EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 岩﨑 尚徳
当法人入社後、主として化学品等の製造業、プラントエンジニアリング業、小売業、商社などの会計監査および内部統制監査に携わる。2020年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。当法人 マネージャー。
要点
2024年5月30日、国際会計基準審議会(以下、IASB)は、「金融商品の分類及び測定の改訂-IFRS第9号及びIFRS第7号の改訂」(以下、本改訂)を公表しました。
本稿では、本改訂の主な内容について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
本改訂は、要求事項をより理解しやすくし、一貫性を高めることによって会計実務の不統一に対処するものであり、以下の内容が盛り込まれています。
金融負債の認識の中止に関する明確化により企業は現在の実務を変更することを求められる可能性がある。それらは、外部報告及び会計処理に大きな影響を与える可能性がある。
2021年9月に電子送金システムを通じて受領される現金の支払いで決済される金融資産はいつの時点で認識を中止すべきかという質問がIFRS解釈指針委員会(以下、IFRS IC)に寄せられ、その議論は、電子送金システムを通じて決済される金融負債の認識の中止にまで拡大しました。
IFRS ICは、電子送金システムを通じて決済される金融資産や金融負債の認識の中止のタイミングだけでなく、それ以外の方法で決済される場合(小切手、デビットカードやクレジットカードによる決済等)の認識の中止のタイミングについて実務にばらつきが見られることに留意し、この問題は、IFRS第9号の改訂が求められるほどに重要性があり、したがって、IFRS第9号のPIRのスコープに加えられることになりました。
本改訂は2つの要素で構成されています。
① 金融負債は、決済日時点、すなわち契約に特定される義務が履行される、取り消される又は失効する、あるいは負債の認識の中止に関する要件を満たすことにより金融負債が消滅する時点で認識が中止されることの明確化
② 電子送金システムを使用して全額又は一部が現金決済される金融負債については、企業は、一定の条件を満たす場合には決済日前に負債の認識を中止する会計方針の選択を行うことが認められる
本改訂は、企業が報告期間末時点で処理中の現金の受払いを反映するために現金残高を調整するという、IFRS ICが一部の法域で識別した実務に応えたものであり、これにより、対応する金融負債と金融資産の認識及び認識の中止のタイミングに影響が生じますが、導入される会計方針の選択が適用されるのは金融負債の認識の中止のみです。金融資産の認識の中止は、現金を受領する権利の消滅が引き続き基礎となります。
本改訂は、金融負債について電子送金システムを使用して決済されるという具体的なシナリオに対応しており、小切手やデビットカード、クレジットカードによる支払いなど、その他の金融負債の決済手段には適用されません。金融負債(又はその一部)が決済日以前に認識を中止される条件は次のとおりです。
① 企業は、送金指示の撤回、中止又は取消しを行う実務上の能力を有していない
② 企業は、送金指示の結果として決済に使用される現金にアクセスする実務上の能力を有していない
③ 電子送金システムに関連する決済リスクは僅少である。このことが成立するには、決済システムには次の両方の特徴が備わっていなければならない
(ア)本指示の履行は、標準的な事務管理プロセスに従っている
(イ)i)指示の撤回、中止又は取消しを行う実務上の能力を企業が有しないこととなり、ii)現金が相手方当事者に引き渡されるまでの期間がわずかな期間である
仮に送金指示の履行が、企業が現金を決済日に引き渡す能力に左右されるとしたら、決済リスクは僅少とは言えないと考えられます。
決済日前に金融負債の認識を中止する会計方針の選択を行う企業は、同じ電子送金システムを使用して決済される金融負債のすべてにこの処理を適用しなければなりません。
企業は使用する電子送金システムを見直し、決済プロセスのいつの時点で認識の中止の条件を満たすのか、及び会計方針の選択を適用すべきか否かを理解しなければならない。複数の法域で営業活動をしており、域外への支払い活動が存在する企業にとっては、相当な作業になる可能性がある。
ESG目標の達成度合いに応じて金利が変動する金融資産の会計処理は、適用後レビュー(PIR)で対処すべき優先課題に識別されていました。IASBは、ESG連動の金融商品に固有のガイダンスについては開発しないことを決定しましたが、それは、元本及び元本残高に対する利息の支払いのみであるキャッシュ・フロー(SPPI)評価をはじめ、IFRS第9号の原則主義のアプローチから逸脱する可能性があるためです。
IFRSは2つの広範な改訂を行いましたが、改訂の1つ目として、貸手の補償は基本的な融資の取決めと整合的であるかどうかの評価を明確化しています。
① 重要な検討ポイントは、貸手はいくらの補償を得るかではなく、何に対する補償を受け取ることになるのかである
② 一方で、補償の金額次第では、貸手は基本的な融資のリスク及びコスト以外に対して補償を得ることを示す場合がある
③ 契約上のキャッシュ・フローが、基本的な融資のリスクやコストではない変数(例えば、資本性金融商品の価値やコモディティ価格)に連動している、又は債務者の収益又は利益に対する持分を表す場合には、たとえそれらが市場では一般的であったとしても、基本的な融資の取決めに整合しているとは言えない
改訂の2つ目は、契約上のキャッシュ・フローの時期又は金額を変更することになる契約条件は、以下を考慮してどのように評価すべきかを取り扱っています。
① 変更前後の両方で生じる契約上のキャッシュ・フローは、偶発的事象の発生の可能性に関係なく、SPPI要件を満たすかどうか
② 偶発的事象の性質は、基本的な融資のリスク及びコストの変動に直接関係するものか、及び契約上のキャッシュ・フローは基本的な融資のリスク及びコストの変動と同じ方向に変動するかどうか
本改訂は、偶発的事象の内容が基本的な融資のリスク及びコストの変動に直接関係していない場合でも、契約条件によってはSPPI要件が今なお満たされる可能性があると説明しています。これは、偶発的特性による変更前後の両方で基本的な融資の取決めに整合し、そのような偶発的特性を伴わない同一の金融資産のキャッシュ・フローから大幅に異なることのないキャッシュ・フローが生じることが前提になります。
なお、本改訂の中ではこのアプローチを説明するために2つの設例を紹介しています。
企業は、契約上のキャッシュ・フローが変動する可能性があるすべてのシナリオを検討し、判断を適用して偶発的特性から生じる契約上のキャッシュ・フローがそのような特性を伴わない同一の金融資産のキャッシュ・フローと大幅に異ならないかどうかを評価する必要がある。
FVOCIに指定されている資本性金融商品に対する投資については、本改訂は、それぞれの種類の投資に関して、OCIに計上された期中の公正価値の変動額を、期中に認識が中止された投資に関する金額と、期末時点で保有されている投資に関する金額に区別して表示する開示規定を追加しています。また、それぞれの種類の投資の公正価値の合計額、及び期中に認識が中止された金融商品に関する利得、及び損失の累計額の資本内での振替について、開示が求められます。
基本的な融資のリスクやコストに直接関係しない偶発的事象については、本改訂は、財務諸表利用者が契約上のキャッシュ・フローの時期又は金額を変更する条件の影響をより適切に理解できるように、特に以下に関する新しい開示を導入しています。これらは、偶発的特性を伴う、ESG連動特性を有する金融商品、償却原価又はFVOCIで測定されるすべてのその他の金融資産及び償却原価で測定される金融負債に適用されます。
① 偶発的事象の性質に関する定性的説明
② 契約上のキャッシュ・フローの予想し得る変動に関する定量的情報(例えば、変動幅)
③ 偶発的特性を伴う、金融資産の帳簿価額の総額及び金融負債の償却原価
偶発的特性に関する開示に必要とされる定性的及び定量的データを取得するには相当の労力を要する可能性がある。企業は提供する定性的及び定量的開示の適切な水準を評価する必要がある。
本改訂は2026年1月1日以降開始する事業年度から強制適用されます。企業は、金融資産の分類及び関係する開示の改訂を早期適用し、その他の改訂についてはその後の適用とすることができます。
本改訂のいくつかは既存のIFRSの明確化だとしても、IASBはIFRS第9号を変更していることから、本改訂はIFRS第9号の改訂の発効日からしか適用可能にはならない。
本改訂を早期適用するかどうかを判断するにあたり、企業は、自身の法域で使用が承認される時期を考慮する必要がある。
2024年5月30日、国際会計基準審議会は、「金融商品の分類及び測定の改訂-IFRS第9号『金融商品』及びIFRS第7号『金融商品:開示』の改訂」を公表しました。本稿では、本改訂の主な内容について解説しました。
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