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2025年大統領令発令後の米国腐敗行為防止法(FCPA)とその対応


新興国ビジネスを行う際に留意すべき代表的な法令である米国腐敗行為防止法(The Foreign Corrupt Practices Act、以下「FCPA」)は、2025年2月の大統領令により従来とは若干方向性が変わってきました。本稿では、大統領令発令に伴う変更点と、その対応における留意点を解説します。


要点

  • FCPAの対象に犯罪カルテルや国際犯罪組織の完全排除が追加されるとともに、米国の国家安全保障や国益の脅威となる贈賄に摘発の重点を置くことが明示された。
  • FCPA対応としては、これまでの贈収賄・腐敗行為の禁止に加え、犯罪カルテルや国際犯罪組織の排除も考慮に入れる必要がある。
  • FCPA対応には一定の時間を要する一方、摘発された場合の高額の罰金やレピュテーションの悪化などのリスクがあるため、適時の対応が必要。


1. はじめに

FCPAは、新興国ビジネスを行う際に留意すべき国際的な法令の代表例です。

もともとは外国公務員(注:米国から見た外国公務員)と企業との間の贈賄を禁止する法令ですが、2025年2月10日署名の大統領令14209号「米国の経済および国家安全保障をさらに推進するためのFCPAの執行の一時停止」(以下「大統領令」)の発令により、これまでとは若干方向性が変わってきました。ここでは、大統領令発令に伴う変更点と、その対応の際の留意点を解説します。なお、文中意見に係る部分は筆者らの私見である旨、あらかじめ申し添えます。


2. 大統領令発令によるFCPAの変更点

大統領令発令を受けて、以下のアクションが図られました。

  1. 大統領令発令から180日間の執行停止
  2. 大統領令発令前の摘発事案の再検討
  3. FCPAガイドライン(注:当局のFCPAの捜査および執行のガイドライン)の見直し

こうした検討を経て、改訂版のFCPAガイドラインが2025年6月9日に発行されました。改訂の趣旨は、FCPAに関する捜査および執行は、海外でビジネスを展開する米国企業の負担を軽減するとともに、米国の国益を直接侵害する行為を執行対象とし、もってFCPA事案の捜査および執行が、大統領令に沿って実施されることを確保することにあります。

改訂ポイントは、以下の4点です。

① 犯罪カルテルや国際犯罪組織(Transnational Criminal Organizations、以下「TCO」)の完全排除

企業が以下の3つのいずれかに該当する不正事案に関与した疑いがある場合は、FCPAの捜査対象となる可能性があります。

  1. 犯罪カルテルやTCOが関与している場合
  2. 犯罪カルテルやTCOのマネロン活動をしているマネロン組織やダミー会社が利用されている場合
  3. 外国公務員や国営企業の従業員への不正(贈賄)事案で、これらの者が犯罪カルテルやTCOからも賄賂を受け取っている場合

いずれも、第三者を通じた間接的な関与により一層の注意が必要であり、デューデリジェンス手続きの充実(例:起用時のみならず定期的な手続きの実施)が重要であると考えます。

② 米国企業への公正な機会の保護

国籍に基づく特定の企業や個人ではなく、特定の識別可能な米国企業や個人の公正な競争を阻害する、または経済的損失を与えるおそれのあるものが捜査対象となる可能性があります。

米国企業や個人との競争を不正な方法で阻害することを防止する趣旨です。併せて、外国公務員による賄賂の要求が、米国企業や個人の経済的損失につながったかどうか、例えば賄賂の要求に応えた企業が受注し、その結果米国企業が失注した場合も、捜査対象とするかどうかの決定に際し検討するべきとされています。このため、米国企業が競合相手となる場合の贈賄事案には、特に厳しい対応が図られる可能性があります。

③ 米国の国家安全保障の推進

米国の国家安全は、重要資源、深海港(大型船舶が入港できる十分な水深のある港湾施設)、その他の重要なインフラストラクチャーや資産から戦略的な利益を米国自体や米国企業が得られるかどうかに左右されるため、競合相手が米国のこうした利益を贈賄により阻害することは、米国の国家安全保障への脅威であり、このような行為については高度な緊急性のある事案として対応するとされています。より具体的には、防衛、インテリジェンス、重要なインフラストラクチャーの各セクターでの贈賄事案には、特に厳しい対応が図られる可能性があります。

④ 優先的な捜査対象となる重大な不正行為

摘発に際しては、贈賄が多額、入念な隠ぺい工作、贈賄スキームを促進するための不正行為、または司法の妨害などで、個人にひもづけられる不正の意図が明確な場合であり、かつ現地政府が同一の事案への捜査に乗り出すかどうかを考慮するとしています。ファシリテーションペイメント(手続き円滑化のための少額の支払い)を例外として扱う点は従来通りですが、ファシリテーションペイメントは、FCPA以外の国際的な贈収賄防止法令(例:わが国の不正競争防止法、英国の贈収賄禁止法)では禁止されていることが多く、企業が贈収賄・腐敗行為防止(Anti-Bribery and Anti-Corruption、以下「ABAC」)プログラムを実施する際には、一律で禁止とするケースが多いようです。


3. 取るべき対応

これまでのFCPA対応では、第三者、すなわちビジネスパートナーなど企業と販売先または調達先との間の仲介者が介在する場合のABACリスクが特に高いため、その対応の一環として、第三者を起用するビジネスや国・地域におけるABACリスクの観点に基づくバックグラウンド調査の実施、自社のABAC方針の順守を確実にするための研修の実施や契約書の条項追加といったデューデリジェンス手続きを充実させることが一般的に行われてきました。

FCPAの対象に犯罪カルテルやTCOの完全排除が加わったため、今後のFCPA対応ではABACに加えてこれらとの関係性を洗い出すための手続きも考慮する必要があります。取引先選定における、国内外の制裁対象リストのチェックなど、関連するスクリーニング手続きを導入している企業は少なくないと思われますが、現状の態勢で十分かどうかの評価と、その結果に応じてより一歩踏み込んだ対応が必要ではないでしょうか。また、2025年8月に米国司法省(DOJ)が起訴を発表したケースからも、メキシコや中南米地域の企業やビジネスは、より強固なコンプライアンス体制が求められるとも考えられます。

デューデリジェンスの実施は第三者の起用時のみならず、起用後も定期的に実施することが大事ですが、ABACに加え犯罪カルテルやTCOの完全排除のための取り組みとして、定期的な再評価、情報更新がより重要になります。制裁リストは適宜更新されるものであるため、最新のリストに照らしてもリスクが十分に低減される態勢を構築・運用する必要があります。

デューデリジェンスは主として予防面の対応ですが、このほか取引開始後での定期的なモニタリングによる高リスク取引や活動の適時の検出を図ることも有意義です。予防面と検出面の両輪の対応を図ることにより、リスクの高い取引や活動をより適時に把握することができます。これはABACでも、犯罪カルテル・TCO完全排除でも同様です。具体例として、会計データを活用したデータ分析、必要な場合の取引テストの実施や監査権の行使による第三者への監査の実施が挙げられます。監査権は、日本企業では今なおあまり一般的ではないものの、グローバル企業では契約書上に明記されていることが一般的です。

その他では、米国の国家安全保障、企業や個人の利益保護に重きを置く点が強調されているものの、枠組み自体に大きな変更はないと考えられます。


4. 導入時のポイント

FCPA対応は、グループワイドで一貫した取り組みを親会社主導で行うことがポイントであり、この点に変わりはありません。親会社は、グループ各社の模範としてあるべき方向性や原則を示しつつ、コンプライアンスプログラムを主導します。

展開先に海外を含む場合、親会社は規程や手続きの原則を示しつつ(原則主義)、詳細(実際に導入するもの)は国や地域、業種でより適切なものを個別に決めてもらう形が一般的です。ただし、原則に基づいて詳細を定めることは相応の知見や経験を要する上、現地法令や慣習と整合を図る必要もあるので、現地のグループ会社は、親会社や現地の専門家のサポートを得ながら導入を進める形になります。

こうしたトップダウンによる手続きや規程の導入は、グループワイドの整合性や品質の均等性を担保できる長所がある一方、場合によってはグループ各社の実態に必ずしも合わない内容を押し付け、結果的に実効性のない仕組みを導入することになりかねません。とはいえ、ボトムアップの場合、グループ会社の自発性は発揮されるものの整合性や品質の均等性が担保されない短所があります。こうしたトレードオフをできる限り解消するために、親会社とグループ会社の間での細かな議論(対話)や擦り合わせが欠かせません。

議論(対話)や擦り合わせの一環として、モデルとなる規程やテンプレートの作成を国や地域、業種に応じて親会社や主要なグループ会社(親会社から見て孫会社を統括する役割を持つグループ会社)が示すとともに、各社の疑問点や不明点を解決するなど、上から下、下から上の双方向のコミュニケーションやサポートを行いながらプログラムを実施することが大切です。


5. おわりに

摘発事案は、現状(2026年3月10日時点)、DOJおよび米国証券取引委員会(SEC)のいずれのウェブサイトでも2024年のものが最新ですが、これらの当局は既に捜査・執行を再開しています。FCPA対応は、プログラムの策定、現状評価や不足している部分の新規の実施などの実施項目が多く、短期間で実施できるものではない一方、摘発された場合に課せられる高額の罰金やレピュテーションへの悪影響という損失のリスクがあります。このため、現状の態勢で十分かどうかの検討や、新たな規程や手続きの整備、既存の制度の改訂など、定期的な見直しおよび適時の対応を図ることが重要です。


【共同執筆者】

EY新日本有限責任監査法人 Forensic & Integrity Services マネージャー 浅岡 孝太


サマリー

大統領令発令に伴いFCPAの方向性は若干変わりましたが、グループワイドで一貫した取り組みを親会社主導で行う点がFCPA対応のポイントである点は変わりません。その際、親会社とグループ各社は、上から下、下から上の双方向のコミュニケーションを行いながら、プログラムを実施することが大切です。



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