トランプ大統領、追加関税措置が重複適用される場合の整理と米国内組立車両を対象とした還付制度を発表

2025年4月29日、トランプ大統領は、自動車およびその他の輸入品に対する複数の関税措置の重複適用を整理する大統領令と、米国内で組み立てられた車両の輸入部品に対する関税の一部を還付する制度を導入する大統領布告を発表しました。併せて、還付制度の背景や具体的内容を補足するファクトシートも公表されています。ここでは、これら一連の措置の主要なポイントについて解説します。


1. 重複関税の適用整理に関する大統領令

今回の大統領令(Executive Order: Addressing Certain Tariffs on Imported Articles)は、同一の物品に対して複数の関税措置が重複して適用され、過大な税負担が生じることを防ぐ目的で発出されました。特に、政策目的を超えた過剰な課税を避けることが意図されているものです。

対象となる関税措置は以下のとおりです:

① 通商拡大法第232条に基づく自動車および自動車部品に対する25%の追加関税
② 国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくカナダ・メキシコに対する追加関税
③ 通商拡大法第232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品に対する25%の追加関税

今回の大統領令では、上記措置について、同一の物品に対しては原則としていずれか1つの関税措置のみを適用することで、重複適用を回避することとしています。また、各措置の適用に当たっては①、②、③1の順で優先適用されることについても規定されています。

一方で、通常の関税(一般税率)およびアンチダンピング税・相殺関税のほか、いわゆる301条関税や、フェンタニルなどの違法薬物の流入阻止を目的とした中国製品に対する追加関税(大統領令第14195号)も上記整理の対象外としており、これらの関税は引き続き重複適用の対象となります。

本措置は2025年3月4日以降の輸入にさかのぼって適用され、米国関税率表(HTSUS)の必要な改正は5月16日までに実施される予定です。


2. 自動車部品に対する追加関税の還付制度の導入に関する大統領布告

2025年3月に発表された大統領布告第10908号では、自動車および自動車部品の輸入が米国の国家安全保障を脅かすものとして、完成車に対する25%追加関税を4月3日から、部品に対する同追加関税を5月3日からそれぞれ適用する措置が決定されました。

今回の新たな大統領布告(Proclamation: Amendments to Adjusting Imports of Automobiles and Automobile Parts into the United States)は、同措置を補完・修正するものです。米国内で最終組立された車両に使用された輸入部品については、一定の上限の範囲で関税の一部を還付する制度が導入されました。

メーカー希望小売価格(MSRP)を基準とした還付上限は以下のとおりです:

  • 初年度(2025年4月3日~2026年4月30日):MSRPの3.75%まで
  • 2年目(2026年5月1日~2027年4月30日):MSRPの2.5%まで

これは、車両価格のうち15%(初年度)または10%(2年目)に相当する第三国製部品に25%関税が課された場合の金額に相当します。また、実際の第三国製部品比率がこれを超える場合でも、MSRPに対する上限額の範囲内で還付を受けることが可能です。

【具体例(ファクトシートより)】

  • 例①:車両価格の85%が米国またはUSMCA原産で、残り15%が第三国製の場合
    →(初年度の場合)15%分に係る関税は全額還付され、実質的な関税負担はゼロとなる2
  • 例②:車両価格の50%が米国またはUSMCA原産で、残り50%が第三国製の場合
    →(初年度の場合)本来は50%分に関税が課されるところ、還付適用により最終的に35%(=50-15%)分に対する課税となる。

この制度は米国内での組立を奨励することを目的としており、還付申請は完成車メーカーが行うこととされています。また、還付対象となる車両や部品、自動車メーカーが承認した輸入業者(Importer of Record)を指定し、必要な情報をもとに手続を進める必要があります。

これらの一連の措置は、完成車メーカーやそのサプライヤーにとって、関税コストの緩和と米国市場での競争力維持の両面で意義があるものと思われます。特に還付制度を適切に活用するには、製品構成や原産地情報を的確に把握し、制度要件に対応した社内体制を整えることが不可欠です。今後、制度の運用に関するガイダンスの公表が見込まれることから、引き続き動向を注視しつつ、自社の生産・調達戦略を再評価することも有用と考えられます。


本文は、続報が出され次第、都度更新されます。

巻末注

  1. ただし、③の鉄鋼およびアルミニウム製品に対しては、両方の関税措置が併せて適用される場合がある点に留意が必要。
  2. USMCA原産の取扱いについては、恒常的な免税扱いとなるか否かは今後の運用に注視が必要。


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