EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 電力・ユーティリティーセクター
公認会計士 大味 興平
電気事業では、段階的に自由化が進められてきました。それに伴い、従前の電気事業者に加え、多くの新たな事業者が市場に参入しています。また、従来とは異なる形での財又はサービスの提供や、他産業との連携も行われています。
このような状況で企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識基準」という。)が適用され、取引内容を踏まえた基準の解釈と当てはめが要求されています。以下、電気事業から生じる収益について、具体的にどのように収益認識基準が適用されているか解説します。
下表に示すとおり、電力関連の市場は複数存在しています。細分化した電源等の価値に応じたサービスを対象に、卸電力市場のほか、2020年度から容量市場において供給力の取引を開始し、2021年度から需給調整市場において調整力の取引を開始しています。また、各サービスについて相対取引も行なわれています。
なお、特定の再生可能エネルギーであれば、発電した電気を固定価格で買い取ってもらえるFIT制度や売電価格に対して一定のプレミアムを上乗せされるFIP制度など国の制度を活用した電力量の提供があります。発電事業者と需要家との間で電力量のやり取りが伴わない形で非化石価値を取引するバーチャルPPAの活用など特徴的な取引も行われていますので、このような取引を踏まえた契約・履行義務の識別を行う必要があります。
また、取引市場の条件変更等も含む電気事業を取り巻く制度変更は随時行われる可能性があるため、変更があった場合には、改めて収益認識基準への当てはめが必要になる場合があると考えられます。
(*)上図は電源を想定して記載しているが、ネガワット等は需要制御によって同等の価値を生み出すことが可能。また、一つの市場において、複数の価値を取り扱う場合も考えられる。
(**)環境価値は非化石価値に加えて、それに付随する様々な価値を包含した価値を指す。
出典:資源エネルギー庁「電源投資の確保(2020年10月)」3ページを基に加工
電気事業の自由化が進んだ結果、複数のエネルギー(例えば、電力とガス)を一体的に供給する場合があります。また、エネルギー供給と他のサービス(例えば、通信や機器保守サービス)を一体的に提供する場合もあります。さらに、複数のサービスを提供する場合には、それぞれのサービスを個別に提供する場合に比べ、割安な価格で提供することもあります。
上記のようなケースでは、一つの契約に複数の履行義務が含まれるため、当該履行義務への取引価格の配分が必要になります(収益認識基準第65項、第66項、第68項)。
なお、契約における財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約のセット販売価格を超える場合には、契約における財又はサービスの束について値引きを行っているものとして、原則として、全ての履行義務に対して比例的に配分しなければなりません(収益認識基準第70項)。
設例
前提条件
解説
契約価格 |
独立販売価格 |
配分結果 |
|
---|---|---|---|
電力供給 |
120 |
120 |
116※2 |
通信サービス |
54※1 |
60 |
58※3 |
計 |
174 |
180 |
174 |
※1 54=60×(1-10%)
※2 116=契約価格174×(120÷独立販売価格の合計180)
※3 58=契約価格174×(60÷独立販売価格の合計180)
電気事業は、契約期間にわたり、継続的に電力供給を行っています。顧客は、その需要に応じて電力を使用できますが、使用量を特定し料金を算定するためには、計量器の検針により使用状況を把握することが必要となります。
毎月の検針方法には、必ず月末に行う場合(月末検針)と、地域等の区分ごとに設定された月末以外の日程により行う場合(分散検針)があります。現行のわが国における実務では、分散検針であっても、検針日基準※1が、多く採用されてきました。
収益認識基準では、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて顧客が便益を享受する場合など、一定の期間にわたり資産に対する支配が顧客に移転する取引については、一定の期間にわたり売手としての履行義務を充足し、収益を認識するとされています(収益認識基準第35項、第38項(1))。
収益認識基準第35項の定めに従って収益を認識するには、決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益を見積る処理が必要となります。しかし、そのような処理を行うことは実務的に困難であるとして、電気事業連合会と一般社団法人日本ガス協会から、検針日基準を代替的な取扱いとして認めることが要望されていました。これに対して企業会計基準委員会は財務諸表間の比較可能性の観点から検針日基準による収益認識は認められないと判断し、代わりに2021年3月26日に見積り方法について代替的な取り扱いを定める企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」という。)の改正を公表しました。
改正後の収益認識適用指針では、使用量の見積りについて、決算月の月初から月末までの送配量を基礎として、その月の日数に対する未検針日数の割合に基づき日数按分により見積ることができるとされています。また、単価の見積りについては、使用量等に応じた単価ではなく、決算月の前年同月の平均単価を基礎とすることができるとされています(収益認識適用指針第103-2項)。
なお、旧一般電気事業者(みなし小売電気事業者)は、小売料金の規制が残る経過措置期間においては、電気事業会計規則の適用を受けます(電気事業会計規則附則(平成28年3月30日経済産業省令第50号)第3条)。同規則では、別表第1(16)営業収益において「調査決定の完了した金額を計上する」ことと規定されています。そのため、旧一般電気事業者は、経過措置期間においては、従前の検針日基準を適用するものと考えられます。
※1 検針日基準:毎月、月末以外の日に実施する検針による顧客の使用量に基づき収益の計上が行われ、決算月に実施した検針の日から決算日までに生じた収益が翌月に計上される方法(収益認識適用指針第176-2項)
電気事業でも、利用料に応じたポイントを提供するなど、ポイントプログラムを導入することがあります。特に、自由化に伴う競争環境の中では、ポイントの付与を通じて顧客を囲い込むことが考えられます。
当該ポイントが、将来の財又はサービスの提供に際して値引きを受けられるものであるなど、顧客に重要な権利を提供するものである場合、ポイントの付与時点では収益を認識せず、当該ポイントの利用に伴い財又はサービスが移転する時、あるいは当該ポイントが消滅する時に収益を認識します(収益認識適用指針第48項)。
なお、企業が代理人として他社のポイント制度を利用する場合、付与する他社のポイントに相当する金額は、当該他社のために回収する金額であるので、売上計上金額からは除外し、当該他社に対する債務を計上します(収益認識基準第8項)。
上述のとおり2020年度より供給力を取引する容量市場が開設されています。容量市場は電力広域的運営推進機関(以下、「広域機関」という。)が運営しています。容量市場で取引される「供給力」とは、「必要な時に発電することができる能力(kW)」のことを意味していて、例えば火力発電のような、電力が必要となった時すぐに発電できる電源等が有するものとなります。広域機関は、2020年7月に「4年後の電力の供給力」をオークション方式で募集のうえ、価格が安い順で落札電源を決定し、その4年後の2024年度を対象実需給年度として当該落札電源による供給力の提供がスタートしています。なお、このオークションは初回以降、毎年実施されています。
供給力の対価は、小売電気事業者から広域機関へ支払われ、広域機関から落札電源を持つ発電事業者等に支払われます。当該発電事業者等の収益は広域機関と締結する容量確保契約に基づき計上されます。
なお、当該契約は、4年後の対象実需給年度を待たずに締結します。実需給年度に先立って契約を締結するため、契約から翌期以降に認識することが見込まれる残存履行義務に係る収益の金額及び時期について注記することが考えられます(収益認識基準第80-21項)。
また、事業者は当該契約で求められるリクワイアメントを達成することが求められます。リクワイアメントには実需給対象年度中の供給力の維持、発電余力の卸電力取引等への入札等があります。リクワイアメント未達となった場合、広域機関のアセスメントの結果によっては、対象電源を持つ事業者はリクワイアメント未達量等に応じて、容量確保契約金額が減額される経済的ペナルティが科されます。
このような経済的ペナルティが、収益認識基準で示される変動対価に該当する場合には、状況に応じて当該変動対価の額を見積もることが必要となる可能性があります(収益認識基準第50項)。
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電気事業
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