EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーションリーダー 税理士 上田 理恵子
数多くの日系多国籍企業に対し、税務トランスフォーメーションに関するアドバイザリーを提供してきた。BEPS 2.0対応、AI導入を含む税務業務DXの推進、および税務業務体制の構築に関する豊富な支援実績を有する。
※所属・役職は記事公開時のものです
要点
制度改正の頻度と複雑性が増す中、企業の税務部門には、これまで以上に高度な判断力と即応性が求められています。近年、AIは税務部門の重要アジェンダとなり、税務業務内に人をサポートするAIを組み込む動きが加速しています。最新のEYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査によると、86%の税務・財務リーダーが、データ、AI、テクノロジーの活用を最優先事項として位置付けており、多くの企業がAI導入の推進を検討しています。
最新の実務感覚では、AIは税務業務の効率性・生産性の向上にとどまらず、税務論点の整理・根拠提示・意思決定の支援にまで踏み込み、税務部門を戦略的機能へと押し上げつつあります。
この流れをさらに一段押し上げるのがAIエージェントです。AIエージェントは、目的に応じてタスクを分解し、外部システムや知識ソースにアクセスしながら能動的に連携・実行します。RPAや単機能のチャットボットによる「定型的な自動化」を超え、説明可能性と監査適格性を備え、実務の現場で人の判断を支える“頼れるパートナー”へと進化しています。
地政学リスクによるサプライチェーン再構築、海外での電子インボイスやリアルタイム報告の拡大、そして本社主導で行う必要のあるBEPS 2.0 Pillar 2の対応、税情報の開示など、税務を取り巻く環境は複雑性を増しています。もはや定型的なコンプライアンス業務を「年次・期末に一括対応」するやり方では、頻繁な制度改正や国・地域ごとの要件差に追随できません。
また、日本における少子高齢化、人口減少、専門職離れなどにより企業における税務人材の不足が深刻化しています。税務人材の不足に加えて、税務領域ではテクノロジーを十分に活用できる人材も不足しています。こうした環境下では、税務対応はもはや「個別業務の積み上げ」ではなく、継続的かつ全体最適で管理されるべき経営機能へと変化しています。
税務機能にAIを取り入れる動きは自然な流れであり、必要なのは、データとAIを核に、人が統制し、説明責任を果たし、意思決定を高度化するためのAIをパートナーとして受け入れた運用モデルへの移行です。ここに自律的で、プロセス全体を前進させるAIエージェントの価値が適合します。
EYのグローバルネットワークでは既にAI税務エージェントを複数構築し、年間300万件超の税務コンプライアンス案件に対応するなど、AIエージェントが税務プロフェッショナルをサポートし、データ収集、文書分析およびレビュー、所得税・間接税コンプライアンス業務全般を行う取り組みが始まり、業務品質の向上とリードタイム短縮に寄与しています。
AIエージェントとは、人から細かな指示を受けることなく、目標達成のために自律的に動作するAIを指します。<図1>は、従来AI、生成AI、AIエージェントの違いを通じて、AIの進化を示しています。
生成AIが大量のデータから学び、新しい表現や要約を生成するのに対し、AIエージェントは人の介入を最小限に抑え、目標に向けて自律的に判断・行動し、複数タスクを連続遂行します。
主な違い:
図1 従来のAIと生成AIとAIエージェントの違い
例えば、Pillar 2対応において、AIエージェントは各国データの収集、例外検知、影響分析、対応案の整理までを連続的に支援することが可能です。
税務におけるAI活用の成否は、技術ではなく「人がどう統制するか」にかかっています。
税務領域でAI活用を成功させる鍵は、個別のツール導入にあるのではなく、AI活用による精度(Quality)、信頼性(Reliability)、ガバナンス(Governance)を同時に成立させることにあります。特に税務は、判断の誤りが申告誤謬・追徴・レピュテーションリスクに直結し、さらに成果物には説明責任と可監査性が求められます。そのため、AIの能力を引き出しながらも、人が統制する運用設計(人を中心に据えたAI)が不可欠です。
税務部門の主要業務はおおむね、①税務コンプライアンスの実施、②税務リスクの管理、③税務コストの適正化の3つに整理できます。税務人材が不足する状況では、これら全てにおいてAI活用の余地が大きい一方、業務特性に応じたAIの使い分けが重要です。
税務で価値が出やすいのは、①従来AIで“検知・分類”を支え、②生成AIで“理解・表現”を支え、③エージェントで“実行・連携”を担うという組み合わせです。これにより、人は定型的な業務実行から判断・統制する戦略機能へと役割を移しやすくなります。
各国法令に基づく税務コンプライアンスは、会計データから税務調整を行い、申告書や添付書類を準備するプロセスです。ここでは従来、税務人材が制度を理解した上で、会計データと税務情報を収集・加工し、申告書につなげる必要がありました。AIを活用する場合、工程ごとに最適なAIを割り当てることで、効率と品質を同時に高められます。
これにより、税務部門は作業量の増大に追われることなく、品質を維持・向上させながら対応スピードを高めることが可能になります(<図2>参照)。
図2 税務コンプライアンス
税務リスク管理は、国内税務リスクに加えて、各国の税務リスクを把握した上でグループ全体を統制することが求められます。税の透明性が求められる中、税務ガバナンス体制を前提とした税務リスク管理は、今や必須対応です。
これにより、税務部門は「問題が起きてから対応する」から、「兆候を捉えて先回りする」へ、運用モデルを変えることができます(<図3>参照)。
図3 税務リスク管理
税務コストは企業キャッシュに直結し、適正化は企業投資の原資を生みます。一方、過度なリスク回避に偏ると、ビジネスの機動性や投資判断を阻害する恐れもあります。税務コストの適正化は、企業投資の観点と企業リスク管理の観点の両方から、戦略的に扱うべき領域です。
AIを活用すると、これまで人材不足により十分に取り組めなかった企業でも、税務戦略の実装が現実的になります。
結果として、AIは税務部門から単純作業を削減し、税務人材が本来担うべき、投資判断に資する助言、リスクとリターンの設計、ガバナンスの高度化へと時間を再配分させます。これが、AI導入が「効率化」を超えて「戦略化」に効くポイントです(<図4>参照)。
図4 税務コストの適正化
税務におけるAI活用の成否は、技術そのものではなく、「人がどのように統制し、判断に生かすか」にかかっています。先進組織は、説明可能性・説明責任・透明性をAI戦略に織り込み、信頼性と可監査性を担保した上で、イノベーションに人的リソースを再配分し始めています。
AI税務エージェントの本質的価値はスピードや省力化だけではなく、根拠付き意思決定の標準化にあります。人が統制し、監督し、進化させるAIを前提に、データ・ガバナンスと人による最終判断を核としたAIを構築できるかが、次の競争優位を左右します。
AIエージェントは、税務部門から人の判断を奪う存在ではなく、人が説明責任を果たし、意思決定を高度化するための“戦略的パートナー”です。
※いずれの図もEYにて作成
メールで受け取る
メールマガジンで最新情報をご覧ください。
AIエージェントは、税務部門における業務効率化にとどまらず、判断の高度化とガバナンス強化を同時に実現します。本稿では、人を中心に据えたAI活用の考え方と、税務業務別に見た実務上の価値を整理します。
関連記事
税務・財務リーダーは、いかにして前進し続ける俊敏な部門を構築できるでしょうか?
税務・財務部門は、絶え間ないディスラプションに対処し、AIを活用するために、アジリティを生み出し、継続的な変革を促進する必要があります。
AIエージェントを用いて煩雑なタスクを正確かつ効率的に自動処理し、戦略的展望を開くことで、税務機能の強化を図る方法をご紹介します。
EY、NVIDIA AIをベースに開発したEY.ai Agentic Platformをリリース 税務やリスク、ファイナンス分野含むマルチセクターの変革を推進
EYは、NVIDIAとの協業を通じて開発した人工知能(AI)であるEY.ai Agentic Platformをリリースしたことを発表しました。
EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。