯瞰し、運営コストや税務負担、二酸化炭素排出量の最適化を進めています。

これらすべての状況は、「どんな製品を、どこで、どのように製造するか」という企業の意思決定に影響を与えます。多くの場合、その影響は製品レベルにも及び、多くの場合、原材料、中間品、各種原料など、製造に必要なすべての構成要素、いわゆるBOMを見直す必要が生じます。その結果次第で、既存の製品をより循環型へと作り替えられる場合もあれば、逆に生産を中止せざるを得ない場合もあるでしょう。さらに、設計から納品、その先に至るまで、製品のライフサイクル全体を詳細に把握することができれば、調達プロセスの簡素化につながります。可能な限り多くの要素を標準化することで、製造や包装に使用する材料の種類や仕様を一層絞り込むことが可能になります。

加えて、サブスクリプションの要素を組み込んだ、より循環性の高いモデルへの移行は、税制、法務、関税・貿易の領域で新たな調整事項を生み出し、慎重な検討を要します。例えば、サービスサブスクリプションによる収益は、従来の製品販売とは異なる税務上の扱いとなる可能性があります。さらに、国境を越えたサービス提供やリサイクル事業を行う場合には、取引モデルや資産の所有形態、各種登録手続き、コンプライアンスなど、さまざまな領域で新たな課題が出てきます。こうした制度面の課題も、製品やサプライチェーンを再設計にあわせて総合的かつ慎重に検討することで、課題の解消だけでなく、さらなる付加価値の創出につなげることができます。

eコマース倉庫内で停止している2台のロボット
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第4章

自動化およびAIによる意思決定支援

テクノロジーを活用し、複雑化した供給ネットワーク全体でサプライチェーンの透明性・可監査性・管理体制を強化する。

従来型サプライチェーンは可視性が低く、その不透明さが、アジリティや対応力の強化、セグメント化された供給ネットワーク全体での需給バランスの動的調整、そしてサステナビリティやレジリエンスの継続的な監視・改善を難しくしています。

テクノロジーと生成AIの進歩は、こうした状況を革新するものとして期待されています。これらの技術を活用することで、企業は新たなプロセスを設計し、より高精度な需要予測によって外部ショックの影響を軽減できるだけでなく、混乱発生時には最もコスト効率の高いルートや運送業者をシームレスに特定することも可能になります。2024年にEYが実施した調査では、すでに73%の企業が、サプライチェーンへの生成AI導入を計画していることが明らかになっています。

サプライチェーンの運用は、航空機の操縦に通じるところがあります。現代の航空機には、パイロットの操縦を支える「フライ・バイ・ワイヤ・システム」や「自動操縦システム」が標準装備されています。同様に、セグメント化された供給ネットワークにも、可視性と意思決定インテリジェンスを提供する「仕組み」が不可欠です。こうした基盤があってこそ、ネットワークの「パイロット」であるサプライチェーン管理責任者は、求められるレジリエンスを確保し、的確な意思決定を行うことができます。

最新のエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)や高度計画システム(APS)は、コントロールタワー型ソリューションや意思決定インテリジェンス、生成AIを組み合わせることで、サプライチェーン全体の状況を可視化し、次に取るべき最適なアクションを提示します。エージェント型の仕組みを導入すれば、こうした推奨アクションに基づく意思決定を自動化し、その結果を基幹システムへシームレスに反映させることもできます。

高度な可視性を得たサプライチェーン責任者は、基幹システムが提供する洞察を行動に移せるよう、サプライチェーンの要所で柔軟性の強化やマルチソーシングに向けた投資を進めています。

一例として、ある大手グローバル日用消費財(FMCG)企業では、物流の95%を海上と陸路を組み合わせた最も低コストの輸送手段で運用しています。一方で、残りの5%については、あえて陸路のみの二次ルートを確保し、常に稼働できる状態を維持しています。この二次ルートは、フォワーダーや輸送事業者、通関業者を含む関係者すべてにいつでも利用可能にしておくことで、突発的な輸送量の変動にも柔軟に対応できる現実的な選択肢となります。

可視性、ひいては可監査性を確保することは、調達デューデリジェンスに関する新たな規制への順守の促進につながります。例えば、EUのサプライチェーン・デューデリジェンスに関する法規制は、企業に対し、天然由来の製品をサプライチェーン全体にわたり、場合によってはバッチ(ロット)単位までさかのぼって追跡することを義務付けています。サプライチェーンの構造的な可視性を確保できれば、こうした要件に準拠できるだけでなく、全体的なアジリティの向上にもつながります。現在、これを実現する基盤づくりの一環で、自社事業の領域を超えた、エンド・ツー・エンドのサプライチェーン・データ・プラットフォームの構築に投資する企業が増加しています。

Female and male colleagues discussing at a warehouse
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第5章

コスト削減にとどまらない価値主導の協働関係

サプライヤーとの信頼関係は、単なる取引ではなく、共通の目標に向けた協働によってこそ育まれる。

次世代のサプライチェーンは、従来のような直線的でシングルソーシング中心だった構造が薄れ、オンショア、フレンドショア、ファーショアの企業が相互につながる、より複雑なネットワークによって特徴づけられるでしょう。そのネットワーク内では、企業同士がパートナーとして協働し、循環型設計、サステナブルな調達に関する規制、製造、包装、物流といった領域で、共通のアプローチを通じて連携して取り組むようになります。そして、調達先の選定には、単にコストを最小限に抑えることよりもレジリエンスが重視されます。

地政学リスクの分散という観点からすると、サプライヤーの多様化が不可欠であることは言うまでもありませんが、その一方で、個々のサプライヤーと信頼に基づく深い戦略的関係を築くことも重要です。現在、多くのメーカーが供給ネットワークの再構築を進めており、その過程で、取引ベースではなく成果を重視する姿勢が一段と強まっています。その視線の先には、バリューチェーン上の他企業がイノベーションを発揮し、理想的には設計段階といった生産プロセスの初期段階から関与できるような、協働型パートナーシップを育むという狙いがあります。

サプライチェーンを再構築するに当たっては、もうひとつ重要な意思決定が必要になります。それは、製造を自社で行うか、それとも外部に委託するかという選択です。自社製造は、信頼性や管理面で優位ですが、コストが高くなりやすく、世界的な人材不足の影響も受けやすいという難点があります。これに対して外部委託は、生産量の急な増減にも柔軟に対応でき、委託先が「センター・オブ・エクセレンス」を備えていれば、最新のスキルやテクノロジーを活用した製造も可能になります。

しかし、製造を外部委託すると、知的財産の流出や製造と設計の分断といったリスクがあります。さらに、委託先が限られることで特定のサプライヤーへの依存度が高まり、企業の交渉力が低下する恐れもあります。

こうした懸念から、一部の業界では、垂直統合を通じてサプライヤーへの依存を減らし、重要な調達品目の管理を強化しようとする動きが広がっています。さらに、供給ネットワークのセグメント化が進む中、メーカーには新たな地域で原材料の調達体制を整備することが求められています。例えば、IT機器企業のサプライチェーンは長らく中国に依存してきましたが、近年ではインドで組み立てやサブコンポーネントの調達を行う企業が徐々に増えています。一方、米国はIT機器の国内生産を促しており、IT業界は米国内でサプライヤーのエコシステムをゼロから構築する必要に迫られています。新たなモデルへの移行スピードは、政府の税制優遇措置や補助金、さらにはサステナビリティ関連法規への不適合に対する課税や徴収金などの施策に大きく左右されます。これを踏まえ、企業はサプライチェーン大再編に向けた戦略的ロードマップに、これらの要素を確実に織り込む必要があります。

再構築・再均衡・レジリエンス強化

既存サプライチェーンの多くは、あまりにも長く、脆弱で、不透明であるため、混乱が増す世界に適応しにくくなっています。これまでの約20年間のサプライチェーンを象徴するキーワードが「規模拡大と低コスト」だとすれば、これからの10年は「アジリティ、サステナビリティ、価値の再定義」が重視される時代になるでしょう。

サプライチェーンの大再編において、企業は直線的なサプライチェーンを、セグメント化された供給ネットワークへと再構築する必要があります。調達体制についても、これまでのオフショア依存型から、ファーショア、ニアショア、フレンドショア、オンショアを組み合わせたマルチソーシングへと転換し、調達先のバランスの再均衡化を図る必要があります。



加えて、企業にはアジリティとレジリエンスを強化するために、長期的で相互的なパートナーシップを形成することも求められます。そのためには、イノベーションを基盤に、サプライチェーンのセグメント化、ポートフォリオとライフサイクルの管理、サステナビリティと循環性、エコシステム連携、データ分析およびリスク管理といった重要なケイパビリティを備えていることを示す必要があります。そして、戦略的ロードマップには、これらすべてを組み込む必要があります。そうすることで、現在進めている資本投資やサプライチェーンの各種調整・見直しを、戦略的にセグメント化された次世代サプライチェーンへの確かな一歩につなげることができます。
 


サマリー

不確実性、混乱、地政学、関税などの要因が重なり、サプライチェーンは大再編の局面を迎えています。これまでの直線型・低コストを主軸としたモデルに代わり、セグメント化された供給ネットワークへの移行が本格化しています。こうした流れの中で、企業は事業拠点、生産品目、販売先、そして資材や製品の物流について改めて見直す必要に迫られています。今後、サプライチェーンはアジリティやレジリエンス、サステナビリティ、そして価値の再定義をより重視するものへと進化していくでしょう。


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