2025~2026年度オーストラリア連邦政府予算案 税務アラート(要約版)

2025年3月25日(火)、オーストラリアのジム・チャーマーズ連邦財務相は、2025~26年度連邦政府予算案を発表しました。

本税務アラートでは、日系企業の税務上の対応に影響を及ぼす可能性がある主な税制措置を、オリジナル税務アラート(英語)から抜粋して日本語で解説しています。2025~26年度連邦政府予算案の経済および全体的な政策に関する解説はEYオーストラリアWebサイト(日本語版はこちら)をご参照ください。

オーストラリアの財政は、昨年度は158億豪ドルの黒字だったものの、本年度は276億豪ドルの赤字となり、来年度はさらに420億豪ドルの赤字に拡大する見通しです。今回発表された予算案では、実際の本年度の歳出増加比率を6%と予測しており、これはGDP比で1.75%から1.5%に下方修正された経済成長率を大きく上回っています。また非常に強い希望的観測に基づいて、歳出が来年は3%、再来年には0.5%ほど下落することを見込んでいます。昨年の連邦予算案公表時にはGDPの35%でピークに達すると予想されていた政府公債は、現在では37%(1.2兆豪ドル)と予想されています。

連邦総選挙を数週間後に控えている影響で、選挙前によく見られる減税政策が反映されています。今年は主に170億豪ドルに及ぶ個人所得税の減税が織り込まれ、この影響は1人あたり2026~27年に最大268豪ドル、2027~28年に最大536豪ドルに相当します。

昨年5月に昨年度の予算案が発表された際、財政状態の健全化を優先させることによるインフレの確実な抑制、赤字となる構造的問題の解消、そして低迷する生産性向上のために税制改正の頻度を上げることの3点に取り組む必要があることをEYは指摘しました。昨年の予算案に引き続き、今年の予算案においてもこの3点においては落胆することとなりました。

税制面においては抜本的な改革を回避し続け、法人税率は30%、個人所得税ではメディケア税を含み最高税率47%という非常に高い税率を課しています。

その結果、オーストラリアの税収は消費税ではなく法人税・個人所得税が多くを占めることとなり、生産性を高める取り組みや投資への阻害要因となっています。本予算案における最大の税収増加策では約30億豪ドルの税収増加を今後見込んでおりますが、非常に高い税率にて課税されている法人税・個人所得税を最大限に回収するためオーストラリア税務当局(ATO:Australian Taxation Office)に約10億豪ドルの追加投資を行うとのことです。


既存のFuture Made in Australia計画に基づく投資優遇措置

オーストラリア国民がよりクリーンで安価なエネルギーへの世界的な移行による恩恵を受け、変化し続ける世界経済・戦略環境の中でオーストラリアの地位を確保するための227億豪ドルの投資が継続されます。この中には、32億豪ドルの金属産業への追加投資が含まれます。

  • 2025年1月に発表された、オーストラリアのアルミニウム製造業者の再生可能電力への移行を支援するため、生産量に応じた助成金を提供するGreen Aluminium Production Creditsへの19年間にわたる20億豪ドル。
  • Whyalla鉄鋼所への5億豪ドルを含む、Green Iron Investment Fundに7年間で10億豪ドル。

また、以前から資金援助を行っている以下の取り組みへの支援を引き続き行うことを予算案にて再確認しました。

  • 再生可能エネルギー、エネルギー効率、低排出技術に投資するClean Energy Finance Corporationの資本増強に20億豪ドル。
  • 既に法制化されたグリーン水素と重要鉱物生産税制優遇措置に137億豪ドル。
  • Future Made in Australia Innovation Fundにて優先された分野への15億豪ドル。


税務管理

税務代理人の規制とコンプライアンスの強化

政府は、税務代理人委員会(TPB:Tax Practitioners Board)により強い制裁権限を付与し、税務代理人の登録枠組みを整備し、また2025年7月1日から4年間にわたり、リスクの高い税務代理人を対象としたさらなる法令遵守のための活動資金をTPBに提供します。

オーストラリア税務当局の税務コンプライアンス・プログラムを拡充

政府は税務面における法令遵守活動を拡充するため、ATOへ資金提供を行います。これは2025~26年からの4年間で9億9,900万豪ドルの費用となりますが、2024~25年からの5年間で32億豪ドルの追加資金を調達予定です。対象となる取り組みは以下の通りです。

  • Tax Avoidance Taskforce
    政府は2025年7月1日から4年間、Tax Avoidance Taskforceに7億1,780万豪ドルを追加拠出し、タスクフォースの2年間の拡大と1年間の延長を行い、ATOによる多国籍企業やその他大企業への対応を支援します。
  • Shadow Economy Compliance Program
    政府は2025年7月1日から4年間で1億5,550万豪ドルを提供します。
  • Personal Income Tax Compliance Program
    政府は2025年7月1日から4年間で7,570万豪ドルを提供します。
  • Tax Integrity Program
    政府は2026年7月1日から3年間で5,000万豪ドルを提供します。


個人所得税制

オーストラリアの納税者に新たな減税措置

政府は、以下の通り2026年7月1日から新たな減税を実施すると発表しました。

  • 2026年7月1日以降 – 16%から15%への税率低下
  • 2027年7月1日以降 - 15%から14%への税率低下

これらは、2024年7月1日から施行されている減税措置に続くものです。
 

居住者税率:

居住者税率

2024-25年および2025-26年($)

2026-27年($)

2027-28年以降($)

0%

$0-$18,200

$0-$18,200

$0-$18,200

14%

-

-

$18,201-$45,000

15%

-

$18,201-$45,000

-

16%

$18,201-$45,000

-

-

30%

$45,001-$135,000

$45,001-$135,000

$45,001-$135,000

37%

$135,001-$190,000

$135,001-$190,000

$135,001-$190,000

45%

Over $190,000

Over $190,000

Over $190,000

*上表にはメディケア税(2%)は含まれていません。


政府はまた、次のように発表しました。

  • 2024年7月1日より、単身者、家族、高齢者、年金受給者のメディケア賦課金低所得者基準額が引き上げられています。
  • 既に発表されている通り、政府は2025年7月1日より、学生ローンの返済義務基準額を54,435豪ドルから67,000豪ドルに引き上げ、2025年6月1日付の物価指標に置き換わる前に、学生ローン残高を20%減額します。


管理型投資信託(MIT:Managed Investment Trusts)

MITの源泉徴収税率延長に伴うクリーンビルコンセッションの延期

政府は、当初2023~24年度予算案で発表された、2023年5月9日以降に建設が開始されるデータセンターと倉庫を対象としたClean Building MIT源泉徴収税率を10%とする優遇措置の延長を、2025年7月1日から同法が国会で決議を得るまで延期すると発表しました。

外資系ファンドの適格性を確認するためのMIT規則の改正

広範囲にわたる外資系ファンド(外国年金基金など)が最終的に全額出資するMITが、引き続きオーストラリアでの源泉徴収税の軽減税率を利用できるよう、税制改正を行う旨を以前政府は発表しました。この発表は、MITの源泉徴収制度を利用するために既存の対内投資構造を再編成することに対するATOの懸念を強調したTA(Taxpayer Alert)2025/1の発表に続くものです。


不動産/インフラ

非居住者キャピタルゲイン税制強化措置の延期

政府は、2024~25年予算で発表された外国居住者キャピタルゲイン税(CGT)制度の改正案の延期を発表しました。これは、非居住者がCGT課税の対象となる資産の種類を明確化・拡大すること、一時的主要資産テストを365日のテスト期間に修正すること、非居住者が2,000万豪ドルを超える株式やその他の会員権を処分する場合、ATOへの通知を新たに義務付けることを提案しています。適用日は、同法が国会で決議を得た日以降に発生したCGTイベントからに変更されます。

外国人による住宅所有の制限

既に発表されている通り、政府は2025年4月1日から2年間、例外が適用されない限り外国人(一時滞在者、外資系企業を含む)による既存住宅の購入を禁止します。例外に当てはまる場合としては、住宅供給を著しく増加させる投資や、商業規模での住宅供給に向けた投資、一定の状況下で労働者に住宅を提供するための外資系企業による購入などが挙げられます。ATOと財務省に追加資金を提供することで、禁止措置および監査プログラムを実行し、外国人投資家によるランド・バンキングを対象とした法令遵守を強化します。

*英語版と翻訳版に相違がある場合は英語版が優先されます。

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