EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 小売セクター 公認会計士 公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員 西尾 拓也
小売セクターナレッジチーム所属。小売セクター会社への監査業務や小売セクターに関する会計・監査・税務に関するナレッジを収集し法人内に発信している。ほかIFRS適用会社の監査業務やIPO支援業務に従事したり、書籍執筆にも携わっている。
要点
企業会計基準委員会(ASBJ)から2024年9月13日に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下、本会計基準)、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」等が公表されました。適用時期は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となっており、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することが認められています。
本会計基準の適用により現行のリース会計基準において借手のオペレーティング・リースやリースの検討対象であるか否かがあいまいだった実質リース取引(例:転貸社宅制度や倉庫寄託契約)についてもオンバランスされることになります。そのため小売セクター企業において大きな影響がある可能性があり、早期に検討を開始する必要があると考えられます。本稿では、本会計基準適用の検討を始めるに当たり最も重要なプロセスとなる影響度調査を中心に解説します。
なお、文中意見に係る部分は筆者の私見である旨、あらかじめ申し添えます。
会計基準適用のための影響度調査とは、現行会計基準と新会計基準との差異を特定し、新会計基準適用に伴う会計方針の変更箇所から自社の現状の会計方針からの差異を識別することを言います。影響度調査を行う意義としては、新会計基準に基づいた会計処理を行うために必要な情報を特定することにより適切な財務報告を行うことにとどまらず、利益計画の策定に当たり会計基準の変更影響をあらかじめ織り込むことによって予測の精度を高めることや対応人員の確保、業務プロセスの見直しやシステムの改修・新規投資の要否や各種業務の変更に向けたタイムラインを設定することなど、企業活動に及ぼす影響の把握に資する情報を提供することも挙げられます。
影響度調査を行う実施者としては、自社経理メンバー、外部アドバイザーを起用する選択肢が考えられ、外部アドバイザーについては、自社の会計監査人と同一のメンバーファームに属する外部アドバイザーと会計監査人とは独立した外部アドバイザーの2パターンに分類できます。
自社のリソースのみで影響度調査を行う場合には、外部への支払いコストはかかりませんが、後述する影響度調査表を自ら作成する必要があり多大な工数が生じたり、日常業務の傍らで影響度調査を行うことにより、作業スケジュールが先送りになりやすい点に留意が必要です。
自社の会計監査人と同一のメンバーファームに属する外部アドバイザーを起用することにより会計監査人との連携による効率的な調査遂行が期待されます。一方で、サービスの提供方法が監査法人における独立性規則に従って制限される可能性がある点に留意が必要です。
まず、会計基準に基づき影響度調査票を準備することとなり、リースであれば現行のリース会計基準と本会計基準との差異がある論点を調査項目としてリストアップする形で影響度調査票<図1>を取りまとめることになります。
連結財務諸表作成の観点では子会社及び関連会社への展開時期や調査方法が論点になりますが、手戻りを防ぐために親会社の調査を先行したり、スピードを重視して主要な子会社を親会社と同時に実施することいずれも考えられます。海外子会社については所在国によっては国際財務報告基準が適用されていることもありますので、まずは各社の法定決算書を基に会計方針を確認した上で調査対象にするかを検討することになります。
次に、影響度調査の実施方法には例えば以下の4つの方法が挙げられ、会社組織に適した方法を選択または併用することが考えられます。
(a) 契約書精査方式
調査範囲とした契約書及びその他関連する証憑を実際に精査しながら本会計基準を適用した際の影響を調査する方法です。調査結果の客観性及び正確性は高いものの、関連する契約書等をすべて精査することになるため、一般的に他の方式と比較して時間を要します。
(b) ワークショップ方式
各部門等の担当者を集め、本会計基準の勉強会を実施するとともに議論しながら論点を抽出・検討する方式です。勉強会と議論をセットで実施することで、効率性と正確性のバランスが取れた論点抽出が期待されます。また、部門によって想定される論点が異なるため、対象者を部門や対象資産の種類(例:動産、不動産の別)でグループ分けすることにより議論を深めやすいと考えられます。
(c) ヒアリング方式
対象となった各部門等の担当者に対して、聞き取りによって調査を進めていく方式です。ヒアリングをメインとして実施するため、正確性はヒアリング対象者の本会計基準に対する理解度に依存する点留意が必要です。書面によるコミュニケーションと比べると短時間で双方向のやり取りが可能となり効率的に調査対象項目を深掘りでき一定の工数を削減することが可能となります。
(d) 調査票方式
作成したアンケートの様式を各部門等にメールを含む社内コミュニケーションツールを通じて送信し、回答を回収することで、調査を進める方式です。子会社等で調査範囲になったものの、比較的重要性の低い対象に対して効率的に実施可能な方法であると考えられるものの、回答者の資質により正確な情報が収集できないリスクがあります。
図1 影響度調査票フォーマット例
リース会計基準に関する影響度調査を行う場合、通常は法務や総務のような各種契約を取り扱っている本部バックオフィス部署を対象とすることが想定されます。
小売業の場合、上記に加えて店舗や倉庫のような現場部署、プライベートブランドの製造委託を行ったり販促機材の調達を行っている商品部署、店舗不動産管理や用役等施設管理部署が関連する契約を取りまとめている可能性も考慮して調査対象者に含めることにより会社の事業に即した情報収集が可能となります。
また、会計に明るくない者が回答に当たることを考慮して、会計用語を平易な言い回しにした上で調査・質問票を作成したり、ヒアリングを行ったりする必要があります。
影響度調査の回答以外にも、契約情報を併せて収集することにより回答の前提となる事実関係の認識相違を防いだり、影響度調査以降のステップを効率的に実施できることが期待されます。小売業の場合、例えば不動産賃借契約が1つの店舗に対して複数の法人、個人と締結されていることがあり、また、契約内容も相手に応じてカスタマイズされていることがあるため、回答の信頼性を担保する上で影響度調査時に契約情報を併せて収集しておくことが有効です。契約情報の収集様式としては、例えば<図2>のようなフォーマットに記載してもらうことが考えられます。
契約書の保管形態が紙面のみであったり、古い契約については会社の契約書連番管理ルールの対象外だったり、更新や変更がある場合において元契約とのひも付けがされずに保管されていることがあります。このような場合には入力に工数がかかることが想定されるため、影響度調査段階では部署や資産種類ごとにサンプルベースとすることも考えられます。ただし、契約情報の集計漏れは会計処理の漏れにつながる可能性がある点、影響箇所の会計処理の検討と併せて、管理部署による契約情報の一元的集計を行えるように、契約書の電子ファイル化や契約書の採番ルールといった契約管理方法の見直し要否についても早期の検討が必要と考えられます。
図2 契約書情報の収集フォーマット例
費用勘定科目に計上されているリース料、レンタル料、外注費、雑費等の仕訳データを閲覧し、取引発生部門、取引種類、相手先や摘要欄等を分析することによって、あらかじめ調査対象とすべきリース取引を特定したり、調査過程で発生した要検討取引と類似する取引を検知することが可能となります。
勘定分析の実施に当たっては、社内の勘定取扱規則や会計システムへの入力ルール(例:使用する伝票種類、摘要欄に何を記載するか)が詳細に規定されている場合には分析対象勘定科目や取引の絞り込みが容易になります。
影響度調査により現行の会計方針から変更が見込まれる箇所を影響度調査結果として取りまとめ、経営者に報告します。変更影響額の概算値をレンジ形式で示せると望ましいと考えられます。そのほか報告事項には、会計方針策定に係るポジションペーパーの作成、業務プロセスやシステム変更、グループ会社への展開などの対応が必要な項目を関係する部門(グループ会社)と協議の上、実施者、責任者及び対応期日などを記載した対応計画を添付することにより、本会計基準適用に向けた作業のボリューム感を共有することが可能となります。
本稿では、小売業における新リース基準等の適用における影響度調査について確認しました。本会計基準等の適用までの期間が3月決算会社であれば残り1年半程度に迫っています。本会計基準等の原則適用時に適時に対応できるよう、早期に契約内容を網羅的に把握した上で会計基準等適用による影響度を把握し、適用までの対応計画を取りまとめるに当たり、本稿が小売業の経理実務に少しでも役立つことができれば幸甚です。
小売業における新リース会計基準の適用は、会計処理に大きな影響を生じさせる可能性があります。従前は慣行的にオペレーティング・リースとされていたテナント契約や不動産賃借契約が、オンバランスの対象に含まれるためです。同業界の皆さまにとって参考になるよう、新リース会計基準適用に向け第一歩目となる影響度調査とその進め方について解説します。
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