EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 藤原 敏之
当法人入社後、主として自動車産業の会計監査及び内部統制監査業務に従事。2024年よりIFRSデスクを兼任し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事。
要点
国際会計基準審議会(以下、IASB)は2024年4月、IAS第1号「財務諸表の表示」に置き換わる新基準としてIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」を公表しました。適用開始時期は2027年1月1日以降開始する事業年度からとされています。
本基準は財務諸表の比較可能性と透明性の向上を通じた「投資家との業績報告に係るコミュニケーションの改善」を目的として、新たな要求事項(主に「損益計算書の小計と区分」「経営者が定義した業績指標〈MPM:Management-defined Performance Measures〉」「集約と分解」等)を設けています。
IFRS実務講座においては全3回にわたって、IFRS第18号への対応を検討する上で論点となるトピックの中から、より具体的な論点の一部を紹介します。第1回となる本稿では、「損益計算書の小計と区分」のうち、収益及び費用の分類に関連する論点を扱います。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
従来は、損益計算書上、特定の小計(いわゆる、段階損益)の表示は求められていませんでしたが、比較可能性改善の観点から、「営業区分」「投資区分」「財務区分」の3つの新しい区分と、営業区分に分類したすべての収益及び費用で構成される「営業損益」及び営業損益と投資区分に分類した収益及び費用で構成される「財務及び法人所得税前純損益」という2つの新しい小計が設けられ、各区分に分類される収益及び費用が整理されることとなりました(<図1>参照)。
図1 損益計算書における新たな分類区分のイメージ
この損益計算書の区分については、IFRS第18号の適用前後において同じ「営業損益」という小計を表示する場合であっても、ある収益又は費用が営業損益の計算に含まれるかどうかが異なる場合や、事実及び状況に応じて判断が求められる場合が想定されるため、十分な検討が求められます。
本稿では、実務の場面で論点になることが多いと考えられる「子会社売却に伴う利得又は損失の分類」及び、「投資不動産に関連する収益及び費用の分類」の2つの論点について扱います。
IFRS第18号では、基本原則として、資産又は負債の認識の中止又は分類の変更から生じる収益又は費用を、その直前に当該資産又は負債から生じた収益及び費用と同じ方法で分類することを要求する、つまり、それまで計上されてきた「古い」区分で分類しなければならない、とされています。
ただし、単一の取引の結果として、資産グループの全体(又は資産及び負債のグループの全体)の認識の中止がなされた場合、これらの資産(又は資産及び負債)から生じる収益及び費用は、取引直前には異なる区分に分類されていた可能性があります。そのようなケースにおいて、IFRS第18号では、グループ内に関連する収益及び費用について営業区分に分類されていた資産が1つでも存在する場合には、グループ全体の収益及び費用を営業区分に分類しなければならないとされています。したがって、このような取引からの収益及び費用は次のように分類されます。
この点、子会社への投資を売却するケースに当てはめてみると、売却以前に子会社がどのような資産を保有していたかがポイントになります。具体的には、連結財務諸表において営業区分及び投資区分に分類されていた収益及び費用を生み出す資産の両方を、子会社が保有していたのであれば、当該子会社の売却による利得又は損失は、営業区分に計上されます。この場合、営業と投資の各区分に金額を配分することはしません。
一方で、子会社が投資不動産(及び関連する法人所得税資産)のみを保有しており、当該投資不動産からの収益及び費用が、以前は投資区分に分類されている場合には、当該子会社の売却による利得又は損失は、投資区分に計上されます(資産への投資が主要な事業活動である投資不動産会社等は別途要求事項があります)。
これらに加え、売却する子会社がIFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」に基づく非継続事業の定義を満たす場合には、すべての収益及び費用が、非継続事業区分に含められることになります。つまり、当該子会社売却に伴う利得又は損失は、損益計算書上、非継続事業からの純損益に含める形で、継続事業からの純損益と分けて表示することになります。
これらをまとめると<図2>のようになります。
図2 子会社売却に伴う利得又は損失の分類
なお、在外営業活動体の処分の一環で資本(例えば、為替換算調整勘定)から振り替えられる為替差額は、ここでいう子会社売却に伴う利得又は損失の一部を構成するため、同様に<図2>に基づいた区分へ含める必要があります。
IFRS第18号第53項では、投資区分には以下の投資から生じる特定の収益及び費用が含まれると定められています。
(a) 関連会社、共同支配企業及び非連結子会社に対する投資
(b) 現金及び現金同等物
(c) その他の資産(個別にかつ企業の他の資源からおおむね独立してリターンを生み出す場合)
そして、IFRS第18号第54項では、投資区分に分類しなければならない、上記に列挙される投資から生じる特定の収益及び費用を次のとおり定めています。
投資不動産とは、基本的に賃貸収益若しくは資本増価又はその両方を目的として保有する不動産であり、それを保有又は処分する際には、さまざまな収益及び費用が発生します。
現行のIAS第1号に基づく実務では、これらの収益及び費用は営業損益の計算に含まれるケースが考えられます。一方、IFRS第18号では、投資不動産及び投資不動産が生み出す賃料債権は、個別にかつ企業の他の資源からおおむね独立してリターンを生み出す資産の例として挙げられており、投資不動産への投資が主要な事業活動ではない場合、投資不動産に関連する収益及び費用のうち、IFRS第18号第54項の要件を満たすものについては投資区分に分類され、それ以外のものは営業区分に分類されることになります。
以上を踏まえると、投資不動産に関連する収益及び費用のうち、賃貸収益に加えて、例えば費用処理される取引費用や売却費用、公正価値の変動による損益、減価償却費及び処分損益等は投資区分に分類されます。
一方で、投資不動産の運営に対して直接発生する費用は、前述した投資区分の要件を満たさないため、営業区分に分類されます。例えば投資不動産に関連した備品の購入や固定資産税の支払いなどが発生した場合は、営業区分に分類することとなります。
これらをまとめると<図3>のようになります。
図3 投資不動産に関連する収益及び費用の分類
なお、投資不動産への投資が主要な事業活動であると判断される場合、<図3>で投資区分に分類されるとした収益及び費用のうち、主要な事業活動として投資を行っている投資不動産から発生する収益及び費用は営業区分に分類することになる点は、留意する必要があります。
IFRS第18号はほとんどのIFRS報告企業の財務諸表に影響を及ぼす可能性があることから多くの関心を集めています。適用開始時期が2027年1月1日以降開始する事業年度と近づいてきていることに加え、今回取り上げた「損益計算書の小計と区分」をはじめとする新たな要求事項に関して、基準の理解及び適用方法の検討、システム対応の必要性の検討、比較情報の作成といった考慮事項が多くあるため、適用の準備を早めに進めることが推奨されます。
Applying IFRS:IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」2025年7月更新版は、本稿で紹介した論点以外にも、IFRS第18号適用上のさまざまな論点の解説が充実しています。情報センサーの本シリーズ第2回では、MPMを取り扱う予定です。あわせてぜひ、ご一読いただけますと幸いです。
2025年7月にEYが公表した「Applying IFRS:IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」2025年7月更新版」では、2027年1月1日以後に開始する事業年度より原則適用となるIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」について、EYの見解とともに解説しています。本稿では、Applying IFRSで取り扱っている論点から、収益及び費用の分類に関する論点の一部を紹介します。
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