EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
こうした背景を踏まえ、2025年11月18日、「米国輸出規制の強化と今後の対中政策の行方」をテーマにセミナー「経済安全保障OSINT活用セミナー第1回:米国輸出規制の強化と今後の対中政策の行方~来年発動予定のBISによる50%ルール~」を開催、「50%ルール」導入による実務インパクトや、中国関連リスクの可視化方法などを解説しました。本レポートでは当日のセミナーの内容をお届けします
要点
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト
シニアマネージャー 泙野 将太朗
米国の商務省が2025年9月に発表し、2026年発動予定の「50%ルール」。その適用は1年延期されましたが、今後延期が撤回される可能性もあり、実務上は“ホットスタンバイ”の状況となっています。「50%ルール」の適用が開始されれば、輸出管理の枠組みが一段と複雑化し、日本企業にとっても影響の深刻度がこれまで以上に高まります。本セッションでは、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト シニアマネージャー泙野が、新ルールの概要、今後の米国における対中規制の方向性、および日本企業がリスク低減のために備えるべきポイントを解説しました。
従来の米国における輸出管理制度は、「Entity List」や「Military End User List」、「SDN List」などの規制対象リストに掲載されている事業体のみを対象としてきました。しかし、「50%ルール」導入後は、規制対象リスト掲載の事業体が資本を50%以上保有する、リストに掲載されていない関連事業体も規制対象と見なされます。
「米中首脳会談により『50%ルール』は1年延期されましたが、有識者によるとトランプ大統領の判断次第で延期を撤回する可能性もあります。実務上は、“ホットスタンバイ”と位置付け、この猶予期間中に準備を進める必要があります」(泙野)
これまで輸出企業は、CSL(Consolidated Screening List)や日本のCISTEC(安全保障貿易情報センター)が提供するCHASERといったスクリーニングツールで事業体名を検索することで、規制対象の事業体かどうかを判断することが可能でした。しかし「50%ルール」では、それだけでは不十分です。
例えば、規制対象リスト掲載の事業体A社がB社の50%以上の資本を保有する場合、表面的にはB社が規制対象リストに載っていなくても、A社と同等に輸出規制対象となります。さらに、B社と50%以上資本関係があるC社も同様に、A社と同等の規制対象となります。
また、「50%ルール」には合算基準が導入されています。1社の出資比率が50%未満でも、複数の規制対象リスト掲載の事業体からの出資比率の合計が50%以上であれば規制対象になります。「Entity List」と「Military End User List」といった異なる規制対象リスト間でも合算されるため、スクリーニングの難易度は従来よりも飛躍的に上がります。
さらに、出資比率が50%未満であっても、役員の兼務やITシステムの共有、事業上の一体性などが認められる場合には、追加のデューデリジェンスが求められます。形式的な出資比率だけではなく、実質的な支配関係が重視されるのです。また、輸出企業は、輸出品目や技術が最終的に規制対象リストの事業体に渡らないことを証明する義務も生じます。
「無料のスクリーニングツールだけで支配関係の全体像を把握することは不可能です。BIS自身も追加分析の必要性を理解しており、民間スクリーニングサービスの活用を示唆していることから、民間ツールによるリスク管理を前提とする時代になったと言えます」(泙野)
米国輸出管理規則(EAR)には、新たに「規制対象リスト掲載の事業体との資本関係が疑われる場合、その関係を証明できなければ輸出許可が必要」というレッドフラグが追加されました。
資本関係を確認できた場合でも、合算基準により「50%ルール」に抵触するケースや最終的な使用目的を証明できないケースでは、輸出許可が必要となります。さらに、輸出先企業の役員に、規制対象リスト掲載の事業体で役員を兼務している人物が含まれる場合も同様で、最終的な使用目的を確認できなければ輸出許可が求められます。このように審査の厳格化が進んでおり、判断には従来よりも複雑な調査が必要となります。
従来の「Entity List」や「Military End User List」などの規制対象リスト掲載の事業体は約3,000社と推計されていましたが、子会社などの関連事業体まで加えると、約2万社に拡大すると言われています。つまり、「50%ルール」が発動されると、輸出禁止となる事業体が大幅に拡大し、実務に与える影響は甚大です。
泙野は、安全保障貿易管理業務の複雑性とコスト上昇を念頭に置いて「50%ルール」に沿った運用をする必要がある、と指摘します。
「『50%ルール』が導入されると、業務はこれまで以上に複雑化し、現状の予算や体制では対応が難しくなります。人員の増強や新しいツールの導入を検討すべき段階と言えるでしょう。単に1年延期になって良かったと思うのではなく、1年間の猶予期間ができたと捉えて、この期間のうちに経営層と実務担当者の情報共有を進め、ツール導入の方法を具体的に議論することが求められています」(泙野)
米国輸出規制に違反した場合の事例も紹介されました。
「たとえ故意ではなくても、適切なデューデリジェンスを行っていない場合は必要な確認を怠ったとして非常に高額な罰金を科される可能性があります。リスクを下げるためには、正確な調査が不可欠です」(泙野)
「50%ルール」の適用は一時延期され、また、エヌビディア製の半導体H20など一部規制も緩和されました。3さらに「50%ルール」の推進役であるハイド商務次官補のノミネーションが撤回された4ことから、対中強硬派の影響力は後退したようにも見えます。
しかし、泙野は慎重な見立てを示します。
「対中特別委員会が提出する法案は依然として強硬な姿勢を示しており5、米国議会の構成を踏まえると、トランプ型のディールが完全な主導権を握る展開は考えにくい状況です。中期的には、バイデン政権下で進められてきた対中政策が大筋で継続される見通しです」(泙野)
EYでは、民間スクリーニングツールを活用しながら、「50%ルール」の調査対象となる事業体・ファクトに対する輸出の可否判断、ジョイントベンチャーのパートナー企業に対する調査など、経済安全保障の観点から適切な意思決定をサポートします。
WireScreen Director of Training and Development
Pete James 氏
「50%ルール」導入など米国による対中規制が変化する中で、中国関連事業体の情報を正確に把握する重要性は急速に高まっています。本セッションでは、複雑さを増す中国市場を読み解く上で欠かせない、OSINT(オープンソース・インテリジェンス)プラットフォーム「WireScreen」の特徴と活用価値、そして見えにくい中国市場のリスクをどのように抽出し可視化できるのかについて、WireScreen社の研修チームリーダーPete James氏が、実際にツールのデモ画面を投影し、日米の具体的な事例を用いて解説しました。
以下はその要約です。
WireScreenは、「China Out」戦略のもと、中国拠点の企業に関する比類ない洞察を提供するとともに、世界各国・地域の企業とのつながりを可視化するコーポレート・インテリジェンス・プラットフォームです。
2025年11月現在、WireScreenは中国企業に関するインテリジェンスの主要なプロバイダーとして位置付けられており、1,400万社を超える企業データ、経営幹部や投資家情報といった2,500万件以上の人物データを網羅し、多数の政府機関やシンクタンク、多国籍企業に情報を提供しています。
「中国の情報収集は以前から困難でしたが、ネット規制の強化やデータ規模の大きさ、データの一貫性欠如、政府機関と民間企業との境界のあいまいさなどにより、近年、さらにハードルが高まっています。WireScreenはこうした課題に対応するため、継続的なデータ更新を行い、重複データを統合することで、より正確で一貫性のある企業プロフィールを構築しています」(James氏)
WireScreenの強みは、役員情報や所在地、連絡先などの共通点から企業間のネットワークを可視化し、企業文書や開示情報に基づいて所有関係を明確にする点にあります。さらに、政府発表や権威ある研究機関の調査報告なども組み合わせることで、強制労働などのリスク情報にも取り込んでいる、とJames氏は言います。
「膨大なデータの中から見えにくいリスクや関係性を速やかに特定できるため、根拠に基づく意思決定を行うことが可能です」(James氏)
各企業のプロフィールには、リスクや重要事項を示すWireScreen独自のフラグが設定されています。これにより、利用者は膨大なデータの中から注意すべき情報を素早く見つけ出し、「50%ルール」などの規制要件を確実に把握することができます。
規制対象リスト掲載の事業体には必ずフラグが付与されています。また、米国の規制対象に該当しない場合でも、強制労働に関与している可能性のある事業体にはフラグが設定されます。
さらに、WireScreenは国家の関与を示す指標も明示しています。具体的には、所有構造や資金源、そして政治的に影響力のある人物や党員の関与といった情報をもとに、中国共産党とのつながりが可視化されています。また、軍事・防衛、サイバー、量子技術、AIなどの地政学的・経済的に重要な分野に関する情報も網羅しており、これらの分野に関連する企業にも間接的にリスク情報を適用している、とJames氏は解説します。
「WireScreenのプラットフォームはネットワーク全体にわたるリスクを可視化し、企業が見落としやすい危険シグナルを早期に検知できる仕組みになっているのです。特にフラグ機能は「50%ルール」にも対応しており、企業が複雑な中国関連リスクを的確に把握し、戦略的な意思決定を行う上で欠かせない、重要な役割を果たしています」(James氏)
WireScreen のデータとプラットフォームを活用することで、ユーザーは必要な情報へ速やかにアクセスし、対象企業やその周辺に潜むリスク要因を迅速に特定することが可能となります。その結果、企業活動に直結する判断スピードと意思決定の精度が向上する、とJames氏は解説します。
最後に、James氏はWireScreenの価値を次のように総括しました。
「こうした実用性は、WireScreenが独自に構築した広範で信頼性の高いデータソースに支えられています。中国ビジネスにおける不透明性が高まる中でも、確かな根拠に基づいた意思決定を可能にするプラットフォームとして、その存在価値はますます大きくなっています」
米国の投資審査機関も活用している経済安全保障リスク評価ツールであるOSINT(Open Source Intelligence)プラットフォームの無料トライアルについて、現在無料相談を受け付け中です。
2025年9月末に米国の商務省が導入し、来年発動予定である、輸出規制対象者の範囲を大幅に拡大する「50%ルール」において、日本企業のリスク低減のために活用できるサービスにもなっております。
発動開始前より対策しておくことで、発動時にスムーズに対応することができるため、現段階からの取り組みが重要となります。
ご興味がある方はぜひお気軽にご相談ください。
BIS「50%ルール」では、関連事業体との資本関係や実質支配構造まで踏み込んだ高度なデューデリジェンスが求められ、日本企業も安全保障貿易管理業務の人員の増強や新しいツール導入の検討が必要です。中国関連リスクや企業の関係性を迅速に可視化することは、意思決定のスピードや精度を高め、これからの企業競争力を左右する鍵となるでしょう。
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