2023年3月31日
なぜハンガリーがグローバル企業を惹きつけるのか 有望な投資先として選ばれるハンガリー
情報センサー2023年4月号 JBS

なぜハンガリーがグローバル企業を惹きつけるのか 有望な投資先として選ばれるハンガリー

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2023年3月31日
関連トピック 税務

ハンガリーは旧共産圏の国でありながら、資本主義の導入、EU加盟を経て、順調な成長を続けており、多くの日系企業が進出しています。特に近年は中国、韓国をはじめとするアジア勢がEV関連のハンガリーへの大型投資を続々と決定しており、今なお多くのグローバル企業を惹きつけています。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 ワルシャワ駐在員 公認会計士 松元 泰

2007年入社後、広告業・製造業など国内上場企業や複数の新規上場企業の会計監査に従事。20年12月よりEYポーランド ワルシャワ事務所に現地日系企業担当として駐在し、ポーランド、チェコおよびハンガリーを担当。会計、税務、コンプライアンス支援・新規投資サポートなど、幅広いサービスで日系企業の事業展開を支援。

要点
  • EV関連を中心に国外からの直接投資が活発となっている。
  • 積極的な補助金支給など、投資先としてのさまざまな魅力を備えている。
  • 一方で、ハンガリー固有のリスクを注視する必要がある。

Ⅰ はじめに

ハンガリーと聞いて、読者の皆さまは何を思い浮かべるでしょうか。「ドナウの真珠と称されるブダペスト」「温泉大国」と連想される方が多いのではないでしょうか。どちらも正解ですが、それだけではありません。ハンガリーは欧州の中でもとても親日的であることや、積極的に国外からの直接投資を受け入れることで経済発展を遂げていることでも知られています。

ハンガリーが共産主義からの転換を遂げて間もない1991年には、早くもスズキ自動車が欧州唯一の生産拠点として当地に進出しており、産業の乏しかった当地の経済発展に寄与するとともに、憧れのマイカーとして親しまれてきました。その後も自動車関連を中心に、日系企業の進出が進み、多くの日本を代表するグローバル企業が当地での事業を展開しています。また、近年は電気自動車(EV)関連の企業誘致に注力しており、その集積地としての位置付けの確立が進んでいます。

一方で、事業展開の上でリスク要因が存在することも事実です。そういったリスク要因をどのように評価し、リスクに見合う魅力をハンガリーに見いだすことができるかが、投資判断のポイントとなっています。

Ⅱ 国外からの直接投資

中欧諸国の1つであるハンガリーは、旧共産圏ということもあり、20世紀後半には経済的に西欧の後塵(こうじん)を拝していましたが、特に2004年のEU加盟以降は順調に経済成長を遂げています。国外からの直接投資を経済成長の重要な牽(けん)引役として位置付けており、周辺国に比べて低い法人税率、魅力的な助成・税制優遇など、投資を促進する政策を実行しています。

前述の通り、多くの日系企業がハンガリーで事業を展開していることに加えて、ドイツの主要自動車メーカーが生産拠点を構え、さらなる工場の設置も見込まれています。近年は特に中国、韓国企業によるEV関連の大型投資が話題となっています。

【代表的なEV関連企業の投資見込額】

  • A社(中国大手EV用電池メーカー):約1兆270億円
  • B社(韓国大手石油化学企業):約3,680億円
  • C社(韓国大手電機メーカー):約1,560億円

Ⅲ 投資先としての魅力

グローバル企業から投資先として選ばれる背景として、ハンガリーの投資先としての魅力は次のようなものが挙げられます。

1. EU加盟国への良好なアクセス

ハンガリーは、04年にEU、07年にシェンゲン協定にそれぞれ加盟しており、EU諸国への自由なアクセスが確保されています(輸出入の7割以上がEU諸国向け)。特に最大貿易相手国であるドイツへは、ポーランド、チェコなどの隣国に準ずるアクセスとなっており、陸路で約900Km(約9時間)となっています。

2. 相対的に低い賃金水準と良質な労働力

ハンガリーの平均賃金は、経済成長や最低賃金の引き上げなどに伴って年々上昇しているものの、Eurostat(欧州連合統計局)の21年時点のデータによれば10.4ユーロ/時間と、EU27カ国平均29.1ユーロ/時間の3分の1程度の水準にとどまっています。

また、ハンガリーの大学・短大進学率は日本とおおむね同水準の約60%と高水準となっています。経済、工業技術、医療を専攻する学生が最も多く、近年ではIT技術を専攻する学生も年々増加しています。

このように質の高い労働力が相対的に安価に活用できる環境がハンガリーには整っています。

3. 積極的な投資誘致策

前述の通り、ハンガリーは国外からの直接投資を経済成長の牽引役と位置付けており、HIPA(ハンガリー投資促進庁)は、投資に対する助成、税額控除に積極的な姿勢を維持しています。投資額に対する投資補助(現金助成と税額控除の合計)の最大限度は、地域の開発度合いに応じて30%~50%の上限が設けられていますが、22年から地域・上限に大幅な見直しが行われ、より投資補助を受けやすい制度となりました。

4. 魅力的な税制

ハンガリーの法人税率は9%となっており、課税標準が異なる地方事業税を考慮した場合でも、課税所得に対する実質税率は製造業において15%程度となることが多く、近隣国、日本と比較して低い税率となっています。加えて、前記で挙げた投資優遇による税額控除等の恩恵も受けられることから、税務面でのメリットを感じてハンガリーへの投資を決定される企業も多くなっています(<表1>参照)。

表1 周辺各国・日本と比較した税制の特徴(EY作成)

Ⅳ ハンガリー固有のリスク

1. 独自通貨の使用

ハンガリーはEU加盟国でありながら、ユーロではなく、独自通貨のハンガリー・フォリントを採用しています。現地での原料仕入や人件費がフォリント建てで発生する一方で、売上がユーロ建てで発生するなど、収益と費用が異なる通貨で生じるケースが多くあり、為替変動が企業業績に与える影響を無視することはできません。

2. 高いインフレ率

22年は欧州全体でインフレーションが進行しましたが、その中でもハンガリーは20%前後のインフレーション率で上位となっています。これは幅広い分野において企業のコストアップ要因になっており、その不安定さから業績見通しの撹(かく)乱要因となっています。

3. EUの中で非主流派の姿勢

ハンガリーは政治面、経済政策面のいずれにおいても、EUの主流派とは異なる姿勢を取っていることで知られています。こういった姿勢は、投資優遇や税制といった面で企業活動にプラスとなる一方で、EU補助金の支給停止などハンガリー経済にマイナスの影響を及ぼすこともあります。このような状況から、一部にはハンガリーが次のEU離脱国になるのではとする過激な論調もありますが、ハンガリー経済はEUと密接につながっており、その可能性は極めて低いとするのが大勢の見方となっています。

Ⅴ おわりに

日本から約9,000km離れたハンガリーですが、ビジネス面ではすでに100社を超える日系企業が進出しており、日系企業が安心して事業を行う基盤が整っています。

EYは10年以上前から日本人駐在員による日系企業の進出支援、在ハンガリー日系企業が直面する課題解決のサポートを行っています。会計、税務はもちろんのこと、法務、新規進出支援など、総合的なご相談に対応していますので、お気軽にお問い合わせください。

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サマリー

ハンガリーは旧共産圏の国でありながら、資本主義の導入、EU加盟を経て、順調な成長を続けており、多くの日系企業が進出しています。特に近年は中国、韓国をはじめとするアジア勢がEV関連のハンガリーへの大型投資を続々と決定しており、今なお多くのグローバル企業を惹きつけています。

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