英国、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)に加入‐ビジネスへの影響

  • 英国が環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)へ正式に加入した。
  • 英国の貿易業者は日本、シンガポール、チリ、ニュージーランド、ベトナム、ペルー、マレーシア及びブルネイとの貿易においてCPTPPのルールを適用することができる。2024年12月24日からはオーストラリアとの貿易も対象に含まれる。
  • 本稿では、英国及びCPTPP締約国との貿易を行う企業への影響とその活用方法について概説する。

2024年12月15日、英国が環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)に正式に加入しました。

CPTPPの概要

CPTPPは、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール及びベトナムの11カ国(現在は英国を含む12カ国)間の自由貿易協定(FTA)です。

2023年3月、英国はCPTPPへの加入について合意し、英国はCPTPPにおける初めての新規加入国となりました。この1年の間に同協定は英国議会の承認手続きを経て、英国及びCPTPP加盟国9カ国によって批准されました。

英国の加入が企業にもたらす影響

2024年12月15日以降、英国の貿易業者は、協定を批准したCPTPP締約国(日本、シンガポール、チリ、ニュージーランド、ベトナム、ペルー、マレーシア、ブルネイ)と協定上の特恵待遇による貿易を行うことができるようになります。2024年12月24日からは、これにオーストラリアも対象国に加わります。

カナダ及びメキシコは英国のCPTPPへの加入を批准していないため、英国企業は両国とはCPTPPに基づく貿易を行えません(カナダ及びメキシコそれぞれとのFTAに基づく貿易は可能です)。

英国の貿易業者にとっての新たな動向

英国は、オーストラリアとのFTAなど、CPTPP締約国のうち9カ国とすでに貿易協定を結んでいます。CPTPPは英国がマレーシア及びブルネイと締結した初めての貿易協定であり、英国企業にとって次のような直接的なメリットがあります。

具体的なメリット:

1. 関税の引下げと市場へのアクセス:CPTPP締約国に輸出される英国の物品の99%以上について関税が撤廃され、英国企業にとっては市場アクセスが向上します。

  • セクター別の関税引下げ:自動車、機械、乳製品、チョコレートなどの主要な輸出品は、関税引下げのメリットを享受することができます。
    例:
    • 自動車:英国の自動車メーカーは、マレーシアへの輸出品に課せられる最大30%の関税が段階的に撤廃されることや、より緩和された原産地規則のメリットを享受することができます。
    • 乳製品:チーズやバターなどの乳製品の輸出業者は、チリと日本の関税が引き下げられることで、2022年に両国へ輸出された乳製品2,390万ポンドの実績をさらに上回る輸出拡大が期待できます。
    • チョコレート:現在、メキシコとマレーシアへのチョコレートの輸出には、それぞれ8%~20%の関税に加えて、合計で10%~15%の特定の物品税が課されていますが、チョコレートの輸出業者はこれらの関税撤廃の利益を享受することができます。
    • ウイスキー:英国からマレーシアへのウイスキーの輸出に課せられている80%の関税は段階的に撤廃されます。
    • エンジン及び医薬品:ベトナムに輸出されるエンジンと医薬品の関税は、既存の二国間協定で定められた時期よりも早く関税が撤廃されます。
  • キャッチアップアプローチ:英国は他のCPTPP締約国に追いつく形で関税の引下げを実施(キャッチアップ)することに合意しました。これにより、英国は当初締約国から数年遅れてCPTPPに加入したにもかかわらず、すべての締約国と同様に関税引下げの恩恵を受けることとなり、英国の輸出業者が他のCPTPP締約国と比べて不利益を受けることはありません。
  • 原産地規則及び累積:原産地規則については累積が認められており、協定適用の可否を判断する原産品判定にあたって、協定を批准したいずれかのCPTPP締約国から調達された物品は、すべてのCPTPP締約国において「原産品」とみなされます。これにより、特にCPTPP地域にサプライチェーンを有する英国企業では、特恵関税に基づく貿易で原産地規則の要件を満たすプロセスが簡略化されます。

2. サービス貿易:CPTPPはサービス貿易について野心的な規定を盛り込んでおり、世界第2位のサービス輸出国である英国に以下のような大きなメリットをもたらします。

  • 内国民待遇:CPTPP締約国は、英国の企業や貿易業者を、国内の競合他社やCPTPP締約国または第三国の競合他社と同様に取り扱うことが求められます。
  • サービスの貿易における数量制限の廃止:CPTPPは、サービスや資産の数量、またはサービス提供者が雇用する従業員数に関する制限を禁止しています。
  • 現地拠点に関する要件の廃止:企業が国境を越えてサービスを提供する場合、居住者であること、またはCPTPP締約国に現地拠点を置く必要がなくなりました。
  • モビリティの緩和:CPTPPに加入することで、英国国民はCPTPP締約国への旅行が容易になり、さまざまなセクターの貿易業者にとって法的確実性が高まります。
  • 相互認識:CPTPPの附属書は、締約国間での専門資格の相互承認を奨励しており、CPTPP締約国間での資格付与や登録手続きを容易にしています。

3. デジタル貿易:CPTPPは電子商取引の章を設けており、高いデータ保護基準、不当なデータフロー制限の禁止、データローカライゼーション要件の禁止、ソフトウェアソースコードの譲渡禁止などのデジタル貿易に関する規定が含まれます。2018年にCPTPPが初めて合意された際、デジタル貿易規定は大幅な進歩であると考えられました。しかし、それ以降に当初の合意を上回る進展があり、これは今後のデジタル貿易規定の大きな改善点として認識されています。

4. 投資:CPTPPは、投資家を保護し、英国内での雇用創出を支援することで、投資を奨励しています。協定には投資家に対する差別の無い取扱いの規定が含まれており、これにより英国の投資家とCPTPP締約国の投資家はお互いの市場へ平等にアクセスできるようになります。投資家と国との間の紛争解決規定は、CPTPP締約国の投資家が、その政府から受けた取扱いが不公平だと考える場合に、その政府を相手として訴訟を起こすことを可能にしています。

次のステップ

拡大計画:11月28日、CPTPP締約国は、コスタリカの加入について、オーストラリア及びニュージーランドのサポートを受けて、ペルーが議長を務める加入作業部会を設置したと発表しました。その他にも、現在6カ国がCPTPPへの加入を申請しており、加入に関心を示す国も増加していますが、加入の厳格な条件や高い基準により、CPTPPの拡大は緩やかなものとなっています。

企業は、2025年1月24日まで実施されるコスタリカの加入に関する英国政府のパブリックコンサルテーションへの参加を検討する必要があります。

全般的な見直し:CPTPPは、5年ごとに締約国間の経済上の関係や連携を見直すことを定めています。この全般的な見直しは2024年春に開始し、2025年まで続く予定で、サプライチェーンの強靭性や経済の安定、市場歪曲的な慣行などのトピックに重点が置かれます。

企業が取るべき対策

新たな機会を活用するために、英国企業は次のような対策を取ることができます。

  • 新たな市場機会の評価:サプライチェーンや流通チャネルを見直し、より有益な累積規則や市場参入が容易になった機会を活用して、CPTPP締約国の中でも特にマレーシアやブルネイにおける新たな市場機会を特定します。
  • 関税引き下げの活用:CPTPPに基づき関税が撤廃される製品や関税引下げ対象製品を特定して、コスト削減を反映する価格設定戦略の見直しを行い、これらの市場での競争力を向上させます。
  • サービスの貿易の検討:CPTPPのサービスの貿易に関する規定によって事業活動をどのように拡大できるかを検討します。内国民待遇、現地拠点要件の撤廃、専門資格の相互承認を活用して、CPTPP締約国でのサービス提供を拡大します。
  • 継続的な動向を監視:CPTPPの全般的な見直しに関する発表や更新情報を確認し、既存の規則の改定が事業に及ぼす影響の可能性を判断します。

お問い合わせ先

EY税理士法人

大平 洋一 パートナー
福井 剛次郎 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです