主要国におけるBEPS2.0アップデート日系企業留意点まとめ

主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ15
各国の制度導入状況を常にモニタリングし、適切な体制を構築することが必要


全15回にわたって連載してきた主要国におけるBEPS2.0各国アップデートシリーズも、今回で最終回となります。

現時点で、Pillar1では、Amount Aは多国間条約の最終化・署名が延期、Amount Bは今後各国での導入が検討される予定です。Pillar2では、ルールを導入する国がある一方で、米国やメキシコのようにいまだ導入すら不透明な国もあります。今後日系企業はどのような点に留意すべきなのか、シリーズのまとめとして解説していきます。


要点

  • 一部の国・地域では給付と税額控除を組み合わせた優遇税制があり、実態としては補助金の性質を持つため、GloBEルールでは給付付き税額控除に関する取り扱いが示されている。
  • 所得合算ルール(IIR)は構成事業体のGloBE実効税率(ETR)が15%を下回った場合に、最終親会社の納税地で納税する制度だが、その国に所在する構成事業体のGloBE所得に対して自国内ミニマム課税制度(DMTT)を導入することで、これを防止することが可能。
  • Pillar1、Pillar2の合意は、100年来積み上げてきた国際課税原則を大幅に見直すものであり、これまで自国内のルールで制定されてきた税制が、各国制度の相互作用により納税額や納税地が変化する。そのため、多国籍企業は各国の制度導入状況を常にモニタリングし、適切な対応ができる体制を構築する必要がある。


優遇税制を利用している企業は
GloBEルールに大きな影響を受ける
 

まずETRが15%を下回る要因の1つとして、優遇税制の適用が挙げられます。多くの国では海外から自国への対内投資を促進するため、あるいは、自国企業の国内投資を促進するために優遇税制を始めとした多様なインセンティブが設けられています。しかし、優遇税制によりETRが15%を下回った場合、その差額がトップアップ課税されることになり、優遇税制の恩恵を十分に享受できないことになります。


そのため、一部の国・地域では給付と税額控除を組み合わせた優遇税制があり、これらは実態としては補助金の性質を持つため、GloBEルールでは給付付き税額控除に関する取り扱いが示されています。
 

これについて、ベトナムでは優遇税制の効果の希薄化を懸念し、新たな投資支援策を導入することで、GloBEルールの影響を軽減させようとしています。タイではBoard of Investment(BOI)によるインセンティブ制度があり、法人税免税といった恩典を適用している場合、ETRが15%を下回ることが想定されるため、BOIの軽減緩和措置を利用して減税制度に転換するなど再検討を行う必要があります。
 

シンガポールでもETRへの影響を軽減する新たなインセンティブ制度となる投資税額控除(RIC)の導入を検討しています。
 

このように優遇税制を利用している企業は、GloBEルールの適用に大きな影響があるため、グループの構成事業体の取り扱いを確認し、対応すべきでしょう。また、各国でインセンティブの強化が検討されていますが、いずれの新制度も現状では基本的に新たな投資を対象としており、既存インセンティブについては個別交渉が必要となるため、追加課税に関する影響額を試算し、その影響が大きい場合は所轄官庁との交渉が推奨されます。
 

 

日本のIIRではグループ最低課税額を
ゼロとする適用免除基準が導入される
 

IIRは構成事業体のETRが15%を下回った場合に、最終親会社の納税地で納税する制度ですが、当該構成事業体の所在国は自国の産業優遇政策を無効化されてしまう結果となるため、その国に所在する構成事業体のGloBE所得に対してDMTTを導入することで、これを防止することが可能です。
 

このDMTTに関し、日本のIIRでは、一定要件を満たす自国内最低課税額に対する税を課される場合、その所在地国に係わるグループ最低課税額をゼロとする適用免除基準(QDMTTセーフハーバー)が導入されています。
 

2023年に公表された執行ガイダンスには、DMTTが国内ミニマム課税(QDMTT)に該当する場合と、QDMTTがQDMTTセーフハーバーの適用を受けるために満たすべき、以下の3つの追加要件を示しており、日本のIIRとの適用関係について考慮する必要があります。
 

1つ目のQDMTT会計基準では、最終親会社の連結財務諸表の財務会計基準でQDMTTの計算を要求している、あるいは、現地財務会計基準でQDMTTの計算を要求している、以上のいずれかを満たしている必要があります。
 

2つ目の整合性基準では、QDMTTのコメンタリーにおいて、QDMTTがGloBEルールから逸脱することを明確に要求している場合、あるいは、QDMTTがGloBEルールに比して同等以上の結果を生み出す場合を除き、GloBEルールで要求されているものと同様のものにする必要があります。
 

3つ目の管理要件(執行ガイダンスに含まれる要件だが、本邦法令では対応していない)では、GloBEルールに基づく同等の要件およびGloBE情報申告(GIR)に規定された報告方法との整合性を確保するための情報収集および報告要件の見直しが含まれます。
 

上記のため、移行期CbCRセーフハーバー(TCSH)を検討した結果、その適用要件を満たさない国・地域については、DMTTの有無、そして当該制度が適格となるのか、QDMTTセーフハーバーの要件を充足するのかについて、海外の構成事業体と連携しながらモニタリングする必要があります。
 

 

GloBEルールへの対応を単なる税務関連の課題ではなく
企業全体の経営課題と捉えるべき
 

Pillar1、Pillar2の合意は、100年来積み上げてきた国際課税原則を大幅に見直すものであり、これまで自国内のルールで制定されてきた税制が、各国制度の相互作用により納税額や納税地が変化するため、多国籍企業はGloBEルールに関する各国の制度導入状況を常にモニタリングし、適切な対応ができる体制を構築する必要があります。
 

伝統的に欧米企業はグローバルベースでの実効税率を重視したタックスプランニングに積極的であり、税をコストとして捉え、管理してきた背景があります。そのため税務関連情報を各国子会社から収集する体制ができており、GloBEルールもそれらの情報を活用する前提で策定されています。
 

しかし、日系企業は情報収集の体制構築から対応が必要となるケースも少なくありません。また、企業買収した場合、財務会計・管理会計に関するシステムがグループ内で統一されていないケースもあり、情報収集のプロセス構築に課題があります。
 

GIRを見据えた情報連携として、グループで統一された方法で財務データを収集し報告するとともに、各国で情報を共有できるシステムを構築するなど、GloBEルールへの対応を単に税務関連の課題ではなく、企業全体に影響を及ぼす経営課題と捉え、税務ガバナンスの向上に取り組むことが重要です。



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主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ14
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なぜ財務諸表上の税率が15%であっても、グローバルミニマム課税の対象になり得るのか

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    サマリー

    伝統的に欧米企業はグローバルベースでの実効税率を重視したタックスプランニングに積極的であり、税をコストとして捉え、管理してきた背景がある一方、日系企業は情報収集の体制構築から対応が必要となるケースも少なくなく、情報収集のプロセス構築に課題があります。情報をグループで統一された方法で収集し報告するとともに、各国で情報を共有できるシステムを構築するなど企業全体に影響を及ぼす経営課題と捉え、税務ガバナンスの向上に取り組むことが重要となります。


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