投資信託 第2回:投資信託の主な業務の流れ

EY新日本有限責任監査法人 アセットマネジメントセクター
公認会計士 白取 洋


投資信託は前述のとおり様々な関係者によって運営されていますが、ここでは最も中心的な役割を担う委託会社における主要な業務の流れについて概観したいと思います。

1. 委託会社における業務運営体制

委託会社においては、他の金融機関でも見られるように、大きくフロント・オフィス、ミドル・オフィス、バック・オフィスという形で職務分掌が図られているケースが一般的です。フロント・オフィスとは、マーケットと相対し、株式や債券等の売買を行うセクションであり、通常、ファンド・マネージャーが在籍し、アセット・アロケーションや銘柄選択を行う運用部門と売買の発注を行うトレーディング部門に分けられています。ミドル・オフィスとは、フロント・オフィスから独立した立場でその業務を監視するセクションであり、各ファンドのパフォーマンス評価やリスク管理などを行っています。バック・オフィスとは、フロント・オフィスで執行された取引の約定処理や基準価額の算出などの事務処理を行うセクションです。委託会社の規模によってはバック・オフィスがミドル・オフィスを兼ねているケースも散見されます。このほか、ファンドの運用が前述のような法令や信託約款等のルールを遵守しているかどうかなどを監視するコンプライアンス部門があります。
なお、これらの業務については、その全部又は一部を専門業者に外部委託(アウトソーシング)するケースも散見されます。

2. 委託会社における業務の流れ

(1) 約定・受渡しに関する業務

株式や債券等の売買では、通常、ファンド・マネージャーが運用計画書に基づいて銘柄選択を行い、トレーダーに発注の依頼を行います。トレーダーはこれを受け、証券会社等のブローカーに売買の発注を行います。約定が成立するとトレーダーは約定伝票に約定結果を記入し、バック・オフィスに回付します。一方、ブローカーからは当日の約定結果について約定連絡票(コンファメーション)が送付されてきます。バック・オフィスはこのコンファメーションと約定伝票とを照合し、一致を確認後、ファンド計理システムに入力します。また、運用指図書を作成し、受託銀行に送付します。

受渡しは受託銀行が委託会社からの指図に基づいて行います。バック・オフィスは受託銀行からの受渡し完了の通知に基づいてファンド計理システムに入力します。

なお、近年ではSTP(Straight-Through Processing:人手を介さずITを利用して一連のプロセスを自動処理させる仕組み)化の流れのなかで、上記約定から受渡しまでのプロセスはシステム上で情報が流れ、自動的に処理がなされているケースがほとんどといえます。

(2) 追加設定・一部解約に関する業務

受益者が販売会社に追加設定もしくは一部解約を申し込むと、販売会社は申込日当日に当該申込をファンドごとに集計し、委託会社へ連絡します。これを概算連絡といい、主としてファンド・マネージャーへ資金繰りのための情報を提供するために行われます。追加・解約はそのときの基準価額(ファンドの純資産総額を受益権口数で除したものであり、いわばファンドの時価です。基準価額は原則として毎日計算されています。)によって金額及び口数が決まりますが、国内の株式や債券に投資するファンドでは申込日当日の基準価額が適用され、外国の株式や債券に投資するファンドでは申込日の翌営業日の基準価額が適用されます。基準価額が確定すると、その翌営業日に販売会社より追加・解約確定連絡がきますので、バック・オフィスは元本の増加又は減少の処理をファンド計理システムで行うとともに、追加・解約指図書を受託銀行に送付します。

(3) 利金・配当金の計上に関する業務

利金については、債券を取得する際に予め利率や利払日などの銘柄属性をファンド計理システムに登録しておくことにより、通常、日々自動的に未収利息が計上されます。

配当金については、国内株式の場合、予め価格情報会社等より予想配当金額に関する情報を入手し、当該株式の権利落ち日にファンド計理システムで未収配当金を計上します。また、外国株式の場合には、受託銀行から確定配当金額に関する情報を入手し、当該株式の権利落ち日にファンド計理システムで未収配当金を計上します。

利金・配当金の入金がされると受託銀行から委託会社に連絡がなされ、バック・オフィスはこれに基づいてファンド計理システムで入金の計上を行います。

(4) 時価評価に関する業務

ファンドでは日々基準価額を算出する必要があるため、組入れ有価証券等はバック・オフィスにおいて毎日時価評価されています。通常、国内の有価証券については、委託会社と受託銀行はそれぞれ取引所や価格情報会社から時価を取得していますが、外国の有価証券については委託会社が取得した時価情報を受託銀行に提供しています。また、価格情報会社から時価を取得できないような銘柄については、委託会社が買付けを行ったブローカーなどから時価を取得し、受託銀行に提供するケースもあります。

(5) 基準価額の算出に関する業務

以上のようなプロセスを経て、ファンド計理システムではファンドごとに日計表が作成され、当日の純資産額と基準価額が計算されます。基準価額は別途、受託銀行においても計算されていますので、バック・オフィスは毎日、これらの業務がすべて完了した時点で受託銀行と基準価額の照合を行います。この結果、両者の間で差異がある場合には双方で原因の調査を行い、1円単位まで合致させます。合致したら基準価額は確定となり、販売会社、投資信託協会及びメディアへ送信し、公表します。

このように、委託会社と受託銀行の双方において基準価額を算出し、照合する作業(いわゆる二者計算)が長年の実務慣行として行われてきました。このような実務は基準価額の正確性を担保するとともに、一種の牽制機能を通じて公正性を高めることに寄与してきましたが、グローバルな観点からは我が国独特のものであり、委託会社の業務運営の合理化及び効率化の障壁となっているとの指摘がありました。これを受け、投資信託協会において、「運用と計算の分離」を図り、基準価額の算出を受託銀行のみで行う実務(いわゆる一者計算)への移行を促すための検討が行われ、「投資信託の基準価額の受託者一者計算を行う際の考え方(令和6年6月7日 政策委員会 決議)」が公表されました。

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