ヘルメットをかぶり、作業服を着た女性の船舶設計技師が、商用タグボートの舷側に沿って測定を行っています

サプライチェーンの弾力性や変革をどのように税務で支えるか

税務部門がサプライチェーンと連携することにより、多様性、透明性、イノベーション、サステナビリティを取り入れることが可能になります。


要点
  • サプライチェーンは、地政学上の緊張、気候変動、紛争など、さまざまな要因により、昨今、最⼤の混乱に⾒舞われている。
  • 多国籍企業は将来のサプライチェーンに備えるために、⾃社のESG⽬標に沿った活動を⾏いながら、その弾力性と機敏性を⾼める必要がある。
  • 税務部⾨は、税務リスクを管理し、優遇措置を活⽤することで、サプライチェーンの変⾰において重要な役割を果たす。


EY Japanの視点

ESG規制や地政学上の紛争に伴うグローバル経済環境の変化に応じて、企業はグローバルサプライチェーンの変革を求められています。このような環境の下、税務部門が果たすべき役割は、各国で変化する規制を把握した上で、税務リスクを抑えるとともに優遇措置を活用し、事業から得られる利益を最大化することです。そのため、税務部門は事業部門と密に連携し、現在および将来のサプライチェーンに関する理解を深め、税務専門家の知見を活用しながら、税引後利益に及ぼす影響額を試算するなど、サプライチェーン変革や事業投資に関する意思決定への積極的な関与が望まれます。


EY Japanの窓口

山田 早苗
EY Japan 消費財・小売・タックスリーダー EY税理士法人 パートナー

グローバルサプライチェーンは現在、1980年代後半以来の最も⾼いレベルのリスクにさらされており、貿易の流れを脅かすとともに、多国籍企業のコストに影響を与えています。税務部⾨は、それを助ける備えができます。

VUCA(Volatility〈変動性〉、Uncertainty〈不確実性〉、Complexity〈複雑性〉、Ambiguity〈曖昧性〉)の進展する環境が、あらゆる⽅向からグローバルサプライチェーンに影響を及ぼしており、将来予測を困難にする要因は絶えず進化しています1。そのため、企業はグローバル・バリュー・チェーンに弾力性(レジリエンス)の要素を組み込むことで、さらなる安定性と予測可能性を求めるようになっています。

最新のWEF Global Risks Report 2024 : pdf(英語のみ)では、現在のグローバルビジネスリスクを分析し、異常気象、紛争、サイバー犯罪/⼈⼯知能(AI)の悪⽤、インフレーション、政治/社会の分極化、サプライチェーン全体の混乱を最⼤のリスクとして挙げています。「サプライチェーン全体の混乱」は別のリスクとされていますが、他のほとんどのリスクはVUCA環境を悪化させる可能性が⾼く、企業は積極的に個々のリスク領域を特定し、包括的に対処する必要があります。これは、今後数⼗年にわたって企業を再構築する取り組みになるでしょう。

税務リーダーは、各地域の複雑な規制を熟知し、新しい地域での事業から得られる投資リターンに不確実性をもたらす係争を管理することに長けています。

企業がビジネス・バリュー・チェーンを変⾰・強化し、レジリエンスを獲得する上で、税務部⾨が果たす役割はますます⼤きくなっています。また、VUCA環境の不確実性が⾼まる中で、特定されたリスクに対処し、サプライチェーンのレジリエンスを創出・維持するための戦略的な貢献者としても、その存在感を⾼めています。

Ernst & Young LLPでInternational Tax and Transaction ServicesのPrincipalを務めるKelly Stalsは次のように述べています。「税務リーダーは、各地域の複雑な規制を熟知し、新しい地域での事業から得られる投資リターンに不確実性をもたらす係争を管理することに長けています。これらは、サステナブルで弾力性のあるサプライチェーンを⽬指す際に重要なスキルです」

とりわけ税務専⾨家は、多国籍企業がサプライチェーンを再構築し、レジリエンスを定着させるために、コストやキャッシュフローの管理と税引後利益を改善する機会を特定することができます。

ドローンで撮影された航空写真には、地平線まで続く豊かで果てしない森林を横切る複数車線の高速道路が映っています。その隣には、何キロメートルにもわたって太陽光パネルで覆われたPeerdsbos鉄道トンネルがあります。アントワープ。ベルギー
1

第1章

複雑化する規制環境

企業は、統合的ESGアプローチの一環として、透明性と説明責任を高めるべきです。

環境税や関連規制を含む、グローバルな規制環境の複雑化は、サプライチェーンのリーダーがサプライチェーンの将来像やレジリエンスの向上を計画する際に考慮すべき新たな重要事項となっています。環境税や関連規制は、多国籍企業のコスト、貿易⼒、収益に悪影響を及ぼす可能性があります。同時に、貿易関連の新たなコンプライアンス負担も⽣じさせています。そのため、環境税や関連規制に関するホライズン・スキャニングおよびプランニングは、競争⼒、収益性、成⻑を維持する上での鍵となります。

サステナビリティ規制は⽐較的新しいものであるため、不確実性や曖昧性が伴い、多国籍企業は⾃社の事業に関する現⾏・今後の規制要件を評価することに苦労することがよくあります。グローバルな規制環境は相互に関連しているため、事態をさらに深刻化させることもよくあります。特に国際貿易関連では、特定の国・地域の規制が複数の国での事業に影響を及ぼす可能性があります。その他にも、例えばEU指令を国の法律に置き換える際に、各国がグローバルまたはリージョンの規制と異なる⽅法で実施することもあります。

カーボンプライシング
世界中で実施されているカーボンプライシング規制の数
環境税
世界中で実施されている環境税の数

リスク管理やサプライチェーンのレジリエンス構築に際しては、規制や環境税、その他の複雑な問題に対処する必要があり、社内では事業部⾨間の連携、社外ではバリューチェーン全体にわたる連携が求められます。

開示の強化

つい最近まで、サステナブルなサプライチェーンは、多国籍企業が環境意識の高い消費者や投資家にアピールするためにサプライヤーネットワークをグリーン化する自発的な取り組みでした。しかし現在では、規制、環境税、透明性要件の増加により、サプライチェーン活動が、潜在的に多額の税⾦や賦課⾦につながる可能性があるほか、投資が必要であったり、開⽰が必要であったりすることを意味します。実際、温室効果ガス(GHG)排出量の価格設定に関する規制のみに焦点を当てた場合でも、国内の炭素税やEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)など、世界中で70を超えるカーボンプライシング・イニシアチブが実施されており2、3,000を超える環境税、賦課金、手数料があります。

⼀⽅、各国・地域は、税制上の優遇措置、助成⾦、資金調達などを通じて、よりサステナブルなサプライチェーンや資源への投資を奨励しており、最新のEY Green Tax Trackerによると、世界中で1,850を超えるESG関連優遇税制措置が利用可能となっています。

例えば、欧州議会は最近、EU内外の企業に大きな影響を与えるさまざまなサステナビリティ規制を採択しました。これには、炭素国境調整メカニズム(CBAM)、EU森林破壊防止規則(EUDR)、EU持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)、EUコーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CS3D)などが含まれます。

2023年10⽉に発効したCBAMは、セメント、肥料、鉄鋼、アルミニウム、電⼒、⽔素といった最も炭素集約的なセクターからの厳選された原材料や製品の輸⼊に対して課税するものです。CBAMの影響は、輸出国が特定の適格条件を満たすカーボンプライシング制度を設けているか、またクリーンエネルギーと直接契約できる能⼒があるかなど、いくつかの要因によって左右されます。CBAMは、企業がより緩やかな炭素政策を有する国に⽣産拠点を移したり、現地⽣産品がより炭素集約的な輸⼊品に置き換えられたりした場合に発⽣するカーボン・リーケージ・リスクに対処するために作られています。また、国内のカーボンプライシング制度の確⽴を促すことも⽬的とされています。

一方EUDRは、EU域内に輸入されEU域内で取引される、またはEU域外に輸出される特定の牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、木材製品を対象としています。これらの商品の生産が森林破壊や森林劣化につながっていないことを確認することを目的としています。また、人権、腐敗防止、税、貿易、関税規則を含む現地の法律に準拠して生産されているかどうかも確認します。同規則は2024年12月から施行され、2020年12月以降の土地利用の変化について検討がなされます。

持続可能な製品のためのEUエコデザイン規則(ESPR)は、循環型経済行動計画の一部であり、欧州グリーン・ディール・パッケージの中で最も変革的でディスラプティブな施策の1つと考えられています。鉄、鋼、アルミニウム、繊維、化学製品、エレクトロニクス製品など、幅広い製品やセクターにエコデザイン要件を課すことにより、製品のサステナビリティを促進します。ESPRにおける重要な要素はデジタル・プロダクト・パスポート(DPP)であり、包括的な製品情報をステークホルダーに対しデジタル報告することを義務付け、環境コンプライアンス管理を促進します。

人権および環境侵害

最後に、CS3Dは2027年以降、自社組織、子会社、上流サプライヤー、下流サプライヤーによる、商品の保管、流通、輸送に関連した人権および環境侵害の防止と削減を目指しています。

ESG規制への対応
最近のEYラウンドテーブルでは、出席者の70%が自分たちの組織が複雑なESG規制に対応している自信がないと答えている

企業は、強制労働、労働者の搾取、児童労働、公正かつ良好な労働条件、公平かつ適切な生活賃金、雇用における不平等な待遇、結社の自由の権利などの社会的側面に加え、温室効果ガス排出、森林破壊、汚染、有害廃棄物および化学物質の取り扱い、オゾン層の保護、水銀の使用、水の使用などの環境的側面にも対処しなければなりません。

最近のEYラウンドテーブルでは、参加者の70%が、この複雑で重複の多いさまざまな新しいESG規制に対して自社がどのように対応しているのか自信が持てない、またはわからないと回答しています。

社内外の連携は、急速に進化するこの状況を把握し、サステナブルなサプライチェーンを実現するための鍵となります。社内での連携には、サステナビリティ、調達、法務、リスクなどの主要部⾨が関わります。税務部⾨は、現⾏の規制への準拠を確保し、サプライチェーンのコストを守る上でも重要な役割を担っています。税務部⾨はまた、規制チームと協⼒して、ホライズン・スキャニングを通じて今後予定される環境税を明らかにすることができ、それによって経営陣は適切な計画と介⼊がなければ価値創造やコスト基盤がリスクにさらされる可能性のあるサプライチェーンを特定し、計画を策定することができます。

例えば、CBAMやEUDRへの準拠には、企業が社内外のグローバルなバリューチェーンを通じて移動する商品の経路を追跡できる⾼度なデータマイニング機能が必要となります。貿易部⾨は、原材料、仕掛品、
完成品在庫を⾮常に詳細なレベル(HSコードによる)で識別し、それらがどの規制の枠組みに該当するかを判断できなければなりません。その後、税務、法務、規制、サステナビリティ、調達部門など、さまざまなステークホルダーが、さらなる法律および規制要件や、各国での適⽤に対応することになります。

作業員がコンテナターミナルで情報を確認しています
2

第2章

新しいビジネスモデルの開発とサプライチェーンの移転

資源不⾜と原材料アクセスの不確実性が、サプライチェーンの変革を促しています。

紛争と地政学的緊張の著しい⾼まりにより、主要な資源へのアクセスが損なわれ、世界中の航路が混乱し、世界的な資源不⾜のリスクが⽣じています。アクセスの不確実性が⾼まっていることにより、企業はサプライチェーンの⾒直しを迫られています。例えば「サービタイゼーション」や循環型ビジネスモデルは、原材料を削減し、資源の使⽤量を減らした製品を再設計することで、「開発から出荷まで」に用いる原材料を少なく保つのに役⽴ちます。また、これらのモデルは廃棄物を資源に変え、例えばペットボトルを回収して⾐類から家具、その他梱包材に⾄るまでの新製品に再加⼯するなど、新しい材料や製品のための資源として再利⽤されます。


これらの新しいモデルに伴い、サプライヤー、顧客、および資源回収、修理、同様の活動に関わる従来とは異なる新しい取引先と、より密で統合的な関わり⽅が定着しつつあります。また、新しい企業価値創造の原動⼒について、より広範な再評価が行われています。

最後に、汚染を引き起こす、希少な、または脆弱な資源基盤の代替となるものの開発に関するイノベーションが急速に進んでいます。例えば、電気⾃動⾞⽤バッテリーメーカーの中でも、リチウムやコバルトなどの原材料が豊富な地域での紛争に悩まされている企業は、代替地からの調達だけでなく、新製品やリサイクルプロセスの開発に携わっています。このイノベーションに関する税務課題は多岐にわたり、研究開発(R&D)に対する優遇措置の適⽤、R&Dの資⾦提供を⾏う事業体の決定、結果として⽣じる知的財産(IP)の所有者の決定などの⾮常に重要な課題が含まれます。


循環型ビジネスモデル
 

循環型ビジネスモデルは、廃棄物や汚染の側⾯を減らすことから、製品寿命を延ばし、重要で希少な資源を回収し再利⽤を促進することまで、環境⾯および社会⾯で多くの⽬的を果たします。リサイクル、再利⽤、詰替えプロセスなどの循環型経済ビジネスモデルは、物流コストが⾼いため、消費地点に近い場所を拠点とする傾向があり、これがニアショアリングにつながることがあります。さらに、循環型経済モデルは、従来の直線型ビジネスモデルよりも労働集約的となる傾向があり、より多くの地域雇⽤を創出します。

⼀般に、世界的な圧⼒の⾼まりを背景に、サプライチェーンの⾒直しや多様化を進める企業が増えています。これには、リードタイムの短縮、マルチソーシング(単⼀の供給元に依存するリスクを低減)の導⼊、サブアセンブリの再設計、重要な原材料の垂直統合への移⾏、および製造拠点の近接化などが含まれます。

米国への輸入
対⽶輸⼊は2022年に過去最⾼を記録し、中国からの輸入⽐率は2017年の最⾼21.6%から低下

マクロ要因と新しいビジネスモデルの結果、確⽴された製造拠点から、サプライヤーや顧客により近い国に徐々にシフトしています。例えば、欧⽶諸国に輸出される中国製品やサービスの割合は近年低下しており、⽶国の輸⼊品に占める中国産の割合は2017年のピーク時の21.6%から、2022年には16.5%に減少しました。これは世界貿易の低迷によるものではありません。2022年の⽶国の輸⼊額は過去最⾼の3兆2,000億⽶ドル(⽶国1⼈当たり約9,800⽶ドル)に達した中で、米国は、中国製品やサービスを、近隣のメキシコなどからの輸⼊に切り替えたのです3

税務部門の中心的な役割

税務部⾨は、国・地域を跨(また)いだ税務環境を監督する⽴場から、サプライチェーンの多様化とリスク軽減を⽬的とした最適な場所の特定、モデル化、選定を⽀援する中⼼的な役割を果たします。税務部⾨は、従来の直接税や間接税、場合によっては国際貿易措置から、新たに導入された環境税や拡大する優遇措置、資⾦調達に⾄るまで、さまざまな国の税制を理解し、モデル化することができます。移転価格ポリシーや積極的な係争管理戦略は、本社で開発され各地で展開されるイノベーションの投資リターンに貢献しています。これには、サプライチェーン運用のサステナビリティ向上に関するイノベーションも含まれます。

EY Global Operating Model Effectiveness LeaderのJay Camilloは、企業の税務部⾨が、対象国・地域における税制や優遇措置の監視を⾏い、それらがどのように企業全体の最適なサプライチェーン多様化戦略の策定に役⽴つかを理解すべきと述べています。

「多国籍企業が⼯場を移転することや、サプライチェーンのリスクを軽減するために新しい場所への移転を希望する場合、ほとんどの国はその投資を喜んで歓迎するでしょう」とCamilloは述べています。「魅⼒的な税制上の優遇措置、投資税額控除、補助⾦という形をとることが期待できます。」例えば、英国では研究開発費控除が最⼤186%まで認められており、⽶国のインフレ抑制法ではサステナブルな技術に投資する企業に対してさまざまな税制上の優遇措置が設けられており、また欧州グリーンディールでは、優遇措置、税⾦、賦課⾦を組み合わせたものが提供されています。

多国籍企業が工場を移転することや、サプライチェーンのリスクを軽減するために新しい場所への移転を希望する場合、ほとんどの国はその投資を喜んで歓迎するでしょう。

この分野では、税務専⾨家は相談を受けるのを待つのではなく、むしろオペレーション上魅⼒的な国・地域と戦略的に重要な新たな税務優遇措置を結び付けるべく、経営幹部と積極的に協働すべきです。

中国上海市のコンテナターミナルの航空写真。
3

第3章

グリーンイノベーションとデジタルイノベーションを連携させ、競争力を強化

サプライチェーンの再編や戦略を再活性化するための鍵はイノベーションとインセンティブです。

サプライチェーンの再設計という課題に直⾯している企業は、サステナビリティとデジタルイノベーションを取り⼊れることで、より弾力性があり、最終的にはより競争⼒のあるものにすることができます。
 

税務部⾨は、優遇措置を通じて新規投資の機会に対応し、関税や炭素排出コストを含む総陸揚げコストの⾒積もりをモデル化し、分散型と集中型の適切なバランスを取った管理と知的財産(IP)所有モデルを策定することができます。
 

R&Dに関する優遇措置は、ESG規制への対応として⾏われるイノベーションの取り組みにかかるコストを削減する上で、企業が活⽤できる重要な⼿段の1つであり、また、⾼リスク市場における原材料への依存を軽減する上でも役⽴ちます。2023年には、OECD加盟38カ国のうち33カ国がR&D税額控除を提供しており、2000年の19カ国から増加しています4。税務部⾨は、これらのプログラムの恩恵を受けられるようにすることができますが、そのためには、事業部⾨と緊密に連携して、これらの優遇措置を提供する国が、R&D活動の実施が商業的に実現可能な国であることを確認しなければなりません。
 

R&Dに対する税務優遇措置に関して各国が定めた基準にもよりますが、これらの税額控除やその他の仕組みは、企業が効率の良いコストで最先端技術を構築するのを促進し、将来性を⾒据えたサプライチェーンとその全体的な効率性を向上させることができます。また、R&Dの優遇措置は、企業がサステナブルな慣⾏や倫理的な調達に注⼒できるよう奨励されていることも多く、サステナビリティ規制への準拠を促し、ESGプロファイルの向上にも資するものとなります。
 

最⼤の価値を引き出すためには、税務部門がR&Dに関する議論の初期段階から関与し、企業のIP戦略の策定、R&Dを実施する場所の特定、IPの所有権をどこに置くべきか、ロイヤルティの回収⽅法をどのようにすべきか、などの決定に関与しなければなりません。
 

このR&D基盤から、企業は、投資家、規制当局、その他のステークホルダーに対する義務を果たしながらリスクを低減できる、多様性に富んだ新たなサプライチェーンを活⽤して、販売やオペレーションに関するプランニングの専⾨知識を構築することができます。
 

しかし、絶え間なく変化する世界中のさまざまなR&D優遇措置を監視することは、多くの税務部門にとって難しいかもしれません。企業はEY Green Tax Trackerのような追跡ツールを使用することで、さらなる情報を求めています。このモニタリングツールは、EYのグローバルおよび地域の税務チームが収集した施⾏済みのサステナビリティ関連優遇措置や免税措置を収集し、関連税制の動向を提供します。

香港のストーンカッターズブリッジと青沙高速道路の航空写真
4

第4章

サステナビリティアジェンダの追求におけるテクノロジーの役割

データは、透明性、トレーサビリティ、ESGコンプライアンスを達成するための鍵です。

エコシステム全体のデータリポジトリとAIを活⽤し、詳細なデータ分析と予測が可能になることは、急速に進化するVUCAの状況をうまく乗り切るための重要な要件です。リアルタイムのサプライチェーンの透明性が⾼まれば、企業は予期せぬ混乱をより適切に予測し、対処することができます。

IoTセンサー、ブロックチェーン、RFIDタグなど、製品やサービスがサプライチェーンを介する際にデータを追跡・⽣成できる技術を用いることで、バリューチェーンの透明性は⼤幅に向上します。

企業は、サプライチェーン全体にわたる価値の流れを追跡・確認できなければなりません。

Stals⽒は、企業がサプライチェーンの構成について詳細な知識を有していれば、リスクや弱点を特定し、潜在的なレジリエンス戦略を策定し、冗⻑性と柔軟性を確保し、予期せぬリスクや混乱に対して回復する能⼒が向上すると述べています。さらに、それによってコンプライアンスを順守することも可能になります。

税務当局もまた、適切なVATや関税の納付を確保するために、サプライチェーン取引に対する可視性を⾼めています。

「税務当局がコンプライアンスの調査にビッグデータ分析を活⽤している⼀⽅で、企業も同じ技術を駆使してサプライチェーンの混乱を予測し、販売やオペレーションのプランニングに関する影響を算出しています」とCamillo⽒は述べています。「さらに税務部門は、貿易、ESG、税⾦、その他のコンプライアンスを追跡できるように、透明性も求めています。同時に、急速に変化するサプライチェーンから⽣じる新たなESG税制や優遇措置のメリットを活⽤する機会も探っています」

サプライチェーンの透明性は、税務部⾨が2つの⽬標を達成するのに役⽴ちます。1つ⽬は、既存の事業構造のガバナンス向上であり、既存および今後の(環境関連の)税務ポジションのリスクを監視し、コンプライアンスを維持することです。2つ⽬のメリットは、税制上の優遇措置などの機会を特定し、活⽤することです。ただし、これは税務部⾨がオペレーション上の意思決定に積極的に関与している場合にのみ可能です。

多国籍企業は、現在および将来にわたり、⾃社のサプライチェーンがどこで炭素や環境関連の賦課⾦や税⾦の対象となるかを把握しなければならなくなるでしょう。

「⼤多数の企業は、⾃社の活動が環境や社会に与える影響、また、現⾏および今後導⼊される環境税、規制、優遇措置が⾃社の事業に与える影響を包括的に評価する段階にあります」とEY Global Sustainability Tax Policy LeaderのAlenka Turnsekは述べています。「多国籍企業は、⾃社のバリューチェーンがどこで環境関連の賦課⾦や税⾦の対象となり、その他の影響を受けるかを把握しなければならなくなるでしょう。そこで、税務部⾨の出番となるのです」

Turnsekは、より多くの企業が⾃社のサプライチェーンのさまざまな層を上流から下流まで分析し始めていると述べています。顧客やサプライヤーと共にバリューチェーン全体にわたるデータのためのデータリポジトリを構築したり、データ分析やAIなどの技術を活用して洞察を得ています。これらの取り組みは、より広範なサステナビリティ⽬標の達成を⽬指す中で、環境税や優遇措置の管理を軸とした戦略やガバナンスの再設計を⽀援することを⽬的としています。サステナビリティ⽬標と(環境関連の)税務上の検討事項を整合させることにより、企業は既存のサプライエコシステム内での関わり⽅を再定義し、新たなパートナーとの協業を図ることができます。新たに構築された提携関係と既存のステークホルダーとの関わり⽅を再定義することによって、企業はレジリエンスを向上させ、規制の変化やVUCA環境への適応を図り、サステナブルな成⻑を推進する上でより有利な⽴場に⽴つことができます。


サマリー

多国籍企業にとって、多様性・透明性が⾼く、サステナブルなサプライチェーンを構築することは不可⽋です。税務部⾨が事業部門と連携することによって、リスクを管理しコンプライアンスを維持しながらサプライチェーンを根本的に再構築する機会がもたらされます。

関連記事

グローバルなサステナビリティをめぐるコンプライアンス課題をいかにして乗り切るか

グローバル規模でESG規制の課題に先⼿を打って対応することは容易ではありませんが、一方で企業がサプライチェーン政策で後れを取るリスクは避けなければなりません。

2023年8月1日 EY Global
    You are visiting EY jp (ja)
    jp ja