上述の圧力は周期的なものではなく、構造的なものです。こうした圧力には、様子見ではなく、実効的な対応を講じなければなりません。
戦略的明確性
ほとんどの運用会社はインテグレーター型になるか、メーカー型になるかの明確な決定を下していません。専門事業者のような事業展開をしながら、マルチアセット運用会社と称するか、あるいは新たなアセットクラスを追求しながら、自らを専門事業者だとする運用会社が多いのが現状です。
自らの組織の構造を客観的に見極めて、オペレーティングモデルをそれに整合させることが第一歩となります。それには外部の視点を取り入れて、インテグレーター型とメーカー型、両類型に照らして競争上の位置づけを評価し、ギャップを把握して自社のリソースのみで解消するか、それとも構造的な対応が必要かを判断する必要があります。
M&A(合併・買収)と統合の準備状況
中堅層の減少で、統合の波が生まれることが予想されます。資産運用会社の世界上位10社を合わせたAUMは2015年の58兆米ドルから2025年には149兆米ドルに増加し、市場シェアも33%から36%に拡大しました18。こうした集中化の加速に伴い、中堅運用会社はM&Aの対象となるか、徐々に競争力が低下していく可能性があります。
買収側の運用会社にとっては、デューデリジェンスが大きな課題です。LPとの関係や成功報酬の構造、キーパーソンへの依存、オペレーションの基盤はいずれも、詳細かつ厳格な評価が必要となります。
戦略的な統合を検討している運用会社にとっては、M&Aストーリーと同様、統合における実行指針も重要です。企業文化のすり合わせや人材の定着、LPの同意取得、テクノロジー分野での統合が、プライベート市場での合併で価値を創出するか、毀損するかを左右します。
持続的な価値を生み出せるのは、ディールの実行と合併後の統合(PMI)の両方に規律を持って対応する運用会社であると考えられます。
価値の確保と運用変革
マルチプルの拡大から運用価値の創造にシフトするには、根本的に異なるアプローチが必要です。過去と同様のリターン目標を達成するには、財務的な手法(レバレッジ等)を駆使するのではなく、純粋に運用を改善することで、年率10%から15%のEBITDAの成長が求められています。
これには市場開拓(Go-to-market)戦略や調達から、テクノロジー、運転資金管理に至るまで、あらゆる領域に当てはまります。専任のセンター・オブ・エクセレンス(CoE)を設置し、再現性のある価値創造能力を構築した運用会社は、レバレッジだけではリターンを生み出せない市場環境において突出した存在になると考えられます。
新規参入
パブリック市場とプライベート市場の融合により、国・地域や顧客セグメントを問わず新規市場参入機会が創出されていますが、それぞれの規制・運用・商品設計に対する要件は大きく異なります。
地理的拡大または新たなセグメントや新たなアセットクラスへの進出を検討している運用会社は、しっかりとした市場規模の算出と競争力分析、ターゲットとする顧客の期待に沿った商品設計を行う必要があります。長期的な優位性を築けるのは、拡大や進出を段階的に進めていく運用会社です。準備が整わないまま成長を追究すると、規模の拡大に伴いオペレーション上の問題も拡大します。
オペレーティングモデルの刷新
プライベート市場では、依然としてミドルオフィスとバックオフィスに十分な投資を行っていない運用会社がほとんどです。ほぼ半数が最新のレポーティングの様式を導入していますが、多くの運用会社におけるキャピタルコールの手続は、未だに大きく手作業に依存しています。
5兆米ドル規模のアセットクラス向けに設計されたガバナンスのフレームワークは、何百万人もの個人投資家が利用する15兆米ドル規模のアセットクラスにとって不十分です。簡単なテストをしてみましょう。規制当局が明日やって来て、「アセットクラス・セグメント別とファンドラップの種類別にガバナンス体制を説明してほしい」と求められた場合、30分以内に一貫性のあるストーリーを説明できるでしょうか。多くの運用会社にとって、それは容易ではないと考えられます。
すぐには覆せない優位性を築けるのは、オペレーティングモデルの構築に今すぐ投資をする運用会社です。オペレーティングモデルは地味な存在ですが、今後5年間にわたり競争差別化の最大の要因となり、また大半の運用会社の最も脆弱な領域でもあります。AIの導入とAIエージェントを活用した業務運営が急速に進んでいることから、今日のオペレーティングモデルは今後、大きな変貌を遂げることになり、また単なるIT導入プロジェクトではなく、戦略的変革としてこれに取り組む運用会社が優位に立つと考えられます。
結論
プライベート市場はもはや「オルタナティブ」ではありません。今や世界の資本を構成する中核的な要素となり、個人投資家のポートフォリオや年金、保険会社のバランスシートに組み込まれるようになりました。
アセットクラスがシステミックな規模に達すると、市場に明確な選択を迫られます。統合を選択した運用会社は強靭な競争優位性を構築することができ、深い専門性を選択した運用会社は真の差別化を図ることができる一方、どちらにするか決められずにいる運用会社は、自らの組織の構造を見極めることができず、淘汰されてしまう可能性があります。
プライベート市場が直面する圧力はアセットクラスにより異なりますが、喫緊の課題は同じです。リーダーは明確な選択を迅速に行い、レジリエンスを持たせる設計をし、運用能力に投資をして、戦略を成果につなげなければなりません。
本記事の執筆ではAbiram Satish Sivasankaranが中心的な役割を果たしました。ここに感謝の意を表します。また、Rohit Khanna、Robert Otremba、Jens Schmidtの貴重な貢献にも感謝します。