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保険業界のCROが2026年に取るべき3つの戦略


第3回 EY/IIF調査では、保険業界のCRO(最高リスク責任者)は、スピード、ボラティリティ、相互接続性を特徴とするリスク環境の変化に直面していることが明らかになりました。


要点

  • 地政学、テクノロジー、気候変動、規制といった非線形な要因が重なり合い、保険業界が直面するリスクは急速に増大・複雑化している。
  • CROにとっての全社レベルの優先事項は、依然として、サイバーリスク、サードパーティリスク、オペレーショナルレジリエンス、AIである。
  • CROは次世代のリスクマネジメントに不可欠な要素として、AIなどの先進技術、質の高いデータ、デジタルスキルを備えた人材を挙げている。


EY Japanの視点

保険業界のCROに統合対応が求められる理由とは

保険会社を取り巻くリスクは、従来の財務・非財務リスクに加え、サイバー、サードパーティ、AI、地政学などが相互に連関し、複雑性と顕在化スピードが飛躍的に高まっています。
 
この環境下では、サイロ型管理から、リスク間の連関を前提とした統合的リスクマネジメントへの転換が不可欠です。
 
CROには、AI等のテクノロジー活用による効率化・高度化に加え、エマージングリスク管理、シナリオ分析、リスクカルチャーの強化、および事業部門との協働を通じて、信頼と持続的成長を牽引する役割が求められています。
EY Japanの窓口

リスクの発現スピードと複雑さが一段と増しています。かつては段階的に顕在化していたリスクは、今では予兆なく顕在化します。しかも、以前より短時間での意思決定を迫られます。組織の一角で起こった混乱が、テクノロジー、サードパーティ、オペレーション、そして市場へと連鎖的に波及し、リスクマネジメントの枠組みが想定していない事態までも生じています。

現在は NAVI が特徴の世界にあります。 — 変化が非線形で突然の転機をもたらし(nonlinear)、加速することでより迅速な対応が必要となり(accelerated)、かつ変動的であるため企業のアジリティが試されるとともに(volatile)し、相互に関連したリスクや影響が波及していく(interconnected)環境にあるのです。この環境はさらに、最高リスク責任者(CRO)の役割を根本から再定義しつつあります。

変化を続ける保険業界のリスク環境

第3回 EY/IIF グローバル保険リスクマネジメントサーベイの結果は、段階的に改善していくアプローチから、より統合的で実行重視のリスクリーダーシップへの転換を示す3つの重要な行動を明らかにしています。

リスク管理の焦点は、もはや従来の事業リスクから組織を守ることにとどまらず、次に到来する脅威や混乱、イノベーションが組織にどのような変化を迫るのかを予測し、戦略目標との整合性を保つことにあります。当面の重要課題はサイバーリスクやテクノロジーリスクです。またAIと自動化は、試験運用から大規模展開へと急速に進んでいます。オペレーショナル・レジリエンスは、もはやコンプライアンス上の義務ではなく、企業や顧客からの期待水準となり、リスク管理を担う部門は、将来を見据えたインサイトをビジネスパートナーに提供する役割へと再定義されつつあります。

CROの役割は、純粋に技術的なものから、取締役会に信頼されるアドバイザーへと進化しています。

地域、事業分野、組織規模が多様なCROの見解を基にした今回の調査は、CRO職が転換期を迎えていることを示しています。変化が常態化し混乱が前提となる中、リスクリーダーシップは、防御から戦略的な機能へと進化し、保険会社が突発的な事態に対応し、成長を実現し、確信を持って前進できるよう支える存在となりつつあります。

ある回答者は、「CROの役割は、純粋に技術的なものから、取締役会に信頼されるアドバイザーへと進化しています」と述べています。

EY/IIF グローバル保険リスク管理サーベイをダウンロードする

1. サイバー防御とフロントライン防御の強化

サイバーリスクは依然としてCROの最優先課題です。AIを活用した攻撃といったデジタル脅威の増加に加え、サードパーティ・エコシステムの拡大、地政学的緊張、そしてデータ集約型業務の増加を背景に、その優先度は一層高まっています。変化したのは脅威の規模だけでなく、その相互関連性です。サイバーインシデントは現在、ベンダー、重要サービス、顧客チャネルへと急速に波及し、局所的な障害を企業全体に及ぶ事象へと変えています。

こうした現実から、保険会社の構造的な弱点が明らかになっています。販売パートナー、サードパーティ管理者、クラウドプロバイダー、モデリングベンダーは、もはや外部の依存先ではなく、サービスデリバリーの中核に位置する存在です。

そのため、サードパーティリスクは、システム上重要なエクスポージャーとなっています。サイバーリスク、サードパーティリスク、オペレーショナルレジリエンスを別々の領域として扱うことは、混乱が波及する実態と合わなくなっています。

先進的なCROは、それらの領域を単一の統合モデルへまとめることで対応しています。つまり、定期的な評価から継続的なモニタリングへ、分断された体制から全社的ガバナンスへと移行するのです。

ある回答者は、「ITセキュリティやサードパーティリスクの複雑化が進み、これまで以上に注意とリソースを割く必要が生じています」と述べています。

具体的な対応策は、次の通りです。

  • 重要業務との対応関係に基づき、サードパーティやその再委託先を重要度別に階層管理する
  • 継続的モニタリングをエクスポージャーや集中リスクにおいても強化する
  • シナリオテストの拡充と取締役会へのレジリエンス報告を強化する
  • 目標復旧時間(RTO)や目標復旧時点(RPO)、データ復旧の実証など、レジリエンスに関する期待値を契約に盛り込む

またCROは、ID管理や特権アクセス管理(PAM)の強化に加え、クラウドおよびサードパーティ環境全体に一段と強力なデータ損失対策を導入することで、フロントライン防御の強化も進めています。さらに、フィッシングやビジネスメール詐欺(BEC)に対する防御を強化し、定期的に机上演習を実施してユーザーのレジリエンスを高めています。脅威の検出、トリアージ、統制の有効性評価の自動化にAIを用いるケースも増えています。

こうした取り組みの目標は万全の態勢です。突発的な事態に対応し、迅速に回復し、確信を持ってレジリエンスを発揮できる態勢です。

ITセキュリティやサードパーティリスクの複雑化が進み、これまで以上に注意とリソースを割く必要が生じています。
サイバーリスクは依然としてCROの最優先課題
80%
80%
のCROが、今後12カ月間で最も注意を要するのはサイバーセキュリティリスクだと回答した。
77%
77%
が、サードパーティおよびベンダーのサイバーリスク管理を、サイバーリスクにおける最重要項目トップ5に位置付けた。

2. ガバナンス、データ、統制の高度化

当面の議題ではサイバーセキュリティが大きな比重を占める一方で、今回の調査が明確に示すのは、保険会社にとってガバナンスと統制が依然として重要な優先課題であることです。この傾向は、AIガバナンスの仕組みを一層成熟させる必要性も相まってさらに強まっています。規制当局の監視が変化し、規制要件も地域ごとに分化する中、CROは、AIによって新たに生じる多様なリスクに対し、リスクフレームワークや内部統制、責任体制が、十分に対応できることを示すよう求められています。
 

こうした基盤の高度化は、まずガバナンスから始まります。先進テクノロジーの導入が加速する中、CROは、ガバナンス体制やリスクフレームワークの刷新を進めています。具体的には、統制体系や標準の見直し、責任の明確化、統制の自動化、さらにはAIを活用したテスト、モニタリング、例外検知への投資などです。これには、急速に変化するリスク環境に対応したサードパーティリスク管理の新たな手法も含まれます。統制関連の定量的な重要業績評価指標(KPI)や重要リスク指標(KRI)が一般化しつつあり、取締役会や経営幹部はリアルタイムのリスクインサイトに自らアクセスし、指標に基づく監督を行えるようになっています。

 

データは極めて重要な要素です。AI導入や、よりリアルタイム性の高いリスクインサイトの実現を阻む最大の要因は、依然として、分断したレガシー環境や不十分なデータ品質です。これに対応するため、先進的な企業では、重要なリスクデータや規制データについて、明確なデータリネージやメタデータ、唯一の信頼できる情報源(SSoT)を備えたリスクデータハブを構築しています。データ集約の自動化と、レガシーシステムからのデータ供給の合理化を進めることで、業務上の摩擦を低減し、即応性を高めています。

 

まだ成熟途上ながら重要性が高まっている領域がデジタル資産です。暗号資産やトークン化資産、ステーブルコインへのエクスポージャーについて、多くの保険会社は明確なリスクポジションをまだ確立できていません。この状況はCROが早期に主導的役割を果たす機会を生んでいます。デジタル資産をめぐる動きが拡大する前に、エクスポージャー上限の設定、ポリシーの更新、統制や第三者デューデリジェンスの組み込みを進める好機なのです。

 

最終的には、ガバナンスの強化やデータ基盤の刷新、新たなリスク領域に向けて積極的な対応を進めるCROこそが、複雑化する環境においても最も優位な立場を確保し、スケーラブルな統制の整備、規制当局からの信頼確保、リアルタイムなリスクインサイトの提供を実現できるようになります。

テクノロジーを活用したリスク管理
60%
60%
のCROが、リスクテクノロジーの高度化に向けて生成AIを利用したリスク管理ソリューションを優先課題とした。
57%
57%
の企業が、リスク管理における主要なAI活用領域として、LLM統合などのチャットボット利用を挙げた。
33%
33%
のCROが、インサイトの質と頻度を高めるため、データアクセスとデータ活用の改善が最優先だと回答した。

3. デジタルの未来を見据えた、リスク人材とオペレーティングモデルの変革

テクノロジーはリスクの性質を変えるだけでなく、リスク業務の在り方も変えています。AIは、保険引受、保険金請求、不正対策、統制、サイバー、顧客業務といった領域に急拡大しており、機動的なガバナンス体制と柔軟なリスク管理アプローチの重要性がますます高まっています。リスク部門においては、人員規模の拡大というより能力強化に重点を置いた変化です。

テクノロジーがもはや制約要因ではない中、好奇心や創造性といった資質がチームにとって一層重要になっています。

調査結果によると、CROは、人員を横ばいまたは漸増にとどめつつ生産性を高めるために、オペレーティングモデルの再設計に取り組んでいます。定型業務は自動化が吸収しつつあり、分析やテストはAIによって加速しています。最後に残り、しかも重要性を増しているのが、判断、解釈、そして事業部門との連携です。

あるCROは、「テクノロジーがもはや制約要因ではない中、好奇心や創造性といった資質がチームにとって一層重要になっています」と述べました。

こうした変化を後押しするため、CROには次のような取り組みが求められます。

  • AIリテラシー、データ活用力、自動化スキル、アジャイルな業務遂行力の育成をターゲットにしたスキルアッププログラムに投資し、加えてサイバー等の専門分野ではスペシャリストを雇用する
  • グローバルなケイパビリティ・センターとAIを利用したワークフローを活用しながら、プロダクトやプラットフォームを中心に連携するリスク組織を再設計する
  • 専門領域の経験とAIやデータのスキルを兼ね備え、技術的知見をビジネス上の意思決定につなげられる専門家として、ハイブリッド型のAIリスクスペシャリストという役割を設ける
  • 画一的な階段型のキャリアパスから脱却し、格子状に広がる柔軟なキャリアパスを整備して、適応力・好奇心・部門横断的な経験を高く評価する

将来のリスク部門は、よりスリムでデジタルに精通し、事業運営やイノベーションに深く組み込まれる存在へと進化していくでしょう。CROにとっての課題は、この変革を、リスク管理部門の独立性とインサイトの質を弱めるのではなく、むしろ強化するように実現させることです。

今後3年間でリスク管理を強化するために重要となるスキルセット:

  1. 変化するリスク環境への適応力(66%)
  2. デジタルに関する知見(テクノロジー、データ、AI、プログラミングなど)(55%)
  3. ソフトスキル(リーダーシップ、関係構築力、コミュニケーション力、交渉力、能動的なチーム連携など)(49%)
  4. 事業や製品に対する理解(45%)
  5. 1つ以上の分野における高い専門性(信用、サイバーなど)(24%)
リスク管理人材の変革
78%
78%
が、従来は手作業に依存していた業務が減ると予想(テスト、データ分析、レポーティングなど)。
63%
63%
が、データ分析、モデル解釈、AIツールのスキルアップの重要性が一層高まると予想。
50%
50%
が、専門領域の知識とAIスキルを兼ね備えた、ハイブリッド型のAIリスクスペシャリストが登場すると予想。

保険業界におけるリスクリーダーシップの将来像

現在の環境では、レジリエンスとはもはや突発的な事態に対応することだけではなく、次に備えることを意味します。新たなテクノロジーの登場、進化する市場構造、長引く地政学的な不確実性によって、リスクに関わる優先事項は今後も変化し続けるでしょう。その変化は想像を上回る速さで、しかも従来の線形的な計画では対応しきれない形で現れます。

CROに求められるところは明らかです。CROの役割は、組織が混乱を予見し、果断に対応し、不確実性の中でも確信を持って行動できるようにすることです。そのために不可欠になるのは、事業部門やテクノロジー部門との連携、サイバーリスク・サードパーティリスク・オペレーショナルレジリエンスの緊密な統合、デジタルトランスフォーメーションを支えるガバナンス・データ・統制の強化、そしてデジタルに精通し迅速に判断できるリスク人材です。

こうした優先事項に取り組むCROは、単なるリスク低減にとどまらない成果をもたらします。先見的な分析、全社的なリーダーシップ、デジタルを活用したオペレーティングモデルを積極的に取り入れることで、リスク管理を制約ではなく戦略的優位の源泉へと変え、組織の成長の方向性を形づくっていくことができます。

EY/IIF グローバル保険リスク管理サーベイをダウンロードする

サマリー

第3回 EY/IIF グローバル保険リスクマネジメントサーベイの調査結果は、リスクリーダーの役割が監督やコンプライアンス業務から戦略的リスクリーダーシップへと移行していることを示しています。現在のCROは、リスクがかつてないスピードで顕在化し、従来のモデルでは予測しにくい形で企業全体へ連鎖的に波及するという環境下で業務を担っています。ここに挙げた3つの行動、すなわちサイバー防御の強化、デジタルトランスフォーメーションを可能にするガバナンス・データ・統制の高度化、そしてデジタル化が進む未来に向けたリスク人材とオペレーティングモデルの再構築は、CROがこうした環境に対応するうえで支えとなるはずです。


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