EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
EY Japanの視点
企業トランスフォーメーションの成否は「人」を中心に据えられるかにかかっており、その中核を担う存在がチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)であると言えます。EYとオックスフォード大学の共同研究によれば、協働、ケア、共感や力の喚起、組織構築、リーダーシップといった人間中心の行動を変革の軸に据えることで成功確率は2.6倍に高まることが示唆されており、これらはまさにCMOが日常業務で発揮している強みと重なる側面があると考えられます。一方、日本企業ではCMO設置率の低さや役割の限定化、マーケティングを販促機能と捉える認識、組織の縦割り、社内認知の低さといった課題が存在していますが、このDXやAI時代においては、顧客視点で組織を横断し、人と文化の変革を導き、経営をけん引するチェンジ・エージェントとして、CMOに対する期待がますます高まっていくでしょう。
企業の成長にとってトランスフォーメーションが不可欠であるなら、そのトランスフォーメーションを成功に導くことが何よりも重要になります。
しかし、EYのチームとオックスフォード大学サイード・ビジネススクールによる共同研究の最新結果によると、シニアリーダーの67%が、過去5年間で少なくとも一度は期待を下回るトランスフォーメーションを経験しています。
こうした期待を下回るトランスフォーメーションは、ビジネスが好調な局面であっても懸念材料となります。さらにエネルギー価格の高騰やインフレ、金利上昇、継続する地政学的緊張、サプライチェーンの混乱といった要因により景気後退リスクが高まる中では、もはや見過ごせない問題となります。
では、トランスフォーメーションの成功確率をより安定的に高めていくためには、どのように取り組むべきなのでしょうか。
EYとオックスフォード大学の調査によれば、トランスフォーメーションの成功のためには人間の本質的な感情や行動にしっかりと向き合うことが必要であり、そのためには協働し、ケアし、共感や力を引き出し、組織を築き、導かなければなりません。さらに重要な点として、こうした人を起点とした行動をトランスフォーメーションの中核に据えることで、成功確率を2.6倍に高められることが示されています。CEOや取締役会は、成功要因との高い親和性を踏まえ、リスク低減の観点からも、CMOが組織のトランスフォーメーションにおいてより広い役割を果たすことを検討することが有効です。
トランスフォーメーションの成功に必要となる要素はCMOにとって日ごろから磨いているスキルであり、部門横断のトランスフォーメーションにもそのまま生かすことができます。組織全体での価値創出を拡大し、ひいてはCMOの影響力向上にもつながる可能性があります。
しかし、こうしたスキル、いわばCMOの中核的な強みは組織の中で十分に活用されておらず、大規模なトランスフォーメーションへの貢献という観点でも、その力が十分に発揮されていないのが実情です。トランスフォーメーションの成功を左右する要因とそれがCMOのリーダーシップ資質とどのように重なるかを理解することで、その力を最大限に引き出し、価値創出を加速につなげることが期待されます。
EYとオックスフォード大学の調査に基づき、CMOのユニークな経験と才能を最大限に生かし、トランスフォーメーションの成功をさらに高めるための6つのアクションを紹介します。
1. 協働:CMOの“Chief Dot Connector”としての力を引き出す
トランスフォーメーションの成功は、組織全体の利益をどれだけ優先できるかにかかっています。成果の高いトランスフォーメーションでは、回答者の過半数(52%)がリーダーは自部門の責任範囲にとどまらず、組織全体にとって最善となる意思決定を行っていると回答しています。一方、成果の低いトランスフォーメーションでは、その割合は31%にとどまります。
CMOはこれまで、いわば”Chief Dot Connector”としての役割を担ってきました。そして部門や地域をまたいだ幅広いつながりを生かし、効果的な変革に貢献することが可能です。CMOは一貫してブランドプロミスの実現に責任を担ってきましたが、その実現においては、サプライチェーンからカスタマーケアに至るまで、多くの部門が関与するカスタマージャーニー全体にわたってそれを実現することが課題となってきました。こうした状況の中で、マーケターはリーダーとしての役割を強め、組織全体にわたる顧客体験を横断的に統合する存在へと進化してきました。CMOの役割の本質は、強いリーダーシップと部門横断的な協働を必要とするものであり、これこそが、より広い範囲のトランスフォーメーションを推進するリーダーとしての資質につながっています。
2. ケア:透明性の高いコミュニケーターとしてCMOを活用する
CMOは明確さと誠実さが優れたマーケターにとっての不可欠な要素であることを深く理解しています。一方で、大規模なトランスフォーメーションにおいては、人々の感情は重要なメッセージやコミュニケーションに対する不信感を生みやすくなります。
調査によると、期待を下回るトランスフォーメーションを経験した従業員の半数が、トランスフォーメーションを単なる「人員削減の言い換え」と捉える傾向が高いことが示されています。
トランスフォーメーションにおいては、透明性こそが信頼を生み出します。こうした中で、透明性の高いコミュニケーションを強みとするCMOは、組織全体にしっかり伝わるメッセージの策定に貢献します。
ブランドマーケティングで活用されているペルソナごとに最適化したクリエイティブ戦略は、社内コミュニケーションにも応用できます。これにより、受け手に応じたメッセージの策定を通じて、従業員の納得感と信頼を高め、トランスフォーメーションへの理解と共感を促すことができます。
3. 共感を引き出す:人を起点としたストーリーテラーとしてCMOの力を生かす
リーダーには、誰もが共感できるビジョンを示し、チームがトランスフォーメーションに前向きに関わるよう促すことが求められます。調査によれば、従業員の71%がビジョンを実現するためには、「何をすべきか」だけでなく、「なぜ変革が必要なのか」を明確に伝えることが重要であると、認識しています。
トランスフォーメーションにおいては、施策を受動的に理解させるだけでなく、納得感を醸成することが重要です。
CMOはマーケターとして、人を中心に据えたストーリーテラーであり、人間の感情やニーズに基づいた魅力的で記憶に残る体験を創出しています。企業トランスフォーメーションの文脈においては、CMOはその人を動かす力を生かし、トランスフォーメーションへのネガティブな感情を理解や納得へと転換し、人々が安心して変化に向き合えるよう支援します。
CMOは文化的なトレンドや時代の潮流を的確に捉え、メッセージをより心に響くものにすることができます。さらに、伝え方のプロフェッショナルとしてほかの経営幹部と協働し、組織内で何が響くのかを見極める指針を示すことで、ポジティブな影響につなげることができます。
4. エンパワー:テストと学習に強みを持つCMOを生かし、イノベーションを推進する
成果の高いトランスフォーメーションでは、回答者の46%がプロセスを通じて革新的な試みや新たなアイデアが促進されていると答えています。一方で、成果の低いトランスフォーメーションではこの割合は29%にとどまります。すなわち、イノベーションが重要な要素であることが示されています。
CMOにとって変化は日常です。そのため、常にテストと学習を繰り返しながら、ブランド価値と成果を最大化する方法を追求しています。マーケティングのROIは、ターゲットや表現、メディア媒体といった主要要素を適切に組み合わせることに左右されるため、継続的にイノベーションに取り組む姿勢が重要になります。
より広い範囲のトランスフォーメーションを成功に導くには、マーケティングと同様にイノベーションを取り入れ、試行錯誤を前提とした姿勢を持つことが求められます。
常に新たなアイデアと成果の検証を追求するCMOの「テストと学習」の思考は、トランスフォーメーションの中核を担う上で有効に機能します。
5. 構築:デジタルトランスフォーメーションを担うリーダーとしてのCMOの専門性を生かし、全社的な価値創出を促進する
テクノロジーはトランスフォーメーションのビジョンを実現し、その効果創出を加速する上で極めて重要な要素です。実際に調査では、成果の高いトランスフォーメーションにおいて、回答者の約半数(48%)が自社はビジョンの実現に向けて適切なテクノロジーに投資していると回答しています。一方で、成果の低いトランスフォーメーションではこの割合は33%にとどまります。
デジタルトランスフォーメーションを担うリーダーであるCMOは、これまで一貫して、顧客とシームレスにつながり、先回りして対応できる高度な顧客体験の価値を提唱してきました。そのため、テクノロジーの価値を深く理解しています。
データとデジタルイノベーションの進展により、カスタマージャーニー全体がシームレスにつながる中で、CMOはCIOやほかのリーダーと協働し、多様なマーケティング・広告テクノロジーを活用したデジタルトランスフォーメーションを推進してきました。
より広い範囲のトランスフォーメーションを実現するには、データ、自動化、テクノロジーによって加速される「つながり」が重要です。CMOはこうした知見を企業全体のトランスフォーメーションに応用する上で重要な経験を備えています。マーケティングにおけるテクノロジー主導のアプローチから得られた教訓は、サプライチェーン、調達、研究開発(R&D)など、ほかの領域にも応用可能です。これらの領域では、長期的なテクノロジーロードマップを実行しながら、短期的な成果を確実に捉えることが価値創出における重要なポイントとなります。
6. 導く:組織文化の推進役としてのCMOの力を生かし、変革を成功へと導く
調査によれば成果の高いトランスフォーメーションにおいて、回答者の44%が自社の企業文化が新しい働き方を促進していると回答しています。一方、成果の低いトランスフォーメーションでは、この割合はわずか28%にとどまります。人や組織に関わる取り組みはトランスフォーメーションの中心であり、変革の定着は、文化の変化をどのようにマネジメントできるかに大きく左右されます。
CMOは強力な文化の推進役です。外部の文化やトレンドに精通しているだけでなく、組織内部のダイナミクスにも深く通じています。
マーケティングファネルにおける認知・検討・意向・行動の創出を担い、メッセージの届き方や頻度を工夫することで、消費者の行動に影響を与えています。さらに、行動変容に関する組織内のエキスパートでもあります。CMOは変化に柔軟に対応するリーダーシップを体現する傾向があり、自らも変化を受け入れながら言行一致で行動する中で、自身の弱さも率直に示します。こうした姿勢もまた、トランスフォーメーションの成功を導く上で重要なマインドセットです。
トランスフォーメーションは決して簡単ではありません。しかし、EYとオックスフォード大学の調査はその成功の鍵が「人」にあることを示しています。CMOは人々の力を引き出し、その人らしさに寄り添って関係性を築く重要性を理解しています。その上で、データとテクノロジーの力を生かし、より強固なつながりの創出を支えています。CMOは卓越したコミュニケーション力とイノベーション力を兼ね備えています。創造性や試行錯誤を適切な厳しさや規律と組み合わせることで、大きな成果につなげています。
CMOをトランスフォーメーションの中心に据えることで、多様な側面で「人」を変革の中心に据えることが可能になります。その結果、トランスフォーメーションの目標達成の確度を高めることにつながります。
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経済の不確実性が高まる中、リーダーたちはこれまで以上に、より効率的な成長を実現するためにトランスフォーメーションが重要な推進力であると認識しています。CMOはトランスフォーメーションに顧客中心の視点をもたらし、組織の競争力を高めるとともに、CxO層における重要性の向上にもつながっています。
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