EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2025年1月15日、OECDは、GloBEモデルルール第9条1項の適用に関する執行ガイダンス(9.1執行ガイダンス)を発表しました。これは、政府一般(すなわち、連邦、州、地域、地方政府の全てのレベル)が提供する特定の税制上の優遇措置から生じる、または2021年11月30日よりも後に導入された法人税によって生じる繰延税金資産(DTA)に焦点を当てたものです。
9.1執行ガイダンスは、政府の取決め、および遡及的な効果を持つ税務上の取扱いに関する選定や選択から生じるDTAに適用されます。このようなDTAの取崩しにより生じる税金費用は、GloBEルールの適用においては対象税金額から、移行期間CbCRセーフ・ハーバーの適用においては簡易対象税金額から除外されます。また、2年間の猶予期間を導入し、その間、対象税金額および簡易対象税金額の両方においてこのような税金費用に上限額を設定することができます。
9.1執行ガイダンスに記載されている税制上の優遇措置とは、国内ミニマム税(DMT)を導入し、かつ関連する繰延税金費用を除外しない国・地域で導入される規則に関連する優遇措置(「関連優遇措置」という)です。関連優遇措置を提供する国・地域のDMTは、適格国内ミニマム課税(QDMTT)またはQDMTTセーフ・ハーバーの目的上、適格とはされません。
また、1月15日、OECDは、国・地域の法律の適格性に関する新たな執行ガイダンス(「セントラルレコード」という)を発表しました。これは所得合算ルール(IIR)、DMT、またはQDMTTセーフ・ハーバーに関する適格性確認メカニズムのプロセスを完了した法律を有する国・地域を掲載するセントラルレコードを提供するものです。国・地域のリストは、GloBEモデルルールのコメンタリーの付属書Bに含まれています。
OECDはまた、セントラルレコードの公開を反映した、グローバル・ミニマム税の下での適格性に関するQ&Aを含む最新の文書、そして最新のGIR文書とGIR情報の交換に関連する文書も公表しました。近日発表予定のEY Global Tax Alertでは、これらの新たなGIRの動向を取り上げる予定です。
2021年10月、OECDは、税源浸食と利益移転(BEPS)2.0プロジェクトの第1の柱と第2の柱に関する包摂的枠組み参加国の大枠合意を反映した声明を発表しました1。
OECDの包摂的枠組みは、2021年10月の合意以来の、第2の柱の下でのグローバル・ミニマム税に関する重要な合意文書を公表しました。これには、GloBEモデルルール2、GloBEモデルルールのコメンタリー3、GloBEセーフ・ハーバーに関する指針4、4つのGloBE執行ガイダンスパッケージ5、そしてGloBE情報申告書の標準テンプレート6が含まれます。OECDは、GloBEモデルルールの統合コメンタリーを2024年4月25日に公表しましたが、これには2023年末までに発表した3つの運用指針が組み込まれています。さらに、2024年6月17日、包摂的枠組みは、各国・地域が導入するグローバル・ミニマム税の要素の適格性を判断するためのピアレビュー・プロセスに関する情報を提供するQ&A文書を公表しました7。
GloBEモデルルール第9条1.1項では、企業グループがGloBEルールの適用を受けることによる歪みを防止するため、移行年より前に発生した繰延税金資産負債を実効税率の計算に含めることを認める移行ルールを定めています。
9.1執行ガイダンスは、政府一般が提供する税制上の優遇措置から生じるDTAへの第9条1項の適用に関して提起された問題を扱っています。その背景として、2021年11月30日よりも後に、一部の企業グループが、その事業を展開する国・地域でのGloBEルールやDMT施行に先立って、税額控除や課税ベースのステップアップなどの税制上の優遇措置を受ける取決めを政府8と締結していることへの懸念があります。さらに、これらの優遇措置は財務会計上DTAとして計上することができ、企業グループは、DTAおよび繰延税金負債(DTL)に関する第9条1項の移行ルールに基づいて対象税額に反映させることができることと指摘しています。
このように特定された問題への対応として、9.1執行ガイダンスは、2021年11月30日よりも後に政府が提供する税制上の優遇措置から生じるDTAは、第9条1項の移行ルールから除外することと規定しています。この除外は、移行期間CbCRセーフ・ハーバールールに基づく簡易対象税額の算定にも適用されます。
つまり、9.1執行ガイダンスは、政府との取決めによって生じたDTAの取崩しによる繰延税金費用、および遡及的なセーフ・ハーバーの選択や、政府がGloBEルール施行前に新たな法人税制度を導入する際に、企業グループに課税ベースのステップアップを認めるなどの事象から生じるDTAおよびDTLに適用されます。これには、政府が提供する特定の協定、裁定、政令、助成金、または同様の取決めから生じるDTAや、既存の取決めの改定や修正が含まれます。
9.1執行ガイダンスは、このようなDTAを段階的に対象税額に含めること目的として2年間の移行期間(猶予期間)を設けています。猶予期間は2024年度および2025年度となります9。新しい法人税の導入に関連するDTAの場合の猶予期間は、2025年度と2026年度となります10。
対象税額(または簡易対象税額)に含めることができるこのようなDTAの取崩しに関連する税金費用の上限は、最低税率または適用される国内税率のいずれか低い方で計算され当初計上されたDTA額の20%に制限されます(猶予期間の制限)。この例外措置では、DTAの取崩しを速めることにより、猶予期間に計上できる繰延税金費用の額を増やすことはできません。
2024年11月18日より後に行われる法律、選定(または選択)、会計方法、または取決め条件の変更により計上されたDTAについては、その取崩しから生じる繰延税金費用は、猶予期間およびその制限の対象にはなりません。
全体的な制限として、9.1執行ガイダンスは、移行期間CbCRセーフ・ハーバーの下で合計繰延税金調整額および簡易対象税額に含めることができる、DTAの取崩しに起因する繰延税金費用の総額を制限しています。この点において、適用範囲内のDTAの取崩しに起因する構成事業体の繰延税金費用の総額は、猶予期間中に認められる限度額を超えないものとされ、新しい移行ルール、猶予期間、およびその制限の適用についての例示が挙げられています。
また、9.1執行ガイダンスは、QDMTTを実施する国・地域が(調整対象税額またはQDMTTに基づく移行期間CbCRセーフ・ハーバーの適用可能性を決定する際に)この執行ガイダンスにおいては認められないDTAに関連する繰延税金費用を認める場合、企業グループは、QDMTTを実施する国・地域の構成事業体にQDMTTセーフ・ハーバーを適用することを禁止するスイッチオフルールの対象となり、企業グループに対して、QDMTTを控除する方法に切り替えるよう要請しています。
また、9.1執行ガイダンスは、第9条1.2項における「第3章に基づくGloBE所得または損失の計算から除外される項目」への言及には、第3章に基づいて明示的に除外される項目に関するDTAだけでなく、税務上の非経済的費用または損失に関連するDTAも含まれることを明確にしています。さらに、DTAへの言及は、税金が前払いされる状況に限定されず、たとえば、課税ベースのステップアップから生じるDTAも対象としています。
第9条1.3項コメンタリーの変更 - その他の税効果
第9条1.3項のコメンタリーでは、資産を売却する構成事業体が売却に要した税額に基づくDTAの計上を認めており、また、一般的には売主の繰延税金資産の取崩しを含む「その他の税効果」に基づくDTAの計上を認めています。
9.1執行ガイダンスは、第9条1.3項コメンタリーを更新し、「その他の税効果」には、第9条1.1項に基づく計算から除外され、猶予期間中に取崩すDTAの金額は含まれないことを明確にしています。
関連優遇措置と適格性の相互作用
GloBEモデルルールは、適格IIR、適格UTPRまたはQDMTTを導入した国・地域は、GloBEモデルルールおよびコメンタリーに基づいてもたらされる結果と一致する方法で、国内法を実施および管理しなければならず、関連優遇措置を提供してはならないと定めています。9.1執行ガイダンスは、第9条1項の最新の指針として記載される税制上の優遇措置と、それを提供する国・地域のGloBEルールに対する適格性との間の相互作用に対応しており、そのような優遇措置を提供する国・地域は、適格性確認メカニズムに基づくQDMTT適格要件を満たしていないとしています。ただし、例外的な特例により、国・地域はQDMTTおよびQDMTTセーフ・ハーバーの適格性を自己認証することができます。ただし、これらの国・地域は、本執行ガイダンスを適用して税務上の優遇措置から生じる繰延税金費用を無効化するか、または本執行ガイダンスを適用しないのであれば、QDMTTセーフ・ハーバーにおけるスイッチオフルールを適用し、他のGloBEルール導入国・地域が、代わりに税務上の優遇措置から生じる繰延税金費用を無効化できるようにしなければなりません。
また、9.1執行ガイダンスは、企業グループと税務当局が、特定の関連優遇措置について、その国・地域のルールの適格性にどのように影響するかを検討することを支援するために、追加のガイダンスを策定中であるとしています。
セントラルレコードにおいては、税務当局が、その国・地域は適格IIRもしくはQDMTTを導入したのか、またはQDMTTセーフ・ハーバーに適格であるかを判断することを支援するために、適格性確認メカニズムが提供されています。
セントラルレコードでは、完全な立法審査および継続するモニタリングプロセスの結果を待つ間、迅速に導入国・地域の法制の適格性を暫定的に認識できるための簡素化された手順であると規定しています。セントラルレコードは、GloBEモデルルールのコメンタリーの付属書(付属書B)に含まれています。
附属書には、移行期間においてIIR法制の適格性を充足する27の国・地域、そして同期間のQDMTTセーフ・ハーバー適格性を有する法制の国・地域28カ国が掲載されています。掲載された国・地域の中で、オーストラリアは、法案に基づいて自己認証を行う唯一の国です。バルバドスは、2024年に条件付きDMTを導入する唯一の国です。条件付きDMTは、企業グループが他の国・地域でGloBEルールの適用を受ける場合にのみ、構成事業体に適用されます。条件付きDMTの適格性は、2024年にのみ認められます。
附属書はさらに、セントラルレコードが定期的に更新されると規定しています。また、特定の国・地域の法制がこのセントラルレコードに含まれていない場合でも、必ずしもその法制に適格性が無いとするものではないとしています。むしろ、適格性確認メカニズムのプロセスが、国・地域によってはまだ開始または完了していないことを意味します。附属書はさらに、適格性は法律の発効日から開始すると規定しています。
セントラルレコードの公表に関して、OECDは、グローバル・ミニマム税の適格性に関する質問と回答に関する文書も更新し、それぞれのセントラルレコードを参照できるようにしました。最新の文書は、完全な立法審査および継続するモニタリングプロセスが次の段階として開発中であることを示しています。
9.1執行ガイダンスは、GloBEルールの技術的側面の解釈と運用に関する重要な新情報を提供しています。2021年11月30日よりも後に政府が提供する税制上の優遇措置から生じるDTAの取崩しは、GloBEルールの対象税または移行期間CbCRセーフ・ハーバーの簡易対象税の適格性において、除外または一部除外される場合があります。これにより、GloBEルールまたはDMTTに基づいて追加のトップアップ税が発生する可能性があり、企業は、これらの新しいルールの影響を見直す必要があります。
この執行ガイダンスは、GloBEモデルルールの第9条1項の適用を取扱っていますが、一部の国・地域では、この執行ガイダンスに対応するために、国内法を改正する必要性について検討することでしょう。したがって、企業は、関連する国・地域がこの執行ガイダンスを国内法に組み込んでいるかどうか、またどのように組み込んでいるかも監視する必要があります。
さらに、セントラルレコードは、グローバル・ミニマム課税ルールのさまざまな要素が適用される順序や、企業グループがグローバル・ミニマム税の租税債務を報告する必要がある国を判断するための重要な情報を提供しています。企業は、セントラルレコードにおける関連する国・地域の取扱いを見直し、グローバル・ミニマム税の計算への影響を評価する必要があります。
巻末注
EY税理士法人
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
大堀 秀樹 ディレクター
※所属・役職は記事公開当時のものです
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