AI時代のホテル経営|宿泊施設の競争戦略

AI時代に宿泊施設が“選ばれる存在”へ進化するには — ハード・サービス・ホテリエを統合し「AIに強い」施設へ —


AI時代の集客は“見つけてもらう”から“選ばれる”へ。データ整備と体験設計で、ホテルの強みをオンラインにて正しく伝える方法



執筆者

青木 直樹
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY-Parthenon トランザクション・アンド・コーポレートファイナンス トランザクション・リアルエステート ディレクター


要点

  • 競争軸の転換:旅行需要と市場規模が拡大する中、予約はさらにオンライン中心へ移行。旅行者は「検索」よりAIとの「対話」で旅程を決め、AIに“選ばれる”構造を持つ施設が優位に立つ。
  • 評価基準の変化:露出量よりも、整った情報、説明可能な魅力、体験の一貫性、ブランドの信頼、安定したレビューが選定の要となる。
  • 三位一体の再設計:ハード〔建物・設備〕/ソフト〔サービス〕/ホテリエ〔人財〕をブランドコンセプトに沿って一体で磨き上げ、データの可読性と体験の再現性を高めることが本質的に重要。
  • 実装プロセス:現状診断 → 事業設計 → 実装・運用改善 → 成果の見える化の段階で、AIが読み取りやすい素材整備・運用の自動化・ホテリエの演出力を組み合わせ、ADR・直販率・リピート率の改善につなげる。


はじめに:旅行市場は拡大し、AIに選ばれる時代へ

世界の旅行市場は、コロナ禍からの回復段階を終え、旅行客数と旅行総取扱高の両面で拡大基調にあります。国際観光到着数〔※〕は、2024年には約14.4億人、2025年には約15.2億人〔推計〕と、ポスト・パンデミック期の最高水準である2019年の約14.7億人を超える水準へと回復しています。

 

さらに、オンライン旅行市場〔※〕は、2025年の6,226億ドル から 2034年の1兆4,384億ドルへ拡大が見込まれ、2027年には世界の旅行予約の約3分の2がオンライン化するとの予測が出ています。モバイルの浸透やキャッシュレス化に加え、近年急速に普及するAIによるパーソナライズが成長を後押ししています。

 

このような環境下で、ホテルや観光関連の事業者が成長の波を捉えるには、ハード/ソフト/ホテリエという3つのリソースをそれぞれ「AIに選ばれる」体質へ再設計することが決定打になります。

 

※出典

  • 国際観光到着数(2019実績・2024実績・2025推計):UN Tourism「World Tourism Barometer」
  • オンライン旅行市場の見通し(2025→-2034):IMARC「Online Travel Market Size, Share, Trends and Forecast 2026–2034」

1. AI時代に変わる“選ばれ方”

1-1. 入り口の変化:検索から対話へ

従来の検索エンジン〔検索〕 → メタサーチ〔比較〕 → OTA〔予約〕という段階的プロセスは、AIとの対話を軸に短縮されつつあります。旅行者が「子連れ」「静かな温泉」「2泊3日」「移動は最小」「予算は○円」と伝えるだけで、同行者・目的・予算・嗜好・混雑・気候までを踏まえた旅程候補が提示されます。結果として“比較し続ける負担”が大幅に削減され、施設側はSEO〔Search Engine Optimization:検索エンジン最適化〕対策だけでは不十分になってきています。AIが読み取りやすい形で魅力を整理し、比較せずとも選ばれる明確な強みを示す必要があります。

1-2. 意思決定の省力化:時間・気力の制約をAIが突破

特に30〜45歳のミレニアル世代がAI活用を牽引しています。仕事や育児で自由時間が限られる中、旅程づくり・同行者配慮・予約手配をAIが一括で担い、旅行頻度が高く支出が多い層ほどAI依存が進む傾向です。結果、整ったデータと体験の一貫性の有無が、ADR・直販比率・リピート率を左右するようになります。

1-3. 主導権の移動:検索/OTAからAIエージェントへ

送客の主導権は、検索やOTAから旅行者個別のAIエージェントへ移っています。エージェントは行動履歴・予算・目的に合わせて候補を事前に絞り込みをするため、在庫・料金・施設情報・写真・受賞歴等が整理されていない施設は候補に入らない可能性があります。すなわち、AIにリストアップされるかが新たな競争軸です。

1-4. 選定基準の変化:「露出量」から「説明できる品質」へ

AI時代に評価されるのは、正確で整った情報、分かりやすい魅力の説明、体験品質の一貫性、ブランドとしての信頼性、安定したレビューです。これは本質的な運営力の勝負であり、施設自身が改善可能な領域です。ゆえに、情報整理と運営品質の一貫性が最重要になります。


2. 3つのリソースを「AIに選ばれる体質」へ再設計する

2-1. 3つのホテルリソースとAI

ハード〔建物・設備〕/ソフト〔サービス〕/ホテリエ〔人財〕の掛け算が体験価値を生み、ブランドコンセプトと連動しながら口コミ・格付け・収益を押し上げます。AIが浸透した現在、ハードはデータ化と空間品質の標準化、ソフトは自動化と高度化による効率・一貫性の確保、ホテリエはAIでは代替できない文脈理解・共感・演出が鍵となります。要するに、ブランドを中心に三要素を一体で磨くことが、データ品質・体験の安定性・レビュー結果を底上げします。


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2-2. ハード〔建物・設備〕:ブランド“らしさ”をデータで語れる状態へ

客室タイプ、寝具スペック、浴室形式、コネクティング可否、遮音・静音、アクセシビリティ等を統一基準で整理し、空間価値を用途・時間・定員・設備といった要素に分解して写真・動画とともに提示するのが重要になります。さらに、省エネやバリアフリーといったESG要素を数値で可視化し、光・色・構図をブランドに合わせた撮影規格で統一することで、AIが認識・比較しやすい高品質データへと整えることが可能となります。

2-3. ソフト〔サービス〕:自動化で効率化し、サービスを設計で高度化する

顧客対応の自動化、情報の見える化・共有化によりサービス品質の向上が図られるとともに、ホテリエの浮いたリソースが体験価値の向上に再配分されます。需要予測とダイナミックプライシングを組み合わせ、イベント・天候・航空便の状況などを踏まえて在庫・料金を短期サイクルで更新するようにし、ブランドの世界観に沿った複数の体験パッケージを即予約できる形で整備し、AIが旅程に組み込みやすい粒度に設計することが肝要です。

2-4. ホテリエ〔人財〕:編集者/演出家としてブランドコンセプトを体現

ホテリエにはAIが生む提案に人の文脈と温度を重ねる役割を担うべく進化していくことが求められます。滞在の目的に応じて接客方法を最適化し、会話・動線・間合いを整え、ブランドの世界観がお客さまの体験へ落とし込まれます。さらに、生成AIによりレビューの要約・課題抽出・改善・再発信を高速で回すことで、体験品質を安定させ、また、料理・芸術・医療・スポーツ・文化財など多様な専門家との連携により、唯一無二のコンテクストを体験として構築させることが可能となります。

3. 構造転換ロードマップ

AIに選ばれるホテルへ変わるには、ブランドコンセプトを軸にハード/ソフト/ホテリエをまとめて見直す必要が生じます。このあたりはホテルごとに対応が異なる部分であり、場合によっては専門家による客観的なアドバイスをもらうことも有用かもしれません。

  1. 現状の整理〔フェーズ0〕
    ホテルアセットのAI対応状況、ブランドとの整合、マーケット・競合・インバウンド動向を多面的に分析し、進むべき方向を明確化します。
  2. 事業の設計〔フェーズ1〕
    ブランドに合わせてハード・サービス・人財の在り方を再設計し、データ基盤〔顧客データなど〕や公式サイトの構造化方針を整えます。
  3. 実装と準備〔フェーズ2〕
    AIに読み取られやすい写真・動画・比較表を整備し、FAQの自動対応・レビュー分析・価格調整などの運用を改善します。ホテリエ向けに体験演出の啓蒙を行います。
  4. 成果の見える化と価値向上〔フェーズ3〕
    AI経由アクセス率・直販率・体験商品の利用率といったKPIを管理し、改善結果を次の価値創造へ反映させ、横展開の準備も進めます。

おわりに

勝負の舞台は「見つけてもらう」から、「AIに選ばれる」へ移りました。近道は、流行の集客手法を寄せ集めることではありません。ブランドの芯に立ち返り、ハード・ソフト・ホテリエを同じ方向に整えて磨き上げることです。ハードはブランドの特徴をデータで語れる状態に、ソフトは自動化と設計でサービス品質を安定再現できる状態に、ホテリエは文脈理解・共感・演出で唯一無二の体験へと仕上げます。三位一体が整ったとき、AIは自信を持って施設を候補上位に置き、旅行者は迷わず選ぶようになります。次の一歩は大きな投資ではなく、整える・見せる・回すことの徹底です。

EY Japan は、アシュアランス、税務、ストラテジー・アンド・トランザクションおよびコンサルティングにおける豊富な業務経験を有するプロフェッショナル・チームが連携して、企業が抱えるさまざまな課題に対し、最先端かつグローバルな視点から最適なサービスを提供します。また、ホテル領域のトランザクション、オペレーションのアドバイザリー等のさまざまな観点からEYが全力でサポートし、サステナブルな社会の実現に貢献します。




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サマリー 

AIに選ばれる時代。ブランドコンセプトを起点としハード・ソフト・ホテリエを再設計し、情報の構造化・運営自動化・演出力で収益を伸ばします。


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