不確実性の時代に求められる 次世代のプロセス変革の現在地と未来ーー『ビジネスプロセス変革 競争優位を保つGBS成功への4段階モデル』出版記念

不確実性の時代に求められる 次世代のプロセス変革の現在地と未来ーー『ビジネスプロセス変革 競争優位を保つGBS成功への4段階モデル』出版記念


効率化やコスト削減を目的とした従来型のSSCやBPOから、ビジネスそのものに変革を起こし競争優位を導き出すGBSへ。欧米で進行する次世代型「ビジネスプロセス変革」を日本企業にもたらすための準備が進んでいます。


要点

  • GBSはビジネスプロセスの統合・標準化を通じて、企業の価値創造と競争力強化を促すための手法であり、3つのドライバーと4つのステージからなるモデル設計が可能。
  • コスト削減から価値創造へと転換を果たしたGBS/SSCは、苦境に置かれた日本企業を成長させる強力な「変革エンジン」となり得る。
  • ビジネスプロセス変革の原動力となるのは人材と体制であり、DX/AI戦略を経営戦略の直下に位置づけながら、BPRと集約化を同時に進めたい。
  • GBS導入に当たっては目的と効果の見極めが肝要。導入後はトップダウン式の全社体制を推進力として、継続的に改善サイクルを回す体制を。

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Section 1

GBSで実現するダイナミックなビジネスプロセス変革

「今回のセミナーは、3月12日に東洋経済新報社より発行された書籍『ビジネスプロセス変革 競争優位を保つGBS成功への4段階モデル』の出版を記念して行うものです」。開会のあいさつに立ったEYストラテジー・アンド・コンサルティングの高見陽一郎(コンサルティング事業部 ビジネスコンサルティングリーダー)がそう述べて、セミナーの幕開けとなりました。

GBS(Global Business Services)は、経理財務、人事、調達購買、ITといったさまざまな間接部門の業務プロセスを統合し、グローバル規模で一元化することで、効率化やコスト削減、顧客価値の向上などを実現するための手法です。以前から広く行われてきたSSC(Shared Services Center)やBPO(Business Process Outsourcing)の、いわば進化形。ただ単に効率化やコスト削減を目的とするだけでなく、一部のフロントオフィス業務を含む幅広い領域を対象に標準化・デジタル化を推し進め、絶えず付加価値サービスを生み出す戦略的組織へと企業変革を促しながら、グローバルな競争力を強化するものです。

特に日本では労働人口の減少により業務継続へのリスクが高まる中、GBSに着目する企業が増えていると高見陽一郎は言います。続いて登壇したGBSオファリングチームの岩﨑哲也が、同書のエッセンスを以下のように紹介。著者の1人であるトニー・サルダナ(Tony Saldanha)氏による基調講演へとつなぎました。

「ビジネスプロセスが陳腐化していくリスクに対し、企業はどのようにしてダイナミックな変革を達成できるのか。また先進的な企業は実際、どのようにそれを実現したか。本書では企業が成熟度を高めていく4つのステージと3つのドライバーを示しながら、多くの事例を交えて解説しています。共著者のサルダナ氏とフィリッポ・パッセリーニ(Filippo Passerini)氏はともにP&GにおけるGBSの創設者であり、30年にわたる陣頭指揮から得られた知見を踏まえ、多くの企業にGBS設立支援、リーダー育成支援を提供する組織イニクシア(INIXIA)を立ち上げました。その豊富な経験がこの1冊に詰まっています」
 

変革を促す3つのドライバーと4つのステージ

ダイナミックなビジネスプロセス変革がなぜ今、重要なのか。サルダナ氏によるビデオ講演はこの命題から始まりました。サルダナ氏によれば、企業にとってビジネスプロセス変革は存続を左右するほど重要な課題でありながら、多くの場合は一過性のプロジェクトに終始する傾向にあり、約7割が失敗に帰するといいます。では、継続的な変革を可能にするにはどうするか。原動力としてサルダナ氏が挙げるのが、以下の3つのドライバーです。

1.Open Market Rule

社内ルールに縛られる業務プロセスは往々にして、時間の経過とともにサイロ化して非効率となる。外部の顧客に対するのと同様に、ビジネスのマインド要素を社内に取り込むべき。

2.Unified Accountability

業務プロセスは多くの場合、経理財務や人事などの機能ごとに構成されるが、これらも時間とともにサイロ化する。複数の機能を横断し、End to End(以下、E2E)で成果を追求する体制と責任者が必要。

3.Dynamic Operating Engine

絶え間なく変化するビジネスプロセスの目標を一貫性のある日々の行動に転換し、質の高い実践へと結びつける必要がある。継続的な変革を推進する一貫したオペレーティングモデルの構築を。

サルダナ氏はまた、これらを原動力として変革を進めるには到達目標の設定が不可欠だとして、組織の成熟度に応じた4つのステージごとの見極めを提唱しています。

  • ステージ1:初期段階
    各機能のパフォーマンスを測定し、標準化・自動化させることで継続的な改善を実現

  • ステージ2:計画型へ
    機能間の連携を計画的に推進することで、さらなる生産性向上を実現

  • ステージ3:統合型へ
    E2Eのビジネスプロセスを構築することで、部門をまたいだ作業を最適化

  • ステージ4:即応型へ
    プロセスが継続的に進化する基盤を作り、プロセスがビジネスの競争優位性となる

これらの基本モデルが有効であることは、サルダナ氏とパッセリーニ氏が籍を置いたP&Gでも実証済みです。両氏が創設したGBSは当初、1万5,000人以上の職員を擁し、年間25億ドルの支出を計上していましたが、10年間の取り組みによりその4割に当たる10億ドルのコスト削減に成功。それだけでなく、実務的な業務プロセスを対象としていながら、30億ドルにも上る新たなビジネス価値の創出を導き出しました。
 

「コスト削減」から「価値創造」への転換を

「私の経験上、GBSは最も優れた変革エンジンです」とサルダナ氏が言うように、P&GではGBSの成熟度が進化するにつれ、コスト削減から収益成長、キャッシュフロー改善、ビジネス機動性の向上へと、得られる価値も上がっていったと言います。サルダナ氏はその実例を紹介したうえで、日本企業に向けて次のようなメッセージを発して講演を終えました。

「日本企業は今、非常に厳しい状況下にあると思いますが、強力なGBSを組織すれば、この難局でも競争優位をもたらす好機へと変えることができます。それには、コスト削減から価値創造へとGBSの目的を捉え直し、プロセスの自動化から再構築へと役割を進化させることが重要です。同時に、担い手となる社員の能力とマインドを高め、トランザクション型からコンサルティング型の組織へと転換を図らなくてはなりません」


トニーサルダナ氏による基調講演の動画を配信中です。ぜひご覧ください。

不確実性の時代に求められる次世代のプロセス変革の現在地と未来 ~『ビジネスプロセス変革 ー競争優位を保つGBS成功への4段階モデル』出版記念 ~ | EY Japan

(配信期間2026年6月2日まで)

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Section 2

日本におけるGBS展開の可能性とそのポイント

続いてセミナーはパネルディスカッションへ。EYストラテジー・アンド・コンサルティングの各領域から書籍『ビジネスプロセス変革』の監修にも携わった5人のプロフェッショナルが登壇。「日本のGBS/SSCの動向」および、その成功への鍵となるビジネスプロセス変革において「戦略、デジタル・AI、人材・組織に何が求められるのか」をテーマに議論を交わしました。

ディスカッション

まず「日本のGBS/SSCの動向」については、GBSオファリングチームリーダーを務める永井康幸から紹介。「海外で浸透しつつあるGBSと、日本におけるSSC、BPOの実態との間には距離感がある」としたうえで、1990年代後半以降、日本で導入が進められたSSCはその後の広がりが鈍化、コスト削減効果が不十分など、必ずしも成功を収めていないのが実情だと述べました。2000年代半ばからはオフショアBPOも展開しましたが、最近では地政学リスクや海外人件費の高騰などにより、国内回帰へと転換。その国内でも労働力・人件費の問題から、「人手に頼るSSC」には限界が見え始めているようです。

「もはや過去のやり方で業務プロセスを維持するのは困難です。サルダナ氏も指摘するような、複数の業務を横断する全社的なE2Eの仕組みを整える必要がありますが、日本企業ではまだ、そうした事例はほとんど見られません。最新テクノロジーも駆使しながら、自動化だけではないGBSの価値をどうつくるのか、マインドセットやチェンジマネジメントの問題も含めて検討すべきでしょう」

永井 康幸

変革に生命を吹き込む「人」を育成する

これを受け、人材戦略などを専門とする竹井もゆこはこう言います。「人こそが、変革に生命を吹き込むのだと思います。特に重要なのは変革の初期段階。うまくいかない機運が芽ばえ始めたそのときに、変革を担うリーダーがいかにして早く、社内に漂うネガティブな感情を察知して対応するかが成否の1つの分かれ目です」

竹井もゆこ

こうしたチェンジマネジメントには「リーダーシップ」「巻き込み」「スキル」「自信」の4つの柱があり、これらに総合的にアプローチするのが欧米の主流。ただし、そのやり方を日本にそのまま持ち込むのは問題だと竹井は言います。例えば、欧米では夢を語り、未来を描くビジョン型のリーダーシップが効果を発揮しますが、日本では現場との対話を重ね、中間管理職も巻き込む調和型のリーダーが求められます。加えて、他人を動かす前に自分自身がチェンジの起点となることが重要です。

また、GBSの構想策定などに知見を持つ宋東文によれば、チェンジマネジメントにおいては「情報の透明性」もポイントになるとのこと。変革の方針やコンセプトをいち早く、わかりやすく現場に伝え、あらゆる社員の理解を得ることが大切です。
 

変革の要となるDXを上流概念に置く

一方、経営戦略の視点から見たDXの重要性を指摘したのは、デジタル戦略の構想策定に長く携わる野村友成です。DXはややもすれば「現場改善」のための手段と受け取られるきらいもあり、本来的な経営戦略の一環としての構想が置き去りにされかねません。現場と経営陣の視点に乖離(かいり)がある場合、短期の課題解決だけに終始せず、企業変革の実現という大きな目標に目線を合わせるよう、両者のギャップを解消することが重要です。

「企業価値と資本効率が厳しく問われる時代です。デジタルやAIへの投資にも資本効率の視点が求められることを前提に、単に自動化による業務改善だけを成果とせず、その先にある付加価値創出に向けたストーリーと、その価値の定量化が求められています」

野村 友成

では、生成AIの活用を含むAI戦略はどう位置づけるか。RPA/AIの大規模導入案件などを手掛ける塩野拓によれば、「DX戦略」「AI戦略」「データ戦略」の3つを体系化する全社的なデジタル戦略が前提になるといいます。すなわち、最上位概念として「経営・事業戦略」を位置づけたうえ、その直下に「DX戦略」を置き、これを上位概念として「AI戦略」「データ戦略」を下に並列する構成です。

「重要なのは、3つの戦略の間で矛盾が生じないよう相互に連携し、常に整合性を保ち続けていることです。生成AIについてもしっかり戦略を立て、単に他社に倣え的な施策でなく、自社の経営戦略と事業方針に則したものとしなくてはなりません」

塩野 拓

BPRと集約化を同時並行で完遂するには

次に話題は、GBS導入に際してよく見られる命題「BPR(Business Process Re-engineering)が先か、業務の集約化が先か」へ。宋によれば、規模を重視する企業は集約化を優先し、スピード重視の企業はBPRを先に進めるケースが多いといいます。

宋 東文

「ただ、理想的には同時並行だと私は考えます。プロセスを分析したり可視化したりする作業は両者に共通する部分があり、同時に進めたほうが効率的で、シナジー効果も得られるからです。とはいえ、同時並行は難度が高く、計画・実行を確実に遂行できる体制なり人材なりが鍵を握るでしょう」

そのような人材をどう育成するか。竹井は「気づき」「やる気」「できる」の3つのポイントを挙げ、「これらを継ぎ目なくつなげることで、流れるように成長を促すパイプラインができる」としました。なぜ変革が必要かを自分事として捉える気づきがあり、それを行動に移すやる気を持ち、できるようになるための知識やスキルを獲得するという流れ。そうした環境を用意することも、変革リーダーに求められる役割です。

一方、塩野はAIに特化した人材の育成・獲得もさることながら、対象業務に精通する「ドメインエキスパート」と呼ばれる人材の存在が不可欠だと指摘。「AIによる推論に蓋然(がいぜん)性があるのか否か、判断する人材が必ず求められることになるからです」

「ビジネスそのものに変革をもたらす存在として、日本でもGBSの重要性が高まっていくでしょう。それを推進する人材をいかに社内に育てるか、これも欠かせない視点です」。最後に永井がそう述べて、ディスカッションを終えました。

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Section 3

日本のGBSーー設立と活用、機能拡大の視点から

3つ目のプログラムは「日本のGBS」と題するセッションです。「GBS・SSCの立ち上げ/移管/運用」「BPO活用」「対象機能の拡大」の3つのテーマに分かれ、GBS導入支援を担当するEYメンバー(津川裕也、陳 麗子、岩﨑哲也)による講演を行いました。以下、要旨を紹介します。

GBS・SSCの立ち上げ/移管/運用ーー競争優位へ向けて

GBS導入までの道筋は、①戦略立案・計画策定、②設計(詳細調査)、③立ち上げ(移行)、④運用の4つのフェーズにより進んでいくが、導入検討に入る前に以下3つの問いに答え、検討すべきか否かを判断する必要があります。すなわち、「何を目的に集約化するか」「集約化効果は見込めるのか」「人材戦略をどうするか」です。

目的についてはガバナンス強化に加え、業務・システム・人材それぞれの最適化からなるオペレーションコストの低減が挙げられます。集約化効果については、導入目的に沿って業務移管後のガバナンス体制を仮に定め、そこから費用対効果を試算することで定量的な効果を確認する。また、人材戦略では「配置転換」「リテンション」「転籍」「削減」からなる「4R戦略」に基づき検討します。

移行・運用フェーズに関する重要論点として、①移管戦略(一括または段階移行など)、②サービスガバナンス(ガバナンス不全リスクなど)、③テクノロジー&データ(先端技術をどう使うかなど)に対する検討も求められます。

今後のGBSに求められるポイントとしては、「標準化」「スリム化」「高度化」の3点においていずれもテクノロジーの活用による圧倒的な効率化・高度化を図ることが重要です。既存のオペレーションモデルを続けるだけでは、企業競争力の低下を招くことになります。

津川 裕也

BPO活用ーー落とし穴にはまらないための予防策を

BPOの活用には落とし穴もあるので留意が必要です。SSCへの集約による内製化、BPO活用による外部化など選択肢が複数ある中で、業務の質や規模、所在地、目的などに照らして自社に最適な方法を選ぶべきです。例えば、間接業務の一部をBPOに外注する場合、ベンダーが持つ自動化ノウハウなどの恩恵が得られる反面、標準化された業務プロセスのひな型に縛られる可能性もあります。

BPO活用時には、BPO業界に対して十分な知見を持たないことや、移管業務に関する経験不足が原因となって起きる問題が多いです。特に契約時には、提示された条項をうのみにする、委託費の見極めが足りずに不利な条件で契約するなどして、その後何年にもわたって不利益を被るケースがあります。

BPO運用過程での継続的な改善も必要です。ベンダー任せにせず、十分にコントロールが利くようベンダーマネジメントを自社の取り組みとして強化すべきです。また、現状分析を適時行い、問題が検知された場合は原因分析を実施するとともに、ベンダーと協議して「改善サイクル」を立ち上げます。改善策の提示に始まり、その検証と実施、モニタリング、結果検証へとPDCAを回すようなサイクルの構築が有効です。

陳 麗子

対象機能の拡大ーートップダウンで実効性ある取り組みに

40社以上の日系企業を対象にEYが実施した調査の結果、「経理・財務」「人事」「IT」については3割を超える企業で国内SSCへの集約化が進んでいるのに対し、その他の税務や調達・購買、セールス&マーケティングといった領域では発展途上にあることが判明しました。これを踏まえ、GBSまたはSSCの機能拡大に向けたテーマと課題を設定、考察を重ねたところ、「ガバナンス・管理」「業務プロセス」「ファシリティ」「人材」「推進アプローチ」の各面でメリットが得られることがわかりました。

例えば、ガバナンス・管理においては、管理基盤の共通化によるコスト効率化やガバナンス強化が可能です。具体的には、経理財務・税務、人事、総務・ファシリティ、ITなどの各部門を横断する形で共通機能を統合し、管理方針・ルールや管理レベルの統一、情報一元化などを実施します。共通機能としては、KPI管理などのサービスマネジメント、業務効率化などのプロセスマネジメント、要員採用・育成などのリソースマネジメント、データ連携などのシステムマネジメントの構築が可能です。

ただし、GBS/SSCの機能拡大による効果は大きいものの、現実には総論賛成・各論反対のジレンマで頓挫する事例も散見されます。成功へと導くには、機能領域を超えたトップダウンによる全社体制の取り組み推進が鍵となります。

その後、セミナーは参加者とEYメンバーの交流を深める「ネットワーキング」の場へ。「日本のGBSセッション」で設定された3つのテーマに分かれ、質疑や深掘りの時間を共有しました。話題はコスト管理や人材・人事、BPOの選定基準など多岐にわたり、GBSに対する関心の高さが伺えました。


トニーサルダナ氏による基調講演の動画を配信中です。ぜひご覧ください。

不確実性の時代に求められる次世代のプロセス変革の現在地と未来 ~『ビジネスプロセス変革 ー競争優位を保つGBS成功への4段階モデル』出版記念 ~ | EY Japan

(配信期間2026年6月2日まで)


サマリー 

日本ではまだほとんど導入実績の見られないGBS。大胆なビジネスプロセス変革の原動力として世界中のグローバル企業が注目するこの仕組みを、どのようにして日本に根づかせ成果を上げていくか。その鍵を握る体制のつくり方、人材の育て方、マインドセットの持ち方を、欧米の先進事例を踏まえて研究すべき時機が訪れています。


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ビジネスプロセス変革

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