ドイツにおける最近の税制改正について

情報センサー2025年12月 JBS

ドイツにおける最近の税制改正について


ドイツにおける税制改正の概要を適切に理解していますか。本稿では、現行からの変更点や適用のメリットを確認することにより、現地会社運営における税務戦略の策定・見直しやドイツへ進出する日本企業に役立つ情報を提供します。


本稿の執筆者

EYドイツ 監査部門 公認会計士 土肥 敬大

2024年よりEYドイツ監査部門(フランクフルト事務所)でJapan Business Services(JBS)の デスクとして、ドイツ全土における日系子会社の全般サポートに従事。日本基準及び国際会計基準に基づく多国籍企業の監査を経験。シニアマネージャー。


要点

  • 法人税率の引き下げや投資促進のための減価償却措置など、新政権による税制改正は大規模であり、概要を適切に理解する必要がある。
  • 移転価格税制にかかる改正により、提出期限や提出資料が変わるため、TP文書や取引マトリクスの作成等、適時な作成が要求された。
  • 電子インボイス制度では、EU各国における運用が異なるため、適格なインボイスの発行に関して検討・準備をする必要がある。
  • クロスボーダーグループ内融資では、連結グループでの資金運用に影響を与えるため、ドイツ子会社だけではなく、日本本社も適切に理解する必要がある。

Ⅰ はじめに

2025年2月23日の連邦議会選挙で最大勢力となった新政権は、企業の競争力強化と経済活性化を目的とした税制改革を実施しており、2025年7月18日にドイツ連邦官報に公布、翌19日から施行されました。新税制では、段階的な法人税率の引き下げや設備投資促進措置を含む大規模な税制改革パッケージとして公布されており、日系企業においては、各税制改正の内容を理解し、新税制にのっとって対応することが求められます。また、移転価格税制や電子インボイス、クロスボーダーグループ内融資等については、日系企業に大きく影響を与え得る税法改訂となっており、これらの税制を適切に理解し、適時な対応が求められます。本稿では、新税制及びドイツ特有の税制改正について、概要及び改正内容のうち特に日系企業にとって影響の大きい項目について解説します。

Ⅱ ドイツ新政権による税制改正の概要

1. 法人税

(1) 設備投資にかかる30%の定率償却を導入

2025年度、2026年度、2027年度に取得・稼働を開始した固定資産について、従前では通常の耐用年数に従って毎年均等に償却する必要がありましたが、取得価額の最大30%を初年度に一括償却を行うことが可能となり、事業者は投資初年度における課税所得を圧縮することでの税負担の繰延が可能となります。

(2) 法人税の段階的引き下げ

現行の法人税率は15%となっていますが、これが2028年1月1日から毎年1%ずつ5段階に引き下げられます。
 

2. 間接税

(1) 飲食業における食品販売にかかるVAT 7%を恒久的に引き下げ

ドイツにおけるVAT(付加価値税)の標準税率は19%となっており、食品、書籍、新聞、公共交通機関の一部などについては軽減税率である7%が適用されています。当該改正により、2026年1月1日からは飲食業における食品販売のVATについても7%が適用されることとなりました。

(2) 輸入付加価値税の徴収を関税モデルから相殺モデルに変更

これまでは、EU域外から輸入する際に、商品がドイツに入る時点で 輸入付加価値税を即時納付する必要があったため、事業者は後日、仕入税額控除として還付を受けられるものの資金繰りの負担がありました。この改正により、輸入付加価値税は「即時支払い」ではなく、VAT申告書の中で仕入税額控除と相殺処理ができることとなりました。輸入時におけるキャッシュアウトは発生しないことから企業の資金繰りが改善し、輸入時の負担は軽減されることになりました。
 

3. 従業員課税

(1) 時間外労働に対する支払いの非課税化

時間外労働は、給与と同様に課税対象となっていますが、2026年から基準労働時間(団体協約労働時間の基準労働時間は週34時間、団体協約以外の基準労働時間は40時間とする)を超える時間外労働は非課税となる見込み(2025年12月8日時点では法案は未成立)です。

(2) 従業員の所得関連経費をまとめた就業日定額控除額の検討

ドイツにおける個人の税務申告では、日本のような年末調整制度はなく、各個人が確定申告を行う必要があります。また、ドイツの所得税制度では、従業員は業務に直接関連する経費を所得から控除可能となっています。しかし各経費の控除については、特に、通勤費や文房具の購入、通信費など、業務上必要な小規模支出に関しても、領収書や明細の添付や、個別計算が必要となっており、各個人における事務負担が大きくなっています。

そこで、政府・税務当局は、税務手続の簡素化、中間所得層の税負担軽減、公平性の向上を目指し、従業員が就業した日ごとに一定額を自動的に控除する方式(就業日定額控除額)の導入を検討(2025年12月8日時点では法案は未成立)しています。
 

4. その他の改正

上記以外にも、例えば以下のような税制の改正が組み込まれています。

項目

概要

法人税

  • オプションモデルの改善及び内部留保の税額軽減により、法人形態について中立的な法人税制の採用が可能に

営業税

  • 営業税の最低税率を7%から9.8%に引き上げ
  • 営業税タックスヘイブン自治体(低税率自治体)への見せかけ移転にかかる防止行政措置

研究開発助成

  • 助成率と査定基準の大幅な引き上げと手続の簡素化

連帯賦課税と税率

  • 立法期間半ばにおける中小所得者に対する所得減税

従業員課税

  • パートタイム従業員の労働時間を延長するための給与に対する税制優遇
  • 通勤控除の引き上げ(1キロメートル当たり0.38ユーロ)
  • 労働組合員に対する税制優遇措置

家族課税

  • 児童控除と児童手当の軽減効果の差を縮小
  • ひとり親家庭の助成額の引き上げまたはさらなる発展

エネルギー・電力税

  • 電気料金を欧州の最低レベルまで引き下げ、送電網料金の引き下げ
  • 農業用ディーゼル・リベートの完全復活

エレクトロモビリティの推進

  • 電気自動車に対する特別償却の導入
  • 電気自動車に対する税制優遇措置の車両価格制限の引き上げ
  • 2035年まで電気自動車に対する自動車税免除

気候と環境

 

  • オムニバス簡素化パッケージの一環としてEU委員会の提案を支持し、CBAMの対象となる製品の輸出に対する補償を提唱
  • 税制優遇措置を通じてエネルギー効率を強化

非営利団体

 

  • スポーツ指導者と、ボランティア活動の一括控除を増額
  • 非営利団体の営利事業免税枠を5万ユーロに拡大するとともに、非営利活動リストのアップデートと非営利法の簡素化
  • 非営利団体への現物寄付のVAT免除

デジタル化と官僚主義の削減

  • 税務関連の立法手続の簡素化とデジタル化
  • デジタル化と人工知能の拡大による税務行政の強化
  • 税務申告書のオンライン提出を徐々に義務化
  • 法人とパートナーシップの自己申告制への移行
  • 標準化、簡素化、一律税率による税の簡素化

間接税

  • 航空特有の税金、手数料、料金の引き下げと、航空交通税の増税中止

EU税政策

  • EUにおける法人税統一課税基準へのコミットメント
  • 非協力的な税務管轄地域をEUの「ブラックリスト」に一貫して掲載

不動産

  • 住宅建設、住宅所有、既存住宅の改築を促進するための税制措置

その他

  • 配当課税における不正な利益を回避するためのさらなる措置の検討
  • EUにおける深海海運の標準トン数税へのコミットメント 
  • 農業に対する税務リスク平準化準備金の創設

Ⅲ 移転価格税制にかかる改正

2025年1月1日より、移転価格文書提出義務に関する改正が適用されています。具体的には、取引の目的や性質、当事者等の情報をマトリクス形式でまとめた取引マトリクスを導入し、移転価格文書にかかる税務調査時に提出を求められます。また税務調査に当たっては、税務調査告知から30日以内に、取引マトリクス、マスターファイル、非定形的取引に関する文書の提出を義務付けるとともに、税務署は、いつでも追加文書(ローカルファイルなど)の提出を求めることができることとなりました(<図1>参照)。

図1 文書化義務の範囲

図1 文書化義務の範囲
出所:各種資料を基にEY作成

Ⅳ 電子インボイスの導入

2027年1月1日より、ドイツ国内に拠点を置く企業(登記、経営管理地、またはPE)間の国内B2B販売を対象として、電子インボイスの利用が義務化される予定です。しかも2025年1月1日からの早期適用が可能となっており、取引先が電子インボイスを早期に適用し、電子化されたインボイスを発行したいと主張した場合には、受け取り側は拒否できなくなっています。

電子インボイスのフォームは、VAT法に基づき、CEN規格に準拠したフォーマットに情報を抽出できる、または互換性がある(例:EDIインボイス)限り、CEN規格EN 16931(UBL 2.1及びCII D16B)またはその他の電子フォーマット(合意による)で、構造化された電子フォーマットとされています。イメージとしては<画像1>のとおりで、以前までは<画像1>の左側のようなPDFで管理されていたものが、右側のフォーマットに変更されることとなります。

画像1 電子インボイスフォームの変化

画像1 電子インボイスフォームの変化

出典:”How e-invoices differ from paper or PDF invoices”, Procurement Office of the Federal Ministry of the Interior, e-rechnung-bund.de/en/e-invoicing/differences-between-paper-pdf-and-e-invoices/(2025年9月12日アクセス)

Ⅴ クロスボーダーグループ内融資

以前はグループ内金融取引の移転価格に関する明確なルールはありませんでしたが、多国籍企業グループ内の国境を越えた融資関係の場合の損金算入制限が新たに設けられました。具体的には、会社が当初から融資関係から生じる支払い、特に利子と返済を行うことができることを証明できない場合(「キャッシュフロー」テスト)、資金が経営上かつ事業目的のために必要であること(「事業目的」テスト)を証明できない場合、または、その金利が、会社がグループ格付けに基づき第三者から資金調達できる金利を上回る場合に、損金への算入ができなくなります。

判定フローのイメージは<図2>のようになります。

図2 損金算入検討フロー

図2 損金算入検討フロー
出所:各種資料を基にEY作成

Ⅵ 日系企業に求められる対応

日系企業においては、これらの税制を適切に理解し、税務戦略の見直しを検討するとともに、優遇措置等を最大限に活用し税務メリットを享受することでコストを圧縮していくことが重要になります。また、電子インボイスについては必要に応じてシステムの導入等も検討する必要があります。加えてクロスボーダーグループ内融資については、日本本社も関わってくる税制となっているため、グループ会社間のコミュニケーションを密にとる形が推奨されます。

Ⅶ おわりに

本稿を通じて、新政権の税制改正内容をご理解いただけましたでしょうか。税制改正があった際には、設備投資・人材コスト・研究開発・法形態選択まで含めた総合的な税務・経営戦略の見直しについて必要性を検討するとともに、対象となる優遇措置等を適切に理解し、最大限に活用することが重要になります。自社への影響評価や、優遇対象に含まれるのかどうかなど、判断に困ることなどあれば、ぜひEYのプロフェッショナルへご相談ください。本稿がドイツ会社の事業運営の一助になれば幸いです。

サマリー 

ドイツ新政権による税制改正を含むドイツの税制改正について理解し、現行からの変更点や適用のメリットを確認することにより、現地会社運営における税務戦略の策定・見直しやドイツへ進出する日本企業に役立つ情報を提供します。

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