マラケシュの市場にあるスパイス専門店で店主と話をする休暇中のカップル

プライベート市場のルールが変化する中で、リーダーが成功を目指すには


プライベートキャピタル(非公開資本)のリテール化に伴い、今後は流動性に対する対策とオペレーショナルレジリエンスが運用会社の規模や生き残りを左右することになる。


要点
  • プライベート市場も今や、システミックな規模で運営されており、運用会社は個人投資家の行動や規制当局の対応の迅速化、インフラの限界などの影響を受けるようになった。
  • 統合が加速する中、運用会社はその体制について、統合プラットフォームを構築するか、専門領域に特化した事業者としてとどまるかの二者択一を迫られている。
  • イグジットの制約とプライベートクレジットの流動性ストレス、借り換えリスクが相まって、早急な戦略的対応が必要な状況となっている。

プライベート市場は成熟したアセットクラスへと進化し、かつてのようなニッチな市場ではなくなりました。プライベートキャピタルは運用資産残高(AUM)が世界全体で15兆米ドルに近づき、2030年までには30兆米ドルを超えるとの見方が強く、その投資元はもはや機関投資家にとどまりません1。一部個人投資家のポートフォリオや年金、保険会社のバランスシート、政府系ファンドの配分にも組み込まれるようになってきました。

こうしたリテール化は規模拡大と同時にリスクももたらします。プライベート市場は、国・地域を問わず幅広いリテール分野と半流動性(セミリキッド)商品に進出する中で、新たな圧力に直面しています。厳しい環境下で流動性に関する期待値が変化し、現行のオペレーティングモデルでは何千人もの個人投資家に十分に対応できないことに加え、規制当局による監視の動きが、大半の戦略計画策定時の想定より速くなる可能性があるのです。

今後24カ月が勝負となると考えられます。自らの組織体制についてしっかりと選択をし、それに応じて投資をする運用会社が規模拡大と統合を図ることができる一方、選択を先送りしたり決断を避けたり、二兎を追おうとしたりする運用会社は、市場が明確な選択を迫る中、淘汰されかねません。

こうした選択は、プライベート市場の中でもアセットクラスにより異なる展開を見せています。現在のプライベート市場は、大きく4つのアセットクラス(プライベートエクイティ(PE)、プライベートクレジット、不動産、インフラ)が大きな比重を占めています。運用側の対応が必要となるのは、資本集約度や流動性に関する期待値から規制リスク、投資家の行動や期待まで、アセットクラスにより多岐にわたります。マクロ環境による圧力が強まる中、その違いが、運用会社がどのように競争し、どのビジネスモデルが強靭であるかを左右するようになりました。

Senior businesswoman presenting project on digital tablet to colleague in conference room
1

第1章

プライベート市場がシステミックな規模に達するとき

プライベート市場は、機関投資家だけでなく、富裕層や個人投資家にも門戸を広げたことで、流動性や規制、オペレーショナルレジリエンスをめぐる新たな構造的圧力にさらされています。

パブリック市場とプライベート市場の融合が急速に進む中、それに対処できないオペレーティングモデルが多くを占めています。米国政府は2025年8月に、12兆5,000億米ドル規模の確定拠出年金市場をオルタナティブ投資に開放しました2。プライベート市場のリテールからの投資規模は、10年前はほぼゼロであったのに対し、2025年には約3,600億米ドルに達したという業界の推計もあり、今後の資金調達に占める割合が最も高くなる可能性があります。

2つの市場の融合が、ポートフォリオの構成と流動性設計、販売のあり方を大きく変化させています。富裕層や個人投資家のニーズは、機関投資家(LP)のニーズとは根本的に異なります。具体的には、最低投資額の引き下げや半流動的なファンド構造、簡素化された税務レポーティング、デジタルでのサービス提供、四半期に1度のクローズドエンド形式の開示制度よりはるかに高い透明性の確保が求められています。

プライベート市場のAUMが30兆米ドルに近づく中、今後足かせとなるのは投資分野の人材ではなく、バリュエーション・報告書作成ツールや流動性管理・コンプライアンスシステム、販売プラットフォームといった、その資金の運用にあたって必要となるインフラです。この段階で成長戦略が持続困難となる運用会社は少なくありません。

こうしたリテール化に伴って、誰がプライベート市場に投資するかだけでなく、運用会社が大規模の資本を支えるために、どのように商品設計や流動性、オペレーティングモデルを構築すべきかにも影響を及ぼしています。

2つの類型:インテグレーター型とメーカー型

プライベート市場の統合が進む中、運用会社はインテグレーター型の運営をするか、メーカー型の運営をするかの二者択一を迫られています。この2つのモデルには本質的な優劣はなく、重要となるのは戦略を明確に打ち出すことです。方向性を定めないままその両立を図ろうとする運用会社は、脆弱化すると考えられます。業界において統合が急速に進んでいる背景には、ごく一部の「超大型運用会社」に資本が集中してきたことがあります。こうした運用会社はその規模を生かして、世界の資金調達・資産に占める割合を拡大させています。

インテグレーター型

インテグレーター型は企画・立案(origination)と組成(manufacturing)から、販売とサービス提供まで、商品バリューチェーン全体を統括します。通常、アセットクラスや国・地域、顧客セグメントを問わず資産を運用し、また、多くの場合は提携している保険会社を通じて安定した資金源を確保して基盤を固めることが少なくありません。

実際のところ、それにより資本と販売、資産運用インフラが相互に強化し合い完結するようなシステムが構築されます。大手資産運用会社の多くには、保険と連動したプライベートエクイティ戦略や継続的な手数料収入を生むパーマネント・キャピタル・ビークル、数千億ドル規模のバランスシートなどの共通点があります。

このモデルでは規模の大きさが、流動性管理や報告、規制に対するレジリエンス、市場の混乱期に耐える能力において重要な優位性となります。

メーカー型

メーカー型はインテグレーター型とは異なる道を歩み、販売チャネルを管理するのではなく、取り組む領域を絞り、インテグレーター型のプラットフォーム、金融機関を通じて販売を行います。その強みは、運用規模ではなく、投資能力です。

市場の統合が進む状況では、許容範囲を超えて規模の拡大を図るのではなく、模倣されにくい独自性を確立して生き残ります。

縮小する中堅層

最も厳しい構造的圧力にさらされているのは中堅の運用会社です。個人投資家向けの資産運用を手がける運用会社の中には、コンプライアンス関連にかかるコストが年間で1,500万米ドルから2,000万米ドルに達するところもあります。資本は大手に集中しており、最近の資金調達サイクルでは、最終クローズ時点で確定した調達総額ベースでみると、インフラファンド上位5社が調達資金全体のおよそ65%を占めています3

中堅PEファンドの多くは、現在の市場環境では正当化しにくい高い倍率で評価された資産を保有し、バリュエーション縮小にも直面しています。こうした運用会社は、専門事業者として事業を展開するには規模が大きすぎる一方で、インテグレーター型規模のインフラを構築するには規模が小さすぎ、明確な戦略的な対応をとらずに長引く市場低迷に耐えるには脆弱な運用会社が少なくありません。

Chef and kitchen staff preparing dinner in restaurant kitchen
2

第2章

インテグレーター型とメーカー型の対比

市場の統合で、運用会社は規模拡大に適した攻めのインテグレーター型か、強固な投資能力を基盤とする守りのメーカー型かの選択を迫られています。

アセットクラスにより運用側に求められる対応が異なるため、インテグレーター型・メーカー型のフレームワークは、プライベートエクイティとプライベートクレジット、不動産、インフラでそれぞれ異なる展開を見せています。各アセットクラスにおける資本の集約度や流動性の特性の違いにより、資産ごとに異なる構造的な圧力に直面しており、これにマクロ要因が相まって、その影響は一層強まっています。

1. プライベートエクイティ:滞留とAI、関税

PE業界には売却できていない投資先の滞留があり、最近のイグジット率を考えると、その一掃に何年も要する可能性があります。加えて、この滞留の管理には既存ファンドの投資先を新しいファンドに移し替えて保有を延長する戦略が利用されていますが、この戦略はLP投資家のレジリエンスに左右されます。インフラやエネルギーなどのテーマが新たに浮上してきたことを踏まえると、その滞留可能期間にも限りがあると考えられます。

2015年から2025年にかけて、PEはピーク時のバリュエーションで多くのソフトウェア会社を買収していました4。今ではAIがユーザー数に応じて課金するモデルを脅かし、2026年末までに発生するデフォルト(債務不履行)は750億米ドルから1,200億米ドルに上ると警鐘を鳴らす大手金融機関もあります5

米国の関税政策の影響を受けて取引額が減少する一方、円キャリー取引の巻き戻しや金利の高止まりといったより幅広いマクロ環境が状況をさらに悪化させています。かつてのリターンの源泉であった安価なレバレッジや売却時のバリュエーション倍率の上昇などは、もはや期待できません。

資金の流入出もまた、イグジットをさらに難しくしています。最近メディアで取り上げられているように、PEの支援を受けた企業のバリュエーションが引き下げられると、個人投資家や富裕層の資金が先に引き揚げられる傾向があります。一方、機関投資家(LP)はボラティリティが高まる中でも保有し続け、経営難の企業への投資機会への関与を高めることがあります。個人投資家の比率が高い運用会社の場合、償還圧力を受け、最悪のタイミングで最適とは言えないイグジットを余儀なくされるかもしれません。運用会社にとって、LPの存在と流動性の構造は、その投資能力と同じくらい戦略上重要となりつつあります。

インテグレーター型では、イグジットの滞留により、セクターローテーション能力やリスク管理スキル、そして買収・保有するだけでなく、ポートフォリオ企業を立て直す事業運営スキルの必要性が高まっています。それに対して、メーカー型に今、求められるのは、こうした投資への自信と強靭なバランスシートです。

2. プライベートクレジット:ストレステスト

プライベートクレジットは2000年のおよそ400億米ドル規模から2025年末までに推計2兆3,000億米ドル規模へと成長を遂げ6、その規模が2030年までに4兆5,000億米ドルを超える見通しです7。2026年になり、プライベートクレジットを対象とした初めての本格的なストレス局面に直面しています。

表面的なデフォルト(債務不履行)率は3%未満にとどまっていますが8、選択的デフォルトも加えると実質的なデフォルト率は5%近くに達します9。企業がペイメント・イン・カインド(PIK)で現金利払いを繰り延べる隠れ(シャドー)デフォルト率は、2025年末の時点で倍以上に上昇しました。報道されている数字と実態の乖離が拡大しており、報告されるポートフォリオの健全性に依存している人なら誰もが懸念すべき状況となっています。

2026年2月には、ある運用会社が四半期内の上限を超える解約請求を受け、14億米ドル規模の資産売却を余儀なくされ10、リテールファンドの解約を恒久的に制限しました。2025年第4四半期に非上場事業開発会社(BDC)を含む大手プライベートクレジットファンドから引き出された資金は70億米ドルを超えます。いち早く資金を引き揚げたのは個人投資家です。あるファンドは償還額が純資産額(NAV)の15%に達しました。これは一般的な水準の3倍に相当します。一方、機関投資家は、年金基金と保険会社が新たに投資をし、政府系ファンドが資産配分を維持するなど、これとは逆の行動を見せました。

インテグレーター型の場合、プライベートクレジットは相変わらず重視すべき領域ですが、投資審査の厳格性に係る重要性もかつてないほど高まっています。保険の資産配分は安定性をもたらす反面、制約も課します。米国では2026年に全米保険庁長官会議(National Association of Insurance Commissioners:NAIC)がマージン構造に直接圧力をかけるルールを導入しました。また、個人投資家からも資金を集めているインテグレーター型では、このアセットクラス(とプライベート市場全般)に内在する構造的な流動性不足について投資家の理解を促すことが最優先課題です。

メーカー型の場合、投資規律を維持し、投資に充てる余力資金を温存していれば、今後12カ月から18カ月間にわたり、高利回りのクレジットの組成機会に加え、不良資産を買収する機会に恵まれることが期待されます。

3. インフラ:拡大する一方で集中が進行

インフラは明確な理由から、投資家に人気です。2025年は資金調達額が3,000億米ドル近くに上り、取引額も上半期だけで5,200億米ドルに達しました。その背景には、このアセットクラスが不確実な時代にあっても投資家が求める予測可能なキャッシュフローを提供し、インフレ耐性を備えていることがあります。

とはいえ、成長が一部の分野に集中する傾向が強まっているのも事実です。データセンターへの投資拡大をけん引しているのはごく一部のハイパースケーラーで、また、新規案件を見ても、ハイパースケーラー5社がその大部分を占めています。そのため、AIの効率向上や規制上の制約といった要因により、ハイパースケーラーのニーズが変化すれば、イグジットの選択肢は急速に狭まる可能性があります。

それとは対照的に、従来型のインフラにはポートフォリオ全体のバランスを補完する役割を有すると考えられます。また、マーケットが厳しい局面では、PEやプライベートクレジットから流出した資金の受け皿となる可能性もあり、それが、この資産クラスの構造的な魅力を高めています。

インフラは資本集約度や規模要件、運用面の複雑さから、インテグレーター型の方が受けるメリットが大きく、それは特に大規模開発案件において発揮されます。一方、電力・ガス・水道などの公益事業や交通インフラなど従来型セグメントに特化したメーカー型は、リスクに対応する態勢を整えれば、今後5年間においても有利なポジションを維持できる可能性があります。

4. 不動産:構造の転換

オフィスの空室率は世界全体で10%台前半から中盤に上昇しましたが、財務的な深刻度は国・地域により大きなばらつきが見られます。米国では空室率が20%に近づき突出して高いのに対して、欧州とアジア太平洋地域ではその水準を大きく下回る国・地域が少なくありません。

不動産を取り巻く状況は二極化しつつあります。データセンターは資産配分に占める割合が非常に大きく、集合住宅は対前年比で50%以上の伸びを示し、産業用や物流用の不動産は引き続き成長の恩恵を受けています。一方、個人投資家と富裕投資家は、オープンエンド型ファンドから広く資金を引き揚げていますが、その大きな一因は不良化したオフィス資産と好調な物流・産業用資産を区別できないことです。

それとは対照的に機関投資家は不動産セクター内で資産配分を変えて、オフィス不動産から構造的に需要の追い風を受けるセグメントへと資金をシフトしつつあります。

不動産がたどる道筋は、インフラのそれと若干異なります。多角化したインテグレーター型は資金をオフィス不動産から産業用・物流用不動産へと移すことができる一方、1つのセグメントに特化したメーカー型は、勝ち組になるか、負け組になるかのどちらかです。

5. セカンダリー:市場を支える重要なインフラ

セカンダリー取引は2025年に世界全体で過去最高の2,400億米ドルに達しました。ゼネラルパートナー(GP)主導型は対前年比で60%以上増えています11。GP主導型の大半を継続ファンドが占め、またセカンダリー市場の取引全体の約40%から45%がGP主導型です12。

インテグレーター型にとって、セカンダリー取引はポートフォリオレベルの流動性を確保するための手段です。一方、メーカー型は継続ファンドを活用することで、LPにイグジットを提供しながら、最も競争力の高い資産を保持することができます。

しかし、GPが自らの運用するファンド間で資産を移転させた場合、ガバナンスの緊張が高まることになります。取引量が増えるにつれ、セカンダリー取引は根本的なイグジット問題を解決するのではなく、あいまいにしてしまうリスクが高まるのです。

Man kayaking between rocks in white water rapids
3

第3章

厳しい環境下では資金の動きが異なる

個人投資家の資金と機関投資家の資金ではボラティリティに対する反応が大きく異なり、それがプライベート市場全体で流動性リスクやイグジットのタイミング、オペレーティング上のレジリエンスを決定づけています。

資金の出所により商品設計や流動性、レポーティング、販売などの在り方にまで影響を及ぼします。インテグレーター型もメーカー型も、厳しい環境下でさまざまな投資資金がどのような動きをするかを把握しておくことが不可欠です。

厳しい環境下での償還

2025年第4四半期は償還の波が起きたことで、非上場BDCの償還額が前四半期を大きく上回りました。償還期限のないクレジットインカムファンドの最大手は第4四半期に21億米ドルの償還を吸収した一方、1年間で140億米ドルを調達しました。これは、規模の大きさがバッファーの役割を果たすことを物語っており、個人投資家の比率が高いファンドでは同様の対応は困難です13。実際、中小規模ファンドは存亡の危機に見舞われました。

一方、機関投資家は逆張り的な買い手の役割を果たすことが少なくありません。個人投資家の資金がボラティリティを高めるのに対して、機関投資家の資金はボラティリティを抑制する役割を果たしています。こうした動きを踏まえた資本基盤を設計する運用会社は、経営上のレジリエンスを構造的に高めることができると考えられる一方、個人投資家と機関投資家の資金を代替可能なものとして扱う運用会社はその違いの影響を最も大きく受けることになります。

課題を深刻化させるマクロ要因

以下のような複数のマクロ要因が相互に作用し合っていますが、市場にはこれが十分に織り込まれていません。

・日本銀行の金融引き締め姿勢を受けて、1兆米ドル~2兆米ドル前後と推計される日本円のキャリー取引の巻き戻しが始まっています。資金調達コストの上昇と円高で日本への資金の還流が促され、リスク資産の流動性が世界的に低下し、イグジットマルチプルと投資家のリスク選好を圧迫14

・米国の関税問題が製造・サプライチェーン分野のディールメイキングに持続的な不確実性をもたらし、バリュエーションギャップの拡大に寄与。こうした通商政策の不確実性の高まりを受けて、価格差を埋めようとする買い手・売り手双方の動きから、アーンアウトなど条件付対価の活用が浸透15

・石油価格のボラティリティでエネルギーインフラの経済性と資本配分が変化。エネルギー投資は2025年に世界全体で約3兆3,000億米ドルに達し、そのうち2兆2,000億米ドル~2兆3,000億米ドルが再生可能エネルギーとエネルギー転換関連の資産への投資に向けられている16

・プライベート市場の規模拡大と投資家の監視の強まりに伴い、手数料体系に圧力がかかっている。個人投資家の参加が拡大し、また機関投資家向け手数料体系に対する許容度が引き続き低いこともあり、LPは従来の「2:20(管理報酬2%+成功報酬20%)」モデルに異議を唱える姿勢を強めており、資産運用会社は柔軟性が高い手数料ベース型モデルや成果連動型モデルへの移行を迫られている17

規制当局が想定より早く介入

歴史から教訓を学ぶことができます。2008年にリザーブ・プライマリー・ファンドの株価が1米ドルを割り込み、それから18カ月たたずに米国証券取引委員会(SEC)は短期金融市場規制を修正しました。仮に401(k)ファンドが償還を制限し、それが全国で大きく報じられた場合、それから数年後ではなく、数カ月後に立法当局と規制当局が介入することになる可能性は高いでしょう。

個人投資家を対象とした販売戦略で、投資を5年間で回収できると想定しているとしたら、その運用会社は規制リスクを過小評価しすぎています。規制に準拠し、ストレステストに耐え得るリテールインフラを構築する猶予期間は、ほとんどの戦略計画の想定より短いのです。

市場が予想していないこと

プライベート市場で広く共有されるストーリーは概して、楽観的な内容になりがちです。一方、現在の戦略計画の策定では複数のリスクが織り込まれていません。

 

AIによるディスラプションの効果がソフトウェア以外にも波及

第一段階の影響はすでにソフトウェアで顕在化しており、ユーザー数に応じた課金モデルが脅かされ、PEのポートフォリオ企業のバリュエーションの見直しが進められています。第二段階の影響はPEが保有するプロフェッショナルサービスファームへと波及する可能性が高く、また第三段階では、プライベート市場の資産運用会社自体の人員配置モデルの変革につながる可能性があります。

 

業界最大の投資対象であるソフトウェア会社とその最新のインフラテーマであるデータセンターは、基本的に「AI主導の需要が持続する」という同じ前提に立っており、それが相互に関係するリスクを生んでいますが、そのリスクは必ずしも認識されていません。

 

保険資本は実際には永久資本ではない

2026年にアメリカの保険会社向けに導入されたNAIC規則で、プライベートクレジットの資本負担が引き上げられました。不況下での保険金支払いの加速は最悪なタイミングでのプライベート資産ポートフォリオのレバレッジ縮小を余儀なくすることになると考えられます。「永久資本」という前提は、当初の想定より根拠が薄いのかもしれません。

 

イグジット案件の滞留で資本が毀損(きそん)

コロナ禍後の期間に12倍から14倍のEBITDA(金利・税金・償却前利益)倍率で買収されたポートフォリオ企業と同レベルのパブリック資産は現在、EBITDA倍率が9倍から11倍です。継続ファンドで減損損失認識を遅らせることはできますが、排除することはできません。LPを対象としたどの調査でも当然のことながら、イグジットは相変わらず投資家の最大の懸念事項です。

 

地政学的分断が隠れたコストを生む

想定収益率に必ずしも為替ヘッジ費用やクロスボーダーの規制対応、関税リスクといったコストが完全に織り込まれていない場合があります。こうしたコストは徐々に上昇しており、地理的集中度が高い運用会社は、地理的な分散化を図った運用会社と比較して、運用パフォーマンスが下回る可能性があります。

Businesswoman working at desk examining documents in empty office at night
4

第4章

転換点での戦略的準備状況

プライベート市場は、周期的なものではなく、構造的な圧力に直面しています。戦略、オペレーティングモデル、資本設計を整合させた運用会社が、次なるフェーズを定義することになると考えられます。

上述の圧力は周期的なものではなく、構造的なものです。こうした圧力には、様子見ではなく、実効的な対応を講じなければなりません。

戦略的明確性

ほとんどの運用会社はインテグレーター型になるか、メーカー型になるかの明確な決定を下していません。専門事業者のような事業展開をしながら、マルチアセット運用会社と称するか、あるいは新たなアセットクラスを追求しながら、自らを専門事業者だとする運用会社が多いのが現状です。

自らの組織の構造を客観的に見極めて、オペレーティングモデルをそれに整合させることが第一歩となります。それには外部の視点を取り入れて、インテグレーター型とメーカー型、両類型に照らして競争上の位置づけを評価し、ギャップを把握して自社のリソースのみで解消するか、それとも構造的な対応が必要かを判断する必要があります。

M&A(合併・買収)と統合の準備状況

中堅層の減少で、統合の波が生まれることが予想されます。資産運用会社の世界上位10社を合わせたAUMは2015年の58兆米ドルから2025年には149兆米ドルに増加し、市場シェアも33%から36%に拡大しました18。こうした集中化の加速に伴い、中堅運用会社はM&Aの対象となるか、徐々に競争力が低下していく可能性があります。

買収側の運用会社にとっては、デューデリジェンスが大きな課題です。LPとの関係や成功報酬の構造、キーパーソンへの依存、オペレーションの基盤はいずれも、詳細かつ厳格な評価が必要となります。

戦略的な統合を検討している運用会社にとっては、M&Aストーリーと同様、統合における実行指針も重要です。企業文化のすり合わせや人材の定着、LPの同意取得、テクノロジー分野での統合が、プライベート市場での合併で価値を創出するか、毀損するかを左右します。

持続的な価値を生み出せるのは、ディールの実行と合併後の統合(PMI)の両方に規律を持って対応する運用会社であると考えられます。

価値の確保と運用変革

マルチプルの拡大から運用価値の創造にシフトするには、根本的に異なるアプローチが必要です。過去と同様のリターン目標を達成するには、財務的な手法(レバレッジ等)を駆使するのではなく、純粋に運用を改善することで、年率10%から15%のEBITDAの成長が求められています。

これには市場開拓(Go-to-market)戦略や調達から、テクノロジー、運転資金管理に至るまで、あらゆる領域に当てはまります。専任のセンター・オブ・エクセレンス(CoE)を設置し、再現性のある価値創造能力を構築した運用会社は、レバレッジだけではリターンを生み出せない市場環境において突出した存在になると考えられます。

新規参入

パブリック市場とプライベート市場の融合により、国・地域や顧客セグメントを問わず新規市場参入機会が創出されていますが、それぞれの規制・運用・商品設計に対する要件は大きく異なります。

地理的拡大または新たなセグメントや新たなアセットクラスへの進出を検討している運用会社は、しっかりとした市場規模の算出と競争力分析、ターゲットとする顧客の期待に沿った商品設計を行う必要があります。長期的な優位性を築けるのは、拡大や進出を段階的に進めていく運用会社です。準備が整わないまま成長を追究すると、規模の拡大に伴いオペレーション上の問題も拡大します。

オペレーティングモデルの刷新

プライベート市場では、依然としてミドルオフィスとバックオフィスに十分な投資を行っていない運用会社がほとんどです。ほぼ半数が最新のレポーティングの様式を導入していますが、多くの運用会社におけるキャピタルコールの手続は、未だに大きく手作業に依存しています。

5兆米ドル規模のアセットクラス向けに設計されたガバナンスのフレームワークは、何百万人もの個人投資家が利用する15兆米ドル規模のアセットクラスにとって不十分です。簡単なテストをしてみましょう。規制当局が明日やって来て、「アセットクラス・セグメント別とファンドラップの種類別にガバナンス体制を説明してほしい」と求められた場合、30分以内に一貫性のあるストーリーを説明できるでしょうか。多くの運用会社にとって、それは容易ではないと考えられます。

すぐには覆せない優位性を築けるのは、オペレーティングモデルの構築に今すぐ投資をする運用会社です。オペレーティングモデルは地味な存在ですが、今後5年間にわたり競争差別化の最大の要因となり、また大半の運用会社の最も脆弱な領域でもあります。AIの導入とAIエージェントを活用した業務運営が急速に進んでいることから、今日のオペレーティングモデルは今後、大きな変貌を遂げることになり、また単なるIT導入プロジェクトではなく、戦略的変革としてこれに取り組む運用会社が優位に立つと考えられます。

結論

プライベート市場はもはや「オルタナティブ」ではありません。今や世界の資本を構成する中核的な要素となり、個人投資家のポートフォリオや年金、保険会社のバランスシートに組み込まれるようになりました。

アセットクラスがシステミックな規模に達すると、市場に明確な選択を迫られます。統合を選択した運用会社は強靭な競争優位性を構築することができ、深い専門性を選択した運用会社は真の差別化を図ることができる一方、どちらにするか決められずにいる運用会社は、自らの組織の構造を見極めることができず、淘汰されてしまう可能性があります。

プライベート市場が直面する圧力はアセットクラスにより異なりますが、喫緊の課題は同じです。リーダーは明確な選択を迅速に行い、レジリエンスを持たせる設計をし、運用能力に投資をして、戦略を成果につなげなければなりません。

 

本記事の執筆ではAbiram Satish Sivasankaranが中心的な役割を果たしました。ここに感謝の意を表します。また、Rohit Khanna、Robert Otremba、Jens Schmidtの貴重な貢献にも感謝します。


サマリー

プライベート市場はシステム上重要な存在となり、機関投資家にとどまらず、年金や保険会社、個人投資家も参加するようになりました。このように拡大を遂げたことで、規模が大きくなった反面、流動性や規制、オペレーティングレジリエンスをめぐる脆弱性が新たに生まれています。パブリック市場とプライベート市場の融合が進む中、運用会社は、資本と販売、リスクを大規模に管理できるインテグレーター型になるか、専門性を深め、ケイパビリティを絞る、防御力に特化したメーカー型のままでいるかの戦略的選択を迫られています。会社組織と資本設計、オペレーティングモデルを自らが選んだ戦略に合致させた運用会社は今後、成功を収めることができますが、統合が加速し、ボラティリティの高まりでシステムの真価が問われるようになる中、選択をためらう運用会社は淘汰されかねません。

関連記事

AIシミュレーションで資産運用業界の成長を加速させるには

AIシミュレーションの力を活用して、顧客の行動を予測し、より賢明な決定をより迅速に下す。詳しい内容を知る

世代内移転が世代間移転戦略にどのようなディスラプション(創造的破壊)をもたらしているのか

世界の世代内資産移転の現状と、ベビーブーム世代の相続人の見解や計画を詳しく説明しています。

2025年の資産運用を成功に導く10の決意とは

EYのグローバルな視点から、資産運用会社が2025年に成長を加速させるために掲げるべき10の決意を明らかにしています。

Jun Li + 2

この記事について

執筆者

執筆協力者