EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY税理士法人 ビジネス・タックス・アドバイザリーグループ 税理士 宮嵜 晃
2007年EY税理士法人に入社。2014年7月から2017年3月まで経済産業省(国際租税担当)に出向。2023年1月から2024年12月までEYシンガポールに出向。国際課税(主にCFC税制)やインセンティブ関連税制の支援に従事。日本機械輸出組合 国際税務研究会委員。
要点
令和6年度税制改正により創設された戦略分野国内生産促進税制は、令和6年9月2日の産業競争力強化法(以下、産競法)の改正及び令和7年3月25日の産競法を含む関連法制の制定・改正を経て、適用環境が整ってきました。
2025年6月16日の時点では、経済産業省から本税制に関する申請方法や審査のポイント、FAQなどのガイドラインは公表されていませんが、本稿にて重要なポイントをご紹介します。
情報センサー2024年7月「戦略分野国内生産促進税制」やEY税理士法人発行の税務ニュース2025年3月31日「戦略分野国内生産促進税制 事業適応計画の承認申請様式を公表」も併せてご参照ください。
本税制の背景は次の通りです。
この税制による減収見込み額は年間で2,190億円と試算されています。このうちGX分野の物資(半導体以外の商品)に係る減収は、GX経済移行債の発行収入で補填(ほてん)されます。このような仕組みによる税額控除措置は初めてであり、控除上限、措置年数、繰越年数なども従来の制度とは一線を画した措置となっています。
本税制の概要は<表1>の通りです。半導体と特定産業競争力基盤強化商品に分けて規定されています。
表1 戦略分野国内生産促進税制の概要
EY作成
この税制の適用対象となる企業は、2027年3月31日までに産競法の認定を受けた企業※1に限ります。この認定を受けるためには、準備期間を含めて3~6カ月ほどかかると見込まれるため、余裕を持った対応が必要です。認定要件については後述します。
税額控除額は、販売数量に単位当たりの控除額を掛け合わせて計算します。また、産業競争力基盤強化商品※2を生産するための設備など投資額の合計額が上限になります。産業競争力基盤強化商品の内容や控除額の詳細は<表2>の通りです。
表2 適用対象商品及び単位当たり控除額
* メタノール、エチレン、アセチレン、エタノール、プロピレン(異性体を含む)、ブチレン(異性体を含む)、ブタジエン、ペンテン(異性体を含む)、ペンタン(異性体を含む)、イソプレン(異性体を含む)、ベンゼン、ヘキセン(異性体を含む)、ヘキサン(異性体を含む)、トルエン、ヘプテン(異性体を含む)、ヘプタン(異性体を含む)、キシレン(異性体を含む)、オクテン(異性体を含む)、オクタン(異性体を含む)、スチレン、イソノナン(異性体を含む)
出所:財務省「令和6年度法人税関係(国際課税を除く)について」(租税研究2024年7月号)を基にEY作成
半導体に係る措置は3年間、特定産業競争力基盤強化商品に係る措置は4年間の繰越控除が認められています。
なおこの税制と補助金との併用ですが、半導体に係る措置は一定の補助金との併用は不可※3ですが、特定産業競争力基盤強化商品に関しては特段の制限はありません。
最後に、認定期間や税額控除の適用期間、繰越措置の適用関係については<図1>をご参照ください。この税制は初期投資ではなく、生産・販売段階での支援措置となります。そのため、企業は生産・販売期間中に税額控除を受けることができます。
図1 計画検討から税額控除までのイメージ
* 半導体の場合には、最大3年
出所:経済産業省 佐野智樹「戦略分野国内生産促進税制のポイント」(税務通信2025年4月14日号)を基にEY作成
※1 産競法第21条の22第1項の事業適応計画の認定に係る同法第21条の35第2項に規定する認定事業適応事業者
※2 産競法第2条第14項によれば、「産業競争力基盤強化商品」とは、エネルギーの利用による環境への負荷の低減に特に資する半導体、自動車(専ら化石燃料を内燃機関の燃料として用いるものを除く。)、鉄鋼、基礎化学品(化学製品の原材料である化学品(化石燃料に由来するものを除く。)をいう。)、燃料その他事業適応(第十二項第二号に該当するものに限る)に資する商品として政令で定める商品であって、今後の我が国産業の基盤となることが見込まれ、かつ、国際競争に対応して事業者が市場を獲得することが特に求められるものとして主務省令で定める要件に該当するもの」をいう。
※3 半導体産業の事業適応の実施に関する指針において「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律(令和2年法律第37号)第11条第3項の認定を受けた計画又は経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号)第9条第1項の認定を受けた供給確保計画(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律施行令(令和4年政令第394号)第1条第6号に掲げる半体素子及び集積回路に係るものに限る。)に基づいて整備された建物、設備又はシステム(主として産業競争力基盤強化半導体を生産することを目的に整備された建物及びシステムを除く。)を使用していない」と記載されている。
<図2>の通り、本税制の適用を受けるためには、事業者が産競法に基づくエネルギー利用環境負荷低減事業適応計画の認定を2027年3月末までに取得し、国内で基盤強化商品を生産するための新規投資又は増設を行うことが必要です。その上で、認定計画に基づく基盤強化商品の生産・販売活動が「我が国産業の基盤強化に特に資することその他主務大臣が定める基準」(以下、課税の特例に関する基準)に適合したものであることを主務大臣が確認することが必要です。
図2 申請から税額申告までの流れ
出所:経済産業省 佐野智樹「戦略分野国内生産促進税制のポイント」(税務通信2025年4月14日号) を基にEY作成
ここでは事業適応計画の認定及び課税の特例の確認を受けるための主要な要件を紹介します。下記①から③の事業分野別の指標等については<表3>をご参照ください。
① 新規投資額及び生産能力
産競法における事業適応の目的に基づき、認定を受けるためには事業者が新規投資額と生産能力の一定の下限値を満たす必要があります。
② 付加価値率※4の目標の設定
事業年度ごとに付加価値率の目標を設定することが求められています。事業者は、当該事業年度の付加価値額が過去3事業年度平均より増加していること又は当該事業年度の付加価値率が認定事業適応計画に記載の数値(事業分野ごとに下限値が設けられています)を上回っていることが求められます。
③ 経済波及効果
経済波及効果を実現するための今後の取組みの方針、及びそれに係る具体的な数値目標の策定が求められています。事業者は、サプライチェーンの上流に位置するグリーンスチール、グリーンケミカル、SAFは、従来品に比べた製品の脱炭素化に関する指標等、サプライチェーン下流に位置する電気自動車等、半導体は取引社数等に関する指標等(事業分野ごとに下限値が設けられています)を上回ることが求められます。
④ パートナーシップ構築宣言
認定事業者は、課税の特例に関する基準への適合の確認を求めた事業年度末日にパートナーシップ構築宣言を公表している必要があります。
⑤ 取締役会
産競法の施行日(2024年9月2日)以降に取締役会その他これに準ずる機関による経営の方針に係る決議又は決定において、新規導入される設備の価額や当該設備の新規導入に係る事業採算性等が具体的に決定された案件であることが求められています。
表3 事業分野別の主な指標
EY作成
※4 事業適応を実施する事業所における付加価値額を同事業所の売上高で除したもの(ただし、業態特性や固有の事情等により事業所における付加価値額を算定することが事業適応の目的に照らし不適切な場合には、「事業所」を「事業適応計画に記載されている産業競争力基盤強化商品の生産及び販売に係る事業」に読み替えることができるものとする)。
本税制の適用を受けるためには、産競法の認定を受ける必要があります。申請には一定の労力が必要ですが、生産・販売を支援する措置や繰越控除が設けられるなど、過去の税額控除とは異なる有利な制度となっています。非常に高い効果が見込まれるため、産業競争力基盤強化商品の生産や販売を検討している企業は、前向きにこの制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。事業適応計画の認定申請を行う前に税額控除の効果を最大限享受できる計画になっているか、社内の関係各部署とも入念な打ち合わせを行った上で進めることがキーポイントになると考えられます。
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日本版IRAという特別な税額控除制度が設けられました。適用対象法人は電気自動車等、グリーンスチール、グリーンケミカル、持続可能な航空機燃料(SAF)、半導体を生産・販売する法人です。2025年3月25日から本格的に運用が開始しますが、2027年3月末までに産業競争力強化法の認定を受ける必要があります。
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