EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY税理士法人/EY弁護士法人 弁護士・公認会計士 竹原 昌利
現EY新日本有限責任監査法人での勤務を経て、2014年弁護士登録。17~19年東京国税局調査第一部調査審理課にて国際調査審理官として勤務。現在、税務調査対応、税務争訟、会計及び税務に関連する企業法務分野に従事。EY税理士法人とEY弁護士法人を兼務。
要点
情報センサー12月掲載の「税務案件における弁護士の活用法とは(前編)」において、トランザクションの計画・実行段階での税務における弁護士の活用局面について記載しました。後編となる本稿では、税務調査から税務争訟の段階、すなわち、当局との対立が顕在化していく段階(<図1>の「税務調査」、「争訟」という段階)における弁護士の活用局面についてご紹介します。
図1 税務における弁護士の関与局面
※前編をご参照ください。
税務調査が開始された場合に、窓口として対応する専門家は通常税理士です。税理士は、納税者の内情に詳しいため、税務当局とやりとりするのに最適な立場です。一方で、質的・量的に重要性を持つ税務処理について税務当局との見解の相違が明らかになってきた場合には、法律家を起用し、税理士と協働して会社の主張をブラッシュアップさせていくことが有用です。税務当局も紛争が見込まれる可能性が高まってくれば、課税要件(納税義務が成立するために必要な法律上の要件をいう)を意識した主張を、審理部門(前編で記載したとおり、税務当局の法律セクションになる)と協働の上で主張してくることが通常です。すなわち、遅くともこの段階においては、税務当局は税務と法務が協働しているということになります。
上記のような体制を税務当局がとっている以上、会社側も同様の体制をとっていないと防御が後手に回り、税務当局に押し切られて修正申告を余儀なくされることがあります。では、どうして弁護士がいると防御がうまくいく可能性が高まるのか。それは弁護士に、特有の知識・ノウハウがあるからです(<図2>のハイライト部分)。
図2 税務当局への反論の切り口とその材料
<図2>にあるように、税務調査において、特定論点に係る税務当局への反論の切り口として、主に税務実務の観点、法令解釈の観点、事実認定の観点からの反論が考えられます。実際にはこれらの観点が複合した主張が多いですが、説明の便宜上単純化しています。このうち、税務実務の観点からの反論に関して、当該反論のための理論的根拠となる通達や事務運営指針などに関しては、税理士の方が知識・ノウハウを多く持っています。また、特定分野の税務上の取扱いが定まっていない場合、他社事例などを引き合いに出して税務当局と議論することもありますが、このような局面でも税理士の知見の蓄積が役に立ち、逆に弁護士は不得手なところです。
一方で、法令解釈の観点からの反論は、弁護士が得意とするところです。法令解釈、すなわち税法条文の解釈は、法令の一般の読み方をベースに、裁判例などの先例の規範や、権威ある学説の見解などを用いて自己に有利に導いていくことが必要です。このようなアプローチは、裁判例や学説の扱いに日頃から精通している弁護士の得意分野になります。また、税理士が行う裁判例・裁決例の援用には、当該裁判例等の適用範囲を見誤って、自己に都合のいい箇所だけ使用する援用も散見され、筆者も税務当局の審理官の任にあった時にこのタイプの援用をよく目にしました。さらに、援用しなかった部分について、自己に不利益な規範が書かれており、裁判例等の援用がかえって会社の主張に不利益に作用することもあります。やはり裁判例等を引用して主張する作業は、訴訟実務をとおして当該作業に習熟している弁護士に任せるのが安全と考えます。
最後の事実認定の観点からの反論という部分は、条文への当てはめから逆算してどのような事実が必要になるかを導き出し、当該事実の存在をどのように疎明するかという思考プロセスが必要になります。このような思考プロセスは、法律家が特に日常の法務業務で行っているものです。もちろん税理士の中にも事実認定作業に長けている方はいますが、事実の存在の疎明のために最も重要な資料となるのは「契約書」であるところ、契約書の読み解き方については、それを作成する機会も多い弁護士の方が習熟しています。やはり事実認定を争う場面は弁護士のノウハウが生きる局面だと思います。
税務当局から更正処分をされた場合、当該処分に対して、不服申立てを行うかという判断を会社はする必要があります。当該判断に当たっては、将来のビジネスに与える影響、プレスリリースされた場合の社会的影響などを総合考慮しますが、最重要の考慮要素は、不服が認容される可能性かと思います。弁護士は争訟の専門家として、その認容可能性の検討を高い精度で行うことが可能です。具体的には、問題となっている税法規定の課税要件の意義や趣旨、類似する裁決・裁判例の判断やその適用範囲の分析、事実認定の妥当性、証拠の有無及び証拠価値の評価等を通じて、問題となっている個別事案の性質に応じた検討を総合的に行うことができます。
不服申立てを行う場合、争う方法を検討する必要があります。現行の不服申立制度は、最初に再調査の請求を行うか、審査請求を行うかを会社が選択できるようになっています。再調査の請求は処分を行った行政庁自身に処分内容の見直しを求めるもので、審査請求は行政庁内の第三者的機関である国税不服審判所に、処分の見直しを求めるものです。再調査における決定に不服がある場合は、さらに審査請求に進めるという制度になっています。そして、税務訴訟で裁判所の判断を得るためには、審査請求を経ることが必要です。したがって、処分を争いたい会社は、審査請求の前に再調査の請求を経るか、また審査請求で請求が認容されなかった場合、税務訴訟に移行して争うかどうかの意思決定をすることが必要となります。
上記の意思決定を行うには、各手続きの特徴や傾向を理解しておく必要があります。例えば、再調査の請求は、処分を行った行政庁自身が判断権者であることから、明らかな計算の誤りや事実認定の誤認など、極端な場合にしかその請求は認容されません。したがって、それら以外の場合で再調査の請求を行うのは、更正処分の詳細についての情報を取得したい場合など、限定的なケースです。
審査請求と税務訴訟について、<表2>において、納税者の主張が認められた割合を5年分記載しています。どちらも、納税者の主張が認められるのは、約10%で、審判請求に時折突出して高い年度がある以外は、審査請求と訴訟に有意な差はありません。しかし、会社の主張が認められる事案の特色には、大きな差があります。具体的には、審査請求の場合、事実認定が争点となる事案で、処分が取り消されることが多いです。一方で、不服審判所も行政機関ですから、過去の税務当局の取扱いや通達、法令解釈に拘束される傾向があります。一方で、法令解釈が争点となる事案で、審判所で請求が棄却されたものの、当該事案が税務訴訟まで進み、裁判所の判断によって会社の主張が認められる場合もあります。
図3 納税者から見た争訟における勝率
以上の傾向から、事実認定に争いがある事案については、審判で徹底して争う実益があると思われる半面、法令解釈に争いがある事案については、早期に税務訴訟に移行した方が、効率面からは望ましいかもしれません(審査請求の開始から3カ月を経れば税務訴訟の提起が可能になる)。実際の事案では、会社の主張の具体的内容や、手持ち証拠の質などを総合的に判断して適切な手続きを決めることになります。そして、訴訟に進むとしても、仮に地裁で敗訴した場合にどの審級まで争うのかの見立てや、勝訴した場合の国から控訴・上告される可能性の検討を前もってしておきたいところです。
さらに近時では、一般的否認規定の適用や、移転価格税制という税務調査でもよく問題になるテーマにおいて、税務当局が敗訴した重要判決が出ています(前者につき、前編でも紹介したP事件〈東京高裁令和7年7月23日判決〉。後者につき、I 事件〈東京高裁令和6年12月11日判決〉)。これらの近時の納税者勝訴事案を有利に使えそうであるかも、訴訟で争うかどうかの重要なファクターであり、その判断もまた、裁判例の読み方に習熟した弁護士が得意とするところになります。
審査請求の段階においては税理士も代理人となることが可能で、実例も多いです。しかし、その後の税務訴訟まで考えている場合は、代理人とするかどうかはともかく弁護士も関与させた方がよいと考えます。審査請求段階から大量の証拠が提出されることも多く、裁決から6カ月以内が訴訟の提起期間とはされていますが、審査請求が終了してからの準備期間では、弁護士として十分でない場合もあります(特に、追加で学者の意見書を取得する方針にした時など)。また、やはり審査請求の段階から会社の主張を把握している方が、訴訟でも一貫した主張が期待できます。
訴訟の段階においては、代理人となれるのは弁護士のみです。税理士も補佐人として訴訟に参加し、法廷で発言機会を得る立場になることができますが、単独での訴訟提起はできません。よって、この局面になると、弁護士の存在が不可欠になりますが、一方で税務実務家としての税理士の視点が不要になるわけではありません。主張書面作成において、税理士と見解をすり合わせることは税務調査対応における場合と同様に重要です。当該局面においては、複雑で難解な税法や税制について、税務に関しては素人である裁判官にいかに分かりやすく伝えるか、税務と法務をつなぐ「通訳」としての役割が弁護士に期待されます。
税務当局がリスクベースアプローチを採用し、よりリスクの高い会社に調査リソースを集中投入する方針を明確化しており、今後、特に調査対象となる会社にとって、課税強化がなされるであろうことは想像に難くありません。今まで以上に、不必要な課税を受けないようにするための事前の防御や、更正後の適切な事後対応が重要になってくると考えます。
前編と後編(本稿)の2回に分けて紹介したように、税務実務の各段階において、弁護士は税理士と異なる独自の役割を果たします。しかしながら、税理士の関与だけでは紛争も見据えた今後の税務に対する対応が万全にならないのと同様、弁護士の関与だけでも税務当局と対等に渡り合うことは困難です。弁護士と税理士の協働が、争訟も見据えた今後の税務プラクティスの質を高めるために肝要であるという本稿冒頭に記載したメッセージを、最後にもう一度伝えさせていただきます。
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税務調査段階においては、法令解釈や事実認定が必要な場面で弁護士の活用局面があります。また争訟段階においては、税理士と協働して税法や税制を分かりやすく判断権者に伝える役割が期待されます。
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