2026年2月25日開催セミナーレポート AI時代のデータドリブン経営と次世代ERPが果たすべき役割とは

2026年2月25日開催セミナーレポート

AI時代のデータドリブン経営と次世代ERPが果たすべき役割とは 


インフォコム主催GRANDITユーザー会2026「未来を共創する、進化へのロードマップ」において、EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社ソリューションセールスリーダーである梶浦英亮が基調講演を行いました。

今や企業の生存戦略そのものであるデータドリブン経営──その本質はどこにあるのか。また、次世代ERPとAI活用はどうあるべきか、企業はどのようなアプローチを取るべきか。これらの現実解について解説しました。



要点

  • データドリブン経営の本質は、「何を意思決定したいのか」という問いにある。
  • ERPは単なる記録システムではなく、意思決定精度を向上させる「AIの燃料タンク」として捉えられる。
  • ERP投資は、従来のシステム更新から、意思決定モデルを刷新する「経営のアップデート」として再定義されるべきである。


Section 1 データドリブン経営の本質は「問い」にある

多くの企業では、データ基盤の整備やBIツールの導入に注力していますが、「何を意思決定したいのか」という問いが曖昧なままになっているケースが少なくありません。「問い」のない状態で業務データを収集し、ダッシュボードを構築しても、そこから新たな価値を生み出すことは難しいのが実情です。

重要なのは、網羅的にデータを集めることではなく、「何を決めたいのか」を明確にすることです。例えば、「在庫を減らしたい」という漠然としたテーマではなく、「どの商品群で欠品と過剰在庫が同時に発生しているのか」、「リードタイムのボトルネックはどこにあるのか」といった問いに分解することで、初めて必要なデータと分析の方向性が明確になります。

よくある日本企業の共通課題として、以下が挙げられます。

  • 予算と実績の差異管理に偏重
  • 熟練者の暗黙知に依存した、属人的な判断プロセス
  • 組織全体で意思決定を設計する発想が不足

こうした背景がある中で、データ活用が部分最適や単発的な取り組みに終始し、全社的な競争力向上につながっていないケースが見受けられます。今後は、個人の経験や勘に依存するのではなく、「問い」を軸に意思決定を設計し、それを組織として再現可能な形にしていくことが求められます。

Section 2 AIが「意思決定の高度化」を支え、ERPが「AIの燃料タンク」となる

多くの企業では、AI導入の目的を業務効率化やコスト削減に置いています。しかし、これらはAIの本質的価値ではありません。AIは単なる自動化ツールではなく、人間の意思決定を高度化するための技術です。

例えば、熟練者が長年の経験で行ってきた判断をAIによって形式知化することで、誰もが一定水準の意思決定を行えるようになります。これにより、組織全体の判断品質を底上げすることが可能になります。また、在庫不足や工期遅延の兆候を早期に察知する「先回り経営」や、複数のシナリオ提示による意思決定スピードの向上にもつながります。

注視すべきなのは、AIが人の意思決定を完全に代替するわけではないという点です。AIはあくまで判断材料を提示し、最終的な意思決定は人が担います。つまりAIは「意思決定の質とスピードを引き上げる補助役」として位置付けるべきです。ここで重要になるのがERPの存在です。AIはデータなしでは機能しません。ERPに蓄積された売上・在庫・原価といったデータが、予測や分析の基盤となります(図1)。

ERPのデータ品質がそのままAIの判断品質に直結するため、ERPはもはや単なる業務システムではなく、「AIの燃料タンク」として捉えるべきでしょう。

図1: ERPデータの特徴

図1: ERPデータの特徴

Section 3 ERP次世代は「意思決定プラットフォーム」に進化する

従来のERPは、取引データの蓄積や業務効率化を目的とした「記録システム」が主でした。しかしAI時代において、その役割は大きく変化します。ERPは「意思決定プラットフォーム」として再定義されます。

これまでのERP投資は、コスト削減や業務効率化が主な評価軸でした。しかし今後は、次のような観点が重視されます。

  • データ統合とオープン性
  • リアルタイム性
  • AIとの親和性
  • 拡張性

つまりERPは、過去を正確に記録するためのシステムから、未来の意思決定を導くための基盤へと進化しているのです。この変化にともない、ERP投資の意味も変わります。それは単なるシステム更新ではなく、「経営のアップデート」です。そのためには、API連携による外部データ活用、一貫したデータモデルと品質、リアルタイム処理、クリーンコア(標準機能の維持)など、次世代ERPに求められる要件を満たす必要があります(図2)。

図2:次世代ERPに求められる条件

図2:次世代ERPに求められる条件

Section 4 中堅企業は、AI時代に必要となる強みを持つ

日本企業のデータ活用目的は依然として「効率化・生産性向上」が中心ですが、近年では「経営戦略レベルの高度化」への関心も高まっています(IPA調査)。効率化の効果は可視化しやすい一方で、本来目指すべきなのはその先にある価値創出や成長であり、どこまで踏み込めるかが競争力の分岐点となります。

こうした中、AI時代において必ずしも大企業が優位とは限りません。むしろ、大規模で複雑なシステムや組織構造を持つ企業ほど、データ統合や意思決定プロセスの標準化に時間を要する傾向があります。

一方で中堅企業は、変革の余地が大きく、現場と経営の距離も近いため、AI実装や改善をスピーディに実行できる利点があります。また、意思決定から実行までのリードタイムが短いという特徴があります。この機動力こそが、AIによる洞察を競争優位へと変える重要な要素となります。さらに、大企業よりもERPおよび周辺システムが比較的シンプルで、データ統合や改修の自由度があるなど、中堅企業がAI活用において有利な面もあります。

ただし、こうした強みを生かすためには戦い方が重要です。大企業のように全体最適を前提とした大規模投資を志向するのではなく、在庫最適化や見積精度向上といった特定領域にフォーカスし、短期間で成果を出す「一点突破型」のアプローチが、中堅企業にとって有効な選択肢です。小さな成功を積み重ねた結果を横展開することで、全社的な変革へとつなげていくことが現実的な進め方となります。

企業はまず効率化(Efficiency)から取り組みを開始しますが、それだけでは競争優位には至りません。次にデータから洞察(Insight)を得て、自社の勝ち筋を把握し、それをもとに新たな価値(Innovation)を創出していく必要があります。そして最終的に、それを収益成長(Growth)へとつなげていくことが重要です(図3)。

この一連の流れを実現するためには、ERP・データ・AIを連携させ、活用することが不可欠であり、これこそが中堅企業にとっての競争力の源泉となります。

図3:ERPデータとAI活用による成長ライフサイクル

図3:ERPデータとAI活用による成長ライフサイクル

Section 5 実践の鍵は「問い」と「小さな実験」の繰り返し

従来のERP導入はシステム設計やツール選定から始まることが一般的でしたが、AI X ERPプロジェクトの起点は「意思決定マップ」を描くことから始め、問いを可視化することが重要です。つまり、どの意思決定を改善したいのか、そのためにどのデータが必要かを整理し、優先順位を付けることが出発点になります。

また、導入は段階的に進めることが有効です。PoC(概念実証)を通じて、小さな成功体験を積み重ね、「AI活⽤の実感」を社内に広げる実験の場として次の一歩につなげる土台を広げていくことが重要です。

実践アプローチの手順は以下の通りです(図4)。

図4:AI X ERPプロジェクトの実践ロードマップ

図4:AI X ERPプロジェクトの実践ロードマップ

Phase 0 問いの可視化:「意思決定マップ」を描き、優先順位を決める

最初に「どの意思決定を改善したいのか」を明確にし、必要となるデータを整理します。その上で優先順位を付け、段階的に取り組みを進めます。具体的には、在庫最適化、見積精度向上などのテーマから小さく始め、後工程のPoC(概念実証)を通じて効果を検証するための準備をします。

Phase 1 ERPデータの棚卸:必要データの所在を確認する

「意思決定マップ」で特定した「問い」に対して、必要なデータがERPにそろっているかを確認し、AI活⽤の⼟台を整えます。判断に必要なデータがERPに存在するか、外部データとの連携が必要かどうか判断します。データの整合性、粒度の適切さ、リアルタイム性のギャップから⽋損・遅延の有無についても確認します。

Phase 2 AI活⽤のPoC:「AIを活用する手応え」を会得する

ここで重要なのは、単なる機能確認ではなく、「データ活用によって業務がどう変わるか」を体感することです。

小さな成功体験を積み重ねることで、現場の納得感を醸成し、全社展開へとつなげていくことが可能になります。また、前段階までに準備した「問い」と「データ」が、PoCの成否を左右します。成功指標(KPI)を事前に定義し、「試して終わり」にしないことも欠かせません。

Phase 3 全社意思決定モデルの構築:組織全体の納得感とスピードを両立する

最終的なゴールは、バラバラな判断ではなく、「一貫した意思決定モデルで動く企業」を実現することです。全社で統⼀された意思決定モデルを構築することにより、組織全体の納得感・スピード・精度が⾶躍的に向上します。これにより、現場の判断が経営の⽅針とつながり、納得感とスピードが両⽴できるようになるでしょう(図5)。

図5:全社意思決定モデル構築に向けた実践アプローチ

図5:全社意思決定モデル構築に向けた実践アプローチ



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サマリー 

データドリブン経営とは単なるデータ活用ではなく、「意思決定の変革」です。ERPは記録システムから意思決定基盤へ、AIは自動化ツールから人の判断支援エンジンへと役割が変化しています。意思決定の質とスピードから、企業価値の差が生まれます。



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