EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY税理士法人 国際税務・トランザクションサービス 移転価格アドバイザリー 中山 景介
2018年4月に当法人に入社。入社後は、製薬、商社、化学、食品、鉄鋼及び産業機器等、幅広い業種に対する移転価格アドバイザリー業務に従事。2024年3月よりEYジャカルタ事務所に赴任し、インドネシアの日系企業に対して移転価格を中心とした税務サービスを提供。
要点
インドネシア財務省は、関連者間取引に係る独立企業原則の適用に関する新規則PMK172を2023年12月29日に公布しました。PMK172には、独立企業原則の適用、移転価格文書化要件、事前確認及び相互協議に係る規定等が含まれます。インドネシアでは、従前より、日系企業を含む外資系企業を対象とした移転価格課税が発生していましたが、本税制改正により、今後はこれまで以上に積極的な移転価格課税が多発することが想定されます。日系企業の皆さまにおかれましては、移転価格課税リスクを最小化するために、PMK172の内容を理解いただき、PMK172にのっとった移転価格文書化対応等を行うことが求められます。本稿では、PMK172の概要及び改正内容のうち特に日系企業の皆さまにとって影響の大きい項目について解説します。
なお、文中の意見に係る部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
インドネシア財務省は、新規則PMK172を2023年12月29日付で公布しました。PMK172の公布に伴い、以下の既存のインドネシア移転価格規則は無効となります。
PMK172は、上記既存の3規則の内容を統合するとともに、既存の規則には含まれていなかったインドネシア独自の移転価格に係る新規則も追加しています。PMK172により追加された新規則のうち、特に重要な項目は「独立企業原則に係る規定」の改正及び移転価格文書における「事前分析」の概念の導入となっており、これらの新規則はインドネシアにて事業を行う日系企業にも大きな影響を及ぼします。
PMK172により「独立企業原則に係る規定」の内容が改正されました。改正により、関連者との取引価格の妥当性を検証する経済分析について、インドネシア独自の分析が求められます。重要な改正点は「地理的基準の重視」と「単年度ベースでの分析の推奨」です。
ベンチマーク分析により比較対象情報を選定する際に、今後は地理的比較可能性が重視されます。PMK172は、明示的に、同程度の比較可能性を有する複数の地域にまたがる比較対象情報が利用可能な場合、検証対象と同じ地域に属する比較対象情報のみ分析に用いるべきと定めています。本原則は、検証対象の所在地に関わらず適用されます。
例えば、これまではインドネシア子会社の利益率を検証する際に東南アジア諸国連合(ASEAN)地域に所在する類似第三者企業を選定し利益率を比較していましたが、今後は、選定した類似第三者企業に1社でもインドネシア所在の企業が含まれていた場合、基本的にはインドネシア所在企業のみを抜き出してインドネシア子会社の利益率と比較する形となります。
PMK172は、利益水準指標を使用する分析を実施する場合、複数年度での分析が比較可能性を高める場合を除き、単年度での分析を実施すべきとしています。PMK172により、複数年度での分析を実施する場合、その分析に係る正当性の説明責任が納税者に課せられます。
例えば、これまではインドネシア子会社の単年度の利益率をベンチマーク分析にて選定した比較対象企業の3年加重平均の利益率と比較していましたが、今後は、基本的には比較対象企業の直近単年度の利益率と比較する形となります。
PMK172により「事前分析」の概念が導入されました。改正により、納税者は、役務提供取引や無形資産取引等の特定の関連者間取引について、移転価格文書(ローカルファイル)を準備する前に、「事前分析」として関連者間取引が独立企業原則に即している点を裏付ける証拠を収集し分析することが求められます。「事前分析」は2024年度以降を対象とする移転価格文書より対応が必須となります。「事前分析」が実施されていない関連者間取引については、独立企業原則に則していないとみなされ、税務調査官が更正を行うことが可能となります。
「事前分析」項目の例は、以下のとおりです。これまでは税務調査や裁判にて税務当局の要求に基づき必要に応じて証拠資料を収集し分析していたような細かな項目について、今後はあらかじめ全ての項目について納税者側で分析し、「事前分析」として移転価格文書準備前にまとめておく必要があります。
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役務提供取引 |
無形資産取引 |
金融(ローン)取引 |
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前述のとおり、日系企業の皆さまにおかれましては、移転価格文書において今後はPMK172にのっとった経済分析、事前分析及び移転価格文書の作成が求められます。PMK172にのっとった対応が行われていない場合は、税務調査にて納税者側で実施している移転価格分析が認められず、税務当局独自の判断で移転価格が更正され、課税を受けるリスクが極めて高くなります。
また、移転価格分析には取引相手先の関連者の協力も欠かせません。特に「事前分析」の対応に当たっては、インドネシア子会社側だけでは情報の収集や分析の実施が難しい部分も多く、取引相手先(日本本社やシンガポール・タイの地域統括会社)との協働が必須となります。このため、今後のインドネシア移転価格対応に当たっては、これまで以上に密にグループ会社間のコミュニケーションをとる形が推奨されます。
インドネシア税務において、従前より移転価格は大きなリスクの存在する重要な対応領域ではありましたが、PMK172の公布により、移転価格対応の重要性がより一層高まっています。税務調査にて移転価格課税を受けた場合、インドネシア国内での税務紛争プロセス(異議申立、税務裁判、最高裁)又は取引相手国を含めた相互協議にて二重課税の排除を試みる形となりますが、どちらのプロセスも多大な時間と工数が発生します。初期段階である税務調査にて移転価格課税を受けるリスクを最小化するためにも、PMK172の内容を踏まえた移転価格分析及び移転価格文書の具備が重要となります。
PMK172に係る対応に当たっては、専門知識を有するアドバイザーのサポートや取引相手の国外関連者とのグローバルな連携が必須となります。EYはグローバルにネットワークを有し、世界各国にて移転価格サービスを提供していますので、お困りの際はいつでもご相談いただけますと幸いです。
インドネシア移転価格税制改正の概要ならびに改正内容のうち日系企業に特に大きな影響を与える「独立企業原則に係る規定」の改正及び移転価格文書に関する「事前分析」の概念の導入について解説します。
私たちの国際税務専門チームがEYのグローバル・ネットワークを駆使して分析、報告、リスクマネジメントや、クロスボーダー取引に関する複雑な税務問題の解決を支援します。
移転価格サービス(Transfer Pricing Services)
移転価格(Transfer Pricing〈TP〉)とは、グループ企業との取引を通じた所得の海外移転を防止し、適正な国際課税を行うことで国際的な所得の適正配分を図ることを目的とした税制です。EYのTPチームは、移転価格文書化、移転価格ポリシーの策定、事前確認(APA)及び税務調査対応等のコンプライアンス対応に加え、近年複雑化する税制や事業を考慮した企業のガバナンス体制の構築を全面的に支援します。
税の問題は国境を超えてつながりつつあります。各国政府は納税者情報の収集と共有を推進しているため、ある国・地域における税負担などの変化がグローバルレベルで影響する可能性があります。その結果、税務争訟は1カ国の納税者対税務当局という二面的な関係から、多国間かつ多面的な関係へと変化しつつあります。
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