EY Startupインサイト 30代キャピタリストがフルコミットの精神で挑戦する新世代VC「PARTNERS FUND」始動

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30代キャピタリストがフルコミットの精神で挑戦する新世代VC「PARTNERS FUND」始動

集結した4名のキャピタリストの軌跡と「PARTNERS FUND」が描く未来地図とは


PARTNERS FUNDは、2025年4月に多様なバックグラウンドを持つ4名の30代キャピタリストが集結し、65億円規模のVCファンドを設立。ファンド組成の背景やそれぞれのキャリア、地域・大学・海外との連携を通じたスタートアップ支援、そして彼らが目指す“新世代VC”の姿についてお話を伺いました。


要点
  • 多様なキャリアを持つ山田氏、中村氏、種市氏、藤井氏の4名が集結し、2025年4月に65億円規模のVCファンドを設立。それぞれの専門性を活かしてスタートアップ支援に取り組む。
  • 「フルコミットの精神」で、起業家に寄り添いながら、徹底的な伴走支援型の投資を実践。「永続するシードVC」として、長期的な価値創出に挑む。
  • 30代キャピタリストによる新世代VCとして、社会にインパクトを与えるスタートアップを創出し、次の世代へつなげていくことを目指す。


(話し手:PARTNERS FUND  代表パートナー 山田 優大 氏、中村 雅人 氏、種市 亮 氏、藤井 智史 氏)
(聞き手:EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター 副センター長 善方 正義パートナー)

ファンド設立の背景とメンバーのキャリア

善方:PARTNERS FUNDは、2025年4月に山田さん、中村さん、種市さん、藤井さんの4名が合流して65億円規模の3号ファンドを立ち上げました。立ち上げに至る経緯や皆さんのキャリアについて教えてください。

フルコミットから始まった挑戦

山田 優大 氏
山田 優大 氏

山田氏(以下敬称略):新卒でグリーに入社し、社長室で経営企画や予算管理を担当しました。その中で、スタートアップ投資やLP出資も経験し、VCの世界に興味を持つようになりました。スタートアップの面白さに惹かれ、転職を考えていた頃、「スタートアップを作るファンドがある」と聞いて出会ったのがインキュベイトファンドです。2015年に、パートナーの村田さんとの面接は20時から始まり、2時間半話した後に「飲みに行こう」と言われて、夜中に「内定!」といただいたのをよく覚えています(笑)。そこから、村田さんの第1号のアソシエイトとして2年間の修行を経て、2018年に独立してFull Commit Partnersを立ち上げました。投資先から「山田さんといえばフルコミット」と言われたことが名前の由来です。1号ファンドをやり切った後、2号ファンドを作るにあたって、組織を作り、パートナーを増やしたいという思いがあり、PARTNERS FUNDに名称変更し、そのタイミングで中村が加わりました。

事業再生からスタートアップ支援へ

中村氏(以下敬称略):もともと武田薬品工業に勤務して事業再生業務に関わる中、カーブアウトプログラムを立ち上げ、スタートアップ支援に関心を持つようになりました。その後、ソフトバンクグループに転職し、同社のCFOの下、LP資金調達や子会社のIPO、社債発行などを経験しました。ケンブリッジ大学でMBAを取得後、Plug and Play Japanの大阪支社立ち上げを担当し、2年弱働いたタイミングで、山田からPARTNERS FUNDに声を掛けてもらって参画しました。

山田:中村はこのファンドの「頭脳」です。複数言語を話せるグローバル人材で、海外スタートアップのリサーチも得意です。

地域と大学からのスタートアップ創出

種市氏(以下敬称略):楽天で楽天市場のECモールに出店している企業向けのコンサルティング業務を経て、楽天キャピタルの立ち上げに参画し、CVC業務に携わりました。その後、インキュベイトファンドで村田さんの2人目のアソシエイトとして活動し、大学発やディープテック領域にのめり込みました。2021年には、独立してゼロイチキャピタルを設立し一人GPでVCを立ち上げ活動していましたが、より進化した伴走支援を目指して、PARTNERS FUNDに合流しました。

山田:種市はディープテックや地域発スタートアップの担当です。

金融からVCへ、伴走者としての挑戦

藤井氏(以下敬称略):大学時代にVCに興味を持ち、金融の世界へ進みました。みずほキャピタルでVCキャリアをスタートし、ベンチャーユナイテッドへの出向でシードVCの支援方法を学びました。インキュベイトファンドとの共同投資を通じて山田と出会い、9年間の投資経験を経て、志を同じくするメンバーと合流しました。

山田:藤井は、金融での経験およびネットワークを活かし、ファンドの守護神としてCFO業務も担っています。

合流のきっかけとインキュベイトファンドでの学び

善方 正義 氏
聞き手 善方正義パートナー

善方:皆さんが合流されたきっかけは何だったのでしょうか?

 

山田:PARTNERS FUNDに名称変更した際、信頼できる仲間と組織を作りたいと思いました。種市は同じ師匠の下で学び、真面目で武骨なタイプ。藤井は強い信念を持ち、安心して背中を預けられる存在です。中村は中高時代から尊敬していて、私とは違うタイプだからこそ補完し合えると思いました。

 

中村:山田の「フルコミット」スタイルに強く共感し、2号ファンドから参画しました。

 

種市:一人でファンドを運営する中で、より大きな投資や追加投資を実現していくために、大きなファンドを作っていきたい思いがあり、今回の3号ファンドより合流しました。

 

藤井:私は直感的に伴走者として投資先を支援するスタイルが自分に合っていると感じていました。山田から声を掛けてもらったことが、独立の機会に繋がっています。

善方:インキュベイトファンドでの経験は、今に活きていますか?

山田:村田さんが苦闘していた時期を間近で見ていたことが大きいです。うまくいかない投資先にも粘り強く向き合い、起業家と同じ熱量で支える姿勢に感銘を受けました。「投資先を支えきる」という姿勢が、私の原点です。

種市:起業家の強みを理解し、ゼロから事業プランを構築する過程を学びました。村田さんの姿勢が、今の自分の基礎になっています。

山田:「インキュベイトファンドを超えていく!」と弟子たちが集まったことに対して、村田さんから「負けないぞ!」と言われました(笑)。

種市:本当に心から後押ししていただきました。村田さんだけでなく、他のパートナーの皆さんからも「羽ばたいてほしい」と応援の言葉をいただき、良好な関係で独立できたと思っています。
 

PARTNERS FUNDが重視する価値観

善方:ファンド運営において大切にしている価値観について教えてください。

山田:私たちが特に重視しているのは、「フルコミット精神」と「永続するシードVC」という2つの考え方です。「フルコミット精神」は、投資先の起業家にもLPにも全力で寄り添い、事業の立ち上げから成長まで深く関わる姿勢を意味しています。資金だけでなく、事業の伴走者としての覚悟を持つことが重要だと考えています。

「永続するシードVC」は、長期的に私たち自身が引退してもファンドが組織として継続できるようにしたいという思いから生まれた言葉です。そのために、ガバナンス体制を整え、GPを増やしながら持続可能な運営を目指しています。
さらに、「Co-Founder」「Love the Founder」「Evergreen」という3つの価値観も掲げています。「Co-Founder」は起業家と一緒に事業を創る姿勢、「Love the Founder」は起業家に徹底的に寄り添うこと、「Evergreen」は組織的にも永続していくことを意味しています。

投資領域と投資基準

善方:投資領域や投資基準については、どのようにお考えですか?

山田:投資領域はオールジャンルですが、常にアップデートを重ねています。今後は、これまで結果が出せてきているIT・サービス領域に加えて、ディープテックやサステナビリティ領域にもより深く挑戦していきたいと考えています。投資基準は、「経営陣」「市場性」「事業性」「採算性」の4つです。
経営陣では、経営陣の個人としての資質だけでなく、チームとしての強さも重視します。また、市場性では、「Why Now?」という点と、マーケットの構造等を見ています。事業性では、プロダクトの強み、競争優位性、ビジネスモデルを、採算性では、事業計画の実現可能性、追加投資の必要性、そして私たちの投資哲学との整合性を見ています。
特に「フルコミット精神」に基づき、リード投資家としてどれだけ貢献できるか、社会に良い影響を与える事業かどうかも重要な判断材料です。

善方:その基準を満たすように、起業家と一緒に事業を創り上げているのでしょうか?

山田:おっしゃる通りです。次に投資検討会に挙げる予定の案件も、構想作りに半年かけています。

藤井:私たちは、起業家が「一緒に議論できる相手」として求めてくれる関係性を大切にしています。価値観を共有しながら事業を共に創っていく。その信頼関係があるからこそ、リード投資家として選ばれているのだと思います。

シード期のリアル 支える覚悟と成果

善方:シード期の起業家の実情はどのような感じでしょうか?

山田:ハードシングスは必ず1〜2回はあります。共同創業者がいなくなるとか、お金の問題が起きるなど、困難な局面は避けられません。夜な夜な議論することもよくあります。

善方:シード期から次のラウンドに進めない企業も当然出てきますよね?

山田:直近の2号ファンドでも、8割の投資先がすでに次のファイナンスに進んでいます。

善方:ファンドとして支えたからこその成果ですね。

山田:「われわれの力で」とは言いませんが、そのような気概で取り組んでいます。

地域・大学・海外 広がる支援のフィールド

種市 亮 氏
種市 亮 氏

善方:大学発スタートアップや地域支援については、どのような取り組みをされていますか?

 

種市:大学発スタートアップや地域支援では、3つの取り組みを行っています。
1つ目は自治体の認定VC制度です。浜松市や山梨県などで、地域スタートアップへの投資に対して助成金が出る制度を活用しています。
2つ目はアクセラレーションプログラムです。自治体と連携し、地元スタートアップの事業プランを磨き上げるメンタリングを行っています。
3つ目はGAPファンドです。全国9つのプラットフォームに事業化推進機関として参画し、地方大学の技術シーズを探索しています。事業化可能なスタートアップと連携し、最大6,000万円の助成金の申請を支援しています。特に支援者が少ない地方大学にこそ、私たちが支援する意義があると考えています。
 

海外CVCとの連携で広がる可能性

中村 雅人 氏
中村 雅人 氏

善方:海外展開支援については、どのような取り組みをされていますか?

 

中村:海外進出では「事業提携」と「ファイナンス」の両面を重視しています。特に海外CVCとのマッチングに力を入れていて、グローバルなCVC団体のカンファレンスに参加したり、直接アポイントメントをとったり、先方のニーズを把握した上で投資先とつなげています。今後は、海外CVCと日本のスタートアップをつなぐイベントも開催予定です。海外VCに注目するファンドはありますが、CVCに特化しているところは少ない。実際、海外のCVCは日本に頻繁に来ているので、彼らと日本のスタートアップが出会える場を作っていきたいと考えています。

 

善方:海外のCVCは、日本のスタートアップに興味を持たれているのでしょうか?

 

中村:領域によりますが、例えば、クライメイトテックでは地政学的な影響で投資が減少傾向にあると言われていますが、事業会社は脱炭素に取り組み続けており、技術ニーズは依然として高い。日本のディープテック企業には、そうしたニーズに応えられるポテンシャルがあると感じています。
 

業界の変化とファンド戦略 M&A・IPOの多様化と向き合う

藤井 智史
藤井 智史 氏

善方:ここ数年で、スタートアップを取り巻く環境は急激に変化していますが、今後、スタートアップはどのように進むとお考えでしょうか?

 

藤井:ここ数年、M&Aの機会を増やそうという流れが業界全体で強まっています。私たちも、起業家と目線を合わせた上でM&Aを視野に入れた投資を積極的に進めています。最初からM&Aをマイルストーンに置くケースもあれば、IPOと並行して判断するケースもあります。柔軟に対応できるのが私たちの強みです。資本政策まで踏み込んで支援しているので、戦略の幅が広いのも特徴です。
また、ファンドサイズも重要です。規模が大きすぎると、M&Aによるリターンがファンド全体に与えるインパクトが小さくなってしまう。私たちの65億円規模のファンドは、M&A戦略を実行する上でちょうど良いサイズだと考えています。

 

善方:数百億円規模のファンドになると、M&Aでは成果が表れにくいということでしょうか?

 

山田:そうですね。リードVCでも持株比率は10%程度。仮に50億円のM&Aがあっても、リターンは5億円。しかも、そんな規模のM&Aが年に1件あるかどうか。追加投資を重ねるとM&Aの出口がますます難しくなります。私たちはシリーズAまではしっかり追加投資をしていきたいと考えています。

 

藤井:IPOについても、大型ファンドは大型IPOを念頭に置きますが、私たちはミドルサイズのIPOにも可能性を感じています。もちろんユニコーンを目指す企業にも挑戦しますが、規模にとらわれず柔軟に対応できるのが強みです。他のプレーヤーが入りづらい領域にも、トライしていけると考えています。

 

善方:最近の上場維持基準の見直しで、起業家のIPOへの意識に変化はありますか?

 

中村:シード段階で「IPOはやめよう」といった極端な変化は見られません。ただ、長期的には意識が変わってくる可能性はあると思います。

 

山田:確かに、IPOへの熱量が少し落ち着いた部分はあるかもしれません。ただ、起業家は「自分ならできる」と信じてスタートするケースが多いので、全体として大きく減った印象はないですね。
 

今後の抱負と目指すファンド像

善方:最後に、今後の抱負や、目指すファンドの姿についてお聞かせください。

中村:私はファンド内で担っているグローバル領域をしっかりと形にしていきたいと考えています。日本ではスタートアップと事業会社の連携が一般化していますが、海外の事業会社とも本来もっと連携できるはずです。そのため、私たちがその橋渡し役を担い、海外との接続を実現していきたいと思っています。

種市:地域からスタートアップを生み出す仕組みを確立したいです。例えば、山形県鶴岡市では、慶應義塾大学の誘致をきっかけにSpiberのような企業が誕生し、次々と新しいスタートアップが育っています。地域が挑戦を続ける中で、ユニコーンを生み出すために何が必要かを考え、それを他地域にも広げていく。地域発スタートアップの「解」を見つけ、全国に伝えていく役割を担いたいです。

藤井:私はこのファンドが起業家から選ばれる存在になることを目指しています。そのためには、まずは地道に成果を出すことが大切です。信頼されるファンドとして、着実に実績を積み重ねていきたいです。

山田:私たちは「新世代VC」を目指しています。今、30代の世代にはまだ突出したVCの存在は少ない状況です。40代では目立って活躍されている投資家が多いですが、30代の投資家は空白地帯です。だからこそ、私たちがこの世代でしっかりとリターンを出し、社会にインパクトのあるスタートアップを生み出していきたいと思っています。日本のスタートアップ環境が変化する中で、その中心にいるVCでありたい。新しい世代だからこそ、新しいVCの形を作り、ユニコーン創出も両立できるような運営をしていきたいです。

サマリー

PARTNERS FUNDは、多様なキャリアを持つ4名の30代キャピタリストが集結し、2025年4月に65億円規模で設立したVCファンドです。フルコミット精神で起業家に伴走し、地域・大学・海外連携を通じてスタートアップを支援しています。新世代VCとして、社会にインパクトを与える事業創出に挑んでいます。 

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