投資信託 第4回:有価証券の売買の計理処理及び評価

EY新日本有限責任監査法人 アセットマネジメントセクター
公認会計士 白取 洋


有価証券の売買に関する計理処理及び評価については、投資信託協会の「投資信託財産の評価及び計理等に関する規則」等で定められており、約定日基準での計上及び時価評価を基本としています(この点はデリバティブ取引においても同様です)。

以下、代表的な株式と債券について、同規則に即して説明することとします。

1. 株式

(1) 売買の計理処理

株式の売買は、買付又は売付約定成立の日(外国株式の場合には、現地約定日の翌営業日)に計上します(約定日基準)。約定日から受渡日までの間、相手勘定として、買いの場合は未払金、売りの場合は未収入金を計上します。

買いの場合、株式の帳簿価額には株式売買手数料を含めます。その後、同一銘柄を買い増した場合には、簿価単価は移動平均法により計算します。

売りの場合、当該株式の帳簿価額と売却価額との差額を有価証券売買等損益として計上します。

(2) 評価

a. 上場株式

買付けた株式の時価評価は約定計上日から行います。国内株式については、原則として取引所における計算日の最終相場で評価します。また、外国株式については、海外の取引所における計算時に知りうる直近の日の最終相場で評価します。いずれも計算日において取引所の最終相場がない場合には、直近の日の最終相場で評価しますが、国内株式の場合、直近の日の最終相場で評価することが適当ではない場合には、気配相場で評価することもあります。

なお、時価評価に伴う評価損益は有価証券売買等損益として計上します。

b. 未上場株式

2023年12月に投資信託協会の「投資信託等の運用に関する規則」が改正され、一定の要件のもとで投資信託に未上場株式を組入れることが可能となりました。このときに併せて改正された「投資信託財産の評価及び計理等に関する規則」では、基準価額の算定上、未上場株式は公正価値測定を用いて時価で評価するものとされています。我が国において未上場株式を時価評価する実務はまだ定着しているとは言えませんが、国際財務報告基準におけるIFRS第13号「公正価値測定」や米国会計基準におけるTopic820「公正価値測定」、及びその双方に整合することを目的として作成されたInternational Private Equity and Venture Capital Valuation Guidelines(いわゆる「IPEVガイドライン」)等の考え方が参考になるものと考えられます。

一方、現行の「金融商品に関する会計基準」においては、市場価格のない株式等は取得原価をもって貸借対照表価額とするとされています。したがって、金融商品取引法に基づき開示される財務諸表(詳細は「第7回 投資信託のディスクロージャー」をご参照ください。)において未上場株式は原則として取得原価で評価されます。このような評価方法の相違により、ファンドの決算日における一口当たり純資産額と基準価額との間で差異が生じる場合には、財務諸表利用者の誤解を招かないよう、「投資信託財産の計算に関する規則」により「貸借対照表に関する注記」において当該基準価額及び当該差異の理由を記載することが求められています。

2. 債券

(1) 売買の計理処理

債券の売買についても約定日基準で計上する点は株式と同様です。

買いの場合、債券の帳簿価額は約定金額となります。利付き債の場合、取得時における経過利息は取得価額に含めず、受渡日に前払費用として計上します。その後、同一銘柄を買い増した場合には当初は別銘柄として管理しますが、最初の利払日が到来した日に帳簿価額を合算します。その後、簿価単価は移動平均法により計算します。

売りの場合の計理処理は基本的には株式と同様です。

(2) 評価

債券の時価評価についても約定計上日から行う点、また、評価損益は有価証券売買等損益として計上する点は株式と同様ですが、債券の場合には非上場銘柄がほとんどのため、以下のいずれかの価額で評価します。

  • 日本証券業協会が発表する売買参考統計値(平均値)
  • 金融商品取引業者、銀行等の提示する価額(売気配相場を除く。)
  • 価格情報会社の提供する価額

なお、委託会社が忠実義務に従って評価額の入手に十分な努力を行ったにもかかわらず、評価額を入手できなかった場合、又は入手した評価額が時価と認定できない事由を認めた場合は、委託会社は忠実義務に基づき合理的事由をもって時価と認める評価額により評価するか、受託者と協議のうえ合理的事由をもって時価と認める評価額により評価します。


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