EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 第5事業部 公認会計士 金子 晋也
不動産デベロッパー、化学メーカー、IFRS等の監査やサステナビリティ保証業務などに従事している。EYの米国ニューヨーク事務所駐在やクロスボーダーファイリングなどに従事。不動産セクター執行メンバー。
要点
企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から2024年9月13日に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下、新リース基準)及び企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下、新リース適用指針)等が公表されました。
不動産業、特に賃貸業は、普通借地借家契約や定期借地借家契約などさまざまな形態により、不動産の賃貸を行っており、リースに該当する多くの契約が存在します。本会計基準ではリースについて定義した上で、フリーレント・レントホリデーやサブリース取引など不動産業に影響を与える会計処理を示しており、本稿では不動産業の会計処理に影響を与える可能性がある論点を中心に解説します。
不動産業は、その事業の内容が多岐にわたっており、不動産に資金を投下し、商品とするアセット型事業(不動産の開発、分譲、賃貸等)や、不動産に直接資金を投下せず、不動産関連サービス業を行うノンアセット型事業(不動産の管理、不動産の流通等)など不動産に関連する事業でありながら非常に幅広くなっています。
新リース基準では、借手と貸手ともに、契約における対価の金額を、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに配分することとされています。不動産賃貸借契約においては、賃料、共益費、管理費、礼金、更新料などさまざまな名称での支払項目が設定されており、企業会計基準第 13 号「リース取引に関する会計基準」(以下、現行のリース基準)や「収益認識に関する会計基準」「収益認識に関する会計基準の適用指針」において取扱いが明確でなかったものが、リース料を構成する部分に該当するか否かが新リース基準で明確化されています。
管理費・共益費には共用設備や施設の運営・維持に要する費用などさまざまな種類が含まれており、管理費や共益費が、リースの定義を満たさない共用部分の賃料や、その他サービスの要素であると判断する場合には、リース料を構成しない部分と考えられることから収益認識に関する会計基準等に沿った会計処理が必要となります。
礼金・更新料については、一般的には、借手がリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払いであり、リースを行うための対価と考えられることから、借手としては契約対価に含めて、使用権資産やリース負債を計上し、オペレーティング・リースに該当する場合には、貸手としてはリース期間で、定額法にて収益計上を行う必要があります。
フリーレントやレントホリデーは、リース期間において一定の期間のリース料が免除されるものであり、不動産賃貸業でもフリーレントやレントホリデーはインセンティブとして用いられているケースが多く、新リース基準でその会計処理が明記されたことによる影響が想定されます(新リース適用指針BC121項)。
フリーレントやレントホリデーについては原則として貸手のリース期間として取り扱われ、テナントのインセンティブであるフリーレントやレントホリデーは、オペレーティング・リースによる貸手のリース料として、オペレーティング・リースに該当する場合には、リース期間もしくは契約期間にわたり定額法で計上することになります。
図1 フリーレント/レントホリデーの償却期間
借地権には、旧借地権、普通借地権、定期借地権の3種類がありますが、現行のリース基準等においては具体的な会計処理の定めはありませんでしたが、新リース基準の適用にあたり、借地権の設定に係る権利金等の会計上の取扱いが明確化されました(新リース適用指針27項)。
旧借地権の設定に係る権利金等及び普通借地権の設定に係る権利金については、原則として使用権資産の取得価額に含め、借手のリース期間で減価償却することとされています。なお、例外処理として新リース基準適用初年度の期首において、権利金等を未計上又は未償却である場合には、減価償却は不要とすることができます。なお、原則的な取扱いを適用する場合でも、新リース基準適用初年度の期首に計上されている権利金等を償却していなかった場合には、未償却の権利金等を使用権資産の取得価額に含めた上で、当該権利金等のみ償却しないことができます。また、残存価額については使用権資産の取得価額に含め減価償却を行う場合には、リース期間終了時における残存価額を見積る方法と、残存価額をゼロとする方法の双方が認められています。
定期借地権の設定に係る権利金等については、賃借期間の満了時に賃貸借契約が終了するため、賃貸借契約の期間に係るリースの対価と考えられ、使用権資産の取得価額に含めて借手のリース期間を耐用年数として減価償却を行うこととなります。
不動産業においては、転貸を目的に所有者から不動産を賃借し、その不動産を第三者へと賃貸するサブリース取引が、住宅やオフィス・商業施設、不動産の一棟単位などさまざまな形態で行われています。新リース適用指針では会計処理の観点から①サブリース取引(新リース適用指針89項)、②パス・スルー型のサブリース取引(新リース適用指針92項)、③転リース取引(新リース適用指針93項)の3つのパターンにサブリース取引を分けることができます。③の転リース取引については、主に機器等のリースについて想定されるものであるため、①サブリース取引と②パス・スルー型のサブリース取引が影響を与える主な取引となると考えられます。
マスターレッシー(以下、中間的な貸手)は、マスターリース(以下、ヘッドリース)について、借手のリースの会計処理を行います。また、サブリースについては、サブリースがファイナンス・リースとオペレーティング・リースのいずれに該当するかによって会計処理を行います。
次の要件をいずれも満たす取引については、中間的な貸手は、原則的な処理にかかわらず、貸借対照表においてヘッドリースにおける使用権資産及びリース負債を計上せず、かつ、損益計算書においてサブリースにおいて受け取るリース料の発生時又は当該リース料の受領時のいずれか遅い時点で貸手として受け取るリース料と借手として支払うリース料の差額を損益に計上することができます。
図2 サブリースの種類と会計処理
短期リース・少額リースについても新リース基準により関連する新たな定めが設けられており、不動産セクター特有の論点ではありませんが、さまざまな備品のリースなどに影響があります。
短期リースについては、現行のリース基準から変更なく12カ月以内のリースが対象となり、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと、もしくは、 性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに短期リースに関する簡便的な取扱いを適用するか否かを選択することができます。判断基準となる(借手の)リース期間の考え方について、貸手と借手との間で合意された期間から、「解約不能期間」+「合理的に確実」な延長又は解約オプション期間へと変更となっています。また、短期リースに該当する取引の要件として、購入オプションを含まないことが明示されています。
少額リースについては、新たに「新品時の原資産の価値が少額であるリース(新品時に5千米ドル以下程度の価値の原資産のリース)」の定めが設けられており、下記について少額リースに該当する取引として定められています(新リース適用指針22項)。
(1) 重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、借手のリース料が当該基準額以下のリース
(2) 次のいずれかを選択し、選択した方法を首尾一貫して適用
① 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、かつ、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース
② 新品時の原資産の価値が少額であるリース
なお、①についてはリース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引が対象となりますが、「企業の事業内容に照らして重要性が乏しい」と言えない場合には、オフバランス処理を処理できないことに留意が必要です。
連結財務諸表における取扱いについては、短期リースについては個別財務諸表と連結財務諸表の科目が異なり得るので、個別財務諸表の判断を連結財務諸表でそのまま使用することができますが、少額リースの①又は②の選択については会計方針に該当すると考えられるため、連結グループの会計方針として、連結グループ内で統一する必要があります。
新たにリース取引を識別し使用権資産を計上することにより資産が増加し、総資産利益率(Return On Asset、以下ROA)が低下するなど業種評価指標への影響が想定されます。特に不動産業の会社においては、業績評価指標の1つとしてROAを設定している会社も多くあることから、予算や中長期的な経営計画の策定・達成に影響を与える可能性があります。
また、リース負債が計上され、負債の部に計上した額の合計額が200億円以上となる場合には、会社法上の大会社に該当することから(会社法第2条第6号)、会計監査人の監査が義務付けられることになり(会社法第328条第1項、第2項)、会社法の会計監査が新たに必要となります。
新リース基準の適用により、新たにリースを識別し、使用権資産の算定やリース台帳・固定資産台帳への記帳が必要となる可能性や、サブリース取引についてヘッドリースの契約とサブリースの契約を連携して管理することやフリーレント/レントホリデーについても管理・計算を行うこととなり、システムの改修とそれに伴う業務フローの構築が必要となります。新リース基準の影響は大きく多岐にわたると想定されるため、影響度の調査をはじめとするさまざまな準備を早急に行う必要があります。
不動産業は事業が多岐にわたっており、特に賃貸業は事業上、新リース基準について検討すべき論点があり、不動産業特有の論点も存在します。新リース基準の主な論点や実務上の課題について解説します。
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