DXは進んだ。しかし、収益はマネジメントされていない
こうした文脈の中で、日本企業においてもCRMやMA、SFA(Sales Force Automation)といった営業・マーケティング領域のデジタル基盤は急速に整備されてきました。ある調査※2でも、営業・マーケティング活動においてデジタルツールを導入・活用している企業は7割を超えるとされています。
それにもかかわらず、その取り組みが収益にどう貢献しているのかを経営として説明できている企業は限られています。
つまり、多くの企業がツールやデータを整備しているにもかかわらず、その結果として収益がどう積み上がっているのかを、経営として把握・判断できていないのです。
- どの施策が収益にどれだけ貢献しているのか説明できない
- 営業とマーケティングの連携が進まず、意思決定に時間がかかる
- 新規顧客は獲得できているが、既存顧客からの価値が伸びない
といった状況が長期化している企業は少なくありません。
われわれのプロジェクト経験からも、持続的な収益成長を実現している企業ほど、営業やマーケティングの個別施策ではなく、それらを一連の活動として捉え、経営として一貫してマネジメントしていることが明らかになっています。
問われているのは、ツールを導入しているかどうかではありません。
顧客獲得から受注、そしてその後の関係構築に至るまでの一連の活動について、誰が最終的に責任を持ち、どのような仕組みで意思決定と行動をコントロールし、その結果をどう収益につなげているのか。これは、経営そのものに関わる問いです。
RevOpsとは、何をマネジメントするための機能なのか
マーケティング・営業・カスタマーサクセスといった個別機能を横断し一連の収益プロセス全体をどうマネジメントするかを示す考え方がRevOpsです。
重要なのは、RevOpsが新しい部門やツールの名称ではないという点です。RevOpsの本質は、次の順序で経営を再設計することにあります。
- 誰が収益全体の成果に最終責任を持つのか【収益責任の明確化】
- どの単位で意思決定を行うのか【実行可能な意思決定単位の設定】
- どのKPIを全社で共通言語として扱うのか【経営メカニズムとしてのKPI定着】
ここでいう「再設計」とは、組織を大きく変えることではありません。
誰が収益全体を見て判断し、その判断がどのように現場の行動に反映されるのかを、経営として整理し直すことです。
日本企業で、成果が出にくい構造的背景
事業部制であれ、機能別組織であれ、現場の専門性や自律性を高めるという点では、合理的な側面があります。一方で日本企業では、こうした機能ごとの最適化が進む中で、それらの活動を横断して「収益全体」をどう判断し、どう方向付けるのかという設計が、後回しにされやすい傾向が見られます。
その背景には、いくつかの日本企業特有の事情があります。
第一に、合議や調整を重視し、責任を分散させることで組織の安定性を保ってきた歴史があります。特定の個人に最終判断を集約するよりも、関係者の納得を積み重ねる意思決定が重視されてきた結果、収益全体に対する最終責任や判断主体が、あいまいなまま運用されやすくなります。
第二に、KPIや管理指標の整備は進む一方で、それらを「何を決めるための指標なのか」という意思決定の文脈まで落とし込む設計が弱くなりやすい点です。数字は報告されているものの、その数字をもとに「どの顧客に投資するのか」「どの施策を止めるのか」といった判断につながらないケースが少なくありません。
第三に、組織構造を変えるよりも、運用や現場調整で課題を吸収してきた結果、収益を横断的にマネジメントする設計が後回しにされやすかった点が挙げられます。
日本企業では、
- 営業は短期的な受注や売上達成を重視
- マーケティングは中長期の顧客育成や需要創出
- カスタマーサクセスは解約防止や定着率の改善
といったように、各部門がそれぞれ合理的に行動しているにもかかわらず、その一方で、これらを横断して見た際の投資配分や優先順位について、誰がどの基準で意思決定するのかが明確になりにくい状況が生まれがちです。
その結果、部門ごとの改善は進んでいるにもかかわらず、全体としての収益が思うように積み上がらないという状態が固定化してしまうのです。
これは、日本企業が劣っているからではありません。むしろ、これまでの成功を支えてきた意思決定や運営のあり方が、顧客接点が複雑化し、収益構造のマネジメントがより重要になる現在の環境では、新たな設計を必要とする局面に入っていると捉えることができます。
営業主導の歴史と、後から強化されるマーケティング機能がもたらす摩擦
こうした構造的な課題が、より顕在化しやすい場面の一つとして、営業部門が長らく顧客接点と収益責任の中心を担ってきた組織に、デジタル化や顧客行動の変化を背景として、後からマーケティング機能が拡張・新設されるケースが挙げられます。
日本企業では、人的な関係構築を軸とした営業活動が競争力の源泉となってきた歴史があり、顧客情報や商談の主導権は、営業部門が担うことが一般的でした。
マーケティングは、販促や広報、商品企画といった役割を中心に位置付けられ、必ずしも収益責任を担う経営機能として設計されてきたわけではありません。
その後、Webやデータ活用の進展、顧客行動の複雑化を受けて、営業活動を補完・高度化する目的でマーケティング機能を強化する動きが広がります。しかしこのとき、収益全体をどのような構造でマネジメントするのかという設計が十分に整理されないまま、組織や機能だけが追加されると、営業とマーケティングの間に、役割やKPI、意思決定の前提を巡る摩擦が生じやすくなります。
ここで起きているのは、どちらかの部門の問題ではありません。営業もマーケティングも、それぞれの評価軸に照らして合理的に行動しているにもかかわらず、両者の活動を横断して、どの顧客に、どのタイミングで、どれだけ投資するのかを判断する主体や基準が明確でないために、結果として分断が固定化してしまうのです。
このような状況は、組織形態そのものに起因するというよりも、日本企業がこれまで運用や調整によって課題を吸収し、構造設計の見直しを後回しにしてきた歴史と深く関係しています。
そのため、マーケティング組織の新設は本来、分断を解消するための取り組みであるにもかかわらず、収益マネジメントの設計が伴わない場合には、かえって摩擦を顕在化させる結果となり得ます。
「RevOps不在」とは、何がマネジメントされていない状態なのか
RevOps不在とは、ツールや人材が不足している状態ではありません。収益全体に対する最終責任、意思決定の単位、そしてKPIが、経営として一貫してマネジメントされていない状態を指します※3。
海外では、この「空白状態」を埋める役割としてCROやRevOps体制が整備されています。例えば、営業とマーケティングの連携が進んでいる企業では、過去1年間の平均収益成長率が+32%となっている一方で、連携が十分でない企業では平均7%減少にとどまるという調査結果もあります。
また、RevOpsの成熟度が高い企業ほど、成長の再現性が高い傾向も指摘されています。※Sales Enablement: Fulfilling the Last Frontier of Marketing-Sales Alignment 。
つまり海外では、「誰が収益を最終的に見るのか」「どの単位で判断するのか」「どのKPIで検証するのか」という収益マネジメントが、経営の前提として組み込まれています。
一方、日本ではこの役割が不在、あるいは曖昧なまま運用されているケースが多く見られます。市場分析によれば、明確なRevOps組織を保有している日本企業は推定5~10%程度にとどまり、米国の約79%とは大きな隔たりがあります※4。
その結果、CRMやMAなどのツールは導入されていても、判断は部門調整に委ねられ、行動の優先順位がそろわない状態が続きます。
つまりRevOps不在とは、「海外では経営メカニズムとして確立されている収益マネジメントが、日本では仕組み化されていない」状態だと言えます。その結果、施策やデータは増えても、判断と行動が結び付かず、収益が構造的に積み上がらない状況が固定化してしまうのです※5。
RevOpsは、日本企業にとっての「調整装置」
RevOpsの役割は、単にKPIをそろえることではありません。
- 事業間で異なる優先順位を調整する
- 短期売上と中長期LTVを同じ指標で議論する
- 部門間の摩擦を、データと合意プロセスで吸収する
こうした組織間摩擦を継続的に調整する経営機能として設計される必要があります。そのためRevOpsは現場主導だけでは成立しにくく、経営の関与とガバナンスが不可欠です。
日本企業でRevOpsを成立させるための要諦
RevOpsは、海外SaaS企業の成功モデルをそのまま移植すれば機能するものではありません。
事業部制、縦割り組織、短期業績評価といった日本企業特有の前提条件を踏まえたうえで、経営として設計し直す必要があります。
EYは、RevOpsを単なる業務改革やツール導入のテーマとしてではなく、「収益プロセス全体を、経営としてどうマネジメントするか」というアジェンダとして扱ってきました。
その際に重視しているのは、個別施策や部分最適ではなく、収益に関わる意思決定と行動が、一つの循環として機能する状態を設計することです。
例えば、EYではマネジメントシステムとしてのRevOpsを設計する際、収益に関するデータ取得から可視化・判断、意思決定、施策実行、評価・改善までを、分断された業務プロセスではなく、経営のマネジメントサイクルとして一貫して捉えます。
- どの顧客・どの施策が収益に貢献しているのかを把握する〈観測〉
- その情報をもとに、経営として何を優先すべきかを判断する〈判断〉
- 判断を、会議体や役割分担として明確にする〈意思決定〉
- 決めた方針を、現場の活動に確実に落とし込む〈実行管理〉
- 計画に基づき各種収益活動を実行する〈収益活動〉
- 各種活動・一連のプロセスが有機的につながり、流れ続ける仕掛けを整える〈活性化施策〉
- 各種活動・一連のプロセスを効率的に行える環境を整える〈活動の効率化〉
こうした一連の流れを支えるために、戦略・組織・プロセス・データ・ガバナンスを分断せずに設計すること、CRO不在や事業部制といった日本企業の現実を前提に、誰が何を担うのかを明確にすること、そして構想にとどまらず、実装と定着まで伴走することを重視しています。
RevOpsとは、「導入するかどうか」を検討するための概念ではありません。自社の収益マネジメントを、どの構造で回していくのかを定義することです。その問いに向き合うことこそが、これからの日本企業に求められています。