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SSBJ対応から企業価値創出へ──サステナビリティ経営を「守り」から「攻め」へ転換するには


日本企業のサステナビリティ経営は、企業価値の創出へと進めるのでしょうか。EYが実施した、時価総額上位企業を中心とする87社の調査から、サステナビリティ経営の実態を読み解きます。さらに、SSBJ基準への対応課題やポイントを解説。サステナビリティを成長や企業価値につなげる「攻め」の経営への道筋を探ります。


要点

  • サステナビリティ推進体制の整備が進む一方、事業部門の巻き込みや財務インパクトの定量化には課題が残る
  • SSBJ対応では、ドライランによる課題の早期把握と、財務的影響の算定・保証人との早期対話が重要
  • 制度対応にとどまらず、事業機会や企業価値の創出につなげることが次のテーマである


EY新日本有限責任監査法人 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部 シニアマネージャー 田村 響
EY新日本有限責任監査法人
気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部 シニアマネージャー
田村 響
EY新日本有限責任監査法人 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部 Japan Non-Financial Reporting & Assurance パートナー 大熊 嵩平
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気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部
Japan Non-Financial Reporting & Assurance パートナー
大熊 嵩平
EY新日本有限責任監査法人 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部 プリンシパル EY Japan Exceptional Client Service Leader 尾山 耕一
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気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部 プリンシパル
EY Japan Exceptional Client Service Leader
尾山 耕一
茂森 功祐 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY-Parthenon ストラテジー・アンド・エグゼキューション ストラテジー パートナー
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
EY-Parthenon ストラテジー・アンド・エグゼキューション ストラテジー パートナー
茂森 功祐

サーベイ結果(1):サステナビリティ経営の実態

EY新日本有限責任監査法人
気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部 シニアマネージャー 田村 響

EYでは、時価総額上位200社を中心にサステナビリティ経営の実態を調査(有効回答:87社。調査期間:2026年6月5日~2026年9月4日)。本セッションでは、調査結果を踏まえ、日本企業におけるサステナビリティ経営の現状と課題を解説しました。

 

サステナビリティ推進部署の人数規模は中央値9名

調査によると、サステナビリティ推進部署の専任者の中央値は9名に上り、サステナビリティ推進は、もはや少数の担当者だけで担う業務ではなくなっていることが分かります。

 

「サステナビリティを実際の企業活動に落とし込む取り組みは、まだ発展の途上段階です。ただし、一定数の企業が、目標・KPIの設定やマテリアリティとそれにひもづくリスク・機会、また経営戦略への反映といった、サステナビリティ活動の実装や経営との融合を進めていく上で重要と考えられる事項を取締役会の審議・監督事項として設定しています。」(田村)

事業部門を巻き込んだリスク・機会の分析が課題に

マテリアリティを見直すタイミングについては、「中期経営計画の策定・改定時」で49%と最も多い結果となりました。

「マテリアリティを中期経営計画に反映し、具体的な施策につなげるには、事業部門を巻き込み、リスクと機会を特定し、事業への影響をどこまで具体化できるかがポイントです。取り組みに対する現場の納得感を醸成し、自分事化することにもつながります」(田村)

リスクと機会が事業に及ぼす財務インパクトの分析については、全体または一部で定量分析を実施している企業は66%に上る一方、34%の企業はまだ実施していません。

「特定したリスクと機会の財務インパクトを具体化することは、取り組みの必要性を社内外に示し、施策の優先順位を決める上でも重要です」(田村)

現場の意識向上には、日々の業務とサステナビリティの接続が不可欠

施策を実行に移す段階においては、社内報やeラーニング、全社向けの情報発信をはじめ、各社が多様な教育・啓発施策を展開していることが示されました。一方、サステナビリティ推進に対する姿勢を階層別に見ると、事業部門や中堅管理職、若手従業員など、現場に近い層ほど相対的に低い結果となりました。

「日々の業務とサステナビリティとのつながりを具体的に示し、行動に落とし込むことが、全社的な取り組みを加速させるポイントになると考えています」(田村)

施策実行後の継続的な管理については、体制整備が進んでいます。マテリアリティに関する目標では、94%の企業が定量的なKPIを設定しています。また、ほぼすべての企業が、サステナビリティ委員会など、経営層が参加する会議体を通じて進捗を管理しています。

さらに、モニタリングを正確かつ迅速に行うためのESGデータプラットフォームも、約半数の企業が導入済み、または導入を予定しています。データ基盤の整備も進んでいますが、「今後のポイントとなるのは、得られたデータをいかに経営判断へと活用していくかです」(田村)

サステナビリティ経営の成果を実感する企業は限定的

サステナビリティに関する取り組みの成果を見ると、すべての項目で実態が期待を下回り、多くの企業が現時点では期待したほどの成果を実感できていないことが示されました。

リスク回避やコスト低減では一定の成果が見られた一方、新製品・サービスの創出や高付加価値化による単価向上、投資家からの評価向上など、成長機会の獲得や資本市場からの評価につながる領域では、成果を実感できている企業が相対的に少ない状況です。

「サステナビリティを経営戦略と融合させ、取り組みを加速させるためには、サステナビリティへの投資が企業の収益や成長にどのように結び付くのかを示し、具体的な成果や企業価値につなげていくことが重要だと考えています」(田村)

サーベイ結果(2):SSBJ対応

EY新日本有限責任監査法人
気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部
Japan Non-Financial Reporting & Assurance パートナー 大熊 嵩平

SSBJ基準への対応における課題として挙げられる財務的影響の算定を中心に、保証人と早期に対話する重要性や実務上の論点について解説しました。

開示前のドライランが対応を円滑にする

時価総額3兆円以上の企業においても「ドライラン」に取り組んでいる企業は56%、また1兆円以上3兆円未満の企業においては24%にとどまりますが、早い段階で開示の全体像を把握することが重要です。

「SSBJ基準に沿った開示を事前に作成することで、開示の完成形を具体化できます。全体像が見えることで、関係部門に必要なデータや、そのデータを何に使うのかを共有しやすくなるため、ドライランを具体的に進めることが、プロジェクトを円滑に進めるポイントだと考えています」(大熊)

複数部署が関与するSSBJ対応は「財務的影響の算定」が課題に

SSBJ対応には、幅広い部門の関与が求められます。大熊は、部門横断で取り組む上での課題として「財務的影響の算定」を挙げました。実際に、多くの企業が「合理的な根拠に基づく財務的影響の算定」を、SSBJ対応における最大の課題として回答しています。

「財務的影響の算定が難しい理由は、単に計算方法が決まっていないためではありません。リスク・機会と事業計画をどのように結び付けるのか、どのシナリオや時間軸を採用するのかといった社内での合意形成に加え、算定に必要なデータの収集も必要です。複数の論点が絡み合うため、実務上の難易度が高くなっているのです」(大熊)

同時開示・保証を見据えた最大のポイントは、保証人との早期のコミュニケーション

保証人は、完成した開示情報を最後に確認するだけの存在ではありません。調査では、時価総額3兆円以上の企業の約7割が、保証人と毎週または月1回以上の頻度でコミュニケーションを取っていることが示されました。また、同規模企業の95%以上において、財務諸表監査人と同一の保証人が選択されています。

「SSBJ対応では、リスクと機会の評価結果を財務的影響や事業計画とどのように結び付けるかという点も重要な論点になります。リスクと機会の識別および評価、データの収集範囲、算定方法などについて、会社としての考え方と根拠を整理した上で、開示の作成段階から保証人と議論を重ねることが重要です。開示の準備が進んでから重要な論点が判明すると、データの再収集や算定方法の見直しなど、大きな手戻りにつながります。重要な論点ほど早い段階から根拠を整理し、保証人と議論する必要があります」(大熊)

大熊は、SSBJ基準における同時開示・同時保証を見据えた実務上のポイントについても触れ、次のように総括しました。

「まず自社で考え方や根拠を整理し、自社の対応方針を明確にすることです。プロセスを整備することで、SSBJ対応を通じて蓄積されるリスク・機会や財務的影響などの情報を、開示のみならず、経営判断や事業改革、さらには企業価値創出にも活用できると考えています」(大熊)

あるべきサステナビリティ経営「Beyond SSBJ」

EY新日本有限責任監査法人
気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部 プリンシパル
EY Japan Exceptional Client Service Leader 尾山 耕一

調査回答企業の多くが、2021〜2022年頃またはそれ以前からサステナビリティ経営に取り組んでいます。尾山は、SSBJ基準への対応を経て、その先に目指すべき方向性として「サステナビリティ2.0」という概念を提示。サステナビリティを企業価値の創出につなげる、次なる経営のあり方と、その実現に向けたアプローチについて解説しました。

サステナビリティ経営を「守り」から「攻め」へ

「サステナビリティ2.0」を提示する背景にあるのは、企業を取り巻く事業環境の大きな変化です。地政学的な緊張や豪雨などの自然災害に加え、AIの急速な進展など、将来の見通しが難しい状況が続いています。企業活動の土台となる環境や社会、経済、人々の暮らしそのものが変化する中で、いかにその基盤を維持し、事業の持続可能性を高めていくかが問われています。

「これまでのサステナビリティ経営が『守り』だとすれば、今後はより『攻め』に転じ、収益にも貢献する経営へと変えていく必要があります。そのためには、財務と非財務の融合を進め、成長や競争優位との結び付きを強めていく必要があります」(尾山)

「サステナビリティ経営2.0」とは、サステナビリティを “守る”から“稼ぐ”へ、ESG評価向上 だけでなく、収益拡大・成長・企業価値向上のための手段とする段階

「炭削くん」の特徴

本業への組込みへの第一歩は、財務と連動した非財務PDCAサイクルの確立

「サステナビリティ2.0」を実現するには、具体的にどのような仕組みを構築すべきでしょうか。尾山が特に重要視するのは、既存の財務PDCAサイクルと連動する非財務PDCAサイクルの確立です。

しかし、実際にはPDCAが十分に機能せず、取り組みが停滞している企業も少なくありません。慢性的なリソース不足に加え、新たな制度への対応や顧客からの要請が加わることで業務がひっ迫する。その結果、全社的な取り組みが表面的、場当たり的なものとなり、成果や利益への貢献を十分に示せなくなる。社内からも取り組む意義を問われ、さらなるリソース不足につながる─こうした悪循環に陥っていると分析しました。

悪循環から脱し好循環へ転換するポイントとして尾山が挙げたのが、「CSOのリーダーシップ」と「AIの活用」です。


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サステナビリティ推進の悪循環を解決する「CSO」と「AI活用」

「サステナビリティ2.0」を実現する上で、CSOにはどのような役割が求められるのでしょうか。尾山は次のように述べました。

「CSOは、単にサステナビリティ関連の取り組みを推進するだけではなく、サステナビリティを企業の成長につなげる“参謀”として、経営や事業により積極的に関与していく必要があります。加えて、社外に対しても自社が取り組む意義を発信していく、”エバンジェリスト”としての役割を担うことが重要だと考えています」(尾山)

尾山は、SSBJ対応がCSOの”参謀”機能を強化する機会になると述べています。「リスク・機会分析」を単に開示のための検討に終わらせるのではなく、経営・事業との共創を促進するツールとして活用する、という考え方です。

より具体的な打ち手として、「リスク・機会分析」を単に開示のための検討に終わらせるのではなく、経営・事業との共創を促進するツールとして機能させる

地域金融機関における脱炭素に向けた取り組み

また、調査では、4社に3社がサステナビリティ業務にAIを活用していることが分かりました。AIによる業務効率化は、リソース不足による停滞を解消する有効手段になり得ると尾山は指摘します。

一方で、AIの活用にはハルシネーションなどのリスクも伴います。AIにすべてを任せるのではなく、人の目による確認や、必要に応じた専門家の検証を組み合わせることが、業務の効率化と品質の確保につながります。

最後に、尾山はこれからのサステナビリティ経営のあり方について、次のように総括しました。

「現在は、制度対応や顧客からの要請への対応に追われている企業も多いと思います。しかし、5年ほどたてば、こうした対応も次第に平常化していくでしょう。そして、その先に求められるのは、それぞれの企業らしい形で社会課題の解決に貢献する『攻め』の取り組みです。目の前の対応だけにとらわれず、中長期的な視点を持って、サステナビリティ経営を推進していただきたいと考えています」(尾山)

トークセッション

後半では、視聴者から寄せられた質問をもとに、茂森、尾山、大熊によるトークセッションが行われました。その一部をご紹介します。

Q. サステナビリティ対応を進める上で、企業が直面する主な壁は何でしょうか?

「既存のリスク管理とサステナビリティ上のリスクをどう整合させるかが、一つの壁です。有価証券報告書に記載している事業リスクとの関係を整理するには、各主管部署との議論が必要です」(大熊)

「コーポレート部門と事業部門の間で、目線や活動が分断されていることも大きな壁です。経営トップが目標を明確に示し、全社に浸透させた上で、双方をつなぐ組織体制を構築する必要があります」(茂森)

「財務的影響について、どこまで算定・開示すべきかを見極めにくいことが課題です。他社の対応状況も踏まえながら、自社がどこまで取り組むのかについてロードマップを描き、必要なリソースや工数を判断していく必要があります。同時に、経営層や事業部門を巻き込み、関係者を増やしながら社内で答えを導き出していくことも重要です」(尾山)

Q. サステナビリティ経営に、経営層や事業部門をどう巻き込むべきでしょうか?

「資源循環など具体的な事業と結び付け、ビジネスとして推進していくことが重要です」(大熊)

「サステナビリティが財務や事業にどうつながるのか、納得感を持ってもらうことが重要です。リスクへの対応だけでなく、社会・環境課題の解決が新たな事業機会になると認識できれば、経営層の姿勢や取り組みも大きく変わっていくはずです」(尾山)

「取引や資金調達、IR・SRなどへの影響を投資家の視点も踏まえて整理し、可能な限り定量化することで、経営層や事業部門と認識を合わせる必要があります」(茂森)

Q. ジョブローテーションが一般的な日本企業において、長期的な非財務活動を企業価値向上につなげるには、どのような取り組みが必要でしょうか?

「ジョブローテーションは、必ずしもサステナビリティ推進の妨げになるものではありません。サステナビリティ部門で得た知見を持つ人材が事業部門に戻り、社内の”エバンジェリスト”として変革を促すことは、むしろ経営や事業との距離を縮める上で有効だと考えています」(尾山)

Q. これからのサステナビリティ経営は、どのように進化していくべきでしょうか?

「SSBJ対応などを通じて、サステナビリティ情報をより早く把握できる環境が整いつつあります。今後は開示にとどまらず、そのデータをいかに経営戦略や意思決定につなげていくかが重要になると考えています」(大熊)

「規制対応などの『守り』だけでなく、長期的なメガトレンドから事業機会を捉える『攻め』の視点が重要です。事業部門を巻き込みながら、中期経営計画や事業計画、さらには投資家へのエクイティストーリーまでつなげていく必要があると考えています」(茂森)

「サステナビリティ担当者の皆さまは、企業や社会を持続可能な方向へ導く変革者として、非常に重要な役割を担っていらっしゃいます。業務負荷やさまざまな難しさがある中でも、その役割に誇りと使命感を持って取り組んでいただきたいと思っております」(尾山)


【共同執筆者】

田村 響
EY新日本有限責任監査法人 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)事業部 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです。


本調査は年内の継続を予定しています。参加企業には、他社比較を含む調査結果レポートをご提供しております。ご参加をご希望の場合は、事務局までご連絡ください。


サマリー 

サステナビリティ推進の体制整備が進む一方、事業部門の巻き込みや成果の定量化には課題が残っています。SSBJ対応ではドライランや保証人との早期対話が重要です。開示情報を経営判断に生かし、企業の成長と価値創出につなげることが求められます。



ニュースリリース

EY調査、国内主要企業87社のサステナビリティ経営実態 ― 体制整備は進む一方、事業部門の関与とインパクトの定量化が課題

EY新日本有限責任監査法人の気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)と EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社で戦略・M&Aトランザクションアドバイザリー業務を行うEY-Parthenonは、日本企業のサステナビリティ経営の実態と課題を把握し、今後の経営高度化に向けた示唆を得ることを目的に、国内主要企業を対象とした「EY Japan サステナビリティ経営実態調査」を実施しました。

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