EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY税理士法人/EY弁護士法人 弁護士・公認会計士 竹原 昌利
現 EY新日本有限責任監査法人での勤務を経て、2014年弁護士登録。17~19年東京国税局調査第一部調査審理課にて国際調査審理官として勤務。現在、税務調査対応、税務争訟、会計及び税務に関連する企業法務分野に従事。EY税理士法人とEY弁護士法人を兼務。
要点
近年、税法や関連する法規制は複雑化・高度化の一途をたどっています。税務実務に携わる方には専門的な知識のみならず、実務経験や最新の情報への対応力が求められています。また、国際的な取引やクロスボーダー課税の増加により、グローバルな視点も必須になっています。昨年度から本格化しているPillar 2(グローバル・ミニマム課税)制度はその最たる例です。
税務実務は従来、税理士が専門職として担っており、そのこと自体は今後も変わりません。ただし、税務の専門家である税理士と法律の専門家である弁護士が協働することで、より良い税務プラクティスがもたらせる点については、疑いがないように思います。なぜなら、平成の半ばごろから見られるようになった大型の当局敗訴事案を経て、税務当局側もリーガルの視点を大事にし、最終的に裁判で争われても負けない課税をするようになってきているからです。その結果、裁判で負けないか、というリーガルの観点から案件を検討する法的セクションである審理部門の役割が大きくなりました。さらに税務当局は、平成20年ごろから大規模局に任期付き公務員として民間の弁護士を起用し、その知見を審理事務に活用しています。筆者も当該任に当たった弁護士の一人です。
このように当局がリーガル面を重視している以上、納税者側もリーガルの視点抜きでは「武器対等」と言えない状態になっています。そこで、税理士と弁護士の協働という話が出てくることになります。
そうは言っても、起用する側の会社では、依然として窓口は税理士であるため、どのような場面で弁護士と協働させるべきか、そのイメージが湧かないこともあるかと思います。本稿では、会社が税務実務を行う上で、どのような局面で弁護士を活用すべきかということを、筆者の経験を基にできるだけ具体的にご紹介したいと思います。前編は、トランザクションの計画・実行段階(税務調査に入る前の段階)における弁護士の利用局面を取り上げます(<図1>参照)。
図1 税務における弁護士の関与局面
事業活動に必須の契約書ですが、税務面においても重要です。税務調査で税務当局と見解が分かれるときに、会社の税務処理をサポートするのはまずもって契約書ですし、争訟の場においても、契約書は最も重要な証拠となります。契約書の作成自体は、通常は法務部が行う会社が多いと思います。しかし、税務の視点から税務セクション主導で契約書が作成されることも近時増えています。一例としては、移転価格税制に対応するための契約書の整備が挙げられます。従来グループ間取引であることから特段契約書を用意していなかった、あるいは対価をとっていなかったところ、移転価格の合理性をサポートする目的で契約書を作成しようとするものです。
また、時事的な話として、Pillar 2に関する契約書作成のご相談もあります。具体的には法人税基本通達9-4-9において、他の者に対し国際最低課税額の負担額として合理的に計算される金額を支払う場合に、契約等に基づく場合には、寄附金に該当しないものと取り扱うとされているため、当該通達の取扱いにあわせて契約書を準備するものです。
これらのように税務ポジションを固めておくために作成される契約書においては、「税務上どのような意図があってこのような契約書が作られているのか」を意識する必要があります。よって、税理士と弁護士の連携と協働が、ニーズに適合した契約書を作成する上で効果的です。
税法は、私法の解釈の上に成り立っています。すなわち、税法の適用は、私法の法律関係が前提となっています。また、税法の概念の解釈に際しては、税法上の特別の規定がない限りは、私法上の法律概念が借用されます。
よって、まずもって私法の解釈が税務上問題になることは多く、会社法はもちろん、民法、著作権法、倒産法などの基本的知識について、法律の専門家である弁護士に確認した方が良い局面は多々あります。また、例えば遡及効をどこまで持たせていいのか、既存契約書の文言の解釈など、法の一般的解釈が問題になる場合も、弁護士の出番になります。
さらに、当法人のクライアントには海外事業を行っている会社が多く、海外の法律行為の本邦税法上の取扱いが問題になるケースが多くあります。例えば、クロスボーダーの組織再編の場合に、日本国内での税務上の取扱いを分析するに当たっては、海外で予定されている組織再編行為が、本邦税法で規定されている組織再編行為と同等かを確認する必要があります。<図2>は、海外X国における「合併」類似行為が日本の適格合併に該当するかの判断過程を例示したものです。
図2 検討イメージ(海外X国で行われる「合併」に類似した行為の本邦税法における適格性の検討)
まずX国の契約書等の根拠資料によりX国で行われた法律行為の内容を特定します(①)。本例では、X国における「合併」類似行為と特定されています。次に、X国での「合併」類似行為が本邦会社法上の合併に該当するかを検討します(②)。本邦会社法上の合併該当性が肯定されたとして、続いてこの合併が本邦税法上の合併に該当するかを検討します(③)。税法上の合併はいわゆる借用概念と解されているため、会社法上の合併と同義と解して特段問題ないことになります。最後に、本邦税法上の合併と評価できるX国「合併」類似行為が、本邦税法の条文から適格合併に該当するかを検討することになります(④)。
本例は「合併」類似行為の検討の一例ですが、他にも、タックスヘイブン対策税制の検討に当たり、海外の法律によって組成された組織体が、本邦私法上・税法上の「法人」に該当するかを判断する事例も多くあります。これらのように、日本の私法上・税法上どのような行為・概念に該当するのかを判断する必要がある外国法上の法律行為等について、その一例を<図3>で例示します。
図3 本邦私法上・税法上の取扱いを判断する必要のある海外法上の法律行為・法概念
一連のプロセスで重要なのは、外国法上の行為・概念が本邦私法上どの法律行為・法概念に該当するかの検討をする部分(<図2>の例では②)です。この部分の検討を省略している会社も散見されますが、会社にとって他国におけるなじみのない法制度の場合、現地法の分析をスルーして課税上の結論を導くことは、税務調査による否認リスクを高めます。これらの一連の検討は、私法の解釈を普段から取り扱っている弁護士が得意とするところですので、弁護士の利用を考えても良い局面かと思われます。
組織再編における弁護士の関与は、再編の法的手続や問題点の検討、関係契約書の整備が主で、税務面での関与は限定的です。しかし、以下のような場合には、スキームの策定段階から、弁護士が税理士と協働した方が良いように思います。
まず、クロスボーダーの組織再編の場合です。既述の通り、外国法上の行為について、日本国内のどのような行為に該当するかを検討することが、日本国内での税務上の取扱いを分析するに当たって必要になります。詳細は(2)のとおりです。
次に、行為計算否認規定の適用が予想される場合です。繰越欠損金の利用などによって税効率がよくなる場合が典型的です。近時、組織再編行為において、税務当局が同規定(具体的には法人税法132条の2)を用いて、更正処分をするケースが増えています。その1つのきっかけになったのは、税務当局に有利な判断がなされたT社事件(東京高裁令和元年12月11日判決)かと思われます。その後、税務当局が敗訴したP事件(東京高裁令和7年7月23日判決)でT事件の規範はほぼ無効化されていますが、それでもT社事件で問題視された会社分割と合併を組み合わせた欠損金の利用というスキームについて、当局は依然として厳しい目を持っています。
同規定適用のリスクを下げるべく、組織再編行為の前に弁護士からの意見書を取得する納税者も増えていますが、当該業務は、規範の理解、事実の認定と評価をベースにすることから、まさに弁護士の知見が活用できる領域と考えます。筆者個人としては、全ての案件について法律家の意見書が必須とは考えていませんが、税メリットが大きい再編の場合には、最低限の検討を行い、その証跡を残しておく対応は必要だと考えています。具体的には裁判例でも重視されている「事業目的」をどう説明できるかを事前に証拠と共に残しておくことが重要で、その「証拠化」については弁護士の証拠評価に関する知見が活用できます。
税務ポジションを安定的なものにするために、多くの会社が税務当局への事前照会を利用しています。事前照会をするかどうかは、コストや時間以外にも方法選択や、回答見込み、他の案件に対する影響など種々の事項を考慮する必要があります。事案にあった適切な照会方法を選択することが重要です。
令和5年10月から、「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組」の一環として、東京国税局の調査部特別国税調査官所掌法人(特官所掌法人)を対象に、新規性の高い形態の取引について、税務上の取扱いを早期に回答し、税務リスクを低減させていくJ-CAP制度が試行的に開始されています。J-CAPの特徴を簡単に他の照会制度と比較すると<図4>のとおりです。
図4 事前照会制度の比較
所要期間の見通しがつきやすいこと、非公開であること、異なる判断を事後の税務調査でされにくいこと、などがJ-CAPのメリットとして挙げられます。さらに、受理前の初回面談時から国税当局の法律セクションである調査審理課の担当者が立ち会うため、法律上の当てはめまで見据えた議論が当初から可能となる点が、会社側には大きなメリットです。よって、まだ全国で300社ほどが対象に過ぎませんが、利用対象の会社にとっては照会手段の有力な選択肢になると考えています。
J-CAPか他の照会方法かを問わず、税務当局に提出する照会文書の書き方が重要になります。税務当局内においても、法律セクションの目に触れることが通常であるため、法的三段論法を意識して照会文書を作成することが大事です。法的三段論法は、法令の存在を前提に、事実を法令に当てはめて結論を出すプロセスです。筆者も審理官として事前照会を受けた経験を有していますが、事実の羅列が多く法令への当てはめが不足している照会文書が多々見受けられました。事実や取引の背景を説明することはもちろん大事ですが、それだけでは説得的な照会文書にはなりません。また、照会事項を認めても税務行政に悪影響がないことや、租税回避的な行為でないことを文書に織り込んで、税務当局に「安心感」を持ってもらうテクニカルな要素も重要になってきます。
以上のような作業は法的三段論法を前提にしていること、判断権者に有利な判断をしてもらうための説得的側面を有していることから、裁判における訴状や準備書面の作成と思考過程が類似しています。弁護士が得意とする領域と言えるでしょう。もちろん、事実関係や数字面も含めた税務上の顛末については、税理士の方が詳しいので、両者の協働が生きる局面だと考えます。
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トランザクションの計画・実行段階では、契約書の作成、税法適用の前提整理、組織再編、事前照会などにおいて、弁護士の活用局面があります。
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