1. CXデザインはなぜ、失敗するのか?
1-1. CXの曖昧さ
もともとCXは、「より良い顧客体験を提供する」という、抽象度の高い考え方であり、この解像度を上げないまま進めていくと、企業側が想定するCXと、顧客が期待するCXのギャップが拡大していき、効果が出ないまま失敗するリスクが高くなります。
例として、以下のような点を曖昧にしたまま進めている企業が多いのが現状です。
- 自社がCXに取り組む意義が曖昧である
- 顧客に提供すべき価値の定義が曖昧である
- ロイヤルティ向上によって、どのように・どれくらい収益貢献できるかが曖昧である
- ロイヤルカスタマーの定義が全社で統一されておらず曖昧である
1-2. 組織横断で取り組む難しさ
顧客視点で最適な体験を提供するためには、組織横断で統一された指針に沿って取り組んでいくことが不可欠になります。しかし、日本の大企業の多くは組織がサイロ化されており、「組織横断で取り組もう」といったスローガンだけでは、途中で息切れし、継続的な活動ができない状態になります。また、CXのミッションを既存組織に無理やり持たせても、「現業優先、CX施策は二の次」となり、展開が加速しないケースも多くあります。
1-3. 短期的利益追求に偏りがちな経営・事業管理
プロモーションやキャンペーンといった従来のマーケティング手法と比較すると、CX施策は、すぐに効果が出にくいものであり、むしろ中長期的な成長を目的とした地道な取り組みといえます。取り組みを進めていく中で、総論は賛成としながらも、「それよりも目先の予算達成のために…」と関連部門の積極的な参画意識の醸成に苦戦するケースも多く見られます。
中長期的な視点であるために、頭では理解していても、組織レベルで実行していくことに苦戦するのが、CXデザインの難しさといえます。
2. 効果的なCX施策にしていくための3つの鉄則
上述した要因に対応し、効果的に進めていくためには、「曖昧なCXをサイエンスする」、「体験別変革チームを立ち上げる」、「短期的視点と中長期的視点の両立可能な新KPI体験を定義する」ことが有効になります。
2-1. 曖昧なCXをサイエンスする
顧客体験はサービスを利用する瞬間だけでなく、購入前から購入後、あるいは消費者がSNSを利用している場面など、自社以外の接点も含めて捉えていく必要があります。
そうなると、改善すべき体験や接点が多すぎて、どこから手を付けていけば良いのかわからず思考停止になってしまいがちです。
こうした状況に陥らないためには、以下の順番に考えていくことが必要です。
事業特性や企業によって、どういった顧客をロイヤルと捉えるかは異なります。ここで、単純に「購買金額が高い顧客」と定義してしまうと、不満顧客や離脱兆候のある顧客を見落としてしまったり、購買機会創出だけを追求するCX施策につながってしまいます。
そのため、一般的には、行動ロイヤルティと心理ロイヤルティの二軸でロイヤルカスタマーを定義することが有効であり、これを自社にとって納得感のある定義に落としていく必要があります。
顧客視点を追求していく取り組みであるからこそ、「顧客は誰か?」といった問いを避けて通ることはできません。
この活動が、単なる「顧客満足度向上活動」で終わらないようにするためには、ロイヤルティと収益との関係性を可能な限り定量的に可視化していくことが肝要です。
また、そうすることで、経営層や他部門にとって共通理解を得ることにつながり、これが推進する上での原動力になっていきます。
ロイヤルティを、推奨意向、継続移行、再購入意向、他サービス購入意向、といった要素に分解して考えることで、収益貢献を数値化していきます。
LTVという視点で捉えるためには、ロイヤルティを上げることによる「コスト抑制効果」にも着目していく必要もあります。これは例えば、ロイヤル顧客ほど自己解決率が高くなりCRC(カスタマーリテンションコスト)が低減される、といった具合になり、これも収益貢献として可視化したい要素の1つとなります。
- ロイヤルカスタマー化するためのドライバーを特定する
「ロイヤルティに大きく相関する接点はどこか」、「ロイヤルカスタマーはどういった体験によってロイヤルカスタマーになったのか」といったことを理解していくことで、ロイヤル化のドライバーを特定していきます。
これを特定することによって、数ある体験の中から、特にリソースを集中させて改善しなければいけないテーマを根拠を持って選択することができるようになります。
デジタルやAIの進歩により、顧客の行動データや感情データを統合的に分析していくことで、ブランドロイヤルティと各体験の相関関係を分析することができるようになりました。
こうした関係をデータドリブンで分析しながらPDCAを回していく活動が、これからのCXを推進していく上での必須要件となるでしょう。
2-2. 体験別変革チームを立ち上げる
多くの企業は、事業別組織か機能別組織を採用しており、これは「事業や機能を横断して顧客ジャーニー視点で改革を進めていく」という考え方を原則とするCX施策推進の上では難易度が高い構造になっているといえます。
そこで、「CX会議」といった組織横断の会議体を設置し、各部門担当者を巻き込もうと考えますが、これだけでは各部門の参画意識を高めることに苦戦します。
その場合、まずはクロスファンクショナルの「体験別チーム」を小さく立ち上げ、成功体験づくりを進めるといったことが有効になります。体験別チームは、例えば製造業であれば、「購入体験」、「利用体験」、「故障・修理体験」といったかたちで顧客体験視点の切り口で考え、それぞれ関連する部門の担当者を巻き込んでいくことが重要になります。
2-3. 短期的視点と中長期的視点の両立可能な新KPI体系を定義する
多くの企業において、既存のKPIは、事業視点、 商品・サービス視点の切り口でできていることが多く、最終的には「商材Aがどれだけ売れたか」、「どれだけ提案したか」といった管理であり、これは今年度予算達成のためのマネジメントの視点が強いといえます。
対して、CXで追及したい指標は、「ロイヤルカスタマー数」や「顧客ロイヤルティ指標(NPSなど)」「顧客別接点数」といったものであり、中長期的な成長の視点、顧客視点でのマネジメントになります。
この2つの視点はいずれも欠けてはいけない要素であるため、短期的マネジメントの視点は従来どおり持ちつつ、中長期視点の指標をアドオンしていく考えが有効になります。
その上で、中期経営計画とアラインさせ、「3~5年後の成長を実現するためには、ロイヤルカスタマーは現状よりどの程度増えているべきか」といった顧客視点の目標値に落としていくことが理想です。
3. CXリデザインのアプローチ
上述したように、CXを完璧にサイエンスしたり、新組織を立ち上げたり、顧客視点のKPIを定着させたりするためには一定の時間が必要になります。
環境変化の激しい顧客接点領域において、これらの要件定義に時間をかけすぎるのは避けるべきであり、最初は一定の仮説を置きながら、取り組みを素早く開始し、そこで得た顧客反応や結果データから学び、戦略や構想を更新し続けていく考えが重要になります。
3.1. まずは小さく開始し、”変革の波”を起こす
最初に必要なことは変革主導チームを立ち上げて、トライアルをしながら変革の波を起こすことになります。
変革主導チームには、顧客へのアンケートやインタビュー、データ分析により顧客理解をしながら初期的な仮説を定義し、特定のテーマに集中して成功体験をつくりだす、一連のPDCAサイクルを小さく・クイックに回していくような推進力とリーダーシップが求められます。
3.2. 徐々に取り組みを広げながら効果創出につなげていく
次に必要となるのは、トライアルで得た経験をもとに、障害を取り除いたり、少しずつ共感者・協力者を増やしていくことになります。
PDCAの仕組みを確立していくことで、変革主導チームに過度に依存することなく、全社として効率的・効果的にCX施策が機能していく姿を目指していきます。
この頃になると、少しずつ顧客ロイヤルティ向上による効果が見えるようになってきているはずです。
3.3. 組織に定着させ、効果を最大化していく
次は、これが一過性のプロジェクトとして終わることのないよう、加速を維持していきながら、組織文化として定着していくことを目指します。
この頃になると、評価制度や意思決定プロセスなども顧客視点が反映されるようになっており、会社のプロセス全体がカスタマージャーニー起点で動いている状態になっているはずです。
CX変革は、決して簡単・短期的に実現できるものではなく、地道に“小さな成功から学ぶ”ことを繰り返し、仕組み化につなげていくことが求められます。こうした変革ステップを意識し、まずは自社の立ち位置を理解した上で、必要なアクションを設計・実行していくことが肝要になります。
EYでは、この変革テーマについて、グローバルレベルで豊富なアセットを保有しており、CXデザインの再設計に関する豊富な実績があります。