web3.0 第3回:自社発行トークンに関する会計及び監査の動向

EY新日本有限責任監査法人 
メディア・エンターテインメントセクター/Blockchain center
公認会計士 本橋 鉄平


メディア・エンターテインメントセクター/Blockchain centerでは、web3.0に関連した様々なトピックスを不定期で掲載しています。第3回となる今回は、暗号資産の発行をめぐる、我が国における会計及び監査の動向について紹介いたします。本稿の内容は、2026年1月30日時点の情報に基づいています。

1. 監査受嘱問題

暗号資産の発行はWeb3.0ビジネスの重要な構成要素であり、特に資金調達やトークンの特性を活かしたインセンティブ設計への利用という観点からはその根幹ともいえます。一方で、トークン発行にかかる会計基準は開発中の状況が継続しており、会計及び監査上の判断の困難性から、特に上場企業(及びその関係会社)等の会計監査義務のあるWeb3.0事業者が暗号資産の発行が困難であり、事業遂行上の障壁となっているとの指摘もあります。

2. 会計基準の開発状況

(1) 日本における会計基準の開発状況

日本では、IFRS等の世界の会計基準に先駆けて、2018年3月に実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下「実務対応報告第38号」という。)が公表されましたが、他者発行暗号資産の保有者に係る項目に関する会計上の取り扱いを定めるにとどまり、実務対応報告第38号では自らが発行する暗号資産に関する会計処理は対象外とされていました。

暗号資産の発行に関する会計処理に関連するものとして、企業会計基準委員会は2022年3月に「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当する ICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」(以下「論点整理」という。)を公表しています。

本論点整理は、金融商品取引法上の電子記録移転権利又は「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)上の暗号資産に該当するICO(Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、 投資家から資金調達を行う行為の総称である。)トークンの発行及び保有等に係る取引に関する会計基準を整備していく一環として、関連する論点を示し、基準開発の時期及び基準開発を行う場合に取り扱うべき会計上の論点について関係者からの意見を募集することが目的であるとされています。主要な論点として以下が示されました。

【論点 1】基準開発の必要性及び緊急性、並びにその困難さ

 

ICOトークンの発行取引については、設計の自由度が高いことから個別性が強いことが考えられ、対象取引のこれまでの実施状況及び今後の普及見込み、並びに現在、会計基準が存在しないことが対象取引の普及に及ぼしている影響の有無を踏まえ、速やかに基準開発に着手すべきか否かを検討する必要があると考えられるとされています。

 

速やかに基準開発を行う必要がある速やかに基準開発を行うべきではない
  • 会計基準が定まっていないことに起因して、対象取引への取組みが阻害されている状況が生じている可能性がある
  • 取組みを行う企業が会計監査を受けられない状況が生じている可能性がある
  • 現在観察できる少数の取引事例だけでは、我が国における対象取引の経済的実態を捉えることが難しい
  • 暗号資産の私法上の取扱いが明らかではない
  • 国際的な基準開発が行われていない

【論点 2】ICOトークンの発行者における発行時の会計処理

 

ICOトークンの発行取引については、発行者が何ら義務を負担しないケースのほか、発行者が財又はサービスを提供する一定の義務を負担するとしても、その財又はサービスの価値が調達した資金の額に比して著しく僅少であるケースの存在も聞かれているとされています。ICOトークンの発行者が何らかの義務を負担している場合には、ICOトークンの発行取引に関する等価交換の成立が論点とされました。

 

等価交換が成立しているとする考え方と
その考え方を採用した場合の会計処理
等価交換が成立していないとする考え方と
その考え方を採用した場合の会計処理

伝統的な会計基準では、契約自由の原則の下で自発的に発生した独立第三者 間取引においては経済的に等価交換が成立しているものとして取り扱い、譲渡したものの時価とその対価として取得したものの時価のうち、より客観的に信頼性をもって 測定可能な時価で双方を測定することとされている。この考え方の下では、例えば、現 金を対価としてICOトークンを発行する場合、発行者が負担する義務に係る負債は、対価として受領した現金の額をもって測定される。その結果、発行時において、差額としての利益(又は損失)が生じることはない。

提供する財又はサービスの価値が調達した資金の額 に比して著しく僅少であるケースの存在を、ICOトークンの発行取引の実態を示す特徴 の1つとして捉え、等価交換が常に成立しているものとしては取り扱わず、契約によって生じた権利及び義務を時価で評価した上で、それぞれの評価額に差がある場合に当該差額を発行時に利益(又は損失)として認識することも考えられる。この考え方の下では、例えば、現金を対価としてICOトークンを 発行する場合、発行者が負担する義務に係る負債は受領した現金の額とは独立に時価 で測定される。その結果、発行時において、差額としての利益(又は損失)が生じ得る。

本論点整理に寄せられた意見等を参考に、会計基準開発の整備に向けた検討を進めることとされていますが、現時点では会計基準開発を行うか否かを含めて、具体的な公表物はありません。

(2) 国際会計基準審議会(IASB)における検討状況

IFRS解釈指針委員会は、2019年6月にアジェンダ決定「暗号通貨の保有」を公表していますが、既存のIFRS基準が暗号通貨の保有者の会計処理を対象としたものであり、暗号通貨の発行者の会計処理については取り扱っていません。また、国際会計基準審議会(IASB)が2022年7月において、今後5年間の優先事項を示した第3次アジェンダ協議のフィードバック・ステートメント及びスナップショットを公表しました。しかし、「暗号通貨および関連取引」が潜在的プロジェクトとはされつつも、多くの法域で暗号資産が普及しているのか、また多くの企業の財務諸表に広範な影響を与えているのかについて疑問が出ました。さまざまな種類の暗号資産及び暗号負債の会計処理を検討するためのプロジェクトは、そうした暗号資産及び暗号負債が新しい急速に進化しているエコシステムの一部であることを考えると、プロジェクトが複雑となり時期尚早である可能性があることから、作業計画に追加はされませんでした。その後、IASBは暗号通貨の会計処理に関する議論を無形資産のリサーチ・プロジェクトの中で継続しています。2025年9月の会議で、IASBはプロジェクトの方向性を議論し、投資目的で保有する無形資産の会計処理を検討する中で暗号通貨の会計処理を検討する可能性があることを決定しました。

(3) 関連公表物

会計基準ではありませんが、検討に際して参考となる公表物を紹介いたします。

 

公表団体公表日内容
欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)2020年7月暗号資産(負債)の会計処理:保有者及び発行者の視点
日本公認会計士協会2023年11月Web3.0 関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料

また、業界団体も当該課題に関するレポートも公表しています。

 

公表団体公表日内容
一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会
一般社団法人日本暗号資産取引業協会
2023年9月暗号資産発行者の会計処理検討にあたり考慮すべき事項
一般社団法人日本ブロックチェーン協会2025年3月Web3.0 ビジネスにおける会計面での 実務上の課題

3. 監査上の課題

暗号資産の発行に関する関連する会計基準等の定めが明らかではないため、発行者は、取引の実態を捉えたうえで、企業会計原則や既存の会計基準等を参考にして、自ら会計方針として定める必要があります。暗号資産の発行は、その設計の自由度が高く、個別性が非常に強いため、取引の実態を捉えるにあたって、法的性質や権利及び義務の特定が難しく、監査を受嘱する上での課題となっています。

日本公認会計士協会、業種別委員会研究資料第2号「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」において、発行者又は保有者の権利及び義務の特定に当たって整理する事項には、例えば以下のような項目が考えられるとされています。暗号資産を発行するに当たっては、例えば、以下の項目を明確に整理することが求められます。

  • ホワイトペーパーの法的位置付け、ホワイトペーパーの内容その他トークンに関する契約の識別、トークンを発行する目的、権利の行使又は義務の履行に当たって適用される法令等
  • 発行者が提供する財又はサービスと発行者及び保有者の権利義務関係
  • 提供する財又はサービス等の内容や提供期間、提供する財又はサービス等と発行者が獲得する対価との対応関係
  • 発行者が保有者に財又はサービス等を提供できない場合のペナルティー等の義務
  • その他、保有者に利益若しくは不利益を与えると考えられる契約

4. KAMから読み解く、会計及び監査への対応

第1回では、執筆時点である2025年3月22日以前の直近3年間で提出された有価証券報告書の監査報告書における監査上の主要な検討事項(KAM)として、「暗号資産」を対象とする事例について触れました。このうち、事例8は自社発行暗号資産に関する会計方針の妥当性に関するものですが、暗号資産発行について「個別性が強く、当該会計方針の決定については、経営者による経済実態と会計方針の整合に関する重要な判断を伴う」こと等を理由として、自社発行暗号資産に関する会計方針の妥当性がKAMとして選定されています。適用する会計基準と監査上の対応について、以下のとおり読み取ることができます。

適用する会計方針会計方針の妥当性に関する監査上の対応
「収益認識に関する会計基準」に準ずる
  • 発行体の会議体議事録、利用規約、ホワイトペーパー及び暗号資産取引所との販売委託契約書等の閲覧
  • IEOにより資金を調達した取引の会計処理について、利用規約、ホワイトペーパー、IEOの契約書等の閲覧、法律に関する内部専門家を利用し、受領した金銭に対応する貸方科目の性質及び履行義務についての検討

5. 今後の展望について

監査受嘱に関する課題は解消してはいないものの、事業者と監査人との相互理解の促進を進めてきており、大手監査法人の国内IEOでの象徴的な事例も出てきました。

また、2025年11月26日に開催された金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」が取りまとめた報告書案では、暗号資産を資金決済法から金融商品取引法の規制対象とし、一層の利用者保護が打ち出されています。また、本報告書においても暗号資産の募集・売出しに際して発行者の財務面について、監査法人による財務監査が望ましく、監査法人の財務監査が行われていないときには利用者の投資上限を設けるべきとの言及もあり、上場会社に限らず、暗号資産発行体への監査が着目されていくものと考えられます。

しかし、一方で、暗号資産発行に関する課題は多岐にわたり高いハードルがある状況は継続しています。暗号資産発行の実現するためには、会計・法律専門家を含む関係者との協議を通じ、慎重な検討が肝要です。


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