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AIシミュレーションで資産運用業界の成長を加速させるには


資産運用会社はAIシミュレーションを活用することで、顧客の行動を予測し、よりスピーディーかつ正確に戦略的な意思決定を下すことが可能になります。


要点
  • AIシミュレーションは戦略的インサイトにおける新たなパラダイムであり、金融機関はリアルタイムの顧客インサイトを活用し顧客に対して新たな提案を大規模に試行できる。
  • シミュレーションはエージェント型AIの高度な応用により、現実世界の人々の意思決定行動をモデリングする。
  • 市場を中心とした調査と比較した検証を行うことにより、資産運用会社におけるAIシミュレーションの戦略的価値を裏づける。

消費者のニーズを推測する時代は終わり、実際の消費者行動を事前に知ることができる時代になりました。

従来型の意思決定には、インテリジェンスを集め、分析し、その結果を受けて行動するまでに、世界はすでに変わっているという根本的な欠陥があります。さらに悪いことに、そのインテリジェンスを得るための手法は、見えないバイアスや情報の欠落によって歪められている場合があります。人が言うことと実際の行動は必ずしも一致しません。明確さが最も重要な今、「遅れ」と「歪み」が重なることで、資産運用会社は勘に頼ることを余儀なくされています。

最新の人工知能(AI)シミュレーション技術により、定期的な推測から、継続的な確信をもった予測へと、戦略的プランニングを変えようとしています。AIの役割はもはやコスト削減や業務の自動化にとどまりません。戦略的能力を持つようになり、従来型の調査・戦略的プランニング手法を補い、時にはこれを上回るようになりました。これにより、資産運用会社は何千件ものシナリオをリアルタイムでテストし、市場の反応を予測し、戦略を最適化することができます。それに要する時間は、数カ月ではなく、数時間です。

EYは他に先駆けてAIシミュレーションを資産運用業界の戦略的インサイトに利用してきました。EYは、AIシミュレーションのスタートアップ企業であるAaru社のテクノロジーを利用して2025 EY Global Wealth Research Reportを1日で再作成しました。相関率の中央値は90%です。ちなみに、このレポートの取りまとめには通常、6カ月程度かかります。

Aaru製AIによる2025 EY Global Wealth Research Reportのシミュレーション
53の単一選択式質問と世界全体の調査対象者3,600名での相関率

これはSFの話ではありません。金融サービスにおける戦略的インテリジェンスのまったく新しいパラダイムです。AIシミュレーションは、組織の感知や意思決定、行動のあり方を根本から再構築できます。実際のデータセットと合成データを組み合わせて、行動に基づいたエージェントを生成することで、AIシミュレーションは組織が大規模なシナリオを検証してから、戦略的意思決定を下すことを可能にします。問題はAIシミュレーションがこの業界を変革するかどうかではなく、資産運用会社がこれを使う側になるか、失う側になるかです。

Businesswoman using phone while leaning on bus stop poster in city

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第1章

意思決定改革:AIシミュレーションの導入

AIシミュレーションは、資産運用会社の意思決定のあり方を再定義し、インサイトをリアルタイムに提供すると共に戦略策定作業から推測を排除します。

「10億ドル規模の意思決定を、実際の行動ではなく、調査上で顧客が行うと回答した調査結果と3カ月前の情報を基に行っている。」 この感覚は、経営幹部であれば誰もが味わったことがあるはずです。新たな取り組みを開始し、期待しながら結果を待ち、数カ月後に顧客が言っていた通りの行動をとったかどうかを知る。この流れが従来のものでした。

しかし、あらゆる戦略的選択肢を意思決定前に検証できるとしたらどうでしょうか。調査やフォーカスグループだけでなく、人間が実際にどのように意思決定を下すかを捉える行動シミュレーションも通じて、顧客や競合他社、従業員、市場の反応をモデリングできるとしたら?自分の組織が市場の変化を四半期サイクルではなく、リアルタイムで感知し、それに対応できるとしたらこれは単なる思考実験ではありません。今、実際に起きていることです。

AIシミュレーションは実際の行動を追跡して、さまざまな状況でどのように意思決定が下され、行動が起こされるのかを探ることを可能にするとともに、単なる過去の分析結果ではなく、起こり得る結果に関するインサイトを提供します。

その中核を成すのは「合成人口」です。これは、実世界のデータと必要に応じて合成データから構築されたデジタルエージェントであり、合成データとは実際の人口の統計的・行動的パターンを反映した人工的に生成されたデータセットです。機械学習は実際のデータ、つまり人口統計データ(例:国勢調査、国連、国際通貨基金など)や経済・行動の成果に関するデータ(例:売上高、取引、レポートなど)、感情や嗜好(しこう)(例:ソーシャルメディアプラットフォーム、商品レビューなど)を分析して、特定のシナリオではどのセグメントや属性が重要かを判断してから、年齢や収入、リスク嗜好、行動傾向などの特徴を持つエージェントを構築します。エージェントはこうした特性に従って行動し、選択やトレードオフの追跡可能な記録を残すことにより、仮想的な状況下で人々がどのように行動するかを示す、データを活用した構造モデルを作成できるのです。

主要な企業はすでにAIシミュレーションを利用して、意思決定の変革を進めています。例えば、ある大手高級車メーカーはデジタルアバターで生産ラインを細部まで極めてリアルにシミュレーションして、作業員の行動を分析し、製造上の潜在的問題を未然に防止しています1。Interpublic GroupはAaruを活用して、キャンペーンの開始前にオーディエンスの反応を予測しています2。同様に、Heartland ForwardはAaruのシミュレーション技術を導入して、20州でAIに対する感情を評価し3、従来の数カ月に及ぶ調査を数日に短縮することができました。

AIシミュレーションにより、顧客と市場の行動をリアルタイムで予測できる可能性が増しています。合成人口と、データを活用して作成したエージェントで行動をモデリングすることで、組織はシナリオを検証し、起こり得る結果を事前に知ることができます。これは段階的な進歩ではありません。真のパラダイムシフトです。

Overhead view of plant shop owner processing customers credit card payment on digital tablet
2

第2章

AIシミュレーションとそれが業界に与える影響の理解

AIシミュレーションは顧客の行動を把握する新たな方法を提供することにより、資産運用会社がそれを踏まえて強い確信を持って戦略的な変更を行い、データを参考にタイムリーな意思決定を可能にします。

AIシミュレーションは、戦略的インテリジェンスを飛躍的に進化させるテクノロジーです。従来型調査のように、調査対象者に何をするつもりかを尋ねることはありません。「何をする可能性が高いか」をモデリングします。もう1,000人に仮定の質問をする必要はありません。今では人間さながらの行動をする100,000のデジタルペルソナを、数カ月単位ではなく、数時間単位でシミュレーションできます。

大規模なAIシミュレーション
数時間で生成されたデジタルエージェントのサンプルサイズ

これは単に調査の質問に答えるチャットボットではありません。AIエージェントは高度な言語モデルと行動設計を用いて、現実の人々の複雑な意思決定パターンを再現します。選択肢の評価やトレードオフの比較検討、意見の形成を行い、組み込まれた行動特性と環境的文脈から選択します。どの意思決定においても論理の道筋が残り追跡できるため、どのような選択が行われたかだけでなく、その理由も明らかにします。

言動の不一致という、意思決定者を長らく苦しめきた問題にこのテクノロジーは対処できます。調査の結果から、仮定の質問をされたときに調査対象者が「払っても構わない」と答える価格は、実際にそうなった場合と比べ3倍高いことが分かりました4。調査対象者の65%が持続可能な製品を好むと答えているものの、実際に購入した人はわずか26%です5。ウェルス&アセットマネジメント業界の調査でも、投資家はリスクをいとわないと回答していますが、それは損失リスクが顕在化するまでの話です6

従来型調査は個々人の力に頼って行われてきましたが、その限界は過去のデータと調査対象者が示す意向です。これとは対照的に、AIシミュレーションは行動をモデリングして、現実の意思決定を左右するトレードオフや文脈を含め、トレードオフや将来起り得る行動を予測して、さらなる深みを加えることができます。

それは、市場のデジタルツインを作成するようなものです。資本や評判を危険にさらす前に、戦略を検証し、反応を予測し、アプローチを精緻化できる「生きた実験室」といえます。いわば、紙の地図を使って進む方法と、リアルタイムで交通状況を知らせ経路の提案・変更するGPSを使って進む方法との違いです。

Malay man working on a smart phone in a bright office
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第3章

リアルタイムのインサイトで推測から確信へ

戦略を精緻化するインサイトをリアルタイムで提供できる体制を整えて意思決定プロセスを根本的に変えれば、推測から確信を持った予測へと移行できます。

合成データとAIシミュレーションが提供するあらゆる可能性を踏まえ、EYはAIシミュレーションの真価を問いたいと考えました。

そこで、2025 EY Global Wealth Research Reportの再作成をAaruに依頼しました。このレポートは30を超える国・地域の富裕層の投資家3,600名を対象とする、業界で最も包括的な調査の1つです7。従来型の調査方法では6カ月の時間と多大なリソースを要していました。わずか1日のシミュレーション調査の結果と実際の調査結果を比較したところ、相関率は90%を超えました。これは、いかなる予測モデルと比べても卓越した水準です。さらに重要なことは、 EYの調査結果とAaruの予測が異なる領域で、AIシミュレーションの出した実際の行動の予測が、調査結果より正確であることが判明したことです。

相続におけるロイヤルティの誤解

  • • 調査対象者の回答(EYの調査結果):相続人の82%が親のアドバイザーに自分も依頼すると回答8
  • • AIシミュレーションの予測:継続率は43%
  • • 実際のデータ:業界の複数の調査結果によると、相続人の20~30%が親のアドバイザーに自分も依頼9

これは調査に問題があったために生じた結果ではなく、人間の本質を表しています。行動科学が教えてくれるように、人々は仮定で考えることができません。市場調査で人々が社会的に受け入れられる回答をする傾向にあることはよく知られています。調査疲れの影響があったり、考えずに回答したりする人もいるでしょう。また、単に虚偽の回答をすることもあります。AIシミュレーションによる行動のモデリングは、こうしたバイアスを取り除き、起こり得る行動を明らかにします。これにより資産運用会社の戦略的プランニングが根本的に再構築されます。何もせずに相続人も資産運用を依頼してくれると期待することはできません。積極的な関係構築が不可欠です。

一本化の矛盾

  • 調査対象者の回答:金融機関を1つに絞る方が良いとの回答は、全体の69%
  • AIシミュレーションの予測:1つの事業者に絞る方がいいと思う人は、全体の37%
  • 実際:アドバイザーを1つに絞っている富裕層は全体のわずか33%。
2025 EY Global Wealth Research Report
が金融機関を1つに絞る方がいいと回答。これに対してエージェントの予測は37%で、実際は33%。

将来の行動は本質的に不確かなものであり、人々が将来、何をするかをAIシミュレーションが保証すると断言できません。しかし、行動パターンや嗜好、トレードオフを合成人口全体でモデリングすることにより、新たなシナリオにおいて人々がどのような行動をする可能性が高いかについて、インサイトを体系的に提供します。

AIシミュレーションは、従来のリサーチでは見落とされがちな行動に関するインサイトを捉えます。顧客はシンプルさを好むと言いながら、特別な体験を求めて行動します。このインサイトが、顧客の獲得と維持に対する資産運用会社の対応方法を根本から変革します。

重要なことは、AIシミュレーションが調査を迅速に再現できる点だけではありません(その可能性は確かに魅力的ですが)。本質は、実際の行動をモデリングすることにより、高度な行動に関するインテリジェンスにより、従来型の調査や実務経験を補完できる点です。

three businesswomen talking in the distance behind a curtain of leaves, horizontal picture
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第4章

継続的なインテリジェンスによる戦略的プランニングの変革

定期的な現状の把握から継続的なインテリジェンスの獲得への移行で、戦略的プランニングを強化し、ダイナミックな市場の変化への対応力を高めることができます。

AIシミュレーションを利用する真のメリットは、スピードではありません。定期的な現状の把握から継続的なインテリジェンスの獲得への移行です。あらゆる戦略的決定を事前に検証できる場合に、何が可能になるか考えてみてください。

  • 戦略的プランニングが年周期から、状況の変化に合わせた継続的な対応に変わる。何百ものシナリオで市場参入戦略を検証し、勢力図の変化に合わせて価格設定戦略をリアルタイムで精緻化し、事前の予測に基づき先手を打ち顧客離れを阻止する。

  • 製品開発は「発売して学ぶ」から「発売前に学ぶ」へと変わる。そのため、コードを書く前に普及曲線を把握し、各セグメントで機能の組み合わせを検証し、何千ものやり取りをシミュレーションして、ユーザー体験を向上させる。

  • M&Aに当たって財務モデリングのみならず、行動予測も行うようになる。そのため、獲得した顧客が合併後、実際にどのような行動をするかをモデリングし、Day1(統合初日) の前に統合戦略を試し、やり取りをシミュレーションして企業文化の相性を予測する。

  • リスク管理が事後の対応から予想へと進化する。ブラックスワン事象に対して戦略のストレステストを行い、連鎖的な影響を事前に把握し、危機シナリオをシミュレーションしてレジリエンスを構築する。

「デジタル人口」の形成により、市場環境が変化するたび、シミュレーションをやり直すしが可能となります。選挙の結果?関税率の発表?金利の変動?24時間以内に投資家のセンチメントと行動がどのように変化するかを予想できます。調査対象者の募集も現地調査も必要なく、即座に実用的なインテリジェンスを獲得できます。

下の表から分かるように、従来のアプローチとの違いは歴然です。

従来のインテリジェンス

AIシミュレーションのインテリジェンス

数カ月かけて取りまとめる

数時間でインサイトを獲得

ある時点の現状

継続的なモニタリング

調査対象者が回答した行動に基づいたもの

予測される行動に基づいたもの

サンプルサイズが限定的

規模は無限

回顧的

未来志向的

PII(個人を特定できる情報)コンプライアンスの負担

PIIは不要

従来型の意思決定の基盤となるプロセスは、過去のデータを集め、トレンドを分析し、その分析結果から得た推定を基に予測をするという前世紀の遺物のようなものです。一方、AIシミュレーションは、それに代わる21世紀の選択肢として、デジタルマーケットを創出し、「無限の」シナリオを検証し、事前に結果を知ることを可能にします。

これは、インテリジェンスの段階的な進歩ではありません。組織の意思決定方法の根本的な変革です。GPSが紙の地図に、スマートフォンが公衆電話に取って代わったように、AIシミュレーションは人々が起こし得る行動を教えて確率曲線を変えることができます。

資産運用調査におけるEYのゴールドスタンダードとの比較を行った今回の検証で、非常に重要なことが明らかになりました。AIシミュレーションは調査の時間を短縮させるだけでなく、意向ではない実際の行動をモデリングして、優れたインサイトの提供もできます。数十億ドルの資金や顧客関係を失う危機に陥ったとき、人の言動の不一致は単なる机上の問題ではなくなります。実際に影響を及ぼす大きな問題です。

AIシミュレーションは18カ月以内に、競争優位のためのテクノロジーから当たり前のテクノロジーとなり、3年以内に主要な戦略的意思決定を下す際の不可欠なテクノロジーになるでしょう。それまでにAIシミュレーションを開始していない組織は取り残されることになります。

EYはこの変革を見守っているだけではありません。クライアントと協働して、その設計を進めています。私たちの実証済みの手法と実績が物語る精度、そして豊富な導入経験により、理論を実用化し未来を実現可能なものとします。

問題は、AIシミュレーションが戦略的意思決定を根本的に変えるかどうかではありません。変革をリードするか、それとも傍観者のままでいるか。決めるのはあなたです。


サマリー

AIシミュレーションは消費者行動に関するインサイトをリアルタイムで提供し、資産運用会社の意思決定を根本から変革しつつあります。従来型手法では十分に対応できないことが多く、その結果、推測や機会の逸失を招いてきました。AIシミュレーションを活用することで、組織はさまざまなシナリオを検証し、先を見据えた最適化された戦略を立案できます。この革新的なアプローチにより、資産運用会社は戦略的プランニングを強化するだけでなく、市場の変化に効果的に対応する体制を整備できます。AIシミュレーションが進化し続ける中で、資産運用会社の業務運営は根本的に変革され、競争環境において優位性を確保できることが期待されます。


お問い合わせ
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Jun Li + 2

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