トランプ政権、関税交渉で英国と合意~相互関税発表後初~

2025年5月8日、米国および英国政府から、二国間で行われていた関税交渉に合意したことが発表されました。米英間での合意は、トランプ政権が各国・地域と進める貿易交渉において初となるものです。

なお、今回の合意は、法的拘束力を有さない枠組みであるものの、英国政府からは本合意内容に基づき、今後米国との正式な協定交渉に移っていく方針が示されています。

以下は、米国通商代表部(USTR)および英国政府が公表した具体的な関税措置の概要です。

<英国から米国への輸入(米国側の譲許内容)>

  • 自動車への低関税輸入枠の新設:米国が英国から輸入する自動車に、年間10万台の枠内で10%に引き下げる。割当枠を超える部分には現行の27.5%(一般税率2.5%+232条関税25%)の税率となる。
  • 鉄鋼・アルミニウムの無税輸入枠の新設:鉄鋼、アルミニウムならびに特定の鉄鋼・アルミニウム派生品に対して、一般税率での関税割当を導入する1
  • 牛肉に対する関税割当の再配分:英国産牛肉に対して、年間1万3,000トン分の関税割当を「その他の国」向けの割当分から再配分する。
  • その他、相互関税についても特定の英国産品に対して将来的に修正の可能性を示唆している。

<米国から英国への輸入(英国側の譲許内容)>

  • 米国産エタノールの関税をゼロに:米国産エタノール年間14億リットルについて、無税での関税割当を導入する。
  • 牛肉の市場開放の促進:米国産牛肉に対する既存の関税割当1,000トン分に課されている20%の関税を撤廃し、1万3,000トンに対する無税での関税割当を導入する。

その他、一部の報道では米ボーイング製の100億ドル相当の航空機の購入や、米国産の機械類等の工業製品に対する関税譲許を行うことについても報じられています。

なお、本協定の詳細は今後数週間で確定していく予定であり、両国は、それぞれの国内手続を考慮しつつ、できる限り早期に関税削減の具体的な時期を調整することとされています。

今回の合意において、米国側は相互関税に関して一部品目に対し修正する用意があることを示したほか、通商拡大法232条に基づく追加関税についても一定の譲許をしています。この点に関し、米国は英国とは貿易黒字である一方、日本を含む他国間では赤字が続いている背景を踏まえ引き続き予断できない状況ではあるものの、今後、他国との貿易交渉が進展する中で、自動車や鉄鋼・アルミニウムなどの主要品目の税率が国ごとに異なる状況となる可能性も考えられます。

さらに、今回の合意内容には、第三国経由の迂回輸入による関税回避を防止するための税関協力を進めることも含まれていることから、企業においては、こうした動向を踏まえ、将来的に厳格化が予想される原産地規則への対応も視野に入れたサプライチェーンの見直しが求められます。

 

巻末注

  1. USTRが公表した合意内容では、英国は、米国向けの鉄鋼・アルミ製品のサプライチェーンの安全性および関連する生産施設の所有構造に関する米国の要件を迅速に満たすよう努め、米国はこれを前提に最恵国税率(一般税率)による英国産鉄鋼・アルミ製品および一部派生品に対する輸入割当を設けることとされている。


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