国税当局の調査強化に企業はどう対応すべきか ―国税局OBおよびプロフェッショナルによる考察―

税務調査の強化に企業はどう対応すべきか
―国税局OBおよびプロフェッショナルによる考察―


グローバル・ミニマム課税の導入によって、課税に対する国税当局の執行体制は強化されつつあり、国税調査ではリスク・ベース・アプローチを採用しています。

また、組織再編やAIの活用も進み、ますます課税に対する執行の精度を向上させています。国内外問わず、複雑化する課税に対し、これまでの常識が通用しなくなっている今、企業はどう対応すればいいのでしょうか。EY審理戦略室長の原口太一、顧問の秋元秀仁、プロフェッショナルメンバーの室 和良、別所 徹弥、中島 麻美、竹原 昌利らが、その課題と対策について掘り下げました。


要点

  • 国税局は調査精度を向上に伴い、J-CFCや移転価格税制に関する指摘が増加しており、海外子会社の動向が一層重要視されている。
  • 国内税法における子会社株式の評価損は事前照会すべき案件である。
  • 第二次トランプ政権での関税対策ではトランプ政権の動きを注視し、関税の影響額の把握が必要。
  • 移転価格における価格調整金の適切なコントロールが求められている。




※本記事は、2025年8月28日開催のセミナーの概要をまとめたものです。所属・役職はセミナー開催当時のものです。


Ⅰ. 当局の執行体制
 

国税当局は組織再編やAIを活用 調査の精度を向上させている
 

原口:まず国税局調査部の最新動向について見ていきましょう。大きなトレンドに変化はなく、令和5年度で調査1件当たりの申告漏れ所得金額は対前年比で138.7%、1件当たりの追徴税額は同117%。当局が指摘して課税していく金額が増加しています。これは令和6年度も同様の傾向になると思われます。

一方、件数はコロナ禍前よりも少ない状況です。ただ、最近は調査される企業の申告漏れ所得金額や追徴税額が大きくなっている傾向があります。当局は数年前から調査の選定に当たって、リスク・ベース・アプローチ(RBA)というものを採用しています。リスクの高いところを重点的に調査していく方針を立てているのです。

もし税務調査において事前通知があれば、それだけリスクが高く、ターゲットになっていることを認識しなければなりません。当局のデータもAIの活用によって、より精度が上がっています。
 

秋元:AIの活用では、例えば、CRS(共同報告基準:外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、OECDにおいて、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準)情報とマッチングするなど精度はかなり上がってきています。また、メリハリのある調査も始めており、特官(特別国税調査官チーム)では子会社の調査も同時にできるようになっています。いわば、短期間でポイントを絞って、効率的、効果的に調査を行っているのです。
 

原口:特にJ-CFCの指摘が増えており、将来的にはBEPS(税源浸食と利益移転)の調査へとつながってきます。今は体制を整えつつ、調査の仕方も模索していると言えるでしょう。また、移転価格での申告漏れ所得金額や追徴税額も増えつつあります。国際課税には力を入れており、人的資源も投入しています。
 

秋元:当局が調査体制の組織再編をしたのが昨年。国際機動部門の設置もその1つです。総勢50人で個別事案は持たず、複数の案件を指導しています。また、変わりゆく国際課税の中、調査の着眼点も海外子会社に目を向けるべきだという当局の戦略もあります。この戦略がJ-CFCの申告漏れ所得金額や追徴税額を押し上げているのです。


Ⅱ. 令和7年度の国内課税と国際課税の動向
 

複雑な案件に適格にアドバイス 税務係争を担当するEY審理戦略室
 

原口:令和7年度は国際だけでなく、国内課税と国際課税も一体化して調査選定していくと見られています。
 

秋元:令和5年度にIIR(所得合算ルール)、令和7年度改正により、UTPR(軽課税所得ルール)とQDMTT(国内ミニマム課税)が入り、企業側は1年前から国別実効税率を分析するなど準備を始めています。ほとんどの企業がCbCR(国別報告書)を基に、15%の基準税率を切るのか、切らないのか。その目安を今の段階で確実に押さえようとしています。CbCRセーフハーバーの適用を受けられるように準備しておくことも重要です。
 

原口:EY税理士法人ではEY審理戦略室を設けています。いわば、国内課税および国際課税の税務係争に関して俯瞰(ふかん)して見ていくチームが必要だということで立ち上げたものです。当局対応に当たっては、Tax Controversyチームがありますが、そのバックにEY審理戦略室があると思ってください。当局対応でより複雑な案件にアドバイスしていく。それがEY審理戦略室の特徴となっていますので、ぜひご活用いただければと思っています。

開催セミナーの様子

  

Ⅲ. 関心の高い税務トピックについて

国内税務:子会社等の評価損は否認せず、積極的に事前照会すべき

:まず国内税務について、子会社株式の評価損では「ほとんどの企業では自己否認されます。国税当局に事前照会をした結果、子会社の株式評価損が不可となる可能性があるからです。ただ、実際に否認されたからと言って、ビジネスに影響があるわけではありません。むしろ評価損は積極的に事前照会すべき案件の一つだと言えます」
では、なぜ一般的に評価損を否認すべきだと考えるのか。中でも「近い将来その価格の回復が見込まれないこと」を心配しているからではないでしょうか。「しかし、子会社は存続される限り、赤字であり続けるわけではありません。評価損は5年以上たってからでは説明が難しく、恣意(しい)的に落としていると見られれば、当局は否定しようとします。会計上、減損を立てたとき、2~3年以内に税務上否認しないことが理想です」


クロスボーダーマイグレーション:国内に基準なく自らポジションを取って検討を

竹原:クロスボーダーマイグレーションは、国際間の企業・事業の移転、つまり、今ある企業が別の国で存続することができる制度です。国際的な組織再編の方法として非常に使いやすい一方、日本にはない制度になります。「税務に関しては注意が必要で、例えば、新しい国に企業を設立し、古い企業から事業を移転して、古い企業を閉じるなどの考え方があり、課税では、どういったポジションを取るのか事前に検討する必要があります。当局からの公式な見解はなく、問い合わせする場合には、日本法令に照らした判断が下されるため、慎重な検討が必要です」


移転価格と関税:国税から求められるのは関税の影響額、その負担を顧客にいくら転嫁したか

別所:移転価格、第二次トランプ関税では「現状は、IRSが子会社の損失をそのまま認めることはないと考えられています。米国は一般的に複数年度検証を認める国ですので、3年平均で見ればいい。今、関税を子会社側が負担して、少し損益が落ちていても、3年平均で考えれば、耐えられるという面があります。国税から納税者に求められるのは、関税の影響額の算出です。直接の関税額に加え、いくら関税の負担を顧客に転嫁したかを算出する必要があります。APAを申し出ていない場合、売上原価に関税を反映させ、米国子会社を赤字にしているとIRSから課税処分を受ける可能性があります。一方、日本の親会社が赤字になっているにもかかわらず、米国の子会社が高い利益水準になっていれば、国税庁から注視されます。国税庁はインカムクリエーションを好まないため、利益配分などに注意すべきでしょう」


移転価格:価格調整金は問題視されることが多く、どうコントロールするのか注視を

中島:次に価格調整金と寄附金課税について、「価格調整金は、税務調査が行われる際、問題視されることが多い項目のひとつです。気を付けるべきことは、1つ目は事前の契約等の明確化:事前の取り決めや契約がない場合、後付けで利益移転をしたと見られやすくなります。2つ目は合理的な算出根拠の整備:価格調整金の額についての合理的・客観的な算出方法・ベンチマークが示せない場合、合理性がないとの指摘を受けるリスクとなります。3つ目は期中におけるモニタリング体制の構築:価格調整金自体が非常に多額な場合、赤字補填(ほてん)と見なされる可能性が高くなります。税務リスク低減のため、価格調整金について適切なコントロールを行う必要があるでしょう」


J-CFCほか:J-CFCは赤字なら説明が求められる 企業グループの在り方は今変革期に

原口:J-CFCその他については、当局の見方として、「日本の企業がある取引でずっと赤字続きの場合、赤字の理由について問われ、税法を超えてビジネスの話をしなければならないケースが増えています。なお、J-CFCについては、定期預金の利子が受動的所得に当たると指摘され、認めてしまった企業があります。やはりそこは惑わされず、課税とすべきでないものにはしっかり説明する必要があります。今は当局も国際課税の調査体制を組み替えた過渡期です。調査官の曲論に惑わされず、きちんとポジションを取って説明していくことが求められているのです。また、海外子会社が絡む論点として海外の関連会社からのチャージについて、損金として扱っていいのかなど、法人税法22条の損金制について問われるケースも見受けられます」

秋元:「今後は海外を含めた企業グループ間のコミュニケーションが非常に重要な時代となってきます。グローバル・ミニマム課税の導入によって、企業グループの在り方、特に財務についてどうしていくのか。ガバナンスの観点も含め、変革期に来ているのです」



EYの最新の見解

税務調査とは

税務調査について基本的な流れを記載しています。また、法人税の調査を受ける際に、調査官に確認される項目(着眼点)やその注意すべき点、会社として事前に準備しておきたいことを紹介しています。ご一読いただくことで、円満に調査を受けることができます。

国税OBたちが語る 企業は税務コーポレートガバナンスにどう取り組むべきか?

2023年7月に立ち上がったEY審理戦略室は当局の動向に対応した専門部隊で、現在、チームのスタッフは20人、専門家を含めると50人体制となります。税務の高度化かつ複雑化に伴い、どこに税務リスクが潜んでいるのかわからない時代。私たちは課税リスクを多角的に分析し、どう評価していくのか。リスクを顕在化させ、その対応策をクライアントに提案していきます。国税当局から指摘された後では結論を覆すのは非常に困難です。だからこそ、できるだけ早めに対応することが必要になってくるのです。


    サマリー

    当局は昨年、税務調査体制の組織再編を行いました。国際機動部門の設置も、その一環となります。納税者はさまざまな手法を用いるため、縦割りの組織では対応が難しくなっています。そのため、当局は組織再編に大きくかじを切りました。また、グローバル・ミニマム課税についても、海外子会社に目を向けるべきだという当局の戦略があります。現在、企業に必要なのは、海外を含めた企業グループ間でのコミュニケーションです。子会社へのグリップを親会社がどれだけ効かせることができるのか。企業グループの在り方、特に財務について、ガバナンスの観点も含めて変革期に来ています。


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