G7、グローバル・ミニマム課税に関する声明を発表

エクゼクティブサマリー

2025年6月28日、G7はグローバル・ミニマム課税に関する声明を発表しました。この声明は、米国財務長官による、米国の現行のミニマム課税ルールと第2の柱が「共存」することに関する提案に対応するものです。

G7は、「共存」の解決策は、税源浸食と利益移転(BEPS)への対抗に関する各国・地域の利益を維持し、国際的な税務環境の明確性と安定性を提供することができると述べています。同時に、トランプ減税法案で提案されていたIRCセクション899は取り下げられ、BEPSに関する包摂的枠組みで行われるフォローアップ議論に、より安定した環境を提供することになります。

本声明は、①所得合算ルール(IIR)および軽課税所得ルール(UTPR)からの米国親会社グループの適用除外、②BEPSおよび公平な競争条件に関するリスク対応へのコミットメント、③制度の重要な簡素化の並行実施、④実質ベース還付無し税額控除の不利な取扱いへの対応を検討するという、4つの「受け入れられた原則(accepted principles)」に基づいています。

これに対し、経済協力開発機構(OECD)事務総長は、G7の画期的な声明を歓迎し、世界の税制において公平性と有効性を高める可能性があると述べました。英国財務省も支持を表明し、この合意が英国企業にとってより大きな確実性と安定性をもたらすと強調しました。

詳細

2025年6月26日、ベッセント米国財務長官は、G7諸国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、および米国)による共通理解が間もなく発表されるとソーシャルメディアに投稿しました。投稿では、米国とその他のG7諸国が協力して、OECD/G20包摂的枠組み全体でこの合意を実施すると述べました。その後、共和党の米国上下院指導者は、トランプ減税法案において、IRCセクション899の源泉徴収税と税源浸食乱用防止税(BEAT)の報復税措置を検討対象から外すことに合意しました(2025年6月27日付 EY Global Tax Alert「US Treasury Secretary asks Congress to not enact retaliatory tax proposal」〈英語のみ〉をご参照ください)。

2025年6月28日、G7はグローバル・ミニマム課税に関する声明を発表しました。声明では、その採択に至った最近の動向を、次のように述べています。

本年初頭、米国財務長官は、BEPSに関するOECD/G20包摂的枠組みが合意した第2の柱のルールに対する米国の懸念を表明し、米国親会社グループに適用される現行の米国ミニマム課税ルールを認めた上で、IIRとUTPRの適用を免除する「共存」の解決策を提案した。

この問題に対する議論は、上院H.R.1修正案(2025年6月16日提出)、One Big Beautiful Bill Act(トランプ減税法案)、上院版トランプ減税法案でのセクション899の削除など、最近提案された米国の国際課税制度の変更、および国内ミニマム課税(QDMTT)導入の成功とその影響についての考察など、それぞれのミニマム課税制度に関する分析をもとに行われた。このような議論を踏まえ、共存システムは、包摂的枠組みにおける税源浸食と利益移転への対抗に関する各国・地域の重要な利益を維持し、今後の国際課税システムにおいてより大きな安定性と確実性を提供できるという共通の理解に至った。

G7の声明は、4つの「受け入れられた原則」を定めており、次のように述べています。

① 共存システムは、米国親会社グループを、その国内および海外の利益に関して、UTPRおよびIIRの適用から完全に除外するものである。
② 共存システムには、その共通する政策目的を保持するために、公平な競争環境に関する重大なリスク、または税源浸食や利益移転のリスクに確実に対処するコミットメントが含まれる。
③ 共存システムを実現するための作業は、第2の柱の完全な執行とコンプライアンスの枠組みの大幅な簡素化と並行して行われる。
④ 共存システムを実現するための作業では、第2の柱における実質ベース還付無し税額控除の取扱い変更の検討を同時に行い、これにより、還付付き税額控除の取扱いとの整合性を向上させる。

G7の声明はさらに、「共存システムの実現は、デジタル経済の課税や全ての国の課税権の保持に関する建設的な対話を含む、国際課税システムの安定化に向けたさらなる進展を促進する」と述べています。また、G7は、「これらの問題は、より広範な国・地域のグループと関連性があることを認識しており、全ての者にとって受け入れられ、実施可能な解決策を迅速に達成するために、包摂的枠組みにおいて、この声明とその合意について議論し、発展させることを期待している」と言及しています。さらに、「セクション899の削除は、この全体的な理解と、包摂的枠組みにおける議論が行われるためのより安定した環境を提供するために重要である」と付け加えました。

OECD事務総長の声明

2025年6月28日、OECD事務総長は、G7の声明を受けて、「本日のG7による画期的な声明を心から歓迎する。これは、グローバル・ミニマム課税の運用に向けた方向性を示すものである」と述べ、支持を表明しました。事務総長は、グローバル・ミニマム課税の導入は、「国際税制の重要な改革を表しており...世界経済の公平性と有効性を高めるために重要である」とし、「共存についての合意に関するG7の声明は、法人税競争に関する、多国間で合意された制限を確立するという当初の目的を達成し、また、政府の課税基盤を保護するものである」と述べました。さらに、国際協力の重要性を強調し、「主権国家間の国際協力は、租税政策の確実性を高め、二重課税のリスクを軽減し、課税ベースを保護するものである」とも述べています。

英国財務省の発表

2025年6月28日、英国財務省はG7の合意を歓迎するプレスリリースを発表し、「英国が国際税務ルールについてG7のパートナーと共通の理解に達したことで、G7の合意はより確実で安定したものとなる」と強調しました。財務相は、この合意は、米国と世界のミニマム課税ルールがどのように影響しあうかを扱っており、多国籍の租税回避に取り組むという共通の目標を支持すると述べました。プレスリリースでは、英国企業への多額の追加課税につながる可能性のあったIRCセクション899が、トランプ減税法案から削除されたことを強調し、「セクション899の削除は、この全体的な理解と包摂的枠組みで行われる議論に、より安定した環境を提供する上で極めて重要である」と述べています。

財務相はさらに、「今日の合意は、懸念を表明した企業にとって、切望していた確実性と安定性を提供するものである」と述べました。G7の声明により、報復措置の可能性を懸念することなく、グローバル・ミニマム課税に関する議論を継続することが可能となり、より交渉を進めることのできる環境が醸成されます。英国政府は、G7が合意した提案を策定するために、国際社会のパートナー諸国との関係を継続し、進化する国際税務環境において確実に英国企業が競争力を維持できるようにします。

影響

グローバル・ミニマム課税に関するG7の声明は、国際的な租税協力における重要な進展を意味します。G7の声明は、OECD/G20包摂的枠組みが、「共存」することの意味合いを考慮しなければならないことも浮き彫りにしています。140以上の国・地域で構成されるOECD/G20包摂的枠組みは、今後、G7の声明を検討し、共存システムを展開するために合意の骨子を評価することになります。

包摂的枠組みが第2の柱のフレームワーク変更の可能性を検討する中で、ステークホルダーは、米国のミニマム課税とグローバル・ミニマム課税との間の相互作用に関して議論が継続すると予測しなければなりません。G7の声明とその後の包摂的枠組みにおける議論は、国際的に事業を展開する企業の納税義務、競争力、コンプライアンス要件と管理コストのレベルに大きな影響を与える可能性があるため、今後の動向を注意深く監視する必要があります。政策立案者と連携し、法改正について常に情報を得ることは、進化する世界の税務環境を乗り切るために必要不可欠です。

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