最新法令紹介―「下請代金支払遅延等防止法」一部改正、東証IR体制整備義務化に関するIR体制・IR活動に関する投資者の声、他

今回ご紹介する最新法令等は、①「下請代金支払遅延等防止法」の一部改正、②東京証券取引所によるIR体制整備義務化に関するIR体制・IR活動に関する投資者の声、③老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の改正、④民法(遺言関係)等の改正試案です。


1. 「下請代金支払遅延等防止法」(以下「下請法」という)の一部改正

前号でもご紹介した下請法の一部改正について、新しく情報のアップデートがあったため、本号でも引き続き紹介します。下請法についてその改正に伴い、公正取引委員会は令和7年7月16日に「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」案(以下「改正後運用基準案」という)を公表し、実務に大きな影響を与える複数のポイントが明示されました。

運用基準の主要な改正事項

  • 現行の下請法の製造委託においては、物品等の製造の他、物品等の製造に用いられる金型の製造についてのみ適用対象でしたが、改正により、専ら物品等の製造に用いる木型、工作物保持具(治具)等の製造も製造委託の適用対象に追加されました(改正後運用基準案第2・1-1)。
  • 改正により「特定運送委託」が対象取引へ追加されたことにより、「特定運送委託」の各要件についての定義、及び「特定運送委託」の類型について示されました(改正後運用基準案第2・1-5)。
  • 委託取引ごとに規模要件を判断し、従業員基準は資本金基準が適用されない場合に適用することが示されました[改正後運用基準案第2・2(1)(3)]。
  • 「常時使用する従業員」とは、一時的な雇用関係にある者は含まず、 「常時使用する従業員の数」は、労働基準法において作成が義務付けられている賃金台帳に記載されている従業員の数で算定することが示されました[改正後運用基準案第2・2(2)]。
  • 「金銭及び手形以外の支払手段」とは、一括決済方式や電子記録債権(いわゆる「でんさい」)などを言い、上記支払手段については、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては認めない(支払遅延に該当する)ことが示されました[改正後運用基準案第4・2(5)]。
  • 振込手数料を受注者に負担させる行為は、合意の有無にかかわらず違反とすることが示されました[改正後運用基準案第4・3(1)カ]。
  • 改正法により、「協議に応じない一方的な代金決定」が新しく禁止されたことにより、「協議に応じない一方的な代金決定」の定義が示されました[改正後運用基準案第4・9(1)]。

改正に伴う実務上の対応ポイントは、以下のページで解説しています。
「下請代金支払遅延等防止法」等の改正に伴う実務上の対応ポイント


2. 東京証券取引所によるIR体制整備義務化に関するIR体制・IR活動に関する投資者の声

令和7年7月22日より、東京証券取引所(以下「東証」という)は、全ての上場企業に対して、株主及び投資者との関係構築を目的とした情報提供体制、すなわち「IR体制」の整備を義務付けました。この制度は、企業が投資者に対して適切かつ継続的な情報開示を行うための基盤を確保することを目的としています。しかしながら、国内外の投資者からは、単に最低限の体制を整えるだけでは不十分であり、より実効性のあるIR体制と積極的なIR活動の充実を求める声が多く寄せられています。こうした背景を踏まえ、東証は上場企業がIRの在り方を検討する際の参考資料として、「IR体制・IR活動に関する投資者の声」を取りまとめ、公表しました。

(1)総論

上場企業においては、経営者やIR部門が、自らの言葉で中長期的な経営戦略や将来のビジョンを発信することが、投資者から強く期待されています。こうした情報発信は、企業の透明性を高め、投資者との信頼関係を築く上で不可欠です。

また、投資者との対話を通じて得られたフィードバックは、単なる意見としてではなく、経営課題として認識し、企業価値の向上に生かすことが求められています。特に社外取締役については、少数株主の代弁者としての役割を果たすべく、投資者との対話に積極的に応じる体制の整備が重要です。

(2)IR体制の改善

IR体制の改善においては、専門部署や担当役員の設置により、面談の拒否や数値説明に終始するといった課題を防止することが期待されます。さらに、IR部門をCEO直轄とするか、経営企画部門と連携可能な体制とすることで、経営との一体感を高めることができます。加えて、投資者の声を取締役会で定期的に報告・議論し、経営に反映させる仕組みの構築が求められます。

(3)IR活動の改善

IR活動の改善に関しては、説明会のオンライン配信やアーカイブ提供を通じて、情報提供の公平性を確保することが重要です。質疑応答も含めた情報開示を行うことで、重要課題に対する透明性を高めることができます。また、面談は既存投資家に限らず、新規投資家にも開かれた姿勢を持つことが望まれます。さらに、社外取締役との面談についても、企業として積極的に受け入れる体制の整備が必要です。


3. 老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の改正

令和7年5月23日、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(法律第47号)が成立しました。この改正は、マンションの高経年化と居住者の高齢化という「2つの老い」が進行する中、マンションの新築から再生までのライフサイクル全体を見据え、管理と再生の円滑化を図るものです。対象となるのは、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法(以下「被災区分所有法」という)、マンションの建替え等の円滑化に関する法律(以下「マンション再生法」という)、マンションの管理の適正化の推進に関する法律(以下「マンション管理法」という)などであり、これらを一括して改正する内容となっています。なお、区分所有法及び被災区分所有法の改正部分については、令和8年4月1日から施行される予定です。

(1)管理の円滑化等

①適正な管理を促す仕組みの充実(マンション管理法第77条の2など)
分譲事業者が管理計画を作成し、管理組合に引き継ぐ制度を導入。管理業者が管理組合の管理者(代表者)を兼ね工事等受発注者となる場合、利益相反の懸念があるため、自己取引等につき区分所有者への事前説明を義務化します。

②集会の決議の円滑化(区分所有者法第17条、第38条の2など)
修繕など区分所有権の処分を伴わない事項については、集会出席者の多数決で決議可能に(従来は全区分所有者の多数決)。また、裁判所が認定した所在不明者を決議の母数から除外する制度が創設されます。

③マンション等に特化した財産管理制度(区分所有法第5条2の2・マンション管理法第5条の3など)
管理不全となった専有部分や共用部分について、裁判所が選任する管理人による管理を可能とする制度が新設されます。

(2)再生の円滑化等

①新たな再生手段の創設等(区分所有法第34条・マンション再生法第114条など)
建物や敷地の一括売却、一棟リノベーション、建物の取り壊しなどを、従来の建替えと同様に、区分所有者の多数決(原則5分の4)で実施可能とする制度が導入されました(耐震性不足の場合は4分の3、政令指定災害による被災の場合は3分の2の決議で実施可能)。これに伴い、組合設立や権利変換計画、分配金取得計画などの事業手続きも整備されます。

②多様なニーズに対応した建替え等の推進(マンション再生法第55条など)
隣接地や底地の所有権について、建替え後のマンションの区分所有権に変換することが可能になります。また、耐震性不足等による建替えの場合には、容積率に加え、特定行政庁の許可により高さ制限の特例も認められるようになります。

(3)地方公共団体の取組の充実

①危険なマンションへの勧告等(マンション再生法第4条の2・マンション管理法第5条の2の2など)
外壁の剝落など、居住者や周辺に危険を及ぼす状態にあるマンションに対して、行政が報告徴収や助言・指導、勧告、あっせんなどの措置を講じる制度が新たに整備されました。

②民間団体との連携強化(マンション管理法第5条の4など)
区分所有者の意向把握や合意形成を支援する民間団体の活動を制度的に位置付けるため、登録制度が創設されました。


4. 民法(遺言関係)等の改正試案

現行の民法では、遺言の真正性と安全性を確保するため、厳格な方式が採用されており、遺言者の真意を担保し、偽造・変造を防止する観点から「普通方式」及び「特別方式」の遺言に限定されています。

しかし、近年の高齢化の進展や単身高齢者の増加、所有者不明土地問題などの社会的課題を背景に、遺言制度の重要性は一層高まっています。こうした状況を踏まえ、遺言者の最終意思をより確実に実現する手段として、デジタル技術の進展・普及に対応した新たな遺言方式の導入が求められています。

この流れを受けて、令和7年7月15日に開催された法制審議会民法(遺言関係)部会第11回会議では、「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案」が取りまとめられました。試案では、電子記録や録音・録画、オンライン申請などの技術を活用した遺言方式の創設に向けた具体的な制度設計が検討されており、今後の法改正に向けた議論が本格化する見込みです。

(1)新たな遺言方式の概要

検討されている方式は主に以下の3つです。

甲案:遺言の本文を電磁的記録により作成し、遺言者による全文等の朗読を録音・録画等により記録して遺言する方式。証人の立ち会いを要する「甲1案」と、証人不要で代替措置を講じる「甲2案」があります。

乙案:遺言の全文等を電磁的記録により作成し、公的機関で当該電磁的記録を保管して遺言する方式。

丙案:電磁的記録をプリントアウトするなどして遺言の全文等が記載された書面を作成し、公的機関で当該書面を保管して遺言する方式。

(2)保管制度と閲覧

乙案・丙案では、公的機関による保管制度が導入され、相続人、受遺者、遺言執行者等は、公的機関に対し、遺言の有無や内容の閲覧・証明を請求できます。遺言者の死亡後、指定された者や他の相続人にも通知が行われ、検認手続きは不要となります。

(3)代金・日付・撤回等の規律

日付の記録:甲案では遺言者が記録、乙案・丙案では公的機関が遺言保管開始日を記録します。

撤回:甲案では破棄による撤回を認めるか否かで複数案が検討されており、乙案・丙案では保管申請の撤回をもって遺言の撤回とみなす案が検討されています。

(4)自筆証書・秘密証書遺言の見直し

自筆証書遺言では、財産目録の自書不要規定は維持され、押印要件については「不要とする案」と「維持する案」が併存しています。

秘密証書遺言については、デジタル方式の導入は見送られ、押印要件の見直しのみが検討されています。

(5)特別方式の遺言(遭難・隔絶地等)

船舶遭難者遺言や死亡危急時遺言においては、録音・録画を活用したデジタル方式の導入が検討されています。一方で、一般隔絶地遺言や在船者遺言については、現行の方式を維持する方針です。

(6)その他

遺言能力や内容の明確性については新たな規律は設けず、成年被後見人の遺言に関しては今後の制度見直しを踏まえて検討されます。


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津曲 貴裕 パートナー

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