EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 金融事業部 公認会計士 小林 徳子
SIer企業勤務を経て、2014年当法人に入社。投資運用業(VC等)、証券業、アセットマネジメント業などの監査業務に従事。
要点
昨今、機関投資家や海外投資家は、ファンドのガバナンス体制やリスク評価手続きの開示を強く求めています。特に、公正価値評価は、投資先のパフォーマンスを定量的に示すための重要な指標となっており、公正価値評価導入の機運が高まっています。PE(プライベートエクイティ)・VC(ベンチャーキャピタル)業界においては、公正価値評価に関連する、又は、公正価値評価導入が影響を及ぼすさまざまな会計規則や実務指針などの改正・改訂・新設が相次いで行われており、業界全体で対応が図られています。
以下では、改正・改訂・新設の内容をご紹介します。
2023年12月5日に投資事業有限責任組合が保有する投資資産を原則として公正価値により評価するものと定めた有責組合会計規則が改正、施行されました(2024年10月1日以後に開始する事業年度に係る財務諸表等について適用)。この改正は、日本の投資事業有限責任組合が保有する投資資産に対する公正価値評価を促進するためのものです。
以下は、有責組合会計規則の新旧表です。
表1 有責組合会計規則 新旧表
改正前 | 改正後 |
第7条 | 第7条 |
2 投資は、時価を付さなければならない。ただし、時価が取得価額を上回る場合には、取得価額によることも妨げない。 | 2 投資は、原則として、時価を付さなければならない。 |
| 3 前項の時価は、金融商品(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和三十八年大蔵省令第五十九号。以下「財務諸表等規則」という。)第八条第四十一項に規定する金融商品をいう。)にあっては、計算を行う日において、市場参加者(財務諸表等規則第八条第六十四項に規定する市場参加者をいう。)間で秩序ある取引が行われるとした場合におけるその取引において、組合が受け取ると見込まれる対価の額又は取引の相手方に交付すると見込まれる対価の額とする。 |
3 前項の時価の評価方法は、組合契約に定めるところによる。 | 4 投資に係る資産の評価方法は、組合契約に定めるところによる。 |
出所:経済産業省「投資事業有限責任組合会計規則」
www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/pdf/2312kaikeikisoku.pdf(2026年3月3日アクセス)を基にEY作成
さらに、有責組合会計規則の内容は、有責組合施行規則として新たに法令に規定され(2025年4月1日以後に開始する事業年度に係る財務諸表等について適用)、有責組合会計規則は2025年4月1日に廃止されています。
公正価値評価導入により、海外ファンド等との比較可能性確保され、投資事業有限責任組合への海外投資家やベンチャーキャピタルからの資金調達が期待できます。
以上の有責組合会計規則及び有責組合施行規則の一連の改正・新設を受けて、業種別委員会実務指針第38号「投資事業有限責任組合における会計及び監査上の取扱い」(以下、実務指針第38号)も改正されました。この改正により、附属明細書のひな型の「3.組合員の持分に関する明細」(記載上の注意)が変更となり、キャリード・インタレスト(投資事業有限責任組合の無限責任組合員が一定の条件下で得る優先分配)は、「附属明細書 組合員の持分に関する明細」にて、期末持分の計算に影響するものと判断される場合には、その内容及び金額等について表中又は注記に必要な記載を行うこととなりました(2024年10月1日以後開始する事業年度又は会計期間に係る監査から適用)。新たに記載される内容は次の通りです。
キャリード・インタレストが発生すると、無限責任組合員と有限責任組合員の間で取り分が変わるため、組合員間の持分を調整する必要があります。投資事業有限責任組合の運用者が投資資産の売却や償還などにより、実際に利益が確定した時点で受け取る優先分配(以下、実現キャリー)は、キャッシュ・フローの発生に基づいて認識されるため、明細表上も実際の分配が行われた時点で記載されます。実現キャリーによる調整後の持分が開示されることにより、実現キャリーの発生状況や組合員間の持分の変動が示されることとなります。
潜在キャリーとは、投資資産の時価評価によって発生した未実現利益に基づき、運用者が将来的に受け取る可能性のある優先分配です。このように潜在キャリーは、実際のキャッシュ・フローが伴わず、保有する投資の全てを時価で処分すると仮定した場合の分配ですので、潜在キャリー調整後の持分は、確定していない将来的に配分される可能性のある持分として開示されます。
国内の投資事業有限責任組合では、公正価値評価を導入する場合、IPEVガイドラインに準拠することが一般的です。2025年12月11日に改訂されたIPEVガイドライン2025年版では、IFRS13とFASB ASC Topic 820の適用実務、及び近年の市場動向・評価アプローチの発展を踏まえて、実務者が直面する論点に対応するために指針の明確化・強化が実施されました。以下で主な改訂のポイントをご紹介します。
キャリブレーションは、投資先企業への初期投資の価格が秩序ある取引による公正価値であると考えられる場合、特定の評価技法に初期投資時点のインプット・データを用いると、初期投資の公正価値が算定されることを確認した上で、将来の各測定日においても、当該評価技法に直近のインプット・データを適用することにより、公正価値を適切に算定するプロセスです。
最近の取引が存在しない場合であっても、キャリブレーションは、測定日間の評価額の変動が合理的であることを確保するために使用することができます。
① 異なる権利や優先権を持つ投資の評価が明確化されました。
② 残余財産優先分配権に関する記載が追加されました。残余財産優先分配権の価値は公正価値評価において過大評価しないよう注意する必要があります。
ファンド投資におけるセカンダリー取引とは、既存のファンド持分等を投資家間で売買する取引のことです。セカンダリー価格は不透明であり、過去のNAVや交渉要因に依存し、公正価値を正確に反映しない場合が多い点が記載されています。 セカンダリー価格が公正価値を示しているかどうかを判断するには相当な判断が必要となります。
① 投資先企業に関する情報入手が限定的である場合でも、公正価値の決定義務は変わりません。
② 投資に関する情報が限定的である、又は全く存在しない場合、市場参加者は一般に、情報欠如に伴うリスクを反映してより高い期待収益率を要求します。この他の条件が同一であれば、市場参加者が要求する収益率が高くなるほど、公正価値は低くなります。
① ファンド契約で報告額を公正価値と規定されていれば、その都度、評価が必要となります。
② 報告は測定日後のため、最新の市場変動や予想パフォーマンスを反映する場合があります。
日本におけるキャリード・インタレストは、経済産業省が公表する「投資事業有限責任組合契約書例(以下、モデルLPA)」において、令和7年版モデルLPAで初めて明記され、特に個人の無限責任組合員には税制上のメリット(申告分離課税・一律税率)もあり、採用するファンドが増えています。
また、投資資産の評価方法が原則公正価値評価となったことにより、未実現損益の計上頻度が増加すると思われます。未実現利益の増加は、潜在キャリーの発生にも影響を及ぼします。これは、公正価値評価に基づき未実現利益が計上された時点で、その一部が潜在キャリーとして認識されるケースが増えることが想定されるためです。潜在キャリーは、投資家に対して運用成果の状況や将来の分配見込みを明確に伝えるために重要な情報ですが、あくまでも期末時点での仮定の計算であること、公正価値評価導入に伴い潜在キャリーが増加するケースがあることを留意する必要があります。
実務指針第38号改正によるキャリード・インタレストの開示例は以下の通りです。実現キャリーは、表中(A)の欄又は注1の記載等により確認できます。一方、潜在キャリーは表中(B)の欄又は注2の記載等により確認できます。実務指針第38号では、表中(A)(B)の記載例はないため、実務的には各組合によって記載が異なる場合があります。以下の財務諸表例は、あくまで記載例となります。
表2 財務諸表例
PE・VC業界における会計規則や実務指針は、市場環境の変化に対応して継続的に改正・改訂・新設が行われています。これらの改正等は、財務諸表の透明性が向上し、投資家に対して有用な情報が提供されることとなる一方で、組合等の運営者には運用や財務報告作成の実務に新たな対応が求められます。今後も業界の健全な発展のため、適切な対応が不可欠となります。私たちは、透明性と信頼性を重視し、投資家の皆さまに安心していただける情報提供に努めてまいります。
2023年以降、投資事業有限責任組合における投資資産を原則として公正価値により評価することとなりました。本稿では、公正価値評価に関するPE・VC業界における具体的な会計規則や実務指針の改正・改訂・新設内容、財務諸表を利用する際に留意すべき点を解説します。
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