米国トランプ新政権の関税政策解説と企業に求められる対応

情報センサー2025年4月 Tax update

米国トランプ新政権の関税政策解説と企業に求められる対応


米国トランプ新政権は、大統領選挙期間中に掲げた関税に関する公約を次々と実現しており、米国においてビジネスを行う日系企業にも多大な影響があると見込まれます。本稿では、導入済み、もしくは、今後導入されると思われる関税措置を解説し、企業が検討すべき対応策について紹介します。


本稿の執筆者

EY税理士法人 インダイレクトタックス部 グローバルトレード 原岡 由美

日系の多国籍企業で通商貿易管理の業務に従事した後、2010年にEY税理士法人に入社。現在、幅広いセクターのクライアントに対して、通商貿易体制構築・強化の支援や、戦略的な関税コスト削減のアドバイザリー業務を提供している。



要点

  • トランプ政権は保護貿易主義的な「アメリカファーストの通商政策」を掲げており、既に特定の国や産品を対象とする高税率の追加関税が発動されており、今後も関税措置が追加されていくことが予想される。
  • 貿易相手国も報復関税で応酬することが予想され、今後の関税環境は不安定で予測困難になる。
  • 企業における戦略的な関税管理の重要性がますます高まる。


Ⅰ はじめに

ドナルド・トランプ米大統領は、自らを”Tariff Man”(関税人)と称し、選挙活動期間中から「アメリカファーストの経済政策(”America First” Economic Policy)」を掲げ、その実現のために全ての輸入品の関税率を引き上げるベースラインタリフ(Baseline Tariff)や米国産品に高関税を課している国からの産品に同等な高関税を課す相互関税(Reciprocal Tariff)の導入、中国産品へのWTO税率の適用停止などの関税措置を提唱していました※1。その方針に基づき、2025年1月20日の大統領就任当日に、「アメリカファーストの通商政策」と題する覚書※2(The Presidential Memo “America First Trade Policy”)に署名し、関係省庁に対し「不公正かつ不均衡の貿易への対応」「中国との経済および貿易関係」「経済安全保障問題」に関する調査や施策の提案を行うよう指示しました。

調査・提案期限の25年4月1日を待たずして、2月4日には中国産品に対する10%の追加関税の課税に始まり、既にさまざまな関税施策が発表・導入されています。トランプ大統領は、1期目(2017~21年)にも「アメリカファースト」を掲げ、中国産品や鉄鋼・アルミ製品を対象とした関税施策を導入していましたが、2期目となる今回は提唱している関税施策の内容が大きく拡大・強化され、導入までの速度も大幅に加速しています。

※1 Chapter 5, “2024 GOP Platform Make America Great Again!”,  Donaldjtrump.com, rncplatform.donaldjtrump.com/?_gl=1*1r31kzg*_gcl_au*OTU3ODYxMjMwLjE3Mzk4Mzk2OTE.&_ga=2.229330586.748982285.1739839691-1726517311.1739839691(2025年3月21日アクセス)

※2 “America First Trade Policy”, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/01/america-first-trade-policy/(2025年3月21日アクセス)


Ⅱ 25年4月4日現在の関税措置

1. 中国・カナダ・メキシコ産品に対する追加関税

2月1日、トランプ大統領は、違法薬物および違法移民の流入につき非常事態を宣言し、International Emergency Economic Powers Act(IEEPA:国際緊急経済権限法)に基づき、カナダ、メキシコ、中国からの輸入品に追加関税を課す3つの大統領令(Executive Order)※3に署名しました(<表1>参照)。

表1 IEEPA大統領令の概要

表1 IEEPA大統領令の概要

* “Further Amendment to Duties Addressing the Synthetic Opioid Supply Chain in the People's Republic of China”, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/03/further-amendment-to-duties-addressing-the-synthetic-opioid-supply-chain-in-the-peoples-republic-of-china/(2025年3月21日アクセス)

EY作成

(1) 中国

中国を原産地とする輸入品の多くには、2018年8月から段階的に導入された1974年貿易法第301条に基づく25%の追加関税が課せられています。今回発動されたIEEPAに基づく追加関税(2月4日より10%、3月4日より20%に引き上げ)は、既に課せられている第301条の追加関税に加えて課税されます。

(2) カナダ・メキシコ

2月1日の大統領令の署名直後から、トランプ大統領はカナダ・メキシコそれぞれの首脳に米国の非常事態への両国の対応を確認の上、両国産品を対象とした追加関税の発動を3月4日まで猶予する旨の大統領令に署名しました※4。その後、措置は3月4日より発動しましたが、3月6日の新たな大統領令※5に基づき、3月7日より、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の原産性要件を満たすカナダ・メキシコ産品については25%の追加関税の対象から除外されています。

(3) 上記IEEPAの追加関税の特徴

今回のIEEPAに基づく追加関税には期限は設けられておらず、原則として非常事態が解消されるまで継続されます。

また、今回の措置は、特定の品目のみを対象としたものではなく、従来はこの種の追加関税の対象外とされていた医薬品も含め、原則として対象国を原産地とする全ての輸入品が対象となっています。さらに、今回のIEEPAに基づく追加関税は、第301条に基づくこれまでの中国産品に対する追加関税と比較し、回避が困難となっています。

従って、これまで第301条の追加関税の適用を受けずに中国産品を輸入していた企業も、今回の追加関税の適用を受ける可能性が高く、注意が必要です(<表2>参照)。

表2 第301条とIEEPAの追加関税の比較

表2 第301条とIEEPAの追加関税の比較

*1 再輸出などを条件に、輸入時に支払った関税の還付を受ける制度

*2 外国貿易地域(Foreign Trade Zone)内で加工した貨物については、加工前の輸入部品の関税率か、加工後の製品の関税率か、いずれか低い方を選択することができる。

EY作成


2. 鉄鋼・アルミの追加関税

トランプ大統領は25年2月10日、1962年通商拡大法232条に基づき、3月12日より米国に輸入される鉄鋼およびアルミ製品に25%の追加関税を課す大統領令に署名しました※6

鉄鋼・アルミの追加関税

1期目のトランプ政権は、2018年3月より鉄鋼製品に25%、アルミ製品に10%の追加関税を課しています。導入当初の輸入抑制効果は大きかったものの、その後、特定の国や品目を対象としたさまざまな適用除外が導入された結果、効果が弱まったとして、2月10日の大統領令により、アルミの追加関税率を10%から25%まで引き上げたほか、除外品目の範囲もかなり限定されました。

また、1.のIEEPAに基づく追加関税同様、戻し税の適用は受けられません。外国産の鉄鋼・アルミ製品をFTZで加工を行った上で米国国内に引き取る場合であっても、当該外国産の鉄鋼・アルミ製品は追加関税の対象となります。

日本も含め多くの国が適用除外を求めていますが、4月4日現在、全ての輸出国が対象となっています。
 

3. 自動車および自動車部品の追加関税

トランプ大統領は、25年3月26日、輸入自動車・同部品に25%の追加関税措置を命じる布告を発表しました※7

自動車及び自動車部品の追加関税

追加関税の対象となる具体的な品目は、4月3日の官報に記載されています※8

当該追加関税は、米国の安全保障を確保するために、米国への自動車およびその部品の輸入を調整(制限)することが目的となっており、今後対象品目の追加も可能となっています。

なお、USMCAの原産地規則を満たす優遇税率の対象となる自動車については、輸入者は商務省長官に対して当該自動車に含まれる米国産の部品割合を証明することにより、米国産の価値部分を追加関税の対象から除外することができます。

USMCAの原産地規則を満たす優遇税率の対象となる自動車部品についても、同様に米国産の価値部分を追加関税の対象から除外することが可能です。ただし、こちらについては、仕組みが整備され、官報にて通知されるまで、25%の追加関税の適用が免除されます。

最後に、1.および2.の関税措置同様、戻し税の適用は受けられません。また、外国産の自動車部品をFTZで加工を行った上で米国国内に引き取る場合であっても、当該外国産の自動車部品は追加関税の対象となります。
 

4. 相互関税

トランプ大統領は、米国の大規模かつ持続的な貿易赤字は非常事態であるとして、25年4月2日、米国への輸入品に対して相互関税を課す大統領令に署名しました※9

その結果、4月5日より、米国に輸入される全ての貨物に対して10%の追加関税(ベースラインタリフ)が課せられます。また、4月9日より、米国が貿易赤字を抱えている国として個別の税率を設定した次の国を原産地とする貨物には、10%ではなく個別に設定された料率が適用されます。なお、メキシコ・カナダ産品については、1.のIEEPAに基づく25%の追加関税の措置が発動している間は相互関税は適用されず、当該措置が撤廃・停止された場合は12%の相互関税が適用されます(ただし、USMCAの原産地規則を満たす品目は、相互関税の対象から除外されます)。
 

相互関税の国別税率

国名

税率

国名

税率

国名

税率

アルジェリア

30%

イラク

39%

ナイジェリア

14%

アンゴラ

32%

イスラエル

17%

北マケドニア

33%

バングラデシュ

37%

日本

24%

ノルウェー

15%

ボスニア・ヘルツェゴビナ

35%

ヨルダン

20%

パキスタン

29%

ボツワナ

37%

カザフスタン

27%

フィリピン

17%

ブルネイ

24%

ラオス

48%

セルビア

37%

カンボジア

49%

レソト

50%

南アフリカ

30%

カメルーン

11%

リビア

31%

韓国

25%

チャド

13%

リヒテンシュタイン

37%

スリランカ

44%

中国

34%

マダガスカル

47%

スイス

31%

コートジボワール

21%

マラウイ

17%

シリア

41%

コンゴ民主共和国

11%

マレーシア

24%

台湾

32%

赤道ギニア

13%

モーリシャス

40%

タイ

36%

EU

20%

モルドバ

31%

チュニジア

28%

フォークランド諸島

41%

モザンビーク

16%

バヌアツ

22%

フィジー

32%

ミャンマー(ビルマ)

44%

ベネズエラ

15%

ガイアナ

38%

ナミビア

21%

ベトナム

46%

インド

26%

ナウル

30%

ザンビア

17%

インドネシア

32%

ニカラグア

18%

ジンバブエ

18%

*上記に記載のない国については、4月9日以降も継続して10%が課税される。

当該措置は、貿易赤字の原因となる国(米国産品に対して高関税を課している国)からの輸入品に対して、米国も高い関税を課すことにより、当該国の貿易慣行の是正を求めることが目的となります。そのため、貿易相手国が貿易慣行を是正する措置を講じた場合は、大統領には関税引き下げを行う裁量が与えられています。また、相手国が今回の措置に対する報復措置を実施した場合には、大統領は裁量にて、関税の引き上げを行うことも可能です。

なお、以下の製品は、相互関税の対象外となっています。

  • 通商拡大法第232条の関税の対象となる鉄鋼・アルミ製品および自動車・自動車部品
  • Annex-IIに列挙される貨物※10(銅、医薬品、半導体、木材製品、特定の重要鉱物、エネルギー・エネルギー製品)
  • 将来、通商拡大法第232条関税の対象となる物品
  • 地金
  • 米国では入手できないエネルギーおよびその他の特定鉱物
  • IEEPA 50 U.S.C. 1702(b)で規定される貨物(信書、人道支援物資、等)

最後に、1.~ 3.の関税措置同様、戻し税の適用は受けられません。また、相互関税の対象部材をFTZで加工を行った上で米国国内に引き取る場合であっても、当該部材は追加関税の対象となります。

※3 中国10%:”Imposing Duties to Address the Synthetic Opioid Supply Chain in the People's Republic of China”, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/02/imposing-duties-to-address-the-synthetic-opioid-supply-chain-in-the-peoples-republic-of-china/(2025年3月21日アクセス)

カナダ:”Imposing Duties to Address the Flow of Illicit Drugs Across Our Northern Border”,  The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/02/imposing-duties-to-address-the-flow-of-illicit-drugs-across-our-national-border/(2025年3月21日アクセス)

メキシコ:”Imposing Duties to Address the Situation at Our Southern Border”, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/02/imposing-duties-to-address-the-situation-at-our-southern-border/(2025年3月21日アクセス)

※4 カナダ:”Progress on the Situation at Our Northern Border”, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/02/progress-on-the-situation-at-our-northern-border/(2025年3月21日アクセス)

メキシコ:”Progress on the Situation at Our Southern Border”, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/02/progress-on-the-situation-at-our-southern-border/(2025年3月21日アクセス)

※5 カナダ:”Amendment to Duties to Address the Flow of Illicit Drugs Across Our Northern Border”,  The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/03/amendment-to-duties-to-address-the-flow-of-illicit-drugs-across-our-northern-border-0c3c/(2025年3月21日アクセス)

メキシコ:”Amendment to Duties to Address the Flow of Illicit Drugs Across Our Southern Border”,  The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/03/amendment-to-duties-to-address-the-flow-of-illicit-drugs-across-our-southern-border/(2025年3月21日アクセス)

※6 鉄鋼:”Adjusting Imports of Steel into The United States”, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/02/adjusting-imports-of-steel-into-the-united-states/(2025年3月21日アクセス)

アルミ:Adjusting Imports of Aluminum into The United States, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/02/adjusting-imports-of-aluminum-into-the-united-states/(2025年3月21日アクセス)

※7 “Adjusting Imports of Automobiles and Automobile Parts into the United States”, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/03/adjusting-imports-of-automobiles-and-autombile-parts-into-the-united-states/(2025年4月4日アクセス)

※8 “Adjusting Imports of Automobiles and Automobile Parts Into the United States”, The Federal Register (90 FR 14705),  govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-04-03/pdf/2025-05930.pdf(2025年4月4日アクセス)

※9 "Regulating Imports With a Reciprocal Tariff To Rectify Trade Practices That Contribute to Large and Persistent Annual United States Goods Trade Deficits", GovInfo, www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2025-04-07/pdf/2025-06063.pdf(2025年4月7日アクセス)

※10 具体的な貨物およびHSコードは、Annex-IIに規定されている。”Annex-II”, The White House, whitehouse.gov/wp-content/uploads/2025/04/Annex-II.pdf(2025年4月4日アクセス)


Ⅲ 今後予想される関税措置

1. 銅と木材を対象とした追加関税

2月25日に、トランプ大統領は、銅および銅製品の輸入が米国国家安全を脅かしている可能性があるとして、調査を指示する大統領令に署名しました※11。米国商務省長官は、270日以内に、これらの輸入品が米国国家安全に与える影響の調査を行い、その対応策(関税、輸出規制、国内生産拡大に対するインセンティブ等を含む)をトランプ大統領に提示することになります。

なお、3月1日に、トランプ大統領は、木材を対象とする同様の調査を指示する大統領令に署名しています※12

両調査は、前述の鉄鋼・アルミ製品の追加関税同様、1962年通商拡大法232条に基づく調査のため、追加関税が課せられた場合には、鉄鋼・アルミ製品に関する追加関税同様、戻し税の適用を受けられない可能性が高く、注意が必要です。
 

2. 半導体と医薬品を対象とした追加関税

就任後、トランプ大統領は記者会見等にて、たびたび半導体と医薬品を対象とする追加関税を課す意向を示しています。

半導体と医薬品は4月2日に発表された相互関税の対象からは除外されていますが、同じく相互関税の対象から除外されているのが既に品目別追加関税の対象となっている品目(アルミ・鉄鋼製品、自動車・自動車部品)および、品目別追加関税の適用に向けた調査が実施されている品目(木材、銅製品)であることから、今後半導体および医薬品についても、追加関税の適用または適用に向けた調査が発表される可能性があります。

※11 “Addressing the Threat to National Security from Imports of Copper”, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/02/addressing-the-threat-to-nationalsecurity-from-imports-of-copper/(2025年3月21日アクセス)

※12 “Addressing The Threat To National Security from Imports of Timber, Lumber”, The White House, www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/03/addressing-the-threat-to-national-security-from-imports-of-timber-lumber/(2025年3月21日アクセス)


Ⅳ 企業の対応

トランプ政権を中心とした保護貿易主義の台頭により、世界の貿易環境の不確実性が増しています。今後、追加関税と報復関税の応酬の結果、特定の輸出国を原産地とする産品や、原産地に関係なく特定の産品の輸入時に課せられる関税率が予告なく大幅に上昇する事態も予想されます。このような不確実な環境では、企業の関税管理の在り方も、適切な輸出入申告および関税の納税の確保に加え、今後考えられ得るさまざまな関税シナリオにつき自社への影響分析・シミュレーションおよび対応策の提言など、より戦略的な役割を担っていくことが求められます。
 

1. 影響分析・シミュレーション

今後発動され得る追加関税や報復関税の影響分析のためには、自社グループ内で、「何を」「どこで」製造し、それを「どこに」「どれだけ(量・額)」輸入しているのか、というサプライチェーンの基本情報のほか、関税措置の対象貨物・取引を特定するために使用される「原産地」および「HSコード」とひも付けて把握しておくことが必要となります。

後ほど詳細に説明しますが、ここで言う「原産地」は、必ずしも輸出国や最終加工地とは同義ではないことに注意が必要です。
 

2. 原産地プランニング

中国に対する追加関税や相互関税など、特定国を原産地とする産品を対象とした関税措置は、原産地を変更することにより、追加関税を回避・減額することが可能となります。例えば、中国で製造した機器を米国に輸出している企業が、製造場所を日本に変更し、日本産品として米国に輸入すれば、中国産品を対象とした追加関税の課税を回避することが可能です(ただし、日本原産品として24%の相互関税の対象にはなります)。

しかし、「原産地」は必ずしも輸出国や最終加工地と同義ではありません。工業品の場合、「原産地」とは、最後に実質的な変更が行われた国や地域のことを言いますが、何をもって実質的な変更が行われたとするかは、輸入国により異なります。そのため、全く同じ製造工程を経た品目が、A国とB国のルールでは異なる原産地となることも十分あり得るため、輸入国のルールに基づいて判断する必要があります。

米国のルールは、輸入者にとって必ずしも分かりやすいものではありません。当局が発行する原産地ガイドラインには、「実質的変更の基準はケース・バイ・ケースで適用される」「名称、特性、用途の変更によって判断する」と記載されており※13、「40%以上の付加価値が付加された国」など具体的な閾値(しきいち)を設けている国と比べると、当局の裁量が大きいと言えます。

特に、最終工程のみを中国からメキシコに移管することによる追加関税の迂回(うかい)が前政権より問題となっており、今後トランプ政権下でさらに取り締まりが強化されることが予想されます。原産地プランニングは非常に効果的な関税プランニングの手法ではありますが、その半面、後日生産移管後の国での工程が不十分で追加関税の課税対象であったと判断された場合には、過去数年さかのぼって追加関税の追徴や罰金・延滞税が課せられる可能性があります。節税効果が大きい分、輸入国の原産地に関するルールにのっとって正しく原産地を変更する必要があります(<図1>参照)。

図1 米国が懸念する迂回輸入

図1 米国が懸念する迂回輸入

3. 関税評価プランニング

鉄鋼・アルミ製品を対象とした25%の追加関税や、現在検討されていると思われる自動車、医薬品、半導体チップに対する追加関税など、対象国を限定していない施策については、関税の課税標準となる輸入貨物の申告価格(≒インボイス価格)の適正化を行うことにより、追加関税の影響を軽減することが可能となります。

特に、今回追加関税の対象として検討されている品目のうち、医薬品などには米国輸入時に関税がかかっておらず、これまで医薬品メーカーは関税の課税標準の適正化を意識する必要が低かったと言えます。そのため、知的財産権の利用対価、本社配賦費など、必ずしも輸入貨物とひも付かず、課税標準に含めなくてもよい費用も棚卸価格の一部に含まれている場合があります。

価格設定方法を見直すなど、関税の課税標準の適正化を図ることは、今後予想されるさまざまな関税施策および報復関税に対しても有効だと言えます。本稿では追加関税の影響軽減という文脈で記載しましたが、関税評価プランニングは、追加関税以外の通常関税のコスト軽減にも有効なプランニング手法となります。

※13 “U.S. Rules of Origin”, U.S. Custom and Border Protection, www.cbp.gov/sites/default/files/assets/documents/2020-Feb/ICP-US-Rules-of-Origin-2014-Final.pdf(2025年3月21日アクセス)


Ⅴ おわりに

今後、世界の関税環境は米国を中心としてますます不安定かつ予測困難なものとなることが予想されています。そのような環境下においては、突発的な関税環境の変更に関する情報を一早く把握することで自社グループに対する影響分析・シミュレーションを行い、迅速に対応策を導入し影響を少しでも軽減することが求められます。追加関税・報復関税の応酬の中、関税コストが上昇し、これまで以上に大きな利益変動要因となり得るからです。日本の多国籍企業においても、国際競争力の維持・向上のためには、戦略的な関税管理がこれまで以上に重要となります。



サマリー 

トランプ米大統領は、保護貿易主義的な「アメリカファーストの通商政策」を掲げています。今後、米国を中心にさまざまな追加関税の発動および貿易相手国による報復関税の応酬が見込まれます。世界の関税環境が不安定かつ予測困難となる中、企業における戦略的な関税管理の重要性がますます高まっています。


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