IAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」の改訂案の解説

情報センサー2025年1月 IFRS実務講座

IAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」の改訂案の解説


IASBは2024年9月、IAS第28号の要求事項の明確化及び改訂を図るとともに、新しい開示要求事項を定めた公開草案「持分法-IAS第28号『関連会社及び共同支配企業に対する投資』」を公表しました。持分法に係るこれまでの適用上の疑問点とそれに対応して反映された本改訂の主な内容を紹介します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 板垣 純平

当法人入社後、主として自動車産業の会計監査及び内部統制監査業務に従事。2023年よりIFRSデスクを兼任し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。当法人 シニアマネージャー。



要点

  • IASBは2024年9月に、IAS第28号の要求事項の明確化及び改訂を図るとともに、新しい開示要求事項を定めた公開草案「持分法-IAS第28号『関連会社及び共同支配企業に対する投資』」を公表した。
  • 本改訂案は、連結財務諸表において、関連会社及び共同支配企業に対する投資に、持分法を適用しているすべての企業に影響を及ぼす。
  • IASBは本改訂案について利害関係者からのコメントを募集しており、発効日は当該コメントを勘案して決定される予定である。


Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB又は審議会)は2024年9月19日、公開草案「持分法-IAS第28号『関連会社及び共同支配企業に対する投資』」(以下、本改訂案)を公表しました。

本改訂案は、IAS第28号の要求事項の明確化及び改訂を図るとともに、持分法投資について企業が提供する情報を改善するための新しい開示要求事項を定めています。さらに、IAS第28号の理解可能性を高めるため、要求事項の順番を並べ替えることも提案されています。本改訂案は、連結財務諸表において、関連会社及び共同支配企業に対する投資に、持分法を適用しているすべての企業に影響を及ぼします。また、本改訂案は、個別財務諸表において、子会社、関連会社又は共同支配企業に対する投資に持分法を用いている企業にも適用されます。

IASBは本改訂案について利害関係者からのコメントを募集しており、コメント募集期限は2025年1月20日となっています。また、発効日は当該コメントを勘案して決定される予定です。

本稿は、本改訂案にて示された持分法の適用に係るこれまでの適用上の疑問点とそれに対応して反映された本改訂の主な内容を紹介します。

なお、IAS第28号では、関連会社及び共同支配企業に対する投資について対象としており、両者について表現していますが、本稿においては便宜上、次のとおり記載しています。

  • 投資者又は共同支配投資者を「投資者」
  • 関連会社及び共同支配企業を「関連会社」

また、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、そして、記載された内容は2024年11月末時点においてIASBより公表された内容に基づくものであることから、今後の最終基準の公表までに変更される可能性があることをお断りします。


Ⅱ 本改訂案の主な内容

1. 持分法適用時における所有持分の変動

これまでの適用上の疑問

本改訂への反映

これまでのIAS第28号は、持分法適用時の投資原価の測定方法を含めておらず、金融資産としての持分を従来保有していた投資者が追加の持分を取得し、重要な影響力を獲得して持分法を適用する場合に関連会社に対する投資の当初測定に含めるのは、従来保有していた持分の当初の取得購入原価なのか、又は、IFRS第9号「金融商品」を適用して公正価値として評価した当該持分の帳簿価額なのか、実務上の不統一が生じていた。

また、投資者は関連会社に対する投資時に、関連会社の識別可能な資産及び負債の帳簿価額を公正価値に修正することとなるが、これまでのIAS第28号は、当該公正価値の修正に関連する繰延税金に及ぼす影響を関連会社に対する投資の当初認識時に当該投資の帳簿価額に含めることが要求されているか、適用上の疑問が生じていた。

  • 投資者は、関連会社の取得原価を、移転した対価の公正価値(従来保有していた所有持分の公正価値を含む)で測定する。
  • 識別可能資産及び負債の公正価値に対する持分に関連する繰延税金の影響を、取得原価の配分に含める。

2. 持分法適用後の所有持分の変動

(1) 持分法適用後に追加の所有持分を購入する場合

これまでの適用上の疑問

本改訂への反映

これまでのIAS第28号は持分法適用後に重要な影響力を維持している場合に、関連会社に対する追加持分の購入をどのように会計処理するのかを定めておらず、投資者が関連会社の識別可能な資産及び負債に対する追加持分をどのように測定するか、投資者が追加持分の原価と関連会社の識別可能な資産及び負債に対する追加持分との差額をどのように認識するかについて、実務上の不統一が生じていた。

  • 移転した対価の公正価値で追加の所有持分を認識する(従来保有していた持分の帳簿価額は再測定しない)。
  • 購入日時点における関連会社に係る識別可能資産及び負債の公正価値に対する追加持分(関連する繰延税金の影響を含む)を、取得原価の配分に含める。
  • 移転した対価の公正価値と、識別可能資産及び負債の公正価値に対する追加持分との差額は、のれん又は割安購入益として会計処理する。

(2) 持分法適用後に投資の一部を処分する場合

これまでの適用上の疑問

本改訂への反映

これまでのIAS第28号は、持分法適用を継続している間の関連会社に対する投資の一部の処分(部分的な処分)を投資者がどのように会計処理するのかについての要求事項を含めておらず、実務上の不統一が生じていた。

  • 当該処分した部分を、処分日時点における当該投資の帳簿価額に対する割合として測定する(持分法適用後に追加の所有持分を購入していた場合でも、複数から構成された投資ではなく単一の投資として考える)。
  • 受取対価と当該処分した部分との差額を利得又は損失として純損益に認識する。

3. 損失に対する持分の認識(純損益及びその他の包括利益に対する持分)

これまでの適用上の疑問

本改訂への反映

持分法適用により関連会社の損失に対する投資者の持分を認識した結果、関連会社に対する投資の帳簿価額をゼロまで減額しており、追加の損失を負担する法的義務又は推定的義務を有しない場合、これまでのIAS第28号は、以下の適用上の疑問が生じていた。

  • 投資者が関連会社に対する追加持分を購入する場合、追加の所有持分の購入時に未認識の過去の損失に対して追加の持分の原価から減額(「キャッチアップ」)するか。
  • 投資者は関連会社の純損益及びその他の包括利益において、それぞれを区分して認識するか。また、その場合、どのようにして認識するか。

左記の場合において、

  • 追加の所有持分の購入時に未認識の過去の損失に対して「キャッチアップ」を認識することはしない。
  • 純損益に対する持分及びその他の包括利益に対する持分をそれぞれ認識する。なお、認識する方法として、例えば、関連会社の純損益に関する持分が△200(損失)、その他の包括利益に対する持分50(利益)の場合、投資者は損失として△50を純損益に認識し、利益として50をその他の包括利益に認識する。その結果、関連会社に対する投資の帳簿価額はゼロのままとなる。

4. 関連会社との取引

これまでの適用上の疑問

本改訂への反映

これまで、投資者は関連会社への子会社の売却から生じた利得又は損失をIFRS第10号「連結財務諸表」及びIAS第28号を適用してどのように認識するのか適用上の疑問が生じていた(例えば、投資者が子会社(所有持分100%)と関連会社(所有持分25%)を有していて、当該関連会社に当該子会社を売却した場合)。

これは、親会社が子会社に対する支配を喪失した結果として関連会社に該当することとなった場合、IFRS第10号が適用されるが、IFRS第10号とIAS第28号において、親会社が子会社に対する持分を関連会社(持分法で会計処理される)に売却するダウンストリーム取引が行われ、当該売却によって親会社が子会社に対する支配を喪失することとなる取引について矛盾が生じていることによるものである。

なお、本論点に関するこれまでのIAS第28号及びIFRS第10号の考え方は以下のとおりである。

  • IAS第28号では、関連会社に対する資産の売却により生じる利得又は損失を、当該関連会社に対する関連のない投資者の持分に帰属する部分に制限している。
  • IFRS第10号に基づくと、利得又は損失の全部を認識する。
  • IFRS第10号で用いているアプローチにより、投資者は関連会社とのすべての取引から生じる利得又は損失を全額認識する。

5. 条件付対価

これまでの適用上の疑問

本改訂への反映

これまでのIAS第28号は、持分法適用時及び関連会社に対する追加の所有持分の購入時の条件付対価の認識及び測定についての要求事項を定めておらず、条件付対価について、当初及び事後の測定について適用上の疑問が生じていた。

  • 条件付対価を移転した対価の一部として認識し、これを公正価値で測定する。
  • 事後測定として資本性金融商品に分類した条件付対価は再測定せず、その後の決済を資本に認識する。その他の条件付対価は各報告日時点で再測定し、その変動を純損益に認識する。

6. 減損の兆候

これまでの適用上の疑問

本改訂への反映

これまでのIAS第28号は、関連会社に対する投資の減損の兆候判定において、投資者が投資の公正価値の下落の評価を、当該公正価値を報告日現在の関連会社に対する投資の帳簿価額と当初の取得原価と比較すべきか、適用上の疑問が生じていた。

また、投資の公正価値の下落に「著しいか又は長期にわたる」ものであるかどうか投資者がどのように評価するのか適用上の困難が生じていた。

  • 関連会社に対する投資の減損の兆候判定において、投資者が投資の公正価値を当初認識時の取得原価ではなく帳簿価額と比較するよう、「取得原価」という文言を「帳簿価額」に置き換える。
  • 減損の兆候を示唆する事象の記述において、投資の公正価値の「著しいか又は長期にわたる下落」への言及を削除する。
  • これまでのIAS第28号における例示に投資の公正価値に関する情報を収集する方法についてのガイダンスを追加すること、及びIAS第36号「資産の減損」における減損の兆候の例示に係る文言との整合性を図ることも提案している。

7. 開示

本改訂案では、追加の開示の要求事項として、主に以下の内容を開示することが提案されています。

  • 関連会社に対する投資の帳簿価額に関する期首及び期末残高の調整表
  • 条件付対価契約の内容及び支払金額の算定基礎、認識した金額及び当該金額の変動、考え得る結果の範囲
  • 投資者がダウンストリーム取引(投資者から関連会社への売却)から生じた利得又は損失の金額


8. 経過措置

本改訂案では、移行時において、以下の状況を除き、改訂案を将来に向かって適用することが提案されています。

  • 投資者が、関連会社と過去に取引を行ったことがある場合、当該取引から生じた利得又は損失のうち、従来は認識が制限されていた部分を、移行日時点における投資の帳簿価額及び利益剰余金の修正として認識する必要がある。
  • 移行日時点で、関連会社に関する条件付対価が存在する場合、当該条件付対価を認識し、移行日時点の公正価値で測定する必要がある。これに伴う変動は、投資の帳簿価額の修正として認識する。

Ⅲ おわりに

冒頭に記載したとおり、コメント募集期限は2025年1月20日となっており、IASBは本改訂案の提案に関するコメントレター及びその他のフィードバックを考慮して、改訂案を発行するかどうかを決定する予定です。

本改訂案は、これまでのIAS第28号に関する適用上の疑問点への回答によって、実務の不統一を減少させること目的としており、本改訂案で提案された内容のとおりに基準化された場合には実務への影響が生じると考えられるため、今後の動向に注視する必要があります。



サマリー

IASBは2024年9月、IAS第28号の要求事項の明確化及び改訂を図るとともに、新しい開示要求事項を定めた公開草案「持分法-IAS第28号『関連会社及び共同支配企業に対する投資』」を公表しました。持分法に係るこれまでの適用上の疑問点とそれに対応して反映された本改訂の主な内容を紹介します。


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