EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード(M)7.1の地震が発生し、最大震度7を観測しました。気象庁の公表一覧では、同日16時29分に熊本県熊本地方で最大震度5弱、17時08分に熊本県天草・芦北地方で最大震度5弱、19時03分に熊本県熊本地方で最大震度5弱を観測するなど多くの余震が続きました。気象庁が2026年8月18日付の報道発表として掲載する情報では、地震の発生数は増減を繰り返しながら大局的には緩やかに減少しているものの、地震活動は依然として活発な状態が継続しているとされています。また、M7.1の地震で揺れが強かった地域では、今後1~2カ月程度、最大震度5弱程度以上の地震に注意が必要とされています。復旧活動を行う場合には、今後の地震活動や気象の状況に十分注意するよう呼び掛けています。
同じ夏には豪雨災害も発生しました。内閣府の災害情報には「令和8年8月千葉豪雨」が掲載されています。国土交通省は、千葉豪雨について2026年9月9日12時時点、8月27日からの大雨について同日9時時点の第15報を公表し、被害状況位置図や道路規制状況の資料も掲載しています。被害状況は更新され得るため、本稿では変動する件数を固定せず、公表資料で確認できる事実と、そこから導く事業継続計画(BCP)上の提案を分けて記載します。
厚生労働省の2026年9月9日12時時点の第61報では、熊本県内で被災報告のあった医療施設は92施設です。被害状況としては、浸水14施設、停電22施設、断水88施設、医療ガス13施設が集計され、同日時点では断水8施設、その他6施設の被害が継続しています。
同報では、八代市の医薬品卸売販売業者の物流センターで商品が棚から落下し、出荷が滞ったものの、7月30日から順次復旧し、8月6日時点で医薬品供給への支障は生じていないと報告されています。また、製造販売業者では設備破損等が報告され、9月8日時点で製造再開に向けた工事が進められているとの報告があります。向精神薬1成分については、一時的な供給停止が見込まれる一方、代替薬の案内により医療現場への影響を抑える方針とされています。
地域医療への影響に対しては、通常の施設内対応だけでなく代替的な医療提供も実施されました。内閣府は、八代市をはじめとする医療機関の被害を踏まえ、八代港で防衛省PFI船舶「はくおうII」の一部を活用した救護活動を2026年8月5日から実施すると公表しました。内閣府は、2021年に成立した法律に基づく初めての船舶を活用した医療提供と説明しています。
これらの公表事例から経営層が確認すべきなのは、院内設備の復旧だけではありません。医薬品・医療材料の供給、応援人員の受け入れ、代替診療場所、行政・関係団体との連携まで含めて、診療提供体制を再構成できるかという点です。
令和8年熊本地震の発生後、気象庁は土砂災害、大雨、高潮に関する警報等について暫定的な運用を開始し、球磨川の洪水予報にも暫定基準を設定しました。さらに、八代海沿岸地域では満潮時間帯を中心とした浸水・冠水への注意を呼び掛け、八代港には臨時の津波観測装置を設置しました。これらは、地震発生後の防災対応が揺れへの対応だけで完結せず、降雨、河川、高潮、沿岸監視など複数の監視・判断領域へ広がったことを示すものと考えられます。
このような事実を踏まえた医療機関向けの経営上のポイントとして、災害名ごとに計画を分けるだけでは、診療を支える機能の連鎖的な停止を捉えられないという側面があります。経営層が確認することが望ましいのは、地震か豪雨かという原因だけではなく、電力、水、通信、道路、人員、患者搬送、医薬品・燃料、情報システムが制約されたとき、どの診療を、どの水準で、いつまで維持するかとなります。
救急、入院、手術、透析、分娩(ぶんべん)、検査、薬剤供給等を対象に、停止できない業務、一定時間縮小できる業務、延期できる業務を整理します。単に業務名を並べるのではなく、継続に必要な人員、場所、設備、システム、物資を業務単位で結び付けておくことが重要です。
電力、水、医療ガス、通信、燃料について、通常供給が止まった場合にどの機能を何時間維持できるか、代替手段へ切り替える判断者と手順が定まっているかを確認します。自家発電設備があっても、燃料供給、給電対象、起動確認、保守体制が連動しなければ診療継続にリスクが生じる可能性が高まります。
受変電設備、自家発電設備、燃料タンク、サーバー、通信機器、医療機器、備蓄品の設置場所を、自治体等の浸水想定区域や院内の止水計画と照合します。設備単体の耐震性だけでなく、地震後の降雨や浸水を含む複合条件で利用可能かを確認することが重要です。
交通規制や公共交通の停止が生じた場合を想定し、参集可能な職員、院内宿泊、交代要員、応援受け入れ、患者搬送、医薬品・食料・燃料の調達経路を確認します。特定の道路、事業者、連絡手段だけに依存していないか、代替経路と優先供給の協議状況も確認対象とすることが望ましいと考えます。
電子カルテ、部門システム、画像、検査、薬剤、会計等の停止範囲を整理し、紙運用への切り替え条件、帳票の保管場所、復旧後のデータ入力・照合方法を確認します。通信障害が重なる場合には、院内連絡、外部機関との情報共有、患者情報の取り扱いを含めて検証します。特にクラウド環境では、データは外部にあることから一定の安全性が確保されている可能性は高いですが、そこまでの通信経路・院内ネットワークが影響を受けている場合は、利用できない可能性を考慮することが望ましいと考えます。
災害対策本部の設置基準、代替場所、権限委譲、情報集約様式、意思決定記録を定めます。地域の行政、消防、医師会、他医療機関、委託事業者等との連絡先だけでなく、どの状況で何を要請・共有するかを具体化することが必要です。
事業継続計画(BCP)の見直しでは、設備や備蓄の保有状況を確認するだけでなく、複数の制約が時間差で重なる想定の下で、診療継続の限界と縮小判断を明確にします。例えば、地震直後は自家発電で診療を継続できても、その後の大雨で燃料搬入や交代要員の確保が難しくなる場合を設定します。また、交通規制により患者搬送や物資供給が制約される場合には、受け入れ継続、診療縮小、転送要請を誰がどの情報で判断するかを検証します。これらは今回の個別被害を示す事実ではなく、複合事象を事業継続計画(BCP)へ反映するための観点の1つです。
訓練では、情報が完全にそろう前に、限られた人員と資源をどの診療へ配分するかを判断し、状況更新に応じて方針を修正できるかを確認します。結果は計画書だけでなく、設備投資、備蓄、委託契約、連携協定、職員教育、中期的な経営計画へ反映します。院長・経営層が関与すべき理由は、診療の優先順位、投資、契約、対外調整を部門単独では決められないためです。
オールハザード型BCPは、自然災害、サイバー攻撃等を個別計画として分断せず、重要業務と必要資源を共通の軸で整理し、現状把握、計画作成・見直し、運用定着、訓練・評価、改善までを一貫して進める考え方です。経営層にとっての意義は、事業継続計画(BCP)を防災担当者の文書から、診療機能、投資、委託先、地域連携を横断して管理する仕組みへ転換する点にあると考えます。
【注釈】本稿は、2026年9月15日時点で確認できる気象庁、内閣府、国土交通省等の公表資料に基づいています。状況は随時更新される可能性があるため、最新資料をご確認ください。
出所・参照資料
院長・経営層が確認すべきなのは、事業継続計画(BCP)の有無ではなく、制約下で優先診療を維持する判断基準、権限、資源、代替策が実際に機能するかです。重要業務と必要資源を共通軸に、訓練結果を投資・契約・連携へ反映することが、オールハザード型BCPの実効性を高めます。
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