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グローバルな人材モビリティが新たな税務上の転換点を迎える理由とは


関連トピック

国境を越えた働き方は、現行の制度やルールを上回るスピードで変化しています。また、移民政策の不確実性が高まる中、就労が認められることと税務上の取扱いが明確であることとのギャップは、ますます広がっています。


要点

  • 国境を越えた働き方は、短期プロジェクト、出張、複数の拠点や組織にまたがる職務(ハイブリッドロール)などへと広がっており、多くの場合、従来のモビリティプログラムの対象範囲を超えている。
  • OECDや国連の動向は、働き方がより柔軟となり分散化する中で、租税条約上の従来の概念に対する見直し圧力が高まっていることを示している。
  • 従業員の所在の可視化、明確な判断基準、一貫した文書化を進めることで、事業の機動性を損なうことなく、給与計算や税務に関する想定外の問題を抑えることができる。


EY Japanの視点

制度が現実に追いつく日 ― グローバルモビリティを経営の主役に

日本企業のグローバルモビリティ関連規程は、今もなお「1年以上の海外赴任を前提とした赴任規程」と「海外出張規程」の2本立てにとどまり、短期プロジェクトやハイブリッドロール、海外リモートワークといった新しい働き方を想定した設計にはなっていません。一方で現場では、外国籍の執行役員が海外に居住したまま日本本社業務を担うケースや、配偶者の海外赴任に帯同しながら日本本社業務を行うケース、外国人社員が母国から一時的にリモート勤務を希望するケースなど、既存の規程では対応できない事例が増えています。こうした働き方では、税務や社会保険に加え、就労可能な在留資格やビザの要否といったイミグレーション上の論点も同時に生じますが、多くの企業でその整理が追いついていません 。実際、EYモビリティサーベイ(第6回・2024年4〜5月、204社)では、国をまたぐリモートワークに関して懸念する点として156社が「税金の取扱い」を、105社が「ビザの取扱い」を懸念点として挙げていました(複数回答)。また、海外人事の人員が「足りている」と答えた企業はわずか30%にとどまっています。加えて同サーベイ(第7回・2024年9〜10月、221社)では、赴任者コスト負担について39%が税務調査で指摘を受けています。2025年11月のOECDコメンタリー改定で在宅勤務のPE認定基準が明確化されるなど、国境を越えた働き方への関心は高まっています。CEOが地政学と人材確保を最重要課題に挙げるいま、モビリティは「事務処理」ではなく、人材リテンションと税務・イミグレーションコンプライアンスを両立させる経営課題です。CEO・CHROには、「誰が・どこで・何のために働いているか」を可視化し、判断基準と文書化を標準化する体制づくりを、後回しにしない経営判断が求められます。
EY Japanの窓口

国境を越えた働き方は今や日常的なものとなっています。しかし、それを支える制度やルールは十分に追いついていません。従業員は短期プロジェクトやハイブリッドロール、頻繁な出張を日常的に行うようになっています。一方で、税務や移民政策の枠組みは、依然として、より明確な国境、より長期の滞在、就労実態や責任の所在が明確であることを前提としています。このギャップは、意思決定の遅れや予期せぬコストの発生だけでなく、「どこで業務が行われているのか」「どの国に課税権があるのか」を判断しなければならない政策当局者の警戒感の高まりという形でも顕在化しています。そうした中で、経済協力開発機構(OECD)や 国連などの取り組みにより、将来的には国境を越えた従業員課税に関するルールの整合性が高まる可能性があります。しかし、この課題は、個々の国際機関による取り組みだけで解決できるものではありません。

EYの最近の調査によると、CEOは生産性と競争力を高めるために人材とテクノロジーを活用していると回答する一方で、成長に対する最大の脅威として地政学的な不確実性を挙げています。特に中東地域を取り巻く先行き不透明な状況は、出張ルートや投資戦略、さらには一部の地域における恒久的なリモートワークの実現可能性そのものについても、見直しを迫る要因となっています。一方で、米国における移民政策の変化も、企業に新たな観点からの再検討を促しています。政府の政策優先順位が変化し、就労ビザの取得や活用の見通しが立ちにくくなると、企業は人員計画や採用に伴うリスクを見直さざるを得なくなります。その影響はまず日常業務に現れます。採用オファーの成立までに時間がかかり、入社時期が遅れ、プロジェクトへの人員配置も難しくなります。

しかし、こうした変化は、国境を越えた働き方の実態とそれに伴うリスクが構造的に再編されつつあることの一部であり、多くの企業のモビリティモデルは、こうした変化への対応を前提として設計されていません。短期的なプロジェクトが長期滞在へと発展したり、ハイブリッドな勤務形態(ハイブリッドロール)が標準的な働き方となったりすることは、もはや珍しくありません。それにもかかわらず、税務や給与計算への影響が、意思決定が行われた後になって初めて表面化するケースが少なくないのです。

まさにこの点が、企業が直面している新たな転換点といえます。働き方はより柔軟かつ国境を越えて分散する方向へと変化している一方で、リスクやコンプライアンス上の義務を判断する仕組みは、依然として従業員の所在地、滞在期間、滞在先で従事する業務内容に大きく依存しています。こうしたギャップに先手を打って対応するために重要なのは、あらゆる政策変更を予測することではありません。むしろ、国境を越えた働き方に関する意思決定を、より明確に、より迅速に、より標準化された形で行えるようにすることです。

近代的な空港ターミナルのエスカレーターを利用する女性
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第1章

就労許可だけでは対応しきれない理由とは

リモートワークやハイブリッドな勤務形態は、税務ルールの整備を上回るスピードで拡大してきました。入国管理制度上は滞在や就労が認められている場合であっても、給与計算、租税条約の適用、各種報告義務に関する論点は、実際にどこでどのように業務が行われているかに応じて生じ続けます。

パンデミックを契機として柔軟な働き方が広がる中、こうした柔軟性を既存の税制や入国管理制度の枠組みにどのように適応させるべきかについて、世界は今なお模索を続けています。多くの国・地域では、 デジタルノマドビザやリモートワークビザを含む、新たなビザ制度を導入し、対応してきました。それだけを見ると前向きな進展のように思えます。しかし実際には、「制度上認められていること」と「実務上円滑に運用できること」との間に、より大きなグレーゾーンが生じています。

入国管理制度は、比較的分かりやすい仕組みとして設計されています。要件を満たすか満たさないか、あるいは特定の活動が認められるか認められないかといった基準が明確だからです。一方で、税務上の取扱いはそのように単純ではありません。特に、人々が柔軟な形で国境を越えて働く場合にはなおさらです。ビザによっては、海外の雇用主に雇用されたまま、滞在先の国に居住しながら働くことが認められます。しかし、それだけで給与の源泉徴収義務がいつ発生するのか、社会保障をどのように取り扱うべきか、あるいは年間を通じて複数の国・地域を行き来する場合に租税条約上の規定をどのように適用すべきかが、自動的に決まるわけではありません。

OECDが進める、国境を越えた働き方の形態や課税権の配分に関する概念についての協議は、従来の前提がもはやこれまでと同じようには通用しなくなりつつあることを示しています。例えば、自宅オフィスの利用が雇用主の判断によるものと見なされる場合、その企業に恒久的施設(PE)が認定される可能性があります。

一方で、セカンドハウスやバケーションレンタル、その他の場所で行われる柔軟な働き方についての判断は必ずしも明確ではありません。今後の議論では、課税上の責任を偶発的な利用に基づいて判断すべきか、それとも継続的な利用に基づいて判断すべきかに加え、従業員の税務上の居住地に関連する年間利用割合を、企業のPE認定においてどのように考慮すべきかといった論点が検討される必要があります。

雇用主は、今後、実際の勤務実態に関して、これまで以上に多くの説明を求められるようになるでしょう。例えば、「どこで業務が行われたのか」「どのくらいの期間行われたのか」「誰のために行われた業務なのか」といった点です。そのため企業には、こうした問いに対応するとともに、潜在的なリスクを適切に考慮するための方針や体制を整備することが求められます。その一環として、人事、税務、コンプライアンスの各部門の連携を強化するとともに、部門横断的なデータ基盤を通じて潜在的なリスクを把握し、可視化できる体制を構築することが重要です。テクノロジーは有効な支援手段となりますが、適切な文書化や運用プロセスと組み合わせなければ、複雑化するグローバルな人材管理に十分対応することはできません。

プライベートジェット機内でくつろぎながら、考え事をしているビジネスパーソン
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第2章

国境を越えた働き方は一般化し、それに伴うリスクも増大している

業務はもはや従来の海外赴任だけではなく、短期プロジェクト、出張、ハイブリッドな勤務形態などを通じて行われています。こうしたケースの多くは、モビリティ管理の対象として捉えられないまま進み、何らかの契機に初めてレビューの対象となります。

今日の国境を越えた働き方は、もはやモビリティプログラムの枠組みの中で管理される長期的な海外赴任だけに限られません。短期プロジェクト、変化する出張パターン、さらにはハイブリッドな勤務形態やリモートワークなど、従来の運用プロセスの枠外で行われる働き方が増えています。こうした働き方は、ビジネス上合理的であり、従業員にとっても利便性の高いものです。しかし同時に、後に予期せぬリスクを生じやすいケースでもあります。何らかの事象をきっかけに検証が必要になるまで、モビリティ案件として扱われないことが少なくないためです。

 

こうした状況が、モビリティ担当部門の負担を増大させている理由の1つです。モビリティ担当部門には、組織全体で発生する幅広いリスクを管理しながら、柔軟性とスピードを実現することが求められています。規制や入国管理は、モビリティプロセスの迅速化を阻む最大の障壁として広く認識されています。これは多くの担当チームにとって実感を伴う課題です。というのも、ボトルネックとなるのは1つの大きな意思決定であることはまれだからです。むしろ、数多くの微妙なケースが積み重なることによって、業務の複雑性と負荷が増しているのです。

 

2026年度 「EY Mobility Reimagined Survey」 の調査結果も、この傾向を裏付けています。調査対象企業の74%は、入国管理部門が、営業案件への入札やクロスボーダーM&Aといった戦略的な意思決定に対して助言を行っていると回答しています。また、51%の企業が、過去2年間に入国管理制度上の課題を理由として事業機会の追求を断念した経験があると回答しました。さらに、69%の企業は、最近の政策変更を受けて、米国における就労ビザのスポンサーシップを停止または縮小したと回答しています。

 

複雑性の高まりが、成長、事業遂行、投資に関する意思決定といった中核的な企業活動で顕在化する中、企業には、従業員データや勤務地ごとの税務および入国管理制度上の要件について、より高い可視性と統合的な管理が求められています。また、事業目標の達成を推進しながら潜在的なリスクを管理するためには、信頼性の高いプロセスを整備することも不可欠です。

 

最初に顕在化するのは、給与計算と社会保障に関するリスク

多くの企業は、入国管理制度上のステータスが明確であれば、税務や給与計算への対応も比較的容易だと考えています。しかし実際には、入国管理制度上の許可が明確であっても、働き方の変化によって新たな税務/給与計算上の義務が生じることがあります。ある地域での滞在や就労が認められていたとしても、その結果として給与計算や税務上の影響が発生し、後の対応や修正が難しくなる場合があります。

 

多くの場合、最初に問題となるのは、国内での実務運用に関する領域です。短・中期のリモートワークにおいて、給与からの源泉徴収はいつ開始するのでしょうか。現地で給与計算の仕組みが整備されていない場合、どのように対応すべきでしょうか。断続的な滞在であっても、それが繰り返される場合、社会保障上の義務はどのように適用されるのでしょうか。また、出張が常態化し、通常の勤務形態に近いものとなった場合、どのような報告義務が生じるのでしょうか。こうした問題に四半期末になって初めて気付くのでは、すでに手遅れです。

 

PEは依然として重要な問題ですが、それだけが企業にとってのリスクではありません。多くの企業においては、給与税、社会保障、運用面のコンプライアンスこそが、最も差し迫った課題であり、またその影響が最も速く拡大しやすい領域です。これらの課題は、給与の支払いや各種控除、福利厚生、さらには従業員にとって実際どのような業務ができるかに影響を及ぼすため、従業員体験にも直接関わります。不確実性が高まる環境においては、こうした領域への備えが不十分であることで、小さな問題が大きな混乱へと発展する可能性があります。

 

入国管理制度のルールは比較的明確であっても、税務上の影響は多くの場合、それほど単純ではありません。それぞれのビザ制度には固有の要件があり、リモートワークが認められる場合であっても、居住性の判定基準、滞在日数、租税条約上の取扱い、給与計算上の義務が発生するタイミングなどについては、個別に検討する必要があります。

町を歩きながら対話する会社の同僚たち
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第3章

柔軟性を維持しながら適正な管理を実現する先進企業の取り組み

優れたモビリティプログラムは、柔軟な働き方を制限するものではありません。むしろ、可視性を高め、明確な基準を設け、意思決定根拠を適切に文書化することで、国境を越えた働き方を迅速かつ適切に管理できるようにします。

現代のグローバルな人材モビリティプログラムでは、入国管理制度上および税務上のリスクを完全に排除することはできません。一方で、柔軟性を犠牲にすることもできません。市場や政治情勢の不確実性が高まる中、アジリティは企業にとってますます重要な要素となっています。

国境を越えて事業を展開する企業が、今後の課題に対応していく上で取るべきアプローチは次のとおりです。

最も重要な事項に焦点を当てる

事業継続に不可欠な主要ないくつかの移動ルートや、価値を創出する、あるいはリスクや注目度の高い職務について、プロセスやポリシーの強化に注力することが重要です。また、人材供給の仕組みが、特定のルートや市場の前提に過度に依存していないかを見直し、単一障害点(Single Point of Failure)の有無を確認することも求められます。

実際どこで業務が行われているのかを、より正確に把握する

多くの組織は、既に必要なデータを保有しています。しかし、それらの情報は人事、出張管理、給与計算、モビリティ関連ベンダーなど、複数のシステムや関係者の間に分散していることが少なくありません。こうした情報を統合する作業は地道な取り組みですが、迅速な意思決定や対応力の向上を支える重要な基盤となります。実際にどこで業務が行われているかを把握できなければ、リスクを早期に特定し、適切に管理することはできません。システムの統合は、業務のスピード向上につながるだけでなく、部門間や従業員との信頼関係を構築し、変化する市場での事業推進力を高めることにも寄与します。

シンプルな判断基準によって意思決定を標準化する

一般的なケースについては、滞在日数、職務の種類、顧客対応の有無、滞在の商業的目的などの共通の評価基準に基づき、適切に振り分けるべきです。目的は、土壇場でのエスカレーションが常態化した運用を防ぐことにあります。リスクの低い案件は迅速に進められるようにし、一方でリスクの高い案件については、入国管理、税務、給与計算の観点から必要なレビューを早期に開始することで、業務やプロジェクトの遂行に支障が生じないようにすることが重要です。

文書化を徹底する

形式的な書類作成のためではなく、誰がどこで業務を行い、何に従事し、なぜその場所にいたのか、そして誰がそれを承認したのかについて、整理され一貫性のある記録を残すことが重要です。こうした記録は、時間の経過とともにその価値を増していきます。特に、実際の勤務状況、居住者判定の基準、租税条約の適用関係などを、何カ月もさかのぼって検証する必要が生じた場合には極めて重要な情報となります。

具体的な成果につながる形でテクノロジーを活用する

自動化されたリスク検知機能や追跡管理、管理者による監督体制は、手作業による負担を軽減するとともに、組織がリスクの兆候や傾向を早期に把握するのに役立ちます。また、「人材配置までの所要期間」「例外案件の発生率」「シャドーペイロールの発生件数」「エスカレーション件数」といった指標を活用することで、経営陣はより具体的に状況や課題を把握することができます。

要するに、スマートな自動化を活用し、正確でタイムリーなデータを継続的に把握し管理できる組織ほど、プロセスや意思決定の信頼性を維持しながら、より迅速に行動することができるのです。また、国境を越えた人材移動や就労に関する意思決定において、より明確な事実に基づく包括的なアプローチを採用することで、事後的な想定外の問題を抑えながら、確信を持って事業を推進することが可能になります。

サマリー

国境を越えた働き方は、今や日常的なビジネス活動となっており、それに伴う課題や障害も日常的なものとなっています。短期プロジェクト、頻繁な出張、ハイブリッドな勤務形態を通じた働き方が増加しており、こうした勤務パターンは給与計算、税務、コンプライアンス上の課題を引き起こす可能性があります。同時に、OECDや国連が新たな働き方の形態に注目していることは、租税条約の概念が見直されつつあることを示しており、今後は税務当局による監督や精査が一層強化される可能性があります。優れたモビリティプログラムは、人材モビリティそのものを制限するものではありません。むしろ、可視性の向上、明確なレビュー基準の設定、「どこで、なぜ業務が行われたのか」に関する一貫した記録の整備を通じて、人材モビリティをより適切に管理しやすくします。

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