米国、IEEPAに基づく追加関税が国際貿易裁判所により違法と判断されるも、控訴により追加関税は当面継続

  • 2025年5月28日、米国国際貿易裁判所(US Court of International Trade、以下CIT)は国際緊急経済権限法(以下IEEPA)に基づく関税措置を違法とし差し止めを命じた判決を発表しました。これに対し、2025年5月29日、米国連邦巡回区控訴裁判所(US Court of Appeals for the Federal Circuit、以下CAFC)は政府側の即日上訴を受け、CITの判決について、即時の効力停止を認めました。よって、控訴審の審理期間中、IEEPAに基づく現在の関税措置は維持されることとなります。
  • 本控訴審が継続しているため、今後も先行き不透明な状況が続くと予想されます。米国の輸入者においては、長期的な関税の影響を前提として、関税プランニングの積極的な導入が推奨されます。

2025年5月28日、CITは、トランプ政権が課したIEEPAに基づく関税が「異常かつ特別な脅威」の法的要件を満たしていないと判断しました1。カナダ、メキシコ、中国に対するフェンタニルや不法移民を理由とした追加関税が、根本的な緊急事態に対処していないことや、そもそも関税を課す主な権限は議会にあり、大統領にはIEEPAに基づき関税を課す「無制限」の権限は無いことを強調し、相互関税を含むIEEPAを根拠とする多くの関税政策措置に対し、差し止めを命じました。

CITの判断は、V.O.S.社対アメリカ合衆国(2025年4月14日)と、オレゴン州対アメリカ合衆国(2025年4月23日)の2つの事例を統合して判断したものです。CITはそれぞれ2025年5月13日と21日に、口頭弁論を実施していました。

CITによる差し止め命令を受け、トランプ政権は直ちにCAFCへ上訴しました。翌29日、CAFCは控訴が進行中の間、CITの判断の発効を防ぐ即時の行政的停止を認め、特定の追加関税を一時的に再適用しました。つまり、控訴審の審理期間中はIEEPAに基づく追加関税は引き続き維持されることになります2

なお、EY Global Tax Alertでは、IEEPAに基づく追加関税を、今まで下記の通り取り上げてきました。


今後の展望

本控訴審は現在も継続しているため、今回の訴訟が米国の貿易政策にどれほど長期的な影響を与えるか、現時点では不透明なままです。なお、1962年通商拡大法232条に基づくセクター別関税(鉄鋼/アルミニウム、自動車)や、1974年通商法301条に基づく対中追加関税は、今回の一連の裁判の対象ではありません。現在進行中のセクター別調査は引き続き継続され、2025年にトランプ大統領が就任する以前から施行されている301条関税についても、CAFCによる審理が別途行われている状況です。


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