予想信用損失モデル(ECL)を中心とした改正金融商品会計基準案の解説とポイント

EY新日本有限責任監査法人
会計監理部 松葉 純一 /桑澤 明/加藤 裕一

<企業会計基準委員会が2025年10月29日付で公表>

2025年10月29日に、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)より、企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第88号「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針(案)」を含め、以下の会計基準等の公開草案(以下、これらを合わせて「本公開草案」という。)が公表されています。

(公表された公開草案)
 

企業会計基準公開草案第89号(企業会計基準第10号の改正案)

「金融商品に関する会計基準(案)」(以下「金融商品会計基準案」という。)

企業会計基準適用指針公開草案第88号

「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針(案)」(以下「予想信用損失適用指針案」という。)

企業会計基準適用指針公開草案第90号(企業会計基準適用指針第19号の改正案)

「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(案)」

移管指針公開草案第17号(移管指針第9号の改正案)

「金融商品会計に関する実務指針(案)」(以下「金融商品実務指針案」という。)

移管指針公開草案第18号(移管指針第12号の改正案)

「金融商品会計に関するQ&A(案)」

企業会計基準公開草案第90号(企業会計基準第11号の改正案)

「関連当事者の開示に関する会計基準(案)」

企業会計基準公開草案第91号(企業会計基準第29号の改正案)

「収益認識に関する会計基準(案)」

企業会計基準公開草案第92号(企業会計基準第34号の改正案)

「リースに関する会計基準(案)」

企業会計基準公開草案第93号(企業会計基準第37号の改正案)

「期中財務諸表に関する会計基準(案)」(以下「期中会計基準案」という。)

企業会計基準適用指針公開草案第89号(企業会計基準適用指針第13号の改正案)

「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針(案)」

企業会計基準適用指針公開草案第91号(企業会計基準適用指針第30号の改正案)

「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」

企業会計基準適用指針公開草案第92号(企業会計基準適用指針第33号の改正案)

「リースに関する会計基準の適用指針(案)」

企業会計基準適用指針公開草案第93号(企業会計基準適用指針第34号の改正案)

「期中財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「期中会計基準適用指針案」という。)

実務対応報告公開草案第71号(実務対応報告第30号の改正案)

「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い(案)」

移管指針公開草案第16号(移管指針第7号の改正案)

「持分法会計に関する実務指針(案)」

Ⅰ. 公表の経緯

2016年にASBJから公表された中期運営方針では、我が国における会計基準を国際的に整合性のあるものとするための取組みの一つとして金融商品に関する会計基準が挙げられており、我が国における会計基準の改訂に向けた検討に着手するか否かの検討を行うとされていました。その後、2018年に行われた適用上の課題とプロジェクトの進め方に対する意見募集も踏まえた検討の結果、「金融資産の減損」に関しては、国際的に予想信用損失モデルが導入されており、国際的な整合性を図る観点から、開発に着手する意義は高いと考えられました。

これらの状況を踏まえ、2019年に金融資産の減損について会計基準の開発に着手することが決定されました。また、これに合わせて、金融商品の分類及び測定に関して、金融商品の分類に関する枠組みを維持した上で予想信用損失モデルを取り入れるにあたり最小限の見直しを行うこととし、検討が重ねられてきました。

今般、2025年10月20日開催の第561回企業会計基準委員会において、本公開草案の公表が承認され、2025年10月29日に公表されました。

また、本公開草案が最終化され適用する際に、実務に資するための情報を提供することを目的として、補足文書(案)「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いについて(案)」(以下「補足文書(案)」という。)が併せて公表されました。

Ⅱ. 本公開草案等の概要

1. 開発にあたっての基本的な方針(予想信用損失適用指針案BC5項からBC27項)

金融資産の減損に関する会計基準の開発にあたって、以下の6つのステップに分けて検討が行われました。

ステップ

検討項目

検討結果

ステップ1

IFRS会計基準と米国会計基準のいずれのモデルを開発の基礎とするかの選択

  • 基本的に、国際財務報告基準(IFRS会計基準)を国際的な整合性を図る対象としてきていること、現在の信用リスク管理実務の考え方及び会計基準の考え方の親和性の観点から、IFRS会計基準の予想信用損失(Expected Credit Loss : ECL)モデルを開発の基礎とする

ステップ2

金融機関の貸付金に適用される会計基準の開発(IFRS第9号「金融商品」(以下「IFRS第9号」という。)を適用した場合と同じ実務及び結果となると認められる会計基準の開発)

  • IFRS第9号の定めを原則として取り入れつつ、一部の項目については、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いを定める
  • 国際的な比較可能性の観点から、予想信用損失モデルの対象となる貸付金の測定に関してIFRS第9号の実効金利法による償却原価に関する定めを取り入れる
  • 条件変更については、当面の間、条件変更に関するIFRS第9号の定めを取り入れない
  • 信用リスクに関する開示に関して、開示目的を定めるアプローチを採用した上で、IFRS第7号「金融商品:開示」(以下「IFRS第7号」という。)で要求される信用リスクに関する開示を原則としてすべて取り入れる

ステップ3

ステップ2を採用する金融機関における貸付金以外の金融商品への適用の検討

  • IFRS第9号の減損の適用範囲と日本基準の貸倒引当金の設定の対象範囲の整理を行い、金融資産の分類については、金融商品の種類を基礎とする現行の金融商品会計基準等における枠組みを維持した上でIFRS第9号の予想信用損失モデルを取り入れるにあたり最小限の見直しを行う
  • 満期保有目的の債券及びその他有価証券に分類される債券について、貸付金と経済的な実質が類似していると考えられる満期保有目的の債券及び貸付金代替性私募債を予想信用損失モデルの対象とする
  • 金融保証契約及び貸出コミットメント等(※1)についても予想信用損失モデルの対象とする

ステップ4

ステップ2を採用する金融機関以外の金融機関に適用される会計基準の開発(IFRS第9号を出発点として適切な引当水準を確保した上で実務負担に配慮した会計基準の開発)

  • 特に実務上の負担が重いと考えられる項目について「簡素化された予想信用損失の算定方法」を定める

(1) 信用リスクの著しい増大に関する判定

(2) 債権等(※2)の予想存続期間

(3) 将来予測シナリオ

(4) 時間価値の考慮

  • 償却原価の算定にあたって、金利差額調整法における定額法(※3)によることを認めるオプションや約定金利(又は約定金利相当の率)によることを認めるオプションを定める

ステップ5

一般事業会社に関する検討

  • 一般事業会社の通常の営業取引から生じる受取手形、売掛金等及びリースにより生じた債権についてはIFRS第9号の営業債権、契約資産及びリース債権についての単純化したアプローチに関する定めを取り入れる
  • 敷金、将来返還される差入預託保証金(建設協力金及び敷金を除く。)及びゴルフ会員権(預託保証金)については従前の取扱いを継続する

ステップ6

公開草案の公表

  • 予想信用損失に係る会計基準等の体系について、IFRS第9号の金融商品の減損に係る定めのうち、ハイレベルな内容を金融商品会計基準案で定め、その他を予想信用損失適用指針案で定める
  • 予想信用損失適用指針案では、まずステップ2の内容を記載した上で、ステップ4でステップ2と異なる取扱いを定める場合には、区分を設けてまとめて記載する

※1 当座貸越契約及び貸出コミットメント並びにこれらに準ずる契約
※2 債権、満期保有目的の債券、金融保証契約及び貸出コミットメント等
※3 償却原価法のうち、金融資産又は金融負債を債権額又は債務額と異なる金額で計上した場合において、金融資産については取得差額、金融負債については収入差額を償還期又は弁済期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減する方法

本公開草案の一般事業会社及び金融機関への影響は、以下のとおりです。

一般事業会社及び金融機関への影響

2. 範囲(金融商品会計基準案第14項、第16項、第26-2項から第26-4項、注5-3、注8-2から注8-5及び予想信用損失適用指針案第2項等)

本公開草案では、以下のとおり予想信用損失を算定する範囲が提案されています。

区分

項目

理由

予想信用損失を算定する範囲に含めるもの

債権(※4)

満期保有目的の債券

満期まで保有することによる約定利息及び元本の受取りを目的としており、満期までの間の金利変動による価格変動のリスクを認める必要はないとされていることから、時価を考慮することなく信用リスクのみに焦点を当てることが適切と考えられるため、含める

金融保証契約(※5)

当座貸越契約及び貸出コミットメント並びにこれらに準ずる契約

IFRS第9号における予想信用損失モデルの適用対象と整合させるため、含める

契約資産

債権に準じて含める

リース投資資産のうち将来のリース料を収受する権利に係る部分

リースにより生じた債権に準じて含める

予想信用損失を算定する範囲に含めていないもの

その他有価証券

金融商品の分類及び測定と併せて検討する必要があると考えられるため、含めない

敷金、将来返還される差入預託保証金(建設協力金及び敷金を除く。)及び預託保証金であるゴルフ会員権

償却原価で測定される金融資産として取り扱われるかが必ずしも定かでないと考えられるため、含めない

※4 リースにより生じた債権及び建設協力金等を含む。また、債権のうち貸付金には貸付金代替性私募債を含む。
※5 現行の会計基準等における債務保証に関する定めを金融保証契約に置き換えることも提案されています。

3. 信用リスクの著しい増大に関する判定(予想信用損失適用指針案第9項から第19項等)

(1) 原則的な判定方法

本公開草案では、予想信用損失モデルとして、債権単位で当初貸出実行時からの信用リスクの著しい増大に応じて引当額を算定するアプローチが提案されています。また、予想信用損失とは「信用損失を確率加重したもの」をいい、信用損失とは、「企業に支払われるべきすべての契約上のキャッシュ・フローと、企業が受け取ると見込んでいるすべてのキャッシュ・フローとの差額(すなわち、すべてのキャッシュ・フローの不足額)を現在価値に割り引いたもの」とすることが提案されています。

予想信用損失の算定にあたっては、期末において、債権等の発生の認識以降におけるデフォルト発生リスクの変動に基づいて債権等に係る信用リスクが著しく増大しているかどうか判定し、期末において信用リスクが著しく増大していない債権等については12か月の予想信用損失を算定し、期末において信用リスクが著しく増大している債権等については全期間の予想信用損失を算定することが提案されています。これに伴い、一般債権、貸倒懸念債権及び破産更生債権等の区分を廃止することが提案されています。なお、12か月の予想信用損失とは、「全期間の予想信用損失のうち、債権等について期末後12か月以内に生じ得るデフォルトから生じる予想信用損失を表す部分」をいい、全期間の予想信用損失とは、「債権等の予想存続期間にわたるすべての生じ得るデフォルトから生じる予想信用損失」とすることが提案されています。

信用リスクが著しく増大しているかどうかの判定においては、過去の事象、現在の状況及び将来の経済状況の予測に関して、期末において過大なコストや労力を掛けずに利用可能であり、債権等に係る信用リスクに影響を与える可能性のある合理的で裏付け可能な情報を考慮することが提案されています。

(2) 簡素化された判定方法

簡素化された判定方法については「5.簡素化された予想信用損失の算定方法」をご参照ください。
 

4. 予想信用損失の算定(予想信用損失適用指針案第29項から第32項等)

IFRS第9号の予想信用損失モデルと同様に予想信用損失を算定することが提案されています。

予想信用損失の算定に使用する見積期間は、原則として、貸手が信用リスクに晒される契約上の最長期間を用いることが提案されています。

その上で、予想信用損失は、以下を反映する方法により算定することが提案されています。

  • 一定範囲の生じ得る結果を評価することによって算定される偏りがなく確率加重された金額
  • 貨幣の時間価値
  • 過去の事象、現在の状況及び将来の経済状況の予測に関して、期末において過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報

また、貸倒実績などの過去の情報を用いる場合には、期末時に観察可能なデータに基づいて次の調整を行うことが提案されています。

  • 過去の期間に影響を与えていない現在の状況及び将来の状況の予測を反映する
  • 過去の期間における状況のうち、将来の契約上のキャッシュ・フローに関連性のない状況の影響を除去する

この調整に関して、予想信用損失に関連する観察可能なデータの期間ごとの変動と予想信用損失の変動との間で相関関係が見られる場合、観察可能なデータの変動を予想信用損失の算定に反映するとしており、観察可能なデータには、例えば、次が含まれるとしています。 

  • 国内総生産(GDP) 
  • 失業率 
  • 不動産価格や商品価格 
  • 借手の支払状況 
  • 金融商品又は金融商品グループに係る信用損失の兆候となる他の要因
     

5. 簡素化された予想信用損失の算定方法(予想信用損失適用指針案第55項から第65項)

予想信用損失の算定において、特に実務上の負担が重いと考えられる次の項目について「簡素化された予想信用損失の算定方法」を定めることが提案されています。

項目

簡素化された方法の内容

信用リスクの著しい増大に関する判定

  • 信用リスクが著しく増大しているかどうかの判定を行うにあたり、債務者の財政状態及び経営成績等に応じて付与している内部信用格付を活用して判定する方法を用いることができる
  • 内部信用格付を区分して、区分に応じて債権等の発生の認識以降に信用リスクが著しく増大しているかどうかの判定を行う

債権等の予想存続期間

  • 内部信用格付を活用して判定する方法を用いている場合、正常先のうち要判定格付、その他要注意先及び要管理先に区分された内部信用格付に含まれる債務者に対する債権等については、それぞれの区分の単位で、リスク特性が類似した債権等のグループごとに平均残存期間を用いることができる
  • いったん決定した平均残存期間について、状況に大きな変化がない限り、継続して用いることができる

将来予測シナリオ

  • 信用損失が発生する可能性について、最も可能性が高い中心となる将来予測シナリオのみを考慮することができる

貨幣の時間価値

  • 貸付金及び重要な金融要素を含む債権について約定金利(又は約定金利相当の率) を用いて償却原価の算定を行う場合、実効金利の代わりにそれぞれ約定金利(又は約定金利相当の率)を用いて割引を行う

これらは企業の判断により個別に選択して適用できることが提案されています。

重要な会計方針に該当する場合には「重要な会計方針」として注記することに加え、開示目的に照らして重要な場合には信用リスク管理実務及び予想信用損失の算定プロセスに関する情報として注記することが考えられるとされています。
 

6. 債権等の直接減額(予想信用損失適用指針案第66項、第67項)

債権等の直接減額の会計処理について、以下の方法が提案されています。

  • 債権等の全体又はその一部分を回収するという合理的な予想を有していない場合、回収するという合理的な予想を有していない金額を債権等から直接減額する
  • 債権等から直接減額を行う際、当該直接減額の金額と対象となる債権等に係る前期貸倒引当金残高のいずれか少ない金額まで、対象となる債権等に係る貸倒引当金残高を取り崩す
  • 直接減額により、不要となった貸倒引当金の残額があるときは、これを取り崩す
     

7. 一般事業会社の営業債権等に係る簡便的な取扱い(金融商品会計基準案第28-4項、第28-5項、予想信用損失適用指針案BC26項、第38項)

一般事業会社の通常の営業取引から生じる営業債権(収益認識会計基準の範囲に含まれる取引から生じる受取手形及び売掛金等)及びリースにより生じた債権については、以下のような簡便的な取扱いが提案されています。

(1) 信用リスクの著しい増大に関する判定

一般事業会社の営業債権等及びリースにより生じた債権について、IFRS 第 9 号における営業債権、契約資産及びリース債権についての単純化したアプローチに関する定めを取り入れ、以下の選択を可能とすることが提案されてます。

対象とする債権等

簡便的な取扱い

①重要な金融要素を含まない受取手形及び売掛金等

信用リスクの著しい増大の判定をせずに全期間の予想信用損失に等しい金額により算定する方法

②重要な金融要素を含む受取手形及び売掛金等

会計方針の選択として全期間の予想信用損失に等しい金額により算定する方法
(②、③のそれぞれについて独立して選択可能)
③リースにより生じた債権
(ファイナンス・リースに係る債権とオペレーティング・リースに係る債権の区分で選択可能)

(2) 予想信用損失の算定方法

 一般事業会社の営業債権等の予想信用損失を算定する際、貸倒実績に基づき、一定の期日経過日数(例えば、期日未経過、1 か月以内期日経過、1 か月超 3 か月以内の期日経過、3 か月超 6 か月以内の期日経過等)に応じた引当率を定める方法を用いることができることが提案されています。
 

8. 償却原価に係る会計処理(金融商品会計基準案第 14項、第16項、金融商品実務指針案第57 項から第 57-12 項、第70 項第 105 項から第 105-4 項)

(1) 予想信用損失モデルの適用対象となる貸付金(貸付金代替性私募債を含む。)及び重要な金融要素を含む債権並びに満期保有目的の債券の測定

原則として実効金利法による償却原価法(金融資産の予想存続期間を通じての将来の期待キャッシュ・フローを実効金利により割り引く方法)によることが提案されています。

(2) 実効金利

前記(1)の測定における実効金利には、契約の当事者間で授受されるすべての手数料及びポイントのうち実効金利の不可分な一部であるもの、金融資産の取得又は売却に直接起因する増分コスト、及びその他のすべてのプレミアム又はディスカウントを含めることが提案されています。

「実効金利の不可分な一部」である手数料には、金融資産の組成又は取得に関して受け取った組成手数料(借手の財政状態の評価、保証、担保等の取決めの評価と記録、金融商品の条件の交渉、文書の作成と処理、取引の締結などの活動に対する補償など)が含まれます。

(3) 期待キャッシュ・フローの見積り

前記(1)の測定における期待キャッシュ・フローの見積りは、金融商品のすべての契約条件(例えば、期限前償還、期限延長、コール及び類似のオプション)を考慮するものの、予想信用損失は考慮しないことが提案されています。ただし、実効金利の計算において、一定の要件を満たす手数料については実効金利の計算に含めず、収益認識会計基準等に準じて会計処理することができることが提案されています。

(4) 実効金利の代わりに約定金利を用いることができる場合

組成した貸付金及び重要な金融要素を含む債権のうち発生の認識時に信用減損していないものについては、実効金利の代わりに約定金利(又は約定金利相当の率) を用いることができることが提案されています。この場合、実効金利の不可分な一部である手数料(前記(2)参照)については、金利と切り離した上で、収益認識会計基準等に準じて、手数料の性質に基づき履行義務の充足パターンに沿って収益を認識することとされています。

(5) 償却原価の算定における期間配分の方法

原則として利息法によることとされています。ただし、購入した貸付金及び重要な金融要素を含む債権のうち発生の認識時に信用減損していないもの、購入又は組成した信用減損債権、並びに満期保有目的の債券について、一定の場合には金利差額調整法における定額法によることができることが提案されています。
 

9. 開示(金融商品会計基準案第40-A1項、第40-2項及び第120-3項、予想信用損失適用指針案第68項から第94項等)

(1) 開示目的

金融商品会計基準案では、金融商品に関する注記における全般的な開示目的は、「金融商品のリスクが将来キャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性に与える影響を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することである。」と定めることが提案されています。

また、予想信用損失適用指針案では、信用リスクに関する開示目的は、「企業の事業目的に照らした債権等の重要性を踏まえ、信用リスクが将来キャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性に与える影響を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することである。」と定めることが提案されています。

(2) 注記事項

予想信用損失適用指針案では、信用リスクに関する情報として、次の事項を注記することが提案されています。

① 予想信用損失の分解情報
② 信用リスク管理実務及び予想信用損失の算定プロセスに関する情報
③ 当期及び翌期以降の財務諸表への影響を理解するための情報

ただし、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については記載しないことができるとした上で、どの注記事項にどの程度の重点を置くか、また、どの程度詳細に記載するかを開示目的に照らして判断することが提案されています。さらに、信用リスクに関する注記事項は、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないことが提案されています。

また、適用初年度においては、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第10項(5)の注記に代えて、適用開始前の債権等に係る貸倒引当金又は他の引当金の最終残高と、期首の予想信用損失引当金との調整を可能とする情報を開示するとともに、金融資産については関連する金融資産の分類別に情報を開示することが提案されています。

Ⅲ. 適用時期等(金融商品会計基準案第41項、第44-3項、第44-4項及び第120-4項から第120-6項、予想信用損失適用指針案第95項から第98項等)

1.適用時期

本公開草案では、適用時期について次のように提案されています。

区分

適用時期

2027年3月までに基準公表された
場合の3月決算会社の適用時期

原則適用

20XX年4月1日(公表から3年程度経過した日を想定している。)以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用。

2031年3月期

早期適用

20XX年4月1日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している。]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本会計基準を適用することができる。
なお、この場合には、同時に公表又は改正された一連の会計基準等についても同時に適用する必要がある。

2028年3月期

上記の適用時期の提案は、以下の理由によります。

(1) これまでにASBJが公表してきた会計基準については、会計基準の公表から原則的な適用時期までが1年程度のものが多い
(2) 一般事業会社を想定すると、金融商品会計基準等の改正等の影響が必ずしも大きくないと考えられるため、一般的な取扱いと同様に原則的な適用時期までの期間を1年程度とすることが考えられる一方、金融機関を想定すると、データ整備及びシステム開発などに時間を要すると考えられる。他方、適用開始に係る実務上の負担への対応として、簡素化された予想信用損失の算定方法を設けていることに加え、実効金利法の適用に関する経過措置を設けていることも勘案することが考えられる
(3) IFRS第9号の原則的な適用時期が2018年1月であり、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間を長く設ける場合、我が国における実務が国際的な実務と整合的なものとなるまでの期間が長くなる
(4) 関連諸制度との関係の観点からは、影響が大きいと考えられる金融機関に対する監督が関連すると考えられ、原則的な適用時期までの準備期間として3年以上の期間が置かれる必要性が極めて高いとの見解が聞かれている
 

2.経過措置

予想信用損失の算定については見積りの要素が強いため、事後的判断を使用しないことが困難であり、また、事後的判断が使用されているかどうかに関する検討に伴うコストを避けることを重視し、一律に遡及適用を求めず、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することが提案されています。また、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行うことを要しないことが提案されています。
 

3. 設例及び開示例

予想信用損失適用指針案では、IFRS第9号の設例のうち予想信用損失に係る設例について、我が国の状況に合わせるように一部修正するかどうかを検討した上で予想信用損失適用指針案に含めることが提案されています。

また、次の項目に関連するIFRS第7号の開示例について、開示例を示すことは実務上有用と考えられるため、一部表現を見直した上で取り入れることが提案されています。

(1) 予想信用損失引当金の期首残高から期末残高への調整表及び債権の償却原価の著しい変動に関する情報
(2) 信用リスク・エクスポージャーの開示


Ⅳ. 期中財務諸表における取扱い(期中会計基準案第34-2項、第35-2項及び第35-3項、期中会計基準適用指針案第3項)

(1) 信用減損していない債権等の予想信用損失の算定における簡便的な会計処理

本公開草案では、期中財務諸表においては開示の迅速性が求められる点と予想信用損失には様々な算定方法が考えられる点とを考慮して、期中会計期間末における信用減損していない債権、満期保有目的の債券、金融保証契約、及び当座貸越契約及び貸出コミットメント並びにこれらに準ずる契約に対する予想信用損失は、次のように算定することができることが提案されています。

① 前年度末から状況が著しく変動していないと考えられる場合には、期中会計期間末において、前年度末の決算において使用した仮定等を使用することができる

② 前年度末から状況に著しい変動があり仮定等の見直しを行った場合、その後の期中会計期間末において、当該見直し後の状況が著しく変動していないと考えられるときは、当該見直し後の仮定等を使用することができる

(2) 適用時期

本公開草案では、金融商品会計基準案と同様の適用時期とすることが提案されています。

(3) 経過措置

本公開草案では、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することが提案されています。また、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行うことを要しないことが提案されています。

Ⅴ. 補足文書案の概要

本公開草案が最終化され適用する際に、実務に資するための情報を提供することを目的として、次の項目に関する補足文書案が公表されました。

(1) 信用リスクの著しい増大に関する判定

(2) 簡素化された予想信用損失の算定方法における信用リスクの著しい増大に関する判定

(3) 満期保有目的の債券に係る予想信用損失の算定

(4) 貸出コミットメント等に係る予想信用損失の算定

(5) CECL(Current Expected Credit Loss)モデルに基づく情報の開示方法

なお、補足文書は、企業会計基準、企業会計基準適用指針、実務対応報告及び移管指針(以下「企業会計基準等」という。)を追加又は変更するものではなく、企業会計基準等の適用にあたって参考となる文書であるとされています。

Ⅵ. 本公開草案に対するコメント

本公開草案等に対するコメント募集に際し、以下の個別の質問が示されています。

1. 開発にあたっての基本的な方針に関する質問

IFRS第9号の予想信用損失モデルを開発の基礎とした上で、「国際的な比較可能性を確保することを重視し、国際的な会計基準と遜色がないと認められる会計基準(ステップ2及びステップ3)」と「IFRS第9号を出発点として、適切な引当水準を確保した上で実務負担に配慮した会計基準(ステップ4)」を開発するという本公開草案における開発にあたっての基本的な方針に同意しますか。

2. 範囲に関する質問

本公開草案における予想信用損失を算定する範囲に関する提案に同意しますか。

3-1. 信用リスクの著しい増大の判定に関する質問

本公開草案における債権等の発生の認識以降における信用リスクの著しい増大の判定(簡素化された判定方法を含む。)に関する提案に同意しますか。

3-2. 予想信用損失の算定方法に関する質問

本公開草案における予想信用損失の算定方法に関する提案(簡素化された予想信用損失の算定方法を含む。)に同意しますか。

4. 償却原価に係る会計処理に関する質問

本公開草案における実効金利法による償却原価法(実効金利の計算に含める手数料等の範囲を含む。)に関する提案に同意しますか。

5. 開示に関する質問

本公開草案における開示に関する提案に同意しますか。

6-1. 適用時期に関する質問

本公開草案における適用時期に関する提案に同意しますか。

6-2. 経過措置に関する質問

本公開草案における経過措置に関する提案に同意しますか。

7. 設例及び開示例に関する質問

本公開草案における設例及び開示例の提案に同意しますか。

8. その他

その他、本公開草案に関して、ご意見があればご記載ください。


なお、本稿は本公開草案等の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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