企業結合-開示、のれん及び減損プロジェクトの進展

企業結合-開示、のれん及び減損プロジェクトの進展

情報センサー2023年5月号 IFRS実務講座


EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 物井 一真

当法人入社後、主としてメディア・エンターテイメント業や不動産業の会計監査及び内部統制監査に従事。2015年より東証一部上場の総合商社に出向し、連結決算業務や監査対応業務に携わり、18年に帰任後は、消費財・小売業の会計監査及び内部統制監査に従事。21年よりIFRSデスクに所属し、研修業務、執筆活動などに従事している。


Ⅰ はじめに
 

企業結合-開示、のれん及び減損プロジェクトは、企業が行う企業結合について、合理的なコストで財務諸表利用者により有用な情報を提供できるかどうかを検討することを目的としており、企業結合に関する開示の改善、のれんの償却を再導入するかどうかを含むのれんの事後の会計処理、その他の論点の検討が行われる重要なプロジェクトです。

当該プロジェクトは、<図1>のとおり、IFRS第3号「企業結合」の適用後レビューを基に、ディスカッションペーパー(DP)による予備的見解の公表と、そのフィードバックのレビューを経て、企業結合に関する追加の開示や現行の減損モデルの維持(=のれんの償却を再導入しない)といった重要事項の暫定決定を行い、リサーチフェーズから基準設定フェーズに移行しています。


図1 企業結合-開示、のれん及び減損プロジェクトの進展

そこで、本稿では、本プロジェクトにおいて2022年12月時点までに国際会計基準審議会(IASB)が行った主な暫定決定事項の概要を紹介します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、また、記載された内容は今後のIASBの審議の進捗(ちょく)に伴い、変更される可能性があることをお断りします。

Ⅱ 企業結合の開示の改善に関する主な暫定決定事項

適用後レビューにおいて、財務諸表利用者側から、事業を取得するために支払った対価が合理的かどうかを評価するための情報を提供してほしいという要望や、企業結合による目的が達成されているのかどうかを評価するための企業結合後の業績情報を提供してほしいという要望がありました。これらに対して財務諸表作成者側からは、機密情報の開示により企業が損害を被る、将来情報の開示により訴訟リスクが増加する可能性があるといった危惧が示されました。

このような要望と危惧を勘案しながら、IASBは企業結合に関する開示の改善の検討を行い、22年9月に<表1>のような企業結合に関する開示の改善に係る暫定決定を行っています。


表1 企業結合の開示に関する主な暫定決定内容

Ⅲ のれんの事後の会計処理に関する暫定決定事項

のれんの事後の会計処理についても、現行の減損テストのみのモデルを維持すべきか、のれんの償却の再導入を求めるべきか、意見が大きく分かれていました。両者の見解は異なる根拠をベースにするものの、どちらも完全ではなく長所と短所を併せ持つ考え方です。IASBにより文献の調査や関係者へのヒアリングが続けられる中、米国基準において同様の論点を検討していた米国財務会計基準審議会(FASB)が、当初、のれんの10年定額償却を軸とする方法を検討していたプロジェクトを全体的な費用対効果を考慮し、22年6月に、プロジェクトの優先順位を下げ、テクニカルアジェンダから外しました。

そこで、IASBはFASBとの合同セッション等で意見交換を行い、22年11月にIASBも、現時点で既存の会計処理を変更するほどの説得力のある証拠がコスト削減効果も含め不十分であるとし、のれんの償却の再導入は行わず、減損テストのみのモデルを維持することを暫定決定しています。
 

Ⅳ おわりに

予備的見解において提案された全ての事項に対する暫定決定はいまだなされていません。

今後、IASBは、のれんの定量的な減損テストの毎年の実施を継続して求めるのかといった点や、使用価値を見積もる際のIAS第36号「資産の減損」の現行の制限、例えば、使用価値の算定の基となる、将来キャッシュ・フローの見積りに、将来のリストラクチャリングや資産の性能の改善または拡張を含めてはならないという制限を撤廃するかどうかなどを協議していきます。

具体的には、基準設定プロジェクトに移行した後のIASBの会議で開示免除が認められる状況や期待されるシナジーに関する開示要求についての議論が行われ、暫定決定が行われています。

本プロジェクトではIFRS基準における重要な項目の議論が行われるため、引き続き注視が必要です。

 

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    2023年5月号

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