EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY韓英会計法人 日本事業本部 日本公認会計士 花藤 則保
2024年7月より韓国ソウルに駐在し、日系企業をサポートしている。韓国赴任前は、日本において監査パートナーとして、テクノロジー産業、グローバル企業を中心に、クライアントサービスに従事。
要点
韓国に進出している日本企業、進出を検討している日本企業は多いですが、日本本社で韓国現地の制度を詳細まで把握できているケースは多くないと考えられます。現地マネジメントに任せきりになりがちな現地の決算や監査、その他の関連する規制を理解することは、本社からの現地コンプライアンスのモニタリング強化、グループ全体のガバナンスの強化にも有益だと考えられます。
ここでは、韓国の会計制度、監査制度、K-SOX(韓国内部会計管理制度)と法人税に加え、韓国特有の制度について概要を説明します。
なお、文中の意見に係る部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
韓国には、以下の2つの会計基準が存在します。
すべての上場会社に連結財務諸表と個別財務諸表の作成及び開示が求められており、国際会計基準(IFRS)を基に逐語翻訳をして制定された韓国採択国際会計基準(K-IFRS)が適用されています。非上場会社もK-IFRSを任意で適用可能ですが、会計処理や決算業務の負担軽減のために簡素化された一般企業会計基準(K-GAAP)を選択するのが一般的です。
K-IFRSとK-GAAPの主な相違点は、<表1>のとおりです。
表1 K-IFRSとK-GAAPの主な相違点
また、J-GAAPとK-GAAPの主な相違点は、<表2>のとおりです。
表2 J-GAAPとK-GAAPの主な相違点
韓国でも上場会社と上場準備会社については、外部監査が求められています。
これらに加え、一定規模以上の会社でも、外部監査が必要になります。外部監査が必要となる会社は、以下の1.または2.に該当する場合です。
小規模会社とは、上場会社を除く会社のうち次の5項目のうち3項目以上に該当する会社の意。
直前事業年度末において、①資産総額120億ウォン未満、②負債総額70億ウォン未満、③売上高100億ウォン未満、④従業員数100人未満、⑤社員数50人未満(有限会社に該当)
外部監査人の監査報告書は、定時株主総会の1週間前までに提出することが求められています。
上場会社については、長文式監査報告書となり、いわゆるKey Audit Matters(監査上の主要な事項)が記載されます。
外部監査対象会社のうち、株式上場会社及び直前事業年度末の資産総額が5,000億ウォン以上である非上場株式会社(開示対象企業グループに属する非上場法人の場合、資産総額が1千億ウォン以上である非上場株式会社)が義務付けられています。
内部会計管理者として指定された1名の常勤理事は、事業年度ごとに「内部会計管理制度運営実態評価報告書」を理事会及び監事に提出し、監事は内部会計管理制度の運営実態についての「監事の評価報告書」を理事会に提出しなければなりません。なお、代表理事は「内部会計管理制度の運営実態評価報告書」を株主総会で株主に報告しなければなりません。
J-SOXは連結ベースなのに対し、K-SOXはこれまで単体ベースでした。ただし、韓国でも大規模上場会社を皮切りに、順次に連結ベースでの内部会計管理制度が適用されており、現状では2030年にすべての上場会社に対して連結ベースでの適用を完了する予定となっています。
外部監査人は、会社の「内部会計管理制度実態評価報告書」を監査し、「内部会計管理制度監査報告書」を年1回財務諸表の監査報告書と共に提出する必要があります。ただし、資産総額1千億ウォン未満の上場会社及び非上場会社については、レビューを行った後、「内部会計管理制度検討報告書」を提出しますが、これは監査意見ではなく、レビュー報告書となります。
韓国の法人税は、日本と似ている点が多くあります。
法人税申告書は、期末日後3カ月以内に、税務当局に財務諸表と法人税申告書を提出しなければなりません。法人税中間予納制度もあり、中間予納期間は、事業年度開始日から6カ月間で、申告は中間予納期間が過ぎた日から2カ月以内に申告しなければなりません。また、中間予納をする方法は、(1)直前事業年度の法人税算出額基準による方法と、(2)当該中間予納の実績に基づいて仮決算をする方法の2つあります。
法人税の区分、適用税率は、<表3>のとおりです。
表3 法人税の概要
*1 日本は単一税率であるが、韓国では、課税標準に応じて、2億ウォン以下9%、2億ウォン超200億ウォン以下19%、200億ウォン超3,000億ウォン未満21%、3,000億ウォン超24%を適用する累進税率。
*2 日本の事業税に相当。地方所得税も課税標準に応じて、2億ウォン以下0.9%、2億ウォン超過200億ウォン以下1.9%、200億ウォン超3,000億ウォン未満2.1%、3,000億ウォン超2.4%を適用する累進税率。
*3 恒久的施設のない外国法人に支払う場合に適用される源泉徴収税率。租税条約により軽減税率が適用される可能性がある。
*4 租税条約によっては賃貸所得が使用料に分類されるケースがある(例:日韓租税条約)。
*5 控除限度は当該年度所得の80%が上限。ただし、中小企業は100%。
上場、非上場を問わず外部監査(法定監査)対象会社の財務諸表は、DARTと呼ばれる電子開示システムにより一般に開示されています。
外部監査人との監査契約は、事業年度終了日45日以内に締結することが求められています。
監査人を変更する場合は、監査契約締結の2週間前までに前任監査人の意見陳述権を保障するための手続きが求められます。また、監査契約締結から2週間以内に、金融監督院に監査人変更選任の内容をオンラインで登録する必要があります。
韓国には、監査人指定制度が存在します。これは、6事業年度は企業が監査人を自由に選任できますが、その後3事業年度は証券先物委員会が指定する監査人の会計監査を受けなければならない、という制度です。
2020年から適用されていますが、適用対象となる上場会社が多く、大型上場会社から順次適用しています。
対象は上場会社、及び資産総額5,000億ウォン以上かつ当該法人の代表理事が親会社の取締役を兼務している非上場会社(開示対象企業グループに属する非上場法人の場合、資産総額1千億ウォン以上の非上場株式会社)となっています。
本稿を通じて、韓国の会計及び監査制度についてご理解いただけましたでしょうか。日本の制度と似ている点も多いですが、細かな相違点や特有の制度もあります。韓国の現地法人でお困りのことや、新しく韓国に進出を考えている会社があれば、遠慮なくEYのプロフェッショナルにご相談ください。本稿が韓国での事業運営の一助になれば幸いです。
韓国における会計・監査制度、K-SOX制度の概要を説明します。特に日本の制度と異なる部分や、日本にはない韓国特有の制度について解説し、韓国に進出する日本企業に役立つ知識を提供します。
ジャパン・ビジネス・サービス (JBS)
- 日本企業のグローバル展開支援
EY Japan JBSは、日本の大手企業の海外進出を長年にわたりサポートしてきた豊富な実績を持つ専門家集団として、世界最大級のネットワークを通じた日本企業の海外進出支援サービスを提供しています。
多くの日本企業が採用する海外事業運営モデルを踏まえ、世界を3エリアに区分し、各エリアにJBSリーダーを配置しています。
EYが発行している各国の財務会計や税務などの最新情報をまとめたニュースレターやレポートを掲載しています。
EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。