令和8年度税制改正大綱

情報センサー2026年4月 Tax update

人を中心に据えたAIエージェントが変える税務部門の役割と未来

税務を取り巻く環境が複雑化する中、AIは単なる効率化ツールから、人の判断を支えるパートナーへと進化しています。本稿では、AIエージェントが税務部門にもたらす変化と、人を中心に据えた運用設計の要点を解説します。

本稿の執筆者

EY税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーションリーダー 税理士 上田 理恵子

数多くの日系多国籍企業に対し、税務トランスフォーメーションに関するアドバイザリーを提供してきた。BEPS 2.0対応、AI導入を含む税務業務DXの推進、および税務業務体制の構築に関する豊富な支援実績を有する。

※所属・役職は記事公開時のものです


要点

  • AIエージェントは税務業務を自律的に連携・実行し、判断と統制を人に戻す存在である。
  • 税務におけるAI活用の成否は、技術ではなく人を中心に据えたガバナンス設計にある。
  • AI活用により税務部門は効率化を超え、戦略機能へと進化し得る。

Ⅰ はじめに:AIは税務部門を支えるパートナーに

制度改正の頻度と複雑性が増す中、企業の税務部門には、これまで以上に高度な判断力と即応性が求められています。近年、AIは税務部門の重要アジェンダとなり、税務業務内に人をサポートするAIを組み込む動きが加速しています。最新のEYタックス・アンド・ファイナンス・オペレート(TFO)調査によると、86%の税務・財務リーダーが、データ、AI、テクノロジーの活用を最優先事項として位置付けており、多くの企業がAI導入の推進を検討しています。

最新の実務感覚では、AIは税務業務の効率性・生産性の向上にとどまらず、税務論点の整理・根拠提示・意思決定の支援にまで踏み込み、税務部門を戦略的機能へと押し上げつつあります。

この流れをさらに一段押し上げるのがAIエージェントです。AIエージェントは、目的に応じてタスクを分解し、外部システムや知識ソースにアクセスしながら能動的に連携・実行します。RPAや単機能のチャットボットによる「定型的な自動化」を超え、説明可能性と監査適格性を備え、実務の現場で人の判断を支える“頼れるパートナー”へと進化しています。

Ⅱ 複雑化する税務対応

地政学リスクによるサプライチェーン再構築、海外での電子インボイスやリアルタイム報告の拡大、そして本社主導で行う必要のあるBEPS 2.0 Pillar 2の対応、税情報の開示など、税務を取り巻く環境は複雑性を増しています。もはや定型的なコンプライアンス業務を「年次・期末に一括対応」するやり方では、頻繁な制度改正や国・地域ごとの要件差に追随できません。

また、日本における少子高齢化、人口減少、専門職離れなどにより企業における税務人材の不足が深刻化しています。税務人材の不足に加えて、税務領域ではテクノロジーを十分に活用できる人材も不足しています。こうした環境下では、税務対応はもはや「個別業務の積み上げ」ではなく、継続的かつ全体最適で管理されるべき経営機能へと変化しています。

税務機能にAIを取り入れる動きは自然な流れであり、必要なのは、データとAIを核に、人が統制し、説明責任を果たし、意思決定を高度化するためのAIをパートナーとして受け入れた運用モデルへの移行です。ここに自律的で、プロセス全体を前進させるAIエージェントの価値が適合します。

EYのグローバルネットワークでは既にAI税務エージェントを複数構築し、年間300万件超の税務コンプライアンス案件に対応するなど、AIエージェントが税務プロフェッショナルをサポートし、データ収集、文書分析およびレビュー、所得税・間接税コンプライアンス業務全般を行う取り組みが始まり、業務品質の向上とリードタイム短縮に寄与しています。

Ⅲ AIエージェントと従来のAIとの違い

AIエージェントとは、人から細かな指示を受けることなく、目標達成のために自律的に動作するAIを指します。<図1>は、従来AI、生成AI、AIエージェントの違いを通じて、AIの進化を示しています。
生成AIが大量のデータから学び、新しい表現や要約を生成するのに対し、AIエージェントは人の介入を最小限に抑え、目標に向けて自律的に判断・行動し、複数タスクを連続遂行します。

主な違い:

  • 処理の流れ:
    • 従来AI:パターン認識(パターン、規則性を識別・抽出)→分類・予測
    • 生成AI:深層学習→文章、画像、音声、動画などの新規コンテンツ生成
    • AIエージェント:タスク分解→実行→思考→出力を繰り返し、プロセス全体を前進
  • 役割:
    • 従来AI:作業効率化
    • 生成AI:知識創出アシスタント
    • AIエージェント:主体的推進者(オーケストレーター)

図1 従来のAIと生成AIとAIエージェントの違い

図1 従来のAIと生成AIとAIエージェントの違い

例えば、Pillar 2対応において、AIエージェントは各国データの収集、例外検知、影響分析、対応案の整理までを連続的に支援することが可能です。

 

Ⅳ 人が中心となってAIを活用する運用設計

税務におけるAI活用の成否は、技術ではなく「人がどう統制するか」にかかっています。

税務領域でAI活用を成功させる鍵は、個別のツール導入にあるのではなく、AI活用による精度(Quality)、信頼性(Reliability)、ガバナンス(Governance)を同時に成立させることにあります。特に税務は、判断の誤りが申告誤謬・追徴・レピュテーションリスクに直結し、さらに成果物には説明責任と可監査性が求められます。そのため、AIの能力を引き出しながらも、人が統制する運用設計(人を中心に据えたAI)が不可欠です。

税務部門の主要業務はおおむね、①税務コンプライアンスの実施、②税務リスクの管理、③税務コストの適正化の3つに整理できます。税務人材が不足する状況では、これら全てにおいてAI活用の余地が大きい一方、業務特性に応じたAIの使い分けが重要です。

  • 従来AI(分類・予測・検知):大量データのパターン検知、異常値検知、分類などで強みを発揮
  • 生成AI(理解・要約・ドラフト):文書理解、論点整理、説明文やメモの下書きなどで効果を発揮
  • AIエージェント(分解・連携・実行):上記を束ね、外部システムにアクセスしながらタスクを連続遂行し、End to Endプロセスを前に進める

税務で価値が出やすいのは、①従来AIで“検知・分類”を支え、②生成AIで“理解・表現”を支え、③エージェントで“実行・連携”を担うという組み合わせです。これにより、人は定型的な業務実行から判断・統制する戦略機能へと役割を移しやすくなります。

1. 税務コンプライアンス:AIで“作業品質”を底上げし、エージェントでEnd to Endプロセスを短縮する

各国法令に基づく税務コンプライアンスは、会計データから税務調整を行い、申告書や添付書類を準備するプロセスです。ここでは従来、税務人材が制度を理解した上で、会計データと税務情報を収集・加工し、申告書につなげる必要がありました。AIを活用する場合、工程ごとに最適なAIを割り当てることで、効率と品質を同時に高められます。

これにより、税務部門は作業量の増大に追われることなく、品質を維持・向上させながら対応スピードを高めることが可能になります(<図2>参照)。

図2 税務コンプライアンス

図2 税務コンプライアンス

2. 税務リスク管理:モニタリングとコミュニケーションをリアルタイムに実施

税務リスク管理は、国内税務リスクに加えて、各国の税務リスクを把握した上でグループ全体を統制することが求められます。税の透明性が求められる中、税務ガバナンス体制を前提とした税務リスク管理は、今や必須対応です。

これにより、税務部門は「問題が起きてから対応する」から、「兆候を捉えて先回りする」へ、運用モデルを変えることができます(<図3>参照)。

図3 税務リスク管理

図3 税務リスク管理

3. 税務コストの適正化:リスク回避だけでなく、投資余力を生む“戦略税務”へ

税務コストは企業キャッシュに直結し、適正化は企業投資の原資を生みます。一方、過度なリスク回避に偏ると、ビジネスの機動性や投資判断を阻害する恐れもあります。税務コストの適正化は、企業投資の観点と企業リスク管理の観点の両方から、戦略的に扱うべき領域です。

AIを活用すると、これまで人材不足により十分に取り組めなかった企業でも、税務戦略の実装が現実的になります。

結果として、AIは税務部門から単純作業を削減し、税務人材が本来担うべき、投資判断に資する助言、リスクとリターンの設計、ガバナンスの高度化へと時間を再配分させます。これが、AI導入が「効率化」を超えて「戦略化」に効くポイントです(<図4>参照)。

図4 税務コストの適正化

図4 税務コストの適正化

Ⅴ 税務部門は人を中心に据えたAI活用で生まれ変わる

税務におけるAI活用の成否は、技術そのものではなく、「人がどのように統制し、判断に生かすか」にかかっています。先進組織は、説明可能性・説明責任・透明性をAI戦略に織り込み、信頼性と可監査性を担保した上で、イノベーションに人的リソースを再配分し始めています。

AI税務エージェントの本質的価値はスピードや省力化だけではなく、根拠付き意思決定の標準化にあります。人が統制し、監督し、進化させるAIを前提に、データ・ガバナンスと人による最終判断を核としたAIを構築できるかが、次の競争優位を左右します。

AIエージェントは、税務部門から人の判断を奪う存在ではなく、人が説明責任を果たし、意思決定を高度化するための“戦略的パートナー”です。

※いずれの図もEYにて作成


サマリー 

AIエージェントは、税務部門における業務効率化にとどまらず、判断の高度化とガバナンス強化を同時に実現します。本稿では、人を中心に据えたAI活用の考え方と、税務業務別に見た実務上の価値を整理します。


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